SuicaやPasmoなどをはじめとして電子マネーが広く普及し、JRや私鉄、地下鉄などの乗り換え時も精算が不要となり、さらには駅やコンビニなどでも使えるなどとても便利になりました。また最近ではオートチャージ機能がついた電子マネーであれば、金額が足りなくなると自動的にチャージしてくれます。
しかしながら、このオートチャージは大変便利である反面、自分がお金を意識しなくても使ってしまうことにもなりかねず、使い方には注意が必要です。そこで、今回は電子マネーに関する失敗事例についてお話します。
定期券の有効期限切れに注意!
東京都内に勤務している吉田さん。つい最近まで一般の磁気タイプの定期券を使用していましたが、先日オートチャージ型のSuicaに切換えました。今までの磁気カードだと乗り換えの際に精算が必要でしたが、Suicaになると行き帰りの通勤経路以外の他の路線を使った際にも自動的に精算されるためとても便利になりました。
しかも吉田さんがよく使うコンビニエンスストアでは支払いがSuicaに対応しており、オートチャージなのでチャージ金額が少なくなっても現金の心配をせずに買物をすることができ、更にはコンビニの買物などもポイントとして貯まるため一石三丁です。
ところが、3ヶ月が経過したある日、クレジットカードの明細が到着してびっくりしてしまいました。通常の支払額は毎月2万円程度なのですが、今月の明細にはなんと8万円にもなっていました。いきなり4倍以上に膨らんでしまったことになります。
最近は会社が忙しいのでコンビニでたくさん買物をしていたため、請求金額が多くなったというのも一つの原因ですが、6万円も増えることはありません。色々と調べていくと、定期券の有効期限が切れていることがわかりました。それを気づかずに使い続けていたため、毎日通勤のたびに切符を買っていたのと同じ金額だけ引き落とされていたのです。本来であればオートチャージの場合は改札を通る際にチャージされるとその旨が表示されるのですが、吉田さんはいつも残金などをチェックせずに改札を通過していたため、全く気付かなかったのです。このことに懲りて、それ以来吉田さんは結局オートチャージ機能を解除し、多少面倒くさくても自分でチャージをするようにしています。
チャージ金額は必ずチェックを!
さて、今回吉田さんは何がいちばんいけなかったのでしょうか。まず直接的な原因としては、定期券の有効期限を忘れていたということになります。特にこの場合はオートチャージをしているのだと気付かなければ、足りなくなったらその都度チャージされてしまうことになります。
しかし、そもそも吉田さんに一番問題があると思われることは、改札を通過する場合に金額などを一切チェックしていなかったことによるものです。改札通過時にSuicaの残金が少ない場合などは「チャージ 3,000円」のように表示があるので、Suicaの残金とオートチャージの表示について必ずチェックすることが大事です。吉田さんの場合で言えば、万が一有効期限を忘れていたとしても、残額をチェックすれば事故は未然に防げていたからです。このようにSuicaを使うときには金銭感覚が狂いやすいので、できれば「いつ、どこで、何を買ったか」について大まかで良いので把握するようにしましょう。
どんどん便利になる!電子マネー
最近の電子マネーは交通だけでなくオートチャージ機能や携帯電話への対応など著しい進化を遂げており、SuicaとPasmoは発売以来、発行枚数は伸び続け、特に2007年3月にPASMOとの相互利用により首都圏の私鉄・地下鉄・バスで使用が可能となってからの加入数の伸びは顕著です。下のグラフをご覧ください。
2008年1月現在ではSuicaとPASMOを合わせると3000万枚を超えました。
そして、今後さらに電子マネーは進化していくものと思われます。例えばこれからは新聞広告に入っているチラシなども電子マネーで支払えばオトク情報が携帯電話などを通じて配信されるようになる、というような時代になるでしょう。或いは、コンサートなどに行きたい場合は、携帯電話でチケットを受取り、終わったあとの喫茶店からの割引情報なども配信され、あとは電車・コンサート・喫茶店などの支払いを全て電子マネーで済ませてしまうという日が来るのも近いかもしれません。このように、これからも便利な生活を求めて電子マネーは様々な形で普及していくものと予想されます。
「後払いの便利さ」に要注意!
以上のように、益々便利になると予想される電子マネーですが、便利であるが故に使いすぎないようにコントロールをすることがとても大切になります。
オートチャージ型電子マネーや関西地方で使われているPitapaなどはクレジットカードでの後払いのため、現金を用意する必要がありません。そのため、金銭感覚が麻痺しがちになります。これは電子マネーに限った話しではなく、クレジットカードや携帯電話、通信販売なども全て後払いのため、同様の危険性があります。
そもそも、Suicaは初期の頃は、現金をチャージしておく「プリペイド型」のみだったので知らないうちにお金をたくさん使ってしまうということはありませんでした。つまり、吉田さんのような問題は起きなかったのです。
ところが、オートチャージ機能が付くと事実上後払いとすることができるようになったため、「使い過ぎる」という可能性が発生してしまうのです。これは、普段の買い物をクレジットカード払いしているのと全く同じなのです。しかも、クレジットカードのようにいちいちサインをする必要もなく、装置にかざせば一瞬で決済されてしまうため、現金を使っているという感覚が希薄になりがちです。そのため、ある意味ではクレジットカード以上に危険であると言えます。
これを防ぐためには、利用限度額を設定する、あるいは自分で使い過ぎないように残額を細かくチェックするということが重要になってきます。
また、便利すぎるが故に問題が発生してしまうぐらいであれば、吉田さんのようにオートチャージの機能自体を削ってしまう、などという方法も有効かもしれません。
ちなみに、子供などに対しては金銭感覚を身につけさせる観点からも、オートチャージ機能が付いた電子マネーを持たせることはあまりお勧めできません。それは、金銭感覚の身につかないうちからクレジットカードを子供に持たせるのと同じだからです。
これからも様々なサービスが登場し、ますます「お金を気にしなくて良い便利な時代」になっていくでしょう。こういった時代だからこそ、大人は今まで以上により一層の節度あるお金の使い方を求められ、また子供には金銭感覚をしっかり身につけさせるということが大事になってくるのではないでしょうか。
執筆:坂本光(さかもと ひかる)CFP
一級ファイナンシャルプランナー・CFPR、日本キャリア開発協会認定キャリアカウンセラー、日本応用カウンセリング審議会認定心理カウンセラー。2006年5月週末起業を決意し、通信事業者に勤務しながら合同会社FPアウトソーシング代表を務める。ファイナンシャルプランニングに関する個別相談・セミナー講師としても活動中。