インターネットの普及とともに、起業は身近なものになりました。かつてはビジネスを始める際には、まず事務所を借り、そして事業開始に必要な設備を購入するなど、お金も手間もかかりました。しかし、現在はネット環境とアイデアさえあれば、アフィリエイト事業やオークション代行業などを自宅で行うことが可能な時代です。そんな時代に対応するべく、2006年5月1日に施行された会社法では、比較的容易に設立できる会社形態が認められるようになりました。特にその中でも「合同会社」という会社形態は、アメリカのLLC(Limited Liability Corporation、つまり有限責任会社)に似ていることから、日本版LLCとも言われ、株式会社など他の会社形態と設立スピード・費用面で比較してみてもメリットが大きな形態です。私が合同会社を1年半前に設立した経験を踏まえ、この会社形態の魅力についてご紹介したいと思います。
メリット比較 「個人事業主」vs「法人」
まず、合同会社の説明をする前に、法人としてビジネスをするとどんなメリットがあるのかについて考えてみたいと思います。法人としてビジネスを行う以外には、個人事業主としてビジネスを行う形態が考えられます。そこで、個人事業主と法人では何が違うのかについて考えてみましょう。下の比較表をご覧下さい。
個人事業主 | 法人 | |
---|---|---|
設立の手続き | 簡単 (開業届けのみ) |
煩雑 (法人登記・定款作成など) |
給与 | 給与控除なし | 給与控除あり |
退職金 | 自分に支給できない | 適正額は認められる |
税率 | 5~40% (所得に応じて累進課税) |
一律30% (資本金1億円以下の場合、所得800万円までは22%) |
交際費 | 全額必要経費 | 認められない (資本金1億円以下は400万円迄は90%経費として認められる) |
青色申告における損失の繰越控除 | 3年 | 7年 |
まず、個人事業主のメリットとしては手続きが簡単なことです。税務署に開業届けを1枚提出すれば、その日から個人事業主になります。交際費についても全額必要経費になります。また、所得が少ない場合において税率は低くて済みます。しかし、一方で法人のメリットとしては、給与控除があることや、自分への退職金についても認められるという点です。また、税率についても原則は一律30%(一部22%)となっており、所得が多くなると法人の方が有利になります。また、信用力については個人事業主よりも法人の方が信用されやすいでしょう。つまり、ビジネスがある程度大きくなることを想定している場合、あるいは信用力が必要である場合においては法人の方が有利といえます。
ただし、これまでは法人設立にはある程度まとまった資本金が必要であり、かつ手続きが煩雑で設立が認められるまでに時間もかかっていたため、従来(会社法が施行になるまで)は会社設立のハードルが高かったという事情があり、このハードルが会社法施行により大幅に下がったというわけです。
会社法施行後、日本の会社形態はどう変わった?
2006年5月1日の会社法施行に伴い、会社形態の大きな変更点としては大きく分けて以下の2点です。
・最低資本金制度が廃止され、有限会社と株式会社が一本化された。(有限会社の新規設立はできなくなった)
・合同会社という会社形態が新たに認められるようになった。大まかに言うと、以下のような形態に変わりました。
なお、2005年8月に有限責任事業組合(日本版LLP)の形態が、会社法施行の前に認められましたが、これは厳密には法人ではありません。では、各会社形態の特徴はどのようになっているのでしょうか。以下が会社形態の特徴になります。
合同会社 (日本版LLC) |
株式会社 | 合名/合資会社 | 有限責任事業組合 (日本版LLP) |
|
---|---|---|---|---|
出資者の責任 | 有限 | 有限 | 無限 | 有限 |
組織の中心 | ヒト | モノ | ヒト | ヒト |
課税方法 | 法人課税 | 法人課税 | 法人課税 | 構成員課税 |
組織の設計 | 自由 | 制約多い | 自由 | 自由 |
組織内部のルール | 自由 | 制約多い | 自由 | 自由 |
利益配分 | 自由 | 出資比率 | 自由 | 自由 |
出資者の数 | 1人以上 | 1人以上 | 2人以上 (合名は1人) |
2人以上 |
設立手続き | 簡単 | 複雑 | 簡単 | 簡単 |
設立費用 | 6万円~ | 24万円~ | 6万円~ | 6万円~ |
設立スピード | 数日 | 1~2ヶ月 | 数日 | 数日 |
この中で、合同会社のメリットは大きく分けて以下の3点です。
1. 設立しやすい(費用・スピード・手続きなど)
2. 会社運営を自由に決められる
3. 責任が有限である
まず株式会社と比較すると、設立にかかる費用が株式会社だと登録免許税15万円の他に、公証人役場で払う手数料9万円の合計24万円が必要になりますが、合同会社は登録免許税6万円のみとなります。また、設立スピードも合同会社は数日と短く、定款を公証役場で認証してもらう必要もありません。次に会社運営については、特に株式会社のように株主総会を開催したり、或いは取締役を選任するなども必要がありません。また、会社として出た利益は、株式会社であれば出資比率に応じて配分をしなければなりませんが、合同会社は利益処分についても出資比率によらず、自由に決められます。さらには責任が有限であるため、例えば万が一会社が倒産になり借金が返済できない場合、無限会社であれば責任は個人に及びますが、有限責任の場合、責任は個人には及びません。合同会社と合名(或いは合資)会社については、非常に形態はよく似ているのですが、責任が有限か無限かという点が一番大きな違いになります。
以上の説明からお分かりのとおり、合同会社は、有限責任でありながらも利益処分などの会社運営の自由度を高めることができ、かつ設立がし易いという、今までの会社形態のいいとこ取りをしているというわけです。
どんな事業が合同会社に向いているの?
従来の有限会社や株式会社は「資本(モノ)」を中心に考えられた会社設計になっているのに対し、合同会社は「ヒト」を中心に考えられた会社設計となっているのが特徴です。例えば、合同会社で利益が出たら配分を自由に決めることができるようにしている理由は、たとえ出資額が小さくてもその人の技術力やノウハウなどによって会社への貢献度に応じて配分できるようにしているためです。したがって、合同会社に向いているのは、人の技術力やノウハウ、アイデアや人脈などを活かせる業態が適していると言えます。
具体的には例えば以下の方々です。
1.個人のノウハウなどを使う事業
サービス業やインターネットビジネスなど、特に大きな資本を必要としない業態に向いています。この場合、一定の所得までは個人事業主の方が税制上は有利ですので、個人事業主との比較検討をすると良いでしょう。
2.異なる才能を持った仲間で行う事業
起業家同士、あるいは税理士・弁護士・社会保険労務士の共同事業など、異なる事業分野の人がお互いに連携をして事業を行う場合に力を発揮します。また、定年退職後に自分の業務経験を活かして仲間などと共同で設立するケースもあります。
3.まずは会社を立ち上げて自分のビジネスを試してみたいという人
スピード重視で事業の立上げを行いたい、或いは小さくビジネスを始めたいという場合に向いています。設立費用が6万円、期間も数日で設立できますので、手軽に始める場合には合同会社も検討に入れると良いでしょう。
この他にも親子や夫婦でビジネスをするような家族経営の場合は、株式会社だと必要になる株主総会の開催、或いは取締役などの会社機関を作る必要もないため、合同会社にするメリットがあるでしょう。また、最近では副業を認める会社も出てきているため、副業のために気軽に会社を設立するというときにも便利な会社形態であるといえます。
合同会社の知名度はまだまだ低い
ご説明してきたとおり合同会社にはとてもメリットが多いのですが、知名度から言うとまだまだ低いのが現状です。また、個人事業主との合同会社の比較では、合同会社に信用力があるものの、株式会社と合同会社で比較をすると、株式会社では決算の公開義務や会社運営の厳格さを求められるため、合同会社は信用力や今までの実績から勘案しても株式会社よりも信用力が低くなるのはやむを得ないでしょう。しかしながら、基本的に法人税や給与の支払い、青色申告などに関しては株式会社と差はありません。また、合同会社の場合は、設立後に株式会社に変更することも可能です(日本版LLPは不可能)。もし、会社を設立しての起業をお考えなのであれば、是非一度合同会社を検討されてみてはいかがでしょうか。
一級ファイナンシャルプランナー・CFP®、心理カウンセラー。2006年5月週末起業を決意し、通信事業者に勤務しながら合同会社FPアウトソーシング代表を務める。ファイナンシャルプランニングに関する個別相談・セミナー講師としても活動中。