節約・ライフプラン

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達人の視点

第10回:「お金の問題」の前に「心の整理」を

ファイナンシャルプランナーの仕事は、個人のお金に関するアドバイス業務を行うことです。しかし、私の経験では、お金のアドバイスだけを行ってもなかなか解決できないことも多いのが実態です。実は、お金の問題そのものだけでなく、生活上の不安や将来への心配といった心の問題を抱えている方が多いからです。私自身、心理カウンセラーの資格を取得した動機は、お金の相談のみではお客様への問題解決に向けたアドバイスに限界を感じたことがきっかけでした。 今回は、お金の問題の裏側にある「心の問題」を含め、私たちはどう対処していくと良いかについてお話したいと思います。

不安を受け入れる

老後のことを考えるととても不安で、どうしたら良いのかがわからない。最近はそんなご相談をいただくことが多くなってきました。経済が右肩あがりの時代は終わり、定年まで勤め上げていくことができるかどうかが不透明な世の中に突入しました。年金や医療費を含めた社会保障費は将来の見通しが暗い、などと話を聞けば、不安にならない方がおかしいでしょう。これから益々不確実な世の中に突入していく中で、お金のアドバイスをもらったところで、不安はそう簡単に消えるものではありません。不安を解消するために、例えばある人は将来に備えるために貯金をするかもしれません。しかし、「いくら貯金すれば安心か」ということがわからないと、結局いくら貯金をしても安心を得られることはないのです。

実は、これだけ不透明な世の中になってきますと、よほどのお金持ちでない限り、おそらくは不安が消えることはないでしょう。

では、私たちはこのお金の不安に対して、どのように向き合っていけばよいのでしょうか。実は、人間は元々色々なことが不安なものであり、数え上げたらキリがありません。人間は誰しも多かれ少なかれ問題を抱えています。しかしながら、その不安を抱えながら1日暗い気持ちで過ごすか、それとも不安はあるけれども自分なりに楽しく過ごそうとするかは、自分の考え方次第なのです。

つまり、「自分の将来に対する不安があるのは当たり前である」という前提に立つことが一番大事なのではないでしょうか。そして、その上でお金の問題を考えていくことが重要なのではないかと私は考えます。

自分の不安を明確にする

さて、では「自分の不安が消えないのは仕方がない」と思うにはどうすればよいでしょうか。ただやみくもに自分の中で思い込んでも効果はありません。そこでまず大事なのは、「自分の不安が何なのか」を明確にすることです。そして、その上で自分が取ることのできる選択肢を考え、その中で自分がどれを選択するのかを決めます。

具体的には、以下の3つのSTEPに従って行います。
1.自分の不安要素が何かを書き出す
2.不安の項目1つ1つに対して、自分が取りうる選択肢を思いつく限り書き出す
3.できることの中で、やってみようと思うこと、つまり自分が取る選択肢を選ぶ。

単純なことに思えるかもしれませんが、これは大きな意味があるのです。人間というものは、あれもこれも不安になってしまうと、問題がたくさんあるような気がして、どこから手をつけていいのかがわからなくなってしまうことが多いのです。人間心理として、不安なことがある状態で別の不安が出てしまうと、どうしてよいかが冷静に考えられなくなることが多いためです。これを防ぐために、「自分が何に対して不安か」を考えることはとても重要です。しかし、不安なことを書き出すという作業は、日常の生活で行っている人はほとんどいないでしょう。なぜなら、どちらかというと不安を書き出す作業は、「普段は考えたくないこと」だからです。しかし、そこを敢えて書き出すと、自分が今、本当に悩んでいるのは何なのかを再認識することができます。

次に考えうる選択肢から、自分がやってみようと思うことを選ぶというのは更に重要です。私が相談を受ける中で感じるのは、生活に不安を感じている方の多くが、なんとなく自分の意思とは関係なく、流されるままに生活をしているということです。そんな中、様々な情報が世の中に氾濫すれば、どの情報を信じてよいのかがわからなくなり、不安は増大してしまいます。これを解決するには、自分の人生を「自分で選択した」ものに取り戻すことなのです。「自分が納得して、この方法を自分が決めた」という確信があってはじめて、情報に流されることなく自分の生き方を選択できるのではないでしょうか。

実際にAさんに行ったアドバイスの例を紹介します。Aさんは53歳サラリーマン(年収:420万円)で、妻(51歳・専業主婦)と子供1人(高校3年生)がいます。Aさんの心配事を挙げてもらい、それに対して自分が取りうる選択肢と、その中でどれを選択するのかを選んでもらったのが以下の通りです。左から「1.心配ごと、2.自分が取りうる選択肢、3.自分がとる選択肢」というように、3つを順番に考えてもらいました。

心配ごと 自分が取りうる選択肢 自分がとる選択肢
会社でリストラされるのではないか。 ・考えても仕方ないから考えない。
・資格学校に通う。
・野菜作りの勉強をする。
・考えても仕方ないから考えない。
・野菜作りの勉強をする。
子供がこれから大学生で、教育費が心配。 ・大学進学を諦めさせる。
・奨学金を申請させる。
 (就職後は子供自身が返済)
・妻に働いてもらう。
・奨学金を申請させる。
 (就職後は子供自身が返済)
・妻に働いてもらう。
メタボ体型。将来の医療費が心配。 ・医療保険に加入する。
・お酒をやめる。
・カロリーを控える。
・運動をする。
・夜遅くに食べないようにする。
・医療保険に加入する。
・運動をする。
年金がもらえるかが心配。 ・政府に文句を言う。
・考えても仕方ないから考えない。
・年金の加入状況を確認する。
・考えても仕方ないから考えない。
・年金の加入状況を確認する。
株が下がり続けて
いる。
・株の勉強をする。
・今の株のままほうっておく。
・気になるので全部売る。
・気になるので全部売る。
妻から離婚されるのではないか。 ・考えないようにする。
・一緒の趣味を見つける。
・普段からの会話を心がける。
・一緒の趣味を見つける。
・普段からの会話を心がける。
貯金がない。 ・生活費を切り詰める。
・妻に働いてもらう。
・妻に働いてもらう。

ここまで書いてもらうのは一見、簡単そうに見えますが、実はかなり時間がかかります。Aさんが普段、無意識のうちに目を背けようとしている問題や、自分の心の奥底に眠っている本当の気持ちを出し切るまでに、1週間ぐらいの時間を要しました。

しかし、ここまで書き終えるとAさんはとても気持ちが楽になったようです。人間心理として、あれもこれも不安になってしまうと、問題が無限にあるような気がして、どこから手をつけて良いのかがわからなくなってしまうため、冷静に考えることができなくなってしまいます。これを防ぐためには、「自分は何が不安なのか」を明らかにすることはとても効果があります。そして、その不安に対して、自分のなすべきことが見えてくれば、不安に対して自分をコントロールできているため、冷静でいることができるのです。勿論、不安は完全には解消されるということではありませんが、心の中の不安は大きく軽減されることになります。

不安が解消されるとどんないいことがあるの?

不安がある程度解消されれば、心の中にスペースができますので、自分自身が将来何をしたいのかを考える余裕もできてきます。この空いた心のスペースを使って、自分が将来やりたいことを考えてみてはいかがでしょうか。自分が「将来こうしたい」という夢を持つことができれば、活き活きしてきますし、自分の将来の人生を考えるのもきっと楽しくなることでしょう。ちなみに、Aさんは自身が昔からやってみたかった田舎暮らしを思い出したそうで、奥さんに話をしたらとても興味を持ったそうです。2人は将来の夢について語り合い、それにつれて自分たちの不安などについても更に整理されてきたようで、最終的なAさんのプランは以下の通りになりました。
・ 夫婦で畑を借り、家庭菜園を始める。(目的:夫婦共通の趣味、運動、退職後の準備)
・ 妻がパートに出る(目的:子供の学費、医療保険、老後の準備)
・ 子供は奨学金を申請する(目的:家計を助ける、子供自身の勉強の目的の明確化)
・ テニスを始める(目的:夫婦(子供)共通の趣味、運動)
・ 将来は家を売って田舎に引っ越す(目的:家計の捻出、夫婦共通の趣味)

お金の相談の前に心の整理を

お金の相談の前に、まずは心の整理をしましょう。
1st Step:不安を解消する。
2nd Step:自分の目指したいことを探す
3rd Step:お金の具体的なプランを立てる。

ファイナンシャルプランナーとしては、一番役に立てるのは「お金の具体的なプランを立てる」つまり、3rd Stepでしょう。しかしながら、実は1〜2 Stepがとても重要なのであり、ここでしっかりと1〜2Stepを考えていないと、いきなり儲け話の本やうまい話に載せられたりしかねません。この作業は1人でもある程度は行えますが、ご家族か信頼できる友人など、信頼できる人と話をすると見つかりやすいでしょう。まずはしっかりと1〜2 Stepを考えることで、心の悩みを解消してからお金の問題に取り組んでみてはいかがでしょうか。


執筆:坂本光(さかもと ひかる)CFP
一級ファイナンシャルプランナー・CFP®、心理カウンセラー。2006年5月週末起業を決意し、通信事業者に勤務しながら合同会社FPアウトソーシング代表を務める。ファイナンシャルプランニングに関する個別相談・セミナー講師としても活動中。
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