第12回:外国の国債を買う


国内外を問わず、2008~2009年にかけて株式市場や不動産市場は大変厳しい状況にあります。そのため債券を投資先として選ぶ人が増えており、特に外国の債券は利回りの高いものも多いため人気が高くなっています。日本の国債だけでなく海外の債券を持つことはポートフォリオ(分散投資)の観点からもメリットは大きいと言えるでしょう。しかしながら、外国の国債を買う際には、どの国の国債を買うかということが重要になってきます。
そこで、今回は外国の国債に関する失敗事例を考えてみたいと思います。

南アフリカ国債で大失敗

3年前の2006年、高橋さんは投資を始めたいと思っていました。しかし、いきなり株式投資をする勇気はなかったので、国債で運用をしたいと思いました。ただ、日本国債ですと利回りが1%前後です。安全性が高くて利回りの良い商品はないかと考えていたところ、ある日広告で、「南アフリカ国債7%」という文字が飛び込んできました。具体的な記載は以下の通りです。

  • *南アフリカランド国債
  • *利回り7%/年
  • *スウェーデン地方金融公社(最上級格付:AAA(S&P)/Aaa(Moody’s)

「南アフリカランド」という通貨は聞いたことがなかったのですが、南アフリカ共和国というと、金やダイヤモンドがたくさん取れる国であることは知っていたので、さぞかし裕福な国なのだろうと考えていた高橋さん。格付けは最上級のトリプルAなのできっと国債としては安心なのだろう思いました。何より利回りが7%なのは魅力です。一方、日本の国債だと年利1%前後であり、また銀行に預けていれば利子はほとんど期待できません。そこで今まで貯金していた190万円(10万ランド)を南アフリカ国債に投資することにしました。

国債なので株式と違って値動きがあるわけではありません。毎日の株価チェックをする必要もなく、安心して毎日を送っていました。ところが、ある日ニュースでたまたま南アフリカの番組を見ていると、「現在の為替レート:1ランド=約9円」と表示されているではありませんか。たしか高橋さんが国債を購入したときは1ランドが19円だったはずです。

慌てて為替レートを調べると、なんと2006年の19円から3年間で半分の9円に下がっていることに気付きました。

元本の190万円は、利子を合計しても為替レートの悪化により結局110万円になり、なんと合計で80万円も減っていました。

高橋さんは、格付けもAaaと高かったのになぜこんなに損することになったのだろう、とショックを受けてしまいました。

検証:何に気をつけるべきだったか?

国債は国が発行している借金ですので、基本的には国が破綻することがない限り完全に価値がなくなってしまうことはなく、予め償還期限と利回りが定められているため受取れる額も現地通貨ベースで元本を下回ることはありません。では、高橋さんはどんな落とし穴にはまってしまったのでしょうか。以下の2点を考えてみたいと思います。

  • 1.格付けの意味を勘違いした
  • 2.南アフリカ国内の経済動向の勉強不足

1.格付けの意味を勘違いした

高橋さんは、南アフリカランドの国債の格付けをトリプルAであると思っていました。たしかに「スウェーデン地方金融公社(最上級格付:AAA(S&P)/Aaa(Moody’s))」と書かれています。しかし、この格付けの意味はあくまで「スウェーデン地方金融公社」のものです。つまり、南アフリカ国債自体の格付けではありません。

ちなみに2009年2月25日現在のMoody’sの格付けによると、南アフリカ「Baa」となっており、AaaからCまで9ランクのうちの上から4番目。投資不適格ではないものの、決して高いランクの債券ではなかったのです。

2.南アフリカ国内の経済動向の勉強不足

外国の債券に投資する場合に為替レートのリスクはつきものであり、様々な要因により変動するため予測は難しいのですが、少なくとも投資する国の経済状態についてはある程度勉強しておくことが重要です。そして、そのなかでも一番気をつけなければならないのがインフレによる通貨の下落です。では南アフリカの経済状態を見てみましょう。

南アフリカでは、2003年から経常赤字が続いており、特にここ数年は赤字額が大きく膨らんでいます。また南アフリカ国内に目を向けると失業率は26%と非常に高く、最近では深刻な電力不足により家庭で数週間の停電や鉱山の休業なども社会問題となっており、政治や経済への影響が懸念されています。このような不安定な経済状態のもとで同国では資金調達が難しく、そのことが以下の図のとおり南アフリカ共和国の政策金利にも反映されているといえます。

最近では、経常収支の悪化に加えてサブプライムローンの問題も加わり、更に政策金利が上昇しているというのが現在の実態といえます。

ただし、以上は現在の状況を踏まえた情報であり、ダウンサイドのリスクが中心です。将来性ということで言えば、失業率の更なる低下、ワールドカップ2010年開催、豊かな天然資源、G20メンバへの参加などを考慮すると、まだまだ成長が期待できると見ることもできるでしょう。

高橋さんは今後、リスクと成長性の両面から南アフリカの投資について考えていけば、より正しい投資判断ができるようになるのではないでしょうか。

高い利回りにはそれなりの理由があるはず

外国国債に限らず、高い利回りが設定されている背景には、必ず何か理由があると考えるべきでしょう。例えば今回の南アフリカ国債で言えば7%高い金利自体は魅力的ですが、逆に言えばそれだけ高い利回りを設定しないと国債が売れないということの裏返しでもあり、その分のリスクが上乗せされているために高い利率となっているとも言えるわけです。

また悪質なケースでは「南アフリカの格付けがトリプルAなので安心ですよ」という謳い文句で勧めている投資アドバイザーもいるようです。

投資をするにあたり全ての分野を網羅することは困難ですが、少なくとも高い利回りを見たら「何か理由があるはず」と考え、しっかりとご自身が納得されるまで調べる、あるいは自分が信頼できるアドバイザーに聞く、などの対策を立てることをおすすめします。

執筆:坂本光(さかもと ひかる)CFP
一級ファイナンシャルプランナー・CFPR、日本キャリア開発協会認定キャリアカウンセラー、日本応用カウンセリング審議会認定心理カウンセラー。2006年5月週末起業を決意し、通信事業者に勤務しながら合同会社FPアウトソーシング代表を務める。ファイナンシャルプランニングに関する個別相談・セミナー講師としても活動中。