金融は「貸し借り」で信用があるから貸し借りは成立します。
つまり、「信用」を「マネー」と考えると理解しやすくなります。
では、「信用創造」とは何でしょうか。
「マネー(お金)」というと、ほとんどの人は日銀券、つまり一万円札などの紙幣を思い浮かべます。
ところで日本のGDPは約500兆円です。しかし、2015年5月末現在、日銀券(紙幣)は、全部合わせても約89兆円しかないのです。つまり、GDPの約5分の1でしかないわけです。その差額411兆円はどこにあるのでしょうか。
それは紙幣の状態で存在しておらず、銀行等の金融機関の帳簿のなかの数字として存在しているのです。このお金は民間の普通の銀行が輪転機を使わずに増やしたものです。
この実体のない、得体のしれないお金のことを「信用貨幣」というのです。英語でいえば、「クレジット・マネー」ということになります。その仕組みは、
- A銀行はX社から1000円の預金を預かる
- A銀行は預金から900円をY社に貸し出し
- Y社はZ社に対して900円の支払いをする
- Z社は受け取った900円をB銀行に預ける
この結果、預金の総額は1900円になります。もとはX社の1000円ですから、900円増えたことになります。Y社がA銀行に対する債務として、返済することを約束したからです。
つまり、信用が900円創造されたことになります。
市中に流通する資金量を調節する「準備率操作」
「準備預金制度」というのは、金融機関に対して保有する預金の一定割合以上の金額を一定期間の間に日本銀行の当座預金に預け入れることを義務づける制度のことです。銀行が全て貸出に回すと急に預金者がお金を引き出しにきた場合にお金が足りなくなるため、政府は「準備預金制度に関する法律」(1957年制定)を制定しています。
今回わかりやすくする為にこの準備率を10%と説明します。
- 中央銀行がA銀行に100万円の資金を供給する。
- A銀行はこの資金をX社に融資し、X社がB銀行に保有している預金口座に振込む。
- B銀行が預かる預金が100万円となり、B銀行は、この10%にあたる10万円を日銀の当座預金に預け入れる。
- B銀行は残りの90万円をY社に融資し、Y社がC銀行に保有している預金口座に振り込む。
- C銀行が預かる預金が90万円となり、C銀行はこの10%にあたる9万円を日銀の当座預金に預け入れる。
- C銀行は残りの81万円をZ社に融資し、Z社がD銀行に保有している預金口座に振り込む。
- D銀行が預かる預金が81万円となり、D銀行はこの10%にあたる8.1万円を日銀の当座預金に預け入れる。
- D銀行は・・・
この後どうなるのかというと、A銀行、B銀行、C銀行、D銀行・・・という銀行の預かっている預金額の合計は、中央銀行が供給した資金100万円の「1/0.1」、つまり10倍になります。
もし、準備率が1%であれば「1/0.01」100倍になるのです。
つまり、中央銀行はこの準備率を操作することによって、市中に流通する資金量を調節することができるのです。これを「準備率操作」といいます。
中央銀行と一般の市中銀行の違いは、輪転機を回して日銀券を印刷できるかできないかの違いとして一般的にはとらえられていますが、一般の市中銀行も輪転機こそないものの、融資という手段によって「信用貨幣」を創造しているのです。
執筆:チームM 代表 松井信夫(ファイナンシャルプランナー)CFP®
株式会社ウィム 代表取締役。NHK文化センターをはじめ、全国各地で年100回以上のセミナーを行う人気ファイナンシャルプランナー。“プロのノウハウを分かりやすく”をモットーに、ジェスチャーを混じえて説明するセミナーは、笑いあり、涙あり、飽きさせない語りが評判です。顧問契約のお客様へのコンサルティングでは、リーマンショック、ギリシャショックなど数々の金融危機の中でも、お客様の資産を増やし続けてきた実績が有名。著書に、『金融時事用語辞典』(共著、金融ジャーナル刊)、『銀行では絶対に 聞けない資産運用の話』(書肆侃侃房刊)がある。
チームMの本部は銀座6丁目の株式会社ウイム内にあり、毎月全国からFPや金融関係者が知識向上、スキルアップ等の為に集まり、相互研鑽を行っています。