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鈴木 暁子先生(すずき あきこ) プロフィール |
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原 美香さん(仮名 34歳 会社員)のご相談
4年前に知人から譲り受けた猫(ミックス・4歳)と、コロナ禍の2年前に迎えた犬(トイプードル・2歳)を飼っています。
先日友人が飼っている豆柴(3歳)が皮膚炎になり、現在も通院中と聞きました。ペット保険には加入していたそうで、治療費を一部負担してもらえて助かったと言っていました。
我が家はペット保険に入っていません。今のところ2匹とも元気に過ごしていますが、そんな話を聞くと心配になります。飼い主同士で話していてもペット保険に対する考え方はまちまちで・・・。結局保険って必要なのでしょうか?
原 美香さん(仮名)のプロフィール
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更新で保険料は毎年上がります。保険料の負担と補償のバランスを考えて検討しましょう。
1.ペットを飼う際の飼育コストは増加傾向です。
原さん、こんにちは。コロナ禍で巣ごもり状態が続き、ペット需要が伸びたことはニュースにもなりましたね。ただ、厚生労働省「都道府県別の犬の登録頭数と予防注射頭数等」によると、犬については約610万頭(2020年)→約609万頭(2021年)→約606万頭(2022年)と、コロナ禍のピークに登録頭数もピークで、以降は減少傾向にあるようです。また猫については登録制度がないため正確な飼育頭数は不明ですが、一般社団法人ペットフード協会「令和4年 全国犬猫飼育実態調査」によると、こちらも横ばいであるものの、新規の飼育意向は低下傾向となっています。
ペットを飼うことで、家族のかすがいになってくれる、毎日が明るく楽しくなった、毎日の散歩は飼い主にとっても良い運動になるといった声のほか、子どもに命の大切さを教えられる、子どもが明るくなった、世話をすることで責任感や優しさ、思いやりなどを育むことができるなど、多くのメリットがあります。しかし一方で、「新たに」飼い始める人は減少してきたということになります。
理由のひとつとして、犬の場合小型犬以上のサイズでフードや医療費が年々増加、猫の場合も犬ほどではないものの、フードの支出が緩やかに増加しているなど、飼育コストの増加が挙げられます。医療費については、私たち人間は健康保険等の公的医療保険に加入していますから、本来の医療費の一部自己負担で済みます。万一手術や入院で高額になったとしても高額療養費の制度があるので、自己負担額も一定額で済むことが多いです。ところがペットの場合、公的医療保険はありませんから全額自己負担です。また、動物病院は自由診療のため、治療費もまちまちです。人間より費用がかかってしまうケースもないわけではありません。
2.ペット保険の注意点を知ることは、加入の必要性の検討につながります。
飼い主さんとしては、ペットは家族ですから、病気やケガをすれば適切な治療を受けさせたいですよね。とはいえ、必ずしもペット保険に加入している飼い主さんばかりではありません。ペット保険には入らないという方もいます。そのようなこともあり、原さんもペット保険に加入すべきか迷っていらっしゃるのですね。ではペット保険を見ていきましょう。
主な補償内容として、「手術」「入院」「通院」がありますが、すべてをカバーするタイプや、「手術」「入院」のみをカバーするタイプ、「通院」のみをカバーするタイプなどさまざまです。また商品によって、獣医師への無料電話相談サービスが付帯されているものや、火葬費用やセレモニー費用などを特約で付けられるものもあります。
次に注意点についても見ていきましょう。
1)補償割合
ペット保険には、かかった治療費の何%までを保険金として給付してくれるかを設定した補償割合があります。一部90%や100%という商品もありますが、70%や50%が一般的です。
2)免責金額、免責期間
保険商品の中には、免責金額や免責期間を設定しているものもあります。免責金額とは契約者が自己負担する金額です。
例)免責金額:5,000円、補償割合:70%、治療費10,000円の場合
支払われる保険金は(10,000円-5,000円)×70%=3,500円となります。そもそも免責金額以下の場合であれば、全額自己負担となってしまうこともあり、思いのほか受け取れる保険金が少ないと思う人が多いようです。
免責期間とは、新規加入の際、治療費が発生した場合でも補償の対象にはならない期間をいいます。30日、60日などがあり、免責期間が明けないと補償開始になりません。
3)手術、入院、通院の補償限度額
手術、入院、通院の補償は、1日あたり(手術補償は1回あたり)の限度額と1年あたりの限度日数(手術補償は限度回数)を設定しているものが一般的です。その際、「無制限」となっているものもありますが、年間の補償限度額が決まっており、その範囲内での無制限という意味です。したがって補償限度額を超えた分は補償対象外となります。
4)補償の対象
ペット保険は、ペットの病気やケガなどによる治療費をカバーするものですから、予防目的のワクチン接種やノミやダニの駆除薬など、健康体のペットに対する治療費は補償対象外です。
また、既往症、先天性異常、災害によって発生した病気やケガ、飼い主の不注意(予防接種をしていれば予防できた病気など)による病気やケガ、既往症、先天性異常、ワクチン接種なども補償対象外です。なお、比較的小型犬に多いパテラ(膝蓋骨脱臼)や、歯科治療などでも、商品によっては補償の対象外となるものもあります。補償の対象となる病気やケガについては、保険によって違いがあるので、しっかり確認する必要があります。
5)加入年齢と更新
ペット保険は加入可能年齢を設定しているものが一般的です。10歳以上の高齢になっても加入できる商品もありますが、10歳前後くらいまで可能としているものが多いようです。
私たち人間もそうですが、当然ながらペットも高齢になると病気になる確率や頻度も高くなるため、治療費もかさむ傾向にあります。その頃にペット保険に加入しようと思っても加入できないということにもなるので、加入のタイミングを外さないことも注意する必要があるでしょう。
なお、ペット保険は毎年更新なので年々保険料が増加します。更新については、告知義務違反があった、保険料の滞納があるなどに該当すると更新できない場合があります。これは当然といえば当然ですが、さらに、加入中に慢性疾患になってしまった場合、設定されている補償額を使い切ってしまった場合、保険金請求状況によってリスクが高いと判断された場合などでも更新ができない可能性があります。商品によって更新不可、条件付き更新などがあるので、この点も加入を検討する際にはしっかり確認しましょう。
3.商品によってサービスはまちまち。十分な比較検討が必要です。
このように見ていくと、やたらと注意点が目立つ印象を受けるかもしれません。ペット保険の補償は、基本的に「手術」「入院」「通院」なのでシンプルではありますが、対象範囲や補償割合など、飼い主さんによって重要な部分が、商品によってまちまちです。また冒頭でも述べたように、動物病院は自由診療なので、かかりつけの病院の費用も踏まえて医療コストを想定した上で加入を検討することになるでしょう。
原さんも以下の点について考えてみてください。
- ・補償が手厚いほど保険料は高くなる
- 人間の医療保険では終身医療保険のように加入時の保険料がずっと変わらない商品がありますが、ペット保険は毎年更新ですから保険料も毎年値上がりです。たとえばペットが14~15歳くらいまで長生きしたとした場合、毎年の保険料を合計してみてください。
- ・元気であれば掛け捨てになる
- 幸い元気に育ち、病気やケガの頻度も少なければ、保険料はほとんど掛け捨てになります。さらに言えば、これだけの保険料を払ったとしても、よほど費用がかかる病気やケガにでもならなければ、モトが取れたと思えるほどの保険金は受け取れません。
ただし、保険というのはもともと「モトを取ろう」と考えるものではありません。万一の際の心配をする多くの人がお金を出し合って、不幸にも万一のことに遭遇してしまった人にお金をあげようというのが保険の考え方です。もちろん私たちが保険に加入する際に保険料と保障のバランスを考える必要があるのと同様、ペット保険でも保険料と補償のバランスは重要です。だからこそ、原さんもワンちゃん、猫ちゃんがどういう時にどれだけの治療を尽くしてあげたいのか、万一の時にそれが叶うのであれば万一がなくても納得できるのか、家計への負担は大丈夫かなどを熟慮した上で、加入を検討されると良いでしょう。