ここ数年、1LDKタイプのマンションが人気です。特に資金余力のある30~40代の女性が多く、最近ではシングル女性をターゲットにしたマンション選びの講習会も多く開催されており、その中でも特に人気なのが「自分が住まなくなっても貸せるような資産価値の高いマンション」のようです。
では、実際に自分が使わなくなったとき、そのマンションを人に貸すという選択は賢い方法なのでしょうか。そこで今回は、「シングル向けマンションを貸す」というテーマについて考えてみたいと思います。
結婚を機に不要となったマンション
吉田さん(34歳・女性)は5年前の2004年に1LDK(52㎡)の新築マンションを3200万円で購入しました。当時吉田さんは長年付き合っていた彼氏と別れ、一生独身で過ごすかもしれないと考え、思い切って都内23区にあるシングル女性向けマンションを購入しました。マンションを購入したときの条件は以下の通りです。
購入時期 | 2004年1月 |
購入価格 | 3200万円 (頭金なし) |
所在地 | 都内23区のマンション |
広さ | 52㎡(1LDK、シングル・カップル向け) |
住宅ローン | 35年ローン (5年固定・1.6%、6年目以降は変動金利) |
毎月の返済額 | 10万円 |
ローン残高(2008年1月時点) | 2918万円 |
最初の2年間はシングル生活を悠々自適に過ごしていたのですが、2006年の秋に彼氏ができると、とんとん拍子で話が進んで結婚が決まり、結婚後は夫の実家に一緒に住むことになりました。
さて、吉田さんは購入したマンションをどうするか悩んでいました。今となっては住む必要がなくなったので売却しようかとも考えましたが、マンションを売ると4000万円。このまま売れば利益は出るのですが、不動産屋に相談したら毎月16万円で貸せるとのこと。現在のローン返済が毎月10万円なので、老後のことも考えると差額の毎月6万円の収入を得られる方が良いと考え、吉田さんはマンションを貸すことに決めました。
ところが、ここで思いがけないことが起こります。
まず、結婚して夫の実家に引越しをした後、来年で5年の固定金利の期間が終了するため住宅ローンを借りていた金融機関に相談に行くと、なんと金利が大幅に上がると告げられたのです。なぜなら住宅ローンの場合は通常は特別に低く設定されており、自分が住んでいないと適用されないからです。吉田さんの住所は既に夫の実家となっており、銀行は「住宅ローン金利」ではなく「投資用物件のためのローン金利」が適用されるため、1.6%から一気に4%となり、毎月のローン返済が10万円から13.6万円に上がってしまいました。
また、マンション管理費や修繕積立金がかかることを計算に入れておらず、固定資産税も合わせると年間で40万円以上かかることが判明。月平均にして約3.4万円の出費のため、月々の返済額の13.4万円と合わせて合計17万円の出費。家賃は16万円ですので、差し引き1万円のマイナスとなってしまいました。
更に悪いことは続きます。マンションを借りた人が、最近の不況により家賃を払えず、マンションを引き払って実家に帰ることになってしまったのです。マンションが空室になってしまっては賃貸収入の毎月16万円も入ってこないため、なんと毎月17万円の赤字になってしまいました。
やむを得ず不動産を売却することにしたのですが、ここでも悲劇が起きました。
なんと、譲渡税として182万円の税金がかかってしまうことがわかりました。この譲渡税はマンションの売買差益に対してかかるものですが、実は居住用財産を売却した場合であれば譲渡益3000万円まで非課税になるという特例があるのです。ところが、今回は既に吉田さんは引っ越してしまったため、「居住用財産」とは見なされず、居住用財産売却の特例対象とはなりません。つまり、引越しをする前に売却すれば譲渡税はかからなかったのですが、今回は居住用として認められないため、譲渡税がかかってしまったのです。吉田さんは、こんなことなら最初から売却をしておけばよかったと後悔しています。
検証:「保有して賃す」vs「売却」
吉田さんの場合は「保有して賃貸」と「売却」を検討する際に、何が問題だったのでしょうか。まとめると以下の3点に問題があったことがわかります。
- 維持費を計算に入れていなかった
- 住宅ローン金利が適用外となることを知らなかった
- 居住用財産を売却する際に3000万円の控除があることを知らなかった
また、この他に「保有して賃貸する」ことに対するリスクを考えておく必要があります。以下をご覧ください。
保有して貸した場合のリスク | 売却した場合のリスク |
・物件の値下がりリスク |
特になし |
売却する際には一度全て精算されますので将来のリスクはありません。(あえて言えば、将来値上がりをした際に「保有しておけばよかった」と後悔するリスクぐらいでしょう。)
一方で、「保有して賃貸する」ことのリスクとしては「物件の値下がりリスク」「金利上昇リスク」「空室リスク」「地震などのリスク」「売却できないリスク」など様々な将来に対するリスクを抱えることになります。こういった様々なリスクを抱えたまま生活をするのはストレスの原因にもなりかねないため、よく考えておく必要があるといえます。
「貸せる物件」と「本当に貸すか」は別問題
結論から言うと、吉田さんの今回のケースは「保有して賃す」メリットは特になく、売却する方がよかったといえるでしょう。
ただし、人それぞれによって価値観は違いますので、例えば「マンションを持っている」というステータスや安心感が欲しいのであれば、保有するという選択肢もあるかもしれません。
しかしながら、元を正せば吉田さんのマンションの購入目的は「住む」ことだったはずです。そもそも「貸せる物件」を選んで購入かといえば、借りたいと思う人が簡単に見つかるぐらい「魅力的な」物件だからであり、つまり不動産価値の下がりにくい物件だからなのです。しかし、いくら「貸せる物件」を買ったからといっても、本当に貸すかどうかはまた別問題です。本当にマンションを貸すのであれば、それは自分が不動産賃貸業を行うこと。ましてやローンも残っているわけですから、「自分は借金をしてまでも不動産業をしたい」という覚悟がない限りはそもそもお勧めできるものではないのです。
執筆:坂本光(さかもと ひかる)CFP
一級ファイナンシャルプランナー・CFPR、日本キャリア開発協会認定キャリアカウンセラー、日本応用カウンセリング審議会認定心理カウンセラー。2006年5月週末起業を決意し、通信事業者に勤務しながら合同会社FPアウトソーシング代表を務める。ファイナンシャルプランニングに関する個別相談・セミナー講師としても活動中。