年金に対する不信感が国民の間に広がっています。社会保険庁のずさんな管理も明らかになり、国民の怒りは頂点に達しました。確かに私たちが支払った保険料をいい加減に管理されていたという点については弁解の余地はありません。しかし、「支払った年金分のモトが取れるかどうかわからない」から支払わない、というのが理由であれば、それはそもそも「年金とは何か」という本質を見失いかねません。
今回は、「年金とは何か」ということを掘り下げて考えてみたいと思います。
意外と知られていない!?年金は社会保険の一部という事実
6兆2,916億円、3,849万件。
これは一体、何の数字かわかりますでしょうか。答えは、平成19年6月15日に支給された公的年金の支払金額と件数です。公的年金の支払いは2ヶ月に1回、偶数月の15日ですが、その都度6兆円を超える年金が支払われているのです。直近1年間(平成18年8月~平成19年6月)の支払い合計額は、37兆3,643億円にもなります。
(単位:万件、億円)
18年8月 | 18年10月 | 18年12月 | 19年2月 | 19年4月 | 19年6月 | |
---|---|---|---|---|---|---|
支払件数 | 3,764 | 3,779 | 3,797 | 3,814 | 3,835 | 3,849 |
支払金額 | 61,645 | 61,862 | 62,164 | 62,376 | 62,680 | 62,916 |
(「社会保険業務センター:年金生活情報の1年間」)
さて、これだけ巨額な金額が支払われている年金とは何なのでしょうか?その意義を考えてみたいと思います。われわれは、常にリスクに囲まれて生活をしています。病気・ケガ・失業・死亡など、さまざまなリスクが身の回りに潜んでおり、いつ我が身に起こるかわかりません。そうしたリスクが起きた場合に備えるものが保険というシステムです。保険料を払い、保険事故が起きたときには、保険給付を受けるのです。
実は、この年金制度は「保険」であり、そして国や地方公共団体等が保険者となり運営しているのが社会保険といわれるものです。わが国の社会保険制度は、労働保険といわれる「労災保険」「雇用保険」と、狭義の社会保険といわれる「医療保険」、「年金保険」、「介護保険」のすべてを合わせて広義の社会保険と呼ばれています。
日本の社会保険制度を表すと、以下のようになります。
社会保険とは、ある国語辞典で調べると「疾病・負傷・老齢・障害・死亡・失業など生活困難をもたらす事故に対し、国や社会の責任により、社会保険の基金から現金が支出され、各種の給付を受けられる制度」となっています。つまり、社会保険とは、国や社会の責任による助け合いの制度なのです。保険の加入者が保険料を払い、困っている人を支えているのです。逆に、自分が困ったときには支えてもらうのです。
例えば、業務上のケガや病気に対しては労災保険、業務外の病気やケガに対しては健康保険、失業に対しては雇用保険、介護が必要になったときには介護保険が適用されます。では、年金は何のための保険でしょうか?
それは、老後(65歳になったとき)のための保険なのです。つまり、老齢という保険事故に対して老齢年金という保険給付があるのです。火災や交通事故は、事故に遭う確率は低いですが、歳は誰でもとります。65歳になったとき、現役時代と同じ体力、同じ気力をもって、充分な生活費を稼げるのは非常に難しいことです。それを年金という保険給付で国や社会が支えるのです。
加えて、年金という保険は、障害や死亡というリスクに対応する機能も備えています。老齢と違い、障害や死亡はいつやってくるか分かりません。今日・明日にでも起こりえます。障害に対しては障害年金という保険給付が、死亡に対しては遺族給付という保険給付があります。つまり、年金という保険は、「老齢・障害・死亡」といったリスクに備えることができるのです。保険事故と、対応した保険給付の関係は以下のとおりです。
保険事故 | 保険給付 |
---|---|
歳をとったとき | 老齢基礎年金 老齢厚生年金 |
障害を負ったとき | 障害基礎年金 障害厚生年金 |
死亡したとき | 遺族基礎年金 遺族厚生 年金死亡一時金 寡婦年金 |
自営業者等については、年をとったときには老齢基礎年金、障害を負ったときには障害基礎年金、死亡したときには遺族基礎年金が支給されます。会社員については、年をとったときには老齢厚生年金、障害を負ったときには障害厚生年金、死亡したときには遺族厚生年金が、基礎年金に加えて支給されます。
年金の不払いはかえってリスクが大きい
このように、年金とはあくまでもリスクに備えるための保険であり、保険とは助け合いの制度である以上、損得で考えるものではありません。以前、役所の窓口で国民健康保険と国民年金の加入事務を行っていたことがありますが、病気やケガは心配だから国民健康保険には加入するが、老後のことは良く分からないから国民年金には加入しないという人が多く見られました。また、年金制度に対する不信から、年金に加入しない人も多くなっています。しかし、年金保険料を納めない方は、大きなリスクを抱えていることを認識して頂きたいのです。
つまり、まず年金保険料を支払わないことにより、老後に年金を受け取れないだけでなく、65歳前に死亡、或いは障害を負った場合でも、遺族年金や障害年金を受け取る権利がなくなってしまうのです。また、年金への加入は国民の義務ですので、十分な所得や資産がありながら度重なる納付督励にも応じない未納者に対しては、国は強制徴収を実施しています。
年金とは助け合いの制度であることを理解し、自らにも起こりうるリスクに備えるという視点が大切でしょう。少なくとも、老化や死亡という保険事故は必ず起こるのですから。
東京都杉並区役所での地方公務員生活を経て、安定よりも刺激と面白さを求め、FP&社会保険労務士として独立開業。ファイナンシャル・プランニング事業、社会保険労務士事業、各種資格取得支援事業を通じ、充実した“生き方と働き方”を追求している。カクムラ・ライフ・マネジメント代表。CFP、特定社会保険労務士、二種証券外務員、住宅ローンアドバイザーなど各種資格を保有。