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井上 信一先生(いのうえ しんいち) プロフィール |
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柴田淳一さん(50歳 仮名)のご相談
これから娘の教育費の負担が重くなりそうなので、家計の見直しをいろいろと検討しています。
生命保険の保険料は減らせないかと考えていたところ、加入したまま放ったらかしになっている医療保険をみつけました。最近は病気での入院も短期化していると聞きますが、それでも医療保険には入っておくのが良いのでしょうか。もし医療保険が必要な場合でも、新しい保険は内容もずいぶんと変わっているかと思いますが、どういう備えを考えておけば安心なのか教えてください。
柴田さんが現在加入している医療保険
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柴田淳一さん(仮名)の家族のプロフィール
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医療費用リスクへの備えがなくても生活が根底から崩れる可能性は低いですが、高齢期の医療費など、将来の不透明性を考えれば保険での備えも有効です
平均で入院日数は約20日~30日、自己負担額は約20万円以下
柴田さま、ご相談ありがとうございます。
男性であれ女性であれ、40代を過ぎた頃から病気への心配が増すもの。これが50代を過ぎ、それ以上となるにつれ、老後の介護やそれに伴う経済的な生活の不安なども増していきます。家計を支える生計者であれば、働けなくなることによる逸失収入やご家族への負担も気になるところですね。
では、実際に病気になって入院するとどうなるのか、データはあくまでも平均値なので目安に過ぎませんが、医療保障を考える時の参考となる代表的な公的データで、その実態を把握してみましょう。
まず、厚生労働省が3年ごとに実施している「患者調査」によると、全国の病院の退院患者の平均在院日数は33.3日間となっており、年次推移的には概ね短期化の傾向にあります。とはいえ、これは全患者の平均です。中高年齢層は全年齢の平均に近いものの、30代半ば以下の方は平均で20日間に満たないのに対し、65歳以上の方となると平均で40日間を超えてきます。
また、当然のこと、病気の種類による差は大きく、全年齢平均で、感染症等は23.7日、悪性新生物(がん)で18.2日、循環器系疾患(高血圧性疾患、心疾患、脳血管疾患)で41.5日です。一番入院日数を要するのは、精神疾患(比較的軽度の躁うつ病等から重度の統合失調症等を含む)で294.2日にも及びます。
※参照(2024年5月24日時点):厚生労働省 令和2年(2020)患者調査の概況
次に、公益財団法人生命保険文化センターが3年ごとに実施している「生活保障に関する調査」では、過去5年間に入院経験のある方の入院日数の平均は17.7日間であり、このうち7日間以下の割合が全体の47.3%を占めています。ちなみに31日以上の入院は全体の10.8%となります。こちらの調査では病気別のデータはありませんが、高年齢層になるほど入院日数が長くなる傾向は、「患者調査」と同様のようです。
また、この調査では、費用面についても詳しくデータをとっており、入院時の自己負担費用総額の平均は、19.8万円とあります。金額別では、10万円未満が35.9%、10万円以上20万円未満が33.7%、全体の30.4%が20万円以上であり、入院日数が61日間ともなると75.9万円にも及ぶ結果となります。
※参照(2024年5月24日時点):公益財団法人生命保険文化センター 2022(令和4)年度生活保障に関する調査
そもそも医療費の保障額は予測するのが難しい
ちなみに、発表されている自己負担総額には、健康保険等の公的医療保険制度の適用対象となる治療費(保険診療)で高額療養費の適用後の金額の他に、家族の見舞い等も含めた交通費、入院時の差額ベッド代、食事代、衣類、日用品等の費用を含む額とあります。
筆者のご相談者で85歳を超える方も、昨年に脊柱管狭窄症の手術と、手術後のせん妄からくる認知症状の悪化および身体リハビリのため6か月ほど入院されました。その際に治療費(保険診療)については、公的医療保険制度から「高額療養費」の適用を受け、負担額は月額6万円弱(年齢や収入等に応じて変わる)で上限固定されていたものの、食事代・おむつ等を含む衣服のレンタル代・病室内のテレビや棚等の備品代等を含め、月額20万円程度の自己負担となりました。
これらの多くは、医師の診断によるものであれば、別途、「医療費控除」として税額の還付対象になりますが、年金受給者の税額はそもそも多くない場合もあるので、税額還付の恩恵には限りがあります。医療費自己負担が1割等と、比較的軽減される印象のある高齢者ですら、税額還付分を差し引いても、概算100万円程度の入院時費用がかかることもあり、病気の種類によっては退院後の通院費や治療費の負担が重くなる可能性もあり得る訳です。
柴田さまの年齢や年収を考慮すれば、治療費(保険診療)については、同一月内の同一診療科等の要件を満たせば、「高額療養費」の適用を受け、月額で約8万円強の自己負担額で上限が固定されます。日額換算では上限は僅か3,000円弱。さらにお勤め先の健康保険制度からの上乗せ保障が見込める場合もあります。しかし、治療費以外の入院時費用は意外とかかるもの。例えば、入院時の食費は1食あたりの標準負担額が490円(令和6年6月1日以降、一般収入世帯の場合)ですので、3食とれば一日あたり1,470円。病院により値段は変わりますが、入院時にはこの他にも衣類や日用品代等がかかってきます。個室を希望せず差額ベッド代がかからなくても、これら費用を積み上げていくと、場合により、治療費と同額かそれ以上の負担が発生することもあり得ると考えておくのが賢明でしょう。
そして当然、この自己負担総額は入院日数が長くなるに比例して高額になりますが、入院を要する日数は何の病気に罹ったのか、どの年代で患うのかで、大きく変わってきます。
医療費用リスクは貯蓄で賄うことも可能だが
ところで、入院時の諸費用は日常生活費の延長とみなす考え方もあるでしょう。
食費や衣類のクリーニング代、水道光熱費等々は日常生活でも普通にお金がかかっていくもの。なので、入院中だけ特別視するのは不自然ともいえます。ですが、非日常的な出費である治療費はもちろん、病院で決められたとおりの生活をしなければならず、自分でコントロールできる日常生活費とは少し異なるのも確かです。不測の事態に際し、その出費を貯蓄から賄うのか、保険で備えるのか、考え方や価値観により人それぞれだと思いますが、必要時に慌てたり後悔したりしないよう、心づもりを持っておくことは大切でしょう。
そこで、貯蓄と保険商品とを比べ、保険にはどのような優位性があるのかを考えてみましょう。
- ①リスクが顕在化する確率は低いものの、いざ顕在化した場合の損害額が甚大な場合に保険は有効
- ②将来の予測ができず不透明なリスクに対応する場合に保険は有効
上記の①は、保険で備えていなければライフプランが根底から崩れるようなもので、他人の身体や生命または高額な財産に損害を与えてしまった場合の損害賠償責任がその代表です。過去の判例では億単位に迫る場合もあり、とても貯蓄で賄える額ではありません。持ち家や家財の損害や、家計の生計者の収入の途絶なども該当します。
②はリスクがいつ起こるのか、いつまで続き必要額がどれほどになるのかが不透明な場合、例えば、人の寿命に関わるリスクがそうで、生計者の死亡による遺族の生活保障、要介護状態となった場合の介護費用、老後の生活保障などが考えられます。この際に、貯蓄にはない保険特有の機能である「終身保障、終身受取り(年金)」は、大いに頼りになります。
上述した生命保険文化センターの「生活保障に関する調査」の発表資料の限りでは、私たちの約8割は何かしらの生命保険等に加入し、別途、約6割が何かしらの医療関連の保険にも加入しているようです。
いったん要介護状態となったら健常な体へ戻れる可能性が低く、いつまで続くのかは寿命次第となる介護リスクに比べ、「高額療養費」の適用などで上限が抑えられる医療費用リスクは貯蓄での準備も可能と考えます。しかし、高齢期に要する医療費など、将来の予測が難しく不透明性もあるため、多くの方が安心のためにも保険で備えているのでしょう。
昨今の医療保険の商品性は様々、既加入保険の見直しの方法も様々
柴田さまが現在加入しておられる医療保険は、比較的一般的な特長の従来型の保険ですが、世の中には色々な心配をされる方がおりニーズも多様です。また、入院日数の短期化など、医療の現場もどんどん変わっており、これらを満たすべく商品改定も日々行われています。
例えば、「短期入院の負担などたかがしれているから、負担の重い長期入院に備えたい」というニーズに対し、特定の疾病で入院・治療した場合の給付金の支給日数や支給額を厚めにする保険が登場しています。
「将来の医療費が値上がりするかもしれないのに、支給される給付金額を契約時に定額で固定できない」というニーズには、診療報酬点数等に連動して実損補償する保険もあります。
「むしろ退院後の通院治療でいつまでお金がかかるか不安」というニーズには、入院日数に関わらず一定の一時金が支払われる保険や入院保障でなく通院や治療保障に重点を置く保険があるほか、「未承認薬でも使いたい、困難な病気でも対応できる治療を受けたい」というニーズに、先進医療よりも実施可能な病院の数が多く受診する際のハードルも低い患者申出療養の全額自己負担額を保障する保険、保障面より保険料負担面に注目して、保険料払込期間中の健康増進対策に応じて保険料負担を軽減する保険や、入院・治療を要しなかった場合に一定の既払込保険料を返還する保険なども登場しています。
医療保険や医療関係特約は日進月歩するタイプの商品なので、あまりに古いと十分な保障を受けられない側面があるのも確か。かといって、新しい保険に入り直すとその時の年齢で保険料が計算され、概ね今よりも負担が遥かに重くなります。
そのようなときは、既加入保険を極限まで減額または特約を解約した上で、入院以外を保障する保険を探すのもひとつの方法です。また、保険会社や既加入の保険商品によって対応が難しいこともありますが、既加入保険に新しいタイプの特約を新規で付帯したり、保険種類を総合的に変更する変換(コンバージョン)が適用できたりする場合もあります。方法は1つではないので、色々と検討してみると良いでしょう。
最後に、「入院が短期化しているのに医療保険は有効なのか?」という柴田さまの疑問は、加入されておられる医療保険の内容からして、至極もっともだと思います。病気の種類に関わらず1回の入院で保障されるのは最大40日間というのも、いかにも中途半端かもしれません。
なれば、保障額がその程度であるならすべて貯蓄で賄うという決断も一理ありますし、現在の保障内容では心配な部分を最新の保険で補強するのも一考です。何が不安で、少しでも不安を軽くするにはどうすればいいか、そこから考えるのもアリですね。
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