「住宅は購入と賃貸のどちらが良いのでしょうか?」
これは私がファイナンシャルプランナーをしていて、一番よく聞かれる質問の一つです。
日本は90年代初めまでは、土地の価格は右肩上がりで伸び続けていたため、「住宅は購入すべき」というのが常識の時代でした。しかし、バブルが弾けて土地の価格が10年以上も下がり続け、「不動産の値段はまだ下がり続ける」と思った人たちが住宅の購入を控えるようになりました。
さて、首都圏を始めとして不動産価格が上がり始めた今、「住宅は購入すべき」という常識は復活するのでしょうか。結論から言うと、昔のような「住宅は購入すべき」という常識は世の中の流れと共に変わりつつあり、賃貸派の人が増えてくると予想されます。
では果たして、世の中の常識はここ数年でどのように変化したのでしょうか。
今月と来月の2回シリーズで、解説をしていきたいと思います。
REITの出現による賃貸物件の質の向上
賃貸物件に関しては、まず「住宅は購入すべき」という時代背景として、物件数が少なかったこともあり、良質な物件を見つけるのが難しかったという事情があります。しかし、REIT(不動産投資信託)の出現が賃貸市場を大きく変えました。
では、このREITとはどんなものなのでしょうか。
REITとは、2001年に日本で導入された不動産の投資信託であり、証券取引所に上場されていて、一般の株式と同じように証券会社を通して売買が可能です。REITの大まかな仕組みは以下の図の通りです。
REITの仕組み
このREITによって集められたお金でマンションやオフィスビルなどに投資が行われ、そこで得られた賃貸収入を投資家に配当還元するというのが仕組みです。
不動産事業者はなるべく多くの賃料を得るために、REITにより集めたお金で古いマンションを1棟まるごと購入して大規模リフォームを行ったり、賃貸用に最新設備の整ったマンションを新たに建設したりしてきました。
一方、REITに投資をする人にとってもメリットはありました。まず、REITに投資をした場合は税の優遇措置があるため、配当金が多いという特徴があります。現在は上場会社に投資をすると、日経225社の平均配当利回りが1.04%(2006年9月時点)であるのに対し、REITだと配当利回りが大体3~5%と高いのが特徴です。また、不動産の投資でありながら、100万円以下の単位で投資ができ、いつでも証券会社で売買ができることから、ワンルームマンション等への投資と比較しても手軽なことが受けて、人気が高まりました。その結果として、不動産事業者はREITのおかげで投資家からたくさんのお金が集めることができたのです。
こうしてREITの出現により、賃貸物件に不動産のプロが付加価値向上を目指して数多く参入してきたため、賃貸物件の質は格段に良くなり、今では最新の設備が賃貸物件にも数多く導入されるようになりました。
ライフスタイルの多様化
「住宅は購入すべき」という常識が変わりつつある背景として、もう一つ大きな要素があります。それは「ライフスタイルの多様化」です。
90年代からの長いデフレを経て、人々のライフスタイルは大きく変わりました。日本の経済を支え続けてきた終身雇用制度は、リストラや倒産件数の増大とともに、徐々に崩れつつあり、一生同じ会社で働くという意識は薄れてきました。今日では転職も珍しいことではなくなり、例えば転職するたびに職場に合わせて住む場所を変える、或いは早期退職制度を利用して数年間海外に住む、田舎で悠々自適に暮らす等、ライフスタイルは多様化してきています。
ローンを組んで住宅を購入するとなると、20~30年にわたって一定の収入が見込めることが前提となってくるため、一つの会社に縛られるリスクを嫌い、自由なライフスタイルに合わせるために賃貸を選ぶという人も多くなってきたようです。
そのことを示す面白いデータがあります。金融広報中央委員会「家計の金融資産に関する世論調査」によると、20代~40代へのアンケートの結果「将来にわたって住宅取得予定がない」と答えた人の割合が2000年と比較していずれの代でも増えていることがわかります。
(データ:金融広報中央委員会「家計の金融資産に関する世論調査」)
終身雇用制が崩れつつある今、「敢えて住宅を購入しない」という選択をする人が増えるのも必然なのかもしれません。
これからの時代に合った住まいは?
賃貸派が増えたと言っても、住宅の購入は賃貸にはないメリットがあります。
まずは、何といっても「マイホーム(わが城)」を持てるという満足感は賃貸では得られません。また、リフォームを自由にできるという点や、ローンが終われば自分の資産になるというのもマイホームのメリットです。
しかしながら、「賃貸物件の向上」「ライフスタイルの多様化」により、賃貸を選択する人は増えているようです。設備やセキュリティ・通信環境や新素材開発など、技術は日進月歩で進んでおり、住み替えが可能なことでいつも自分が技術革新の恩恵を受けることができるという点においては、時代に合っているのかもしれません。また、子供の発育などに伴い、ライフステージによって必要な広さや設備も変わってくるので、そういった意味でも賃貸のメリットはあるでしょう。
大事なことは、住宅の購入/賃貸それぞれのメリットとデメリットを理解し、将来のライフスタイルを考えた上で、どちらが自分に合っているかを考えることが大事です。
次回は、実際の料金シミュレーション、将来の不動産市場の予測を踏まえて、購入/賃貸のメリットとデメリットについて具体的にお話ししたいと思います。
一級ファイナンシャルプランナー・CFP®、心理カウンセラー。2006年5月週末起業を決意し、通信事業者に勤務しながら合同会社FPアウトソーシング代表を務める。ファイナンシャルプランニングに関する個別相談・セミナー講師としても活動中。