もしものがんに備えるにはどうしたら良いでしょうか?また自由診療も補償されるがん保険もあるのでしょうか?


今回、回答いただく先生は…
 
井上 信一先生(いのうえ しんいち)
プロフィール
  • がんに罹患したと想像してみてから、その備えを考える方法もあります
  • 罹患しない努力、早期発見、経済的補てん、罹患後の安心感が備えのキーワード
  • がん保険を検討する際は、最新のトレンドも参考に選びましょう

  鈴木 章さん(52歳 仮名)のご相談

同僚でがんになった人がおり、がんに対して漠然ながらも不安があります。
がんに対する備え方を教えてください。

鈴木 章さん(仮名)の家族のプロフィール

家族構成 年収 財産等
本人(52歳) 会社員 560万円 金融資産   :600万円
自宅マンション:住宅ローン(65歳まで)
        ※団体信用生命保険を付帯
妻 (50歳) 会社員 380万円
長女(21歳) 学生
次女(18歳) 学生
長男(15歳) 学生

がんへの備えは、早期発見、経済的な保障、そして何より様々なアフターケアの準備が大切です

漠然と不安を抱く状態から一歩進み、今できることを考えましょう

鈴木さま、ご相談ありがとうございます。
「がん」は、40代以上の中高年の死因トップであるほか、30代以下の若い方(0歳を除く)や90代以上の高齢の方でも死因のベスト3~5には入る、まさに全年代に悩ましい病気です。身近な方が「がん」になったら、当然不安になりますよね。
ただ、何に対しても共通して言えることですが、漠然とした不安を抱えているだけの状態は、何か考えているようで、その実、思考を停止しているようなもの。建設的ではないですし、精神的にもよろしくありません。こういう時はいっそ、その不安が現実になったと仮定して考えてみましょう。そうすれば、その際にどんな事態になるのか、そのような事態を引き起こす原因は何であったのか、そうならぬように打ち手(つまり具体的な備え)はないのかを探すヒントに案外と導けます。そして、結果として不安の軽減に繋がることもあるものです。
お客様からのご相談に際し、ファイナンシャル・プランナーが行うお金に関する様々なシミュレーションやご提案も、実はこれとまったく同じプロセスを踏んでいます。「後悔先に立たず」という諺が示す教訓のとおり、後悔するような事態を先読みして想像することで、「あの時、ああしておけば良かった」、の「ああする」を、いま実行可能で具体的な打ち手(備え)として考えるのです。

もしも明日、「がん」と診断されたとしたら?

では、仮に「がん」に罹患してしまった、と想像力を働かせてみましょう。

最悪のケースとして、既に手遅れの状態で余命宣告を受ける、治療の余地があるにしても心身に障害を残す可能性がある、相当な治療期間を要す、成功率の低い困難な治療を伴う等の事態が考えられるでしょうか。
その際に「何故?」を考えれば、「罹患リスクが高くなるような生活習慣を改善できなかった」など、色々とありますが、突き詰めていくと、「もっと早くに発見できていれば手の施しようがあったかもしれない」という気づきもできそうです。
「がん」は早期発見できれば不治の病ではなくなりつつあります。ただし、罹患部位によっては殆ど自覚症状がないこともあるようなので、毎年の健康診断だけでなく、多少高額でも綿密な人間ドックや専門的な「がん検診」を定期的に受診することが早期発見・安心につながります。

また、執筆している私自身も考えたことですが、上記のような最悪なケースはもちろん、根治を見込めるケースでも、「腕の良い医師にめぐり会えるか、設備が整った病院を探せるか」といった問題もあります。健常なうちに医師や病院の評判を調べたり、最新の治療方法を勉強したりするのは現実的ではないでしょう。しかし、がんの部位等に応じた治療実績や評価等を公正中立な立場で情報提供してくれる手段、例えば、そうした情報発信をおこなうWEBサイトやサービス機関を探しておくだけでもいざというときの安心には繋がるでしょう。日頃のちょっと体調の悪い時に通う病院やクリニックをなるべく集約し、万一の際にはセカンドオピニオンとして助言を得られるような「かかりつけ医」を持っておくのも良い手といえそうです。

さらに考えられるのは、発見されたがんの部位や進行状況等にもよりますが、「予定外の出費がかかる、治療(入院中とは限らない)に費やす期間は予定していた通りに働けなくなるかもしれない」という問題。そう、お金の問題です。
公的医療保険制度は保障が手厚く、例えば医療費の自己負担額に上限を定める高額療養費や、会社員の方が加入する健康保険制度には休職中の収入の一部を補てんする傷病手当金等のしくみがあります。それでも、「予定外の支出増大、予定外の収入減少」は、治療期間に比例して家計への負担が増すもの。こうした経済的な問題に対する打ち手が保険(生命保険・損害保険)での備えといえます。

既契約保険は要確認!がん保障は意外と「ダブリ(重複)」があり得る

さて、ある意味、数ある病気の中で「がん」は最も有名な病です。
セールスポイントがわかりやすいからか、昔から生損保会社や共済、少額短期保険(ミニ保険)を問わず、保険における「がんの保障」は、いくつかの点で他の病気とは別格の扱いです。
まず、一般的な『医療保険』でも、当然、「がん」での入院・手術・通院(通院特約付帯の場合)は保障します。それなのに、医療保険とは別に『がん特約』や、各社で様々な特徴ある単体の『がん保険』が販売されています。また、特定疾病(3大疾病)、生活習慣病(一般的に5大疾病)、7大疾病、8大疾病と、対象となる疾病の括りは異なりますが、これらを保障する保険商品には全て、「がん」が含まれます
住宅ローンに付帯される団体信用生命保険(団信)についても、今でこそ様々な特約を追加したものが普及していますが、「死亡・高度障害状態」に加え、一番初めに特約として付帯されたのも「がん保障」です。保障対象はローン残債(一部または全部)に限られますが、特約付団信なら「がんの保障」をも兼ね備えているのです。
一方、保険金支払事由についても、他の疾病の中には「所定要件を満たす一定の状態が続く場合」等と厳しいものがあるのに比べ、「がん」は「契約後90日等の不担保期間経過後であれば罹患した時点で要件を満たす」など、支払事由が比較的緩めです。また、「脳血管疾患」や「心疾患」など他の疾病では病気の種類により保障対象外となるものが詳細に区別されているのに対し、「がん」は罹患部位に左右されず保障されるのが一般的で、「悪性新生物」だけでなく、再発リスクの低い「上皮内がん」ですら一定額を保障するのが一般的です。
この他も、『就業不能保険』のような生存保険や一部の死亡保険の中には、「がん」の罹患を保険金支払いの事由とするものもあるなど、「がん保障」は想像以上に保険商品の中に深く幅広く組み込まれているのです。

たとえ、既加入保険の保障がダブっていても、保険金は調整されず重複して支払われますし、保険料負担に余裕があるのなら問題はないでしょう。とはいえ、既加入保険で保障が十分なのであれば、あえて新規で追加する必要性は少なく、その分を将来のための貯蓄等に回すのが合理的でしょう。
「がん」に対する経済的な備えは、既に準備できているか否か、準備できている場合はどの程度かをチェックすることから始めると良いでしょう。その上で、既加入保険があっても内容が古くて昨今の「がん治療」の実状に合っていなかったり保障の追加が必要だったりする場合、そもそも「がんの保障」がない場合に新規での加入を検討することになります。

がん保険のトレンドは常に進化している?

実際の医療の進化は何も「がん」だけが特別という訳ではありませんが、保険商品として捉えると、『がん保険』は他の商品に比べ、とりわけ商品性のトレンドの変化が激しいといえます。
『がん保険』といえば、昔はがんによる入院と手術を保障するものでしたが、「がん医療」の現場が、入院治療から通院治療へとシフトするにあわせ、数年前から、『罹患時』に主軸を置く商品と『治療時』に主軸を置く商品が、『がん保険』の2大トレンドとなっています。最近では第3のトレンドとして『自由診療・実損補償』に主軸を置く(または特約で加える)商品が新たな潮流として注目されています。
以下、それらの概要と加入を検討する時のポイントについて整理してみます。

まず、『罹患時』に主軸を置く商品とは、『がん診断給付金』をメイン(主契約)に、入院・治療等を任意で加えられるものとなります。受け取る保険金は入院費や手術費のほか退院後の各種治療費や生活費の補てん等、何にでも使えるので、シンプルかつベターな商品性といえます。検討する際のポイントは、「診断給付金」の複数支払回数。以前は保険期間中に1回でも支払われると契約が消滅するものもありましたが、罹患部位が別なら制限なく、同一部位の再発でも一定年数の間隔があれば複数回、診断給付金が支払われるものがスタンダードです。中には、一時金形式でなく年金形式で支払われるものも登場しています。

次に、『治療時』に主軸を置く商品は、『がん治療給付金』をメイン(主契約)に、診断・入院等を任意で加えられるものとなります。このタイプは、放射線治療・抗がん剤治療・ホルモン剤治療・疼痛(とうつう)の緩和等の緩和療養・ゲノム医療など、とにかく「がん治療」の多様化に伴い、治療給付金の対象となる内容が目まぐるしくアップデートされています。検討する際には、やはり比較的新しい商品から選ぶのが無難ですが、数は少ないものの、既加入保険に、新たに「治療給付金」を特約で追加できる保険会社ならより安心できます。

最後に、『自由診療・実損補償』をメイン(主契約)または特約の一部に付帯できる商品ですが、このタイプはもともと「実損填補」が特徴の損保分野で扱われていた『がん保険』となります。現在でも、この内容をメイン(主契約)にする一部損保会社の商品は「定額保障」が特徴の生保分野との比較対象として変わらず注目されていますが、昨今では生保会社からも特約で『自由診療・実損補償』を謳う商品が登場しています。
ところで、「がん」に限らず、病院等で受ける治療方法や技術は、おおまかにいえば「保険診療」と「保険外診療(自由診療)」とがあります。前者は公的医療保険制度の対象となる、つまり自己負担が3割等で済むもの。後者はその対象外、つまり治療費の全額が自己負担となるものです。ある病気等で「保険外診療(自由診療)」を選択すると、本来は「保険診療」の対象である治療や技術も含め、すべての治療が公的医療保険制度の対象外となります。これは、「保険診療」と「保険外診療(自由診療)」との併用(混合診療)が認められていないためです。ただし、生損保険商品に『先進医療特約』を付けられるようになってから、「がん治療」としてもすっかりポピュラーな存在となった重粒子線治療や陽子線治療などのような「先進医療」は、「保険外診療」の例外的扱いとして「保険診療」との併用が認められています。つまり、指定されている「先進医療」を受けた場合、その技術料は全額自己負担となりますが、同時に受ける「保険診療」に該当する治療部分は公的医療保険制度の適用を受けることができます。
全額自己負担となる「保険外診療(自由診療)」は、一部の富裕層が対象となるような治療方法・技術のイメージでしたが、「がん治療」においてはとかくニッチな治療方法が注目されやすく、こうした治療法へのニーズを満たせるのが、『自由診療・実損補償』保険となります。

検討する際の注意点として、『自由診療・実損補償』を主契約とする保険、または特約は終身保障ではなく保険期間の満了のある有期保障が多いこと。有期保障の場合、一定年齢までは更新できますが、更新時の年齢により保険料が再計算されて高くなっていくほか、更新可能な最長年齢も保険会社により異なる場合があります。また、殆どの場合、自由診療を受けられる病院等が保険会社により指定されているので、入通院が可能な地域の病院等が選択肢に含まれているのか、あらかじめ確認が必要です。
何かと制約も多いこのタイプの商品ですが、通算で補償される保険金額は1千万円~1億円と高めです。かかった医療費の殆どは補償されるので、保険金額をいくらに設定すれば良いのかを迷う煩わしさがないのも利点といえるでしょう。

がんへの備えは多角的に準備する

上記、最新の『がん保険』の3つのトレンドは、どれも合理的な考えに基づいていると考えて良いと思います。
3つのうちいずれかに絞って商品を選択するのもアリですし、いずれかを主契約にしながらも、その他を特約で補完的に備える手もあると思います。
その他の着眼ポイントとしては、保険料が高くなる場合もありますが、「がん」に罹患した以降は保険料が不要の「保険料払込免除特約」を付けられる商品であれば、「がん」と付き合っていくその後の人生への安心材料になり得ます。
また、『がん保険』では各社とも、契約者に対する付帯サービスに力を入れています。例えば、「がん」に罹患した場合に、病気と向き合うための情報提供や専門カウンセラーによる相談サービス、専門医や治療方法等の紹介・検索・セカンドオピニオンサービス、「がん検診」等の優待利用、キャリアコンサルタントや臨床心理士等による「がん」罹患後の職場復帰支援アドバイスなど、実に多岐に渡ります。こうしたサービスが備わっていれば何かと安心といえるでしょう。付帯サービスにも着目して保険商品を選ぶのも一考の価値があると考えます。

「がん」への備えは一元的に考えるのではなく、
「がんに罹患しない工夫」
「罹患したとしてもそれを早期発見できる工夫」
経済的な補てんをする工夫」
罹患後の治療方針の選択や生活上の不安、社会復帰後等のサポートを持つ工夫」
など、多角的に準備しておくのが良いといえるでしょう。


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