第8回:戦後通貨体制の現状


当初、戦後米国が勝ち取った基軸通貨体制は、世界の中央銀行から要求されたとき、FRBは$35と金1オンスを交換する義務がありました。(戦後のブレトン・ウッズ体制:1944~1971)
基軸通貨の増発によるシーニョレッジ(通貨発行)の利益はありませんでした。

 1971年以前は、ドルを増発するとき、FRBは、金の準備を増やす必要がありました。当時のFRBは、世界の中央銀行からの、金への交換要求に応じるため、ドルの発行額に対し25%の金を保管する義務がありました。

もともとは、FRB(Federal Rerve Bank)の原義は、連邦準備銀行です。準備すべきものは、ドルの紙幣ではなく金の準備でした。
ところが1971年、世界に向かい一方的に発表した大統領令(ニクソンショック)で、FRBはドルを増発するときも、金準備を増やす必要がなくなりました。

基軸通貨としての特権とは?

この金・ドル交換停止のあと、米ドルは、基軸通貨とは言いながら「信用貨幣」に変化しました。ドル以外でも信用貨幣はあります。円、ユーロは全部、金の裏付けがなくても、紙片が信用されるから価値があるという通貨が信用貨幣です。信用通貨は、通常は、国家権力が及ぶ国内でしか、通用しません。しかし米ドルは、世界が使います。
つまり1971年以降、米国政府とFRBは、世界からシーニョレッジの利益を得ることができるようになったのです。

米ドルは、基軸通貨とは言いながら「信用貨幣」に変化しました。

信用通貨「円」増刷での利益とは?

日銀が10兆円の国債を買って、10兆円の円を発行した場合、シーニョレッジの利益(10兆円)は、国債を発行した政府と日銀に、等分に行きます。
政府は10兆円の国債を日銀に売って、現金10兆円を得ます。日銀は、10兆円の国債という金融資産を得ます。日銀が買ったその国債も、市場で売れば、10兆円の現金になります。

紙の1万円札の印刷費は1枚22円です。日銀は、これで1万円の国債(金融資産)を買うことができます。
(注)2014年は、毎月6~7兆円も、日銀が国債を買っています。

日銀のシーニョレッジの利益は、[1万円の国債-紙幣の原価22円=9,978円]です。
我々が国債を買うときは、1万円を払う必要があります。その1万円は、我々が働いて得たものです。

ところが日銀は、自分が作った1万円で、何でも買うことができます(これが信用創造)。
原価は紙幣の印刷費だけでいい。いや今は印刷代も要りません。口座振り込みのコンピュータ処理費は、ほぼゼロだからです。

基軸通貨発行の特権と利益

1971年に、金との交換義務から開放された米ドルは、国債を売る米政府と、その国債を買ってドルを発行しているFRBは、世界から基軸通貨発行の利益を得ることができるようになったのです。

世界から、それとは知られず、富を掠奪できる米政府とFRBのシーニョレッジの特権は、驚愕すべきことでした。基軸通貨は、国際法で決めているのではない。世界が、自主的に決めているからです。
1971年の金・ドル交換停止のとき、米国政府には、米ドルが基軸通貨でなくなるかも知れない恐怖があったはずです。しかし既に多くの国がドルを保有し、7大石油メジャー(英米系)が世界の、全部の原油生産、販売、輸配送に関与していました。この原油の輸出入はすべてドル建て決算をしていたのです。

原油の輸出入はすべてドル建て決算

ドルで、ドル通貨圏を支配する

信用通貨になった米ドルを使う国は、隠然とではありますが、米国の金融的な支配下に置かれたことになります。
米国は20世紀の中期までのように、物理的な戦争をして領土と富を掠奪する必要はなくなりました。
信用通貨の米ドルが米国に国益をもたらす武器であり、相手国がドルを使うことが、米国の利益になるからです。

また、戦争で占領した時例外なく行うのは、自国通貨を使わせることです。この通貨によって植民地化します。戦争中は、軍が発行する軍票です。占領後は中央銀行が発行する信用通貨です。古来、植民地の占領・支配は、資本主義の露骨な利益でした。

侵略と戦争は、利益の争奪戦でした。米国の歴史は、西へ向かうフロンティアの開拓ですが、この西部開拓とは、原住民(インディアン)の領地を奪うことでした。

米国の国益はドルを使う国の拡大です。ドルを使う国の拡大とは、現代では、金融の国際化と交易のグローバル化です。

武力を使う戦争は、フセイン大統領のイラクのように、原油代金にドルを使わないとし、ドル圏の拡大に抵抗する国に対して行うようになったのです。

2003年のイラク戦争がこれでした。フセイン政府は大量破壊兵器を開発しているというCIAの報告は、嘘であったことが分かっています。

フセイン大統領は、原油を輸出する時の代金を、米ドルからユーロに変えていました。そして、他の石油輸出国に対してもユーロを使うよう呼びかけていたのです。
考えて見れば、日本も中国も石油を買う時にはドルを使います。ドル札=ドルの国債つまり、米国は世界中に借金出来ると言うことになり、ドル経済圏を増やそうとしています。

イラクのように、原油代金にドルを使わないとし、ドル圏の拡大に抵抗する国に対して行うようになった

執筆:チームM 代表 松井信夫(ファイナンシャルプランナー)CFP®
株式会社ウィム 代表取締役。NHK文化センターをはじめ、全国各地で年100回以上のセミナーを行う人気ファイナンシャルプランナー。
“プロのノウハウを分かりやすく”をモットーに、ジェスチャーを混じえて説明するセミナーは、笑いあり、涙あり、飽きさせない語りが評判です。
顧問契約のお客様へのコンサルティングでは、リーマンショック、ギリシャショックなど数々の金融危機の中でも、お客様の資産を増やし続けてきた実績が有名。
著書に、『金融時事用語辞典』(共著、金融ジャーナル刊)、『銀行では絶対に 聞けない資産運用の話』(書肆侃侃房刊)がある。
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