先月までの話で、「賃貸物件の質の向上」「ライフスタイルの多様化」により賃貸派が増えつつあるとご紹介しましたが、今月は具体的に購入と賃貸でどれくらい金額に差があるのか。それぞれのメリットとデメリットは何か、将来の不動産市場において気をつけるべき点は何かについて考えたいと思います。そしてその上で、あなたが「賃貸派」「購入派」のどちらに属するかのヒントを最後にご紹介したいと思います。
購入と賃貸、「出ていくお金」はどれくらい違うの?
さて購入と賃貸では、実際に出て行くお金はどれくらい違うのでしょうか。 ここでは
- 分譲戸建を購入
- 分譲マンションを購入
- 賃貸マンションを借りる
の3パターンを比較してみたいと思います。そして、ローンの返済額と毎月の家賃を同じと仮定し、以下の条件で計算してみると、以下のようになりました。
50年間の支払総額 | |
---|---|
分譲戸建を購入 | 7,712万円 |
マンションを購入 | 7,512万円 |
マンションを賃貸 | 7,641万円 |
(計算の前提)
分譲戸建を購入 | 購入価格4000万円、ローン3000万円 (金利3%、35年返済:116,000円/月)、維持費(物件費の1%)、リフォーム1000万円、住宅ローン控除160万円(平成20年入居の場合) |
分譲マンションを購入 | 上記と同じ。但し、維持費(物件の1.4%)、リフォーム費用なし |
賃貸マンション | 月額家賃116,000円、値上げは2年ごとに1%、更新料は1ヶ月分、6年毎に引越し(引越毎に家賃1ヶ月分)、購入時に不要な頭金相当分1000万円を年利1%で運用(645万円) |
計算は50年を前提に話をしていますが、より長く住む場合は分譲戸建や分譲マンション購入の方が有利となってきますし、逆に短い期間であれば、賃貸の方が有利となります。ただ、50年間を前提に計算してみると、それほど大きな差はないということになります。
(但し、あくまで以上の条件でシュミレーションした場合であり、個々のケースによってどちらが有利かということも変わってきます。)
賃貸/購入のメリットとデメリットは何なの?
次に、住宅の賃貸/購入についてのメリットとデメリットについて考えてみましょう。
以下がおおまかにまとめた表になります。それぞれ、購入派にも賃貸派にもそれぞれのメリット/デメリットがあり、人それぞれによって違います。また、かつてはメリットと思われたものが最近ではあまりメリットにならないものもあります。赤字で記載した箇所に関しては、常識が変化する可能性があるので注意が必要です。
購入 | 賃貸 | |
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メリット |
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デメリット |
*住宅ローンが変動金利の場合
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赤字:今までの常識が変わる可能性がある項目
住宅購入の一番のメリットは、なんといってもマイホームを持てることです。自分の好きな家を持ち、そして好きにリフォームができるのは、持ち家のメリットです。また、老後に自分の家を持つ安心感や、ローン支払いの終了後は自分の資産になるというのもメリットです。
一方、住宅を購入する場合のデメリットとしては、よほどのお金持ちでない限りはローン、つまり借金をして購入することになるため、住み替えは簡単にできませんし、また子供の成長に合わせて家の広さを変えたりといったことは難しいでしょう。また、ローンを組むと毎月返済しなければなりませんから、会社のリストラや倒産などにより解雇されてしまった場合や、離婚などライフイベントに大きな影響があった際には「少し狭いところに住んでお金を節約しよう」ということも難しくなってしまいます。
また、「住宅を購入すると社会的な信用が得られる」というメリットについては、今後世の中の常識が変わる可能性があります。これは90年代前半までは「土地の値段は上がる」ということと、「一生同じ会社に勤める」という常識の上に成り立っていたものでした。わかりやすく言うと以下のとおりです。
(1)定期的に収入があり長く勤めるから支払い能力がある
→(2)住宅ローンで家が買える
→(3)(インフレで経済成長が続くので)家の価値があがる
→(4)ますます資産が増え、社会的に信用できる
ところが、90年代後半から2003年にかけては土地の価格は下がり続け、それに伴い住宅の価値も下がり続けました。また一生同じ会社に勤めるという終身雇用制の常識は崩れつつあります。今でも(1)の「定期的に収入があり、長く勤められる人」は社会的に信用がありますが、こうした人はだんだん減ってきています。また、(3)の「家の価値が上がる」と(4)「資産がますます増え、社会的に信用できる」という常識については、少しずつ状況が変わりつつあります。「家の価値が上がるとは限らない」という理由の根拠は後で説明します。
次に、賃貸のメリットをお話します。
まず、なんといってもライフスタイルに合わせた柔軟性があるという点は大きなメリットでしょう。技術が日進月歩で進んでいる昨今において、最新設備のあるマンションを選んで住み替えをすることも可能ですし、また会社も転職がだんだん当たり前になってきており、自分の将来を予測することが昔に比べて難しくなっている今、勤務先やもらえる給料に合わせて物件を選ぶことができるのは大きなポイントです。
デメリットとしては、やはり自分のものでない以上、リフォームなどは原則できません。また、毎月お金を支払っていながら、資産として残らないという点もあります。しかし、賃貸マンションでかつて言われていた「自分に合う物件が見つかるとは限らず、選択肢が少ない」という点については、先月お話したようにREITの出現によって高品質な多種多様の物件がたくさん供給されるようになり、解消されつつあります。
また、「高齢になってからの転居が難しい場合がある」という常識も将来変わる可能性があります。平成13年に「高齢者居住安定確保法」というものが制定され、高齢者世帯の入居を拒まない住宅が登録され、利用者に広く情報が提供されるようになりました。これにより、歳を取ると賃貸住宅が借りられなくなるという点は将来解消されるのではないかと考えられます。また、これからは高齢化社会が進んでいくことは確実であり、それに伴い高齢者向け住居の提供なくしては、賃貸市場全体の発展はありえないでしょう。そういった意味でも、高齢者向け賃貸市場は活性化していく可能性は高いといえます。
「今が絶好の買い時」というのは本当なの?
最後に、最近よく聞く謳い文句について考えてみたいと思います。
「不動産価格が上昇に転じ、金利もこれから上昇。だから不動産は今が絶好の買い時です」という言葉をよく聞きます。しかし、これは本当にそうなのでしょうか。この考え方には少し注意が必要でしょう。
不動産の価格もモノと同様、需要と供給のバランスで決まります。
まず需要の側面から見ると、少子化が進むと需要は減少します。2005年度の統計では、合計特殊出生率が1.26となっていますが、これは1家族から平均1.26人しか産まれないという計算になります。
以下の図は話を単純化するために、1家族に1人産まれることを想定しています。
これは、親の世代だと2つの家が必要だったのが、子供の世代になると半分の1つで済むということを意味します。当然、少子化が進めば需要は更に減少していくことになります。
また供給の側面から見ると、自分で家を購入しないと仮定しても、2つの家族から家を相続するとなると1つは余ってしまう計算になります。慶応義塾大学の島田晴雄教授によれば、「今30歳前後のジュニア世代の人たちは、将来、すでに何らかの形で住宅を所有していたり借りたりしているところに、親の住宅を相続することになるので、将来的に2軒、3軒の住宅を手にすることが珍しくなくなる」と予測しています。また、マンションやアパートの高層化により、供給量は更に増えると予想されます。例えば、一軒家をアパートにすると、それまで4人しか住めなかったところが20人ぐらい住めるようになったりします。このように、中長期的には不動産の供給量は増える傾向にあると予想されます。
今現在は、不動産価格も都市部を中心に上昇に転じており、短期的に見ればここ数年はその傾向が続くかもしれません。しかし、不動産はローンを組むのであれば、20~30年を見越した買い物であることも事実です。中長期的に見た場合、少子化の影響を考えると不動産市場は決して楽観視できないというリスクは認識しておくべきポイントです。
家を購入の場合はリスクを把握しよう
おさらいをしてみましょう。まず出て行くお金について比較をする限りにおいては、家を購入するか賃貸にするかで大きな違いはありません。購入と賃貸の比較で一番のポイントとなるのは、「自分の家を持ちたい」という思いが強いか、それとも「将来のライフスタイルに合わせて柔軟に住み替えをしたい」という思いが強いかによって変わってくるのではないかと思われます。
ただ、最近の状況を見てみると「質が良くない」「いいものが見つかりにくい」と言われていた賃貸物件の質が向上しており、賃貸のデメリットは徐々に解消されつつあります。それに対して「住宅を持っていれば値上がりする」或いは「会社は一生同じ会社に勤める」という常識が崩れつつある以上、住宅を購入するメリットは昔に比べれば薄れつつあるということが言えるでしょう。
大切なのは、自分が「購入するべき」なのか「賃貸にするべき」なのかを、メリットとデメリットを知った上で考えることです。
特に家を購入される方は、一生で一番大きな買い物をするわけですから、後悔しないように「自分は本当に購入すべきか」を自分のライフスタイルも含め、もう一度冷静に考えましょう。また、購入を検討される物件については、後々になって後悔しないように設備や周りの環境、管理状況なども入念に調べる必要があります。もし判断に迷った場合は、不動産事業者の意見だけでなく、場合によってはファイナンシャルプランナーなどの中立的な意見も参考にしながら判断してみてはいかがでしょうか。
一級ファイナンシャルプランナー・CFP®、心理カウンセラー。2006年5月週末起業を決意し、通信事業者に勤務しながら合同会社FPアウトソーシング代表を務める。ファイナンシャルプランニングに関する個別相談・セミナー講師としても活動中。