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鈴木 暁子先生(すずき あきこ) プロフィール |
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大島 久美さん(仮名 30歳 会社員)のご相談
医療保険の加入を検討していたところ、診療報酬点数連動型医療保険という名前を耳にしました。これは普通の医療保険とは違うのですか?加入するならどちらのほうが良いでしょうか。
大島 久美さん(仮名)のプロフィール
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定額型は決められた額が支払われるのに対して、診療報酬点数連動型は実際の負担分を保障します
1.医療・治療技術の変化と共に変わる保険へのニーズ
大島さん、こんにちは。医療保険はどんどん新しい商品が出てくるので、どれを選べば良いのか難しいですよね。
医療や治療の技術は日進月歩です。たとえば、昔は手術といえば開腹手術が主流で、患者への負担も大きいため、入院もそれなりの期間が必要でした。そのため、昔の医療保険は、入院や手術の給付が保障の中心でした。ところが現在では腹腔鏡手術といって、病状によっては身体に少し穴を開けるだけで可能な手術もあります。この場合、開腹手術に比べ入院日数も短くて済み、代わりにその後のアフターケア(通院治療・診療等)のほうが主流となるケースも多くあります。医療・治療技術の変化に伴い変わる契約者のニーズに合わせ、保障の範囲や給付も変わっていくのです。
それを踏まえて診療報酬点数連動型医療保険(以下、診療報酬点数連動型)の特徴をみていきましょう。
一般的な医療保険(以下、定額型)は、たとえば入院給付金は日額いくら、手術給付金は1回いくらというように、実際にかかった医療費にかかわらず給付金額が定額です。これに対して診療報酬点数連動型は、実際に受けた医療行為に応じて給付金が支払われます。
「実際に受けた医療行為に応じて」について、もう少し掘り下げてみます。
クリニックや病院の窓口で支払いをしたときに領収書を受け取りますが、そこに74点とか32点のような点数の記載があるのをご存知でしょうか。見た記憶はあっても気にしたことはないという人が多いと思いますが、実はこれが診療報酬点数です。
私たちが受ける医療行為には、初・再診、検査、投薬、注射、手術、麻酔などさまざまなものがありますが、それぞれに診療報酬点数が決まっていて、診療報酬点数1点あたりに10円を掛けた金額が総医療費となります。これが保険適用の診療・治療であれば、概ね3割が自己負担分となるわけです。ちなみに処方箋で薬を出してもらうときも、薬剤技術料、薬剤管理料、薬剤料などの名目で診療報酬点数が記載されています。診療報酬点数連動型は、自己負担割合に応じて、たとえば3割負担の人であれば3円、2割負担の人であれば2円というように、診療報酬点数に単価を掛けた金額が給付金となります。
2.診療報酬点数連動型は合理的ですが、注意点もあります。
数字を使って給付金を比較してみましょう(診療報酬点数は仮定)。
ケース1)1回の手術と6日間の入院。診療報酬点数は24,000点。
自己負担割合は3割。
<入院日額が5,000円、1回の手術給付金が50,000円という定額型の場合>
5,000円×6日+50,000円=80,000円
<診療報酬点数×3円の診療報酬点数連動型の場合>
24,000点×3円=72,000円
となります。
ケース2)4日間の入院。診療報酬点数は30,000点。
自己負担割合は3割。
<入院日額が5,000円、1回の手術給付金が50,000円という定額型の場合>
5,000円×4日=20,000円
<診療報酬点数×3円の診療報酬点数連動型の場合>
30,000点×3円=90,000円
となります。
定額型は、診療報酬点数が少ないケースでは、診療報酬点数連動型に比べ、給付金を多く受け取れる場合もあります。ただし、それを「儲かった」と考えるのは適切でありません。医療保険は、事故や病気などによる医療費をカバーしてもらうのが目的であり、儲けるために加入するものではないからです。一方、入院や手術以外で保険適用の医療行為(保険適用の抗がん剤治療、放射線治療など)が多いケースでは、診療報酬点数が高くなり総医療費も高くなるものの、入院や手術でないため実際の自己負担分をカバーしきれないかもしれません。言い換えると給付に過不足が出やすいかもしれないということです。一方、診療報酬点数連動型は、それほど費用がかからなかった場合でも高額になった場合でも自己負担分をカバーしてくれるので、給付が合理的です。
これが、「実際にかかった医療費にかかわらず」なのか、「実際に受けた医療行為に応じて」かの違いと言えるでしょう。
ただし、診療報酬点数連動型にも注意点はありますので、しっかり理解しておきましょう。
一つ目は、「保障の対象は、原則、公的医療保険の適用範囲」であることです。定額型であれば、受け取る給付金は医療費の自己負担分はもちろん、保険適用外の費用にも充てることもできます。しかし、診療報酬点数連動型は、保険適用範囲の自己負担分が対象であり、適用範囲外の費用については原則カバーされません。また、高額療養費が適用された場合、適用後の金額が給付金額となります。
二つ目は、診療報酬点数連動型は、基本的に更新型であることです。定額型は終身型も多く、終身型の保険料は加入時から変わりません。これに対し更新型は、若いうちは保険料が安くても、年齢が高くなるほど保険料も高くなっていきます。
三つ目は、この診療報酬点数連動型の商品がわかりにくい(情報が少ない)ことです。そもそも、診療報酬点数というこれまでとは違う視点に、わかりにくいと思う人もいるかもしれません。また、どの保険会社でも販売しているというわけではないので、商品の善し悪し、あるいは定額型との比較についての判断材料が少ないことは否めません。受けた医療行為に応じた給付といっても、商品によって支払条件が異なる場合もあるので、その点も注意が必要です。
3.若い世代であれば検討の対象になるでしょう。
定額型であっても、診療報酬点数連動型であっても、公的医療保険をベースに検討するという考え方は同じです。それでカバーできない分を民間の医療保険や貯金など自助努力で補完していくわけですが、貯金で医療費をカバーできるのであれば、保険の必要性は低くなります。逆に貯金がそれほど多くない若い世代は、万一の際、保険に頼る可能性は高くなるでしょう。健康体であれば、医療保険の保険料は掛け捨てになってしまう可能性が高いため、保険料はできるだけ抑えたいところです。
先ほど、更新型で保険料が上がることを注意点のひとつとして挙げましたが、逆に若い頃は終身型よりも安いので、定額型よりカバーの範囲が広い点と合わせると、若い世代には診療報酬点数連動型は検討の対象になり得そうです。
また、これは余談になりますが、保険適用の診療・治療などは、頻繁ではありませんが実は見直しもされます。これまでにも、先進医療だった治療が保険適用になったこともあるように、今は保険適用外の治療でも、将来保険適用になることもあります。そうなると診療報酬点数連動型でカバーできる範囲が広がる可能性もあるかもしれません(あくまで私の推測ですが)。でも、もしそのようになるのであれば、診療報酬点数連動型の魅力は増していくでしょう。
現時点で、定額型と診療報酬点数連動型のどちらがお勧めかと聞かれると、比較するにはまだ情報が足りないので回答はしにくいのですが、大島さんの年齢であれば、診療報酬点数連動型は検討の対象にはなると思います。ご興味を持たれたのであれば、前述の注意点や保険料の比較などを保険会社に質問してみると良いでしょう。
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