「老後に備えてどれくらいお金を蓄えれば安心でしょうか?」
ファイナンシャルプランナーがよく求められるアドバイスの一つです。
この質問に対しては、老後に必要な額を算定し、そこから年金でもらえる分を引いた残りの額を退職金や貯金で運用しましょう、というようなアドバイスが一般的です。
しかし、最近そんなアドバイスに私は少し違和感を覚えています。
勿論、お金は重要ですが、果たして備えるべきはお金だけでよいのでしょうか。結論から言うと、老後に備えるべきは「お金」だけではなく、「コミュニケーション」が益々重要になってきている時代に突入しているのではないか、と思うのです。
熟年離婚の悲劇
サラリーマンとして一心不乱に働き、定年を迎えて「さあ、これから夫婦水入らずでこれからの人生を楽しもう」そのような段階になって、突如奥さんから離婚を切り出される。2005年秋にドラマで話題になった「熟年離婚」のようなケースが増えています。
ユニバーサルデザインフォーラムが行った「熟年離婚に関するアンケート」によると、「配偶者に対する不満は?」という質問に対して以下のような回答となりました。
お互いの不満の要因としては、「夫婦間のコミュニケーション」「自分への思いやり、配慮」や「趣味・ライフスタイル」が上位を占めています。こうしたコミュニケーション不足が熟年離婚を生む要因となっていることがわかります。
では、どうしたら円滑なコミュニケーションが図れるのでしょうか。
例えば、定年に向けて、子供の手が離れる40代後半~50代前半ぐらいからは夫婦共通の趣味を見つけてはいかがでしょうか。
私のクライアントでは、旦那さんがご自身の趣味であるゴルフを奥さんも習ってみてはどうかと誘ったところ、奥さんとしてはそれまで積極的に話しかけてこなかった旦那さんの方から思いもよらない提案をしてもらえたことが嬉しかったらしく、それがきっかけでゴルフが趣味である別の夫婦とのいい交流の機会にもなり、今では夫婦でゴルフに行くのが一番の楽しみになったそうです。一方、旦那さんは、それまでゴルフといえば奥さんの冷たい目を気にしながら出かけていっていたのが、今では夫婦でゴルフというと奥さんの方が喜んでくれ、夫婦間のコミュニケーションも円滑になっていいことずくめだそうです。
また、趣味以外にも老後の過ごし方やどこで住むのかなど、夫婦間で将来の夢について話しあうのも良いでしょう。田舎暮らしをする、海外で暮らす、ボランティアをしながら地域活動に貢献する、など選択肢は様々です。最近はセカンドライフの過ごし方について雑誌や各地の講演で取り上げられているので、興味のありそうなものがあったら一度のぞいてみてはいかがでしょうか。
歳を取ると、子供と暮らしたくなる?
ここに、「高齢者介護問題に関するアンケート(財団法人・経済広報センター)」の結果があります。
上図1の「自分が介護を必要とする状態(寝たきりや痴呆状態)になることに不安を感じることはあるか?」との問いに対し、「ある」「どちらかといえばある」を含めると、80%以上の人が不安だと感じています。
また、上図2の「介護について不安に思うことは何か?」との問いに対し、家族に対する負担が1位~4位のうち3つを占めており、子供家族や親戚付き合いとの普段からのコミュニケーションが非常に大事であることが見て取れます。
また、さらに内閣府「国民生活に関する世論調査」から大変興味深いデータが発表されています。以下がそのデータです。
若い頃は、「子供と別々に暮らしたい」と思っていても、年齢とともに「子供と一緒に住みたい」と思うようになってくることがわかります。将来に備えて、「お金」の準備として民間の介護保険に加入するのも勿論大事ですが、いざという時に家族はやっぱり頼りになります。実際には住む場所が離れていて直接的に介護ができなくても、電話などで声をかけてくれるだけでも嬉しいものです。
コミュニケーションは効率のいい投資?
老後に「お金」の準備は欠かせませんが、備えるべきものとして「お金」ばかりに目がいって「コミュニケーション」をおろそかにすると、もっと大切なものを失ってしまうかもしれません。
コミュニケーションを蓄えるのに、お金はかかりません。
普段からの心がけで将来安心して楽しく豊かに生活できるのであれば、「コミュニケーション」は安全かつリターンの大きい、何とも効率のいい投資だといえるのではないでしょうか。
一級ファイナンシャルプランナー・CFP®、心理カウンセラー。2006年5月週末起業を決意し、通信事業者に勤務しながら合同会社FPアウトソーシング代表を務める。ファイナンシャルプランニングに関する個別相談・セミナー講師としても活動中。