住宅ローンを組む際、団体信用生命保険の仕組みや選ぶポイントを教えてください


今回、回答いただく先生は…
 
井上 信一先生(いのうえ しんいち)
プロフィール
  • 団信は一般的な保険にはない注意点があります
  • 団信以外の保険も考慮し、ライフプランの上で必要な保障を考えましょう
  • 特殊なローンの組み方をする場合は保障の漏れがないようにしましょう

  青山翔さん(40歳 仮名)のご相談

マイホーム購入にあたり団信を検討していますが、思っていたより保障内容がさまざまあって選びきれません。検討する際のポイントを教えてください。
ちなみに、住宅ローンは夫婦で組むつもりで、夫婦ペアローンか連帯債務ローンを考えています。金融機関の候補も複数ありますが、いずれも仮審査などの手続きは順調に進んでいます。候補とした金融機関のローンの商品性は殆ど同じですが、加入できる団信の内容が異なっており、どの団信を選ぶのかで、最終的にはローン選びにも左右するのではないかとも考えています。また、もしかしたら、もっと良い団信が他の金融機関にあるのではないか気になっています。

青山翔さん(仮名)の家族のプロフィール

家族構成 年収 財産等
本人(40歳) 会社員 650万円 金融資産  : 1,800万円
住宅ローン : 夫婦ペアローンまたは、
        連帯債務ローンを検討
妻 (36歳) 会社員
長男(10歳) 学生
次男 (8歳)  学生
400万円

団信であっても保険商品には変わりありません。
保険である以上、加入済みの保険も考慮し、必要な保障(補償)バランスを考えましょう。

青山さま、ご相談ありがとうございます。
マイホーム取得は人生の大きなイベント、そして多くの選択を迫られる機会でもありますね。関わる金額自体が高額なうえ、選ぶローン商品の選択や組み方によっても総返済額は大きく変わります。住宅ローン選びでは金利種類や金利の水準だけでなく、返済方法の見直しのしやすさ等も大切なポイント。さらに、最近ではローン商品自体だけでなく、これに付帯する団体信用生命保険(以下、団信)も、各金融機関で他行との差別化のため、工夫を凝らしさまざまな特徴のものから選べるようになっています。
団信はとても重要なものであり、ローンの単なる付属品として捉えるべきではありません。ですが、ただでさえローン契約時には、返済について慎重なプランニングをする必要があり、また、複雑かつ膨大な契約手順を踏まねばなりません。団信選びだけで過度に振り回されぬよう、ポイントをしっかり押さえておきましょう。

一般的な保険とは違う団信ならではの注意点

団信とは、ローン契約者が保険契約の被保険者となり、万一の死亡や高度障害状態等の際にはローン残高を完済できる保険商品のひとつです。保険であるため、保障内容が手厚くなるほど負担額が増す訳で、場合によっては必要以上に過度な保障(補償)内容となってしまう可能性もあり得ます。ただし、いくつかの点で一般的な保険とは異なります。

まず、団信はローン契約時にしか加入できず、返済の途中に付けることはできません。また、途中で保障の見直しはできず、所定の任意脱退事由に該当しない限り中途解約もできません。金融機関によっては、時折、新規団信への切り替えキャンペーン等を行う場合もありますが、これはあくまでも例外的なこと。ローンの「借り換え」により、新たな金融機関で住宅ローンを組む際に団信を新規で契約するような場合を除き、任意に加入したり保障額を見直す等のリセットをしたりできない点には、注意が必要です。

次に、保険料の負担意識が希薄で不透明になりやすい点が挙げられます。団信の保険料は、一部の外枠保険料払いを除き、通常はローン金利に保険料等相当分の金利が上乗せされてローン返済額に含めて支払う仕組みです。このため、保険料としての負担感が感じにくくなる特性があります。

なお、団信の保険料は性別や年齢に関係なく、ローン残高や返済期間等に応じて計算され、返済の経過でローン残高の減少に比例して保険金額や保険料が逓減することになります。
住宅ローンの中でも、民間金融機関と住宅金融支援機構が提供する各種「フラット35」は有名です。「フラット35」はローン適用金利を除き、どの金融機関を選んでも同じ商品内容(一般的な買取型のフラット35では付帯する団信も機構団信に統一)であるのが特長です。そしてもうひとつ、民間金融機関のローンとは異なり団信の付帯が任意、つまり健康状態等により保険に加入できない場合や、加入済みの保険で保障額が既に相当に高額である等の場合に、団信を付けずにローンが組めるという大きな特長もあります。もし、フラット35に団信を付けなければ、ローン適用金利が0.2%低くなることは意外に知られていません。
民間金融機関のローンは団信加入が必須なため、金利の内訳を気にするようなことはありませんが、その中には、ある程度の団信保険料部分も考慮されていると考えておくべきでしょう。また、後述するような、さまざまな特約保障を付けた団信では0~0.3%程度の金利が上乗せされることになります。
仮に、借入金額5,000万円、返済期間30年、適用金利2.0%の固定金利(元利均等返済)に対し、団信特約料として0.3%上乗せした場合の返済総額とを比較すると、差額として273万円多くなります。この金額の多寡は人により感じ方がさまざまだと思いますし、実質的な保険料は返済期間の経過とともに逓減するので必ずしも実態を把握し切れる訳ではありません。ですが、金利上乗せ前後の毎月の返済額や返済総額を試算し、比較してみることで、その特約保障が本当に必要であるか、費用対効果はどうか、団信保険料の負担感を意識するきっかけにはなるでしょう。

最後に当然ながら、団信により家計に新たなお金が入ってくる訳ではない点には改めて留意すべきでしょう。団信の保険金は、ローン返済の全期間分または一定期間分の返済に充当されます。家計の「収支」の一面である「支出」中の1項目である住居費(返済額)の負担を減らせる訳ですが、「収支」のもう一面である「収入」を増やす訳ではありません
住宅ローンを組む人(債務者)は、その方が単身であれ夫婦共働き等の複数人であれ、家計における生計者であるのが一般的でしょう。その生計者の有事の際に、特定の疾病療養による一時的・継続的な収入の減少や、相応の支出の増加が生じる可能性があります。ましてや、生計者(または生計者のうちの一人)の死亡、長期の就業不能状態、要介護状態による収入途絶ともなると、ライフプランの根本的な再建のみならず、家計を通常運転に戻すまでは相応の時間がかかり、その間の家計の運転資金難に陥ることも考えられるのです。
例えば、ガンに罹患した後に就業不能状態や要介護状態となってしまうような場合、所定事由に該当した段階でローンの返済負担は団信によりなくなるかもしれませんが、その後の収入途絶に対して備える必要があります。
団信の保険期間はローン契約の終了とともに消滅し、その後の保障は無くなります。ですが、家計の営みはその後も続く訳なので、ローン完済後の生活保障を、団信とは切り離して準備しておかねばなりません。家計を脅かすリスクを総合的に考え、そのリスクが現実のものとなった際には、家計に保険金という新たな収入が得られる仕組みを作っておく必要があるといえるでしょう。

その他、たとえローン契約者が団信保険料を負担したとしても、毎年の所得税における生命保険料控除の適用対象とはならない等の税制上の留意点もありますが、特に上記の3点を押さえておくことが肝要です。

昨今の団信の特約保障のトレンドは、「疾病・就業不能・介護」に大別

団信の基本的な保障内容は、ローン契約者(被保険者)が死亡または高度障害状態になると、契約者が負う以後のローン残高が完済されるというものです。しかし、以前から団信の保障では盲点ともいうべき課題が指摘されてきました。すなわち、死亡や高度障害状態に該当しなくても、重大な疾病や就業不能等のため家計が困窮し、その後の返済負担が苦しくなり、結果としてマイホームを手放さざるを得ない事態も生じる可能性があるという点です。
ここに着目し、基本保障に特約で各種保障を加えたものが昨今の団信の流れであり、金融機関各社が保険会社と協力して工夫し差別化を繰り広げている状況といえます。まさに、青山さんも悩まれている状況ですね。そして、保障内容から、この特約は「疾病保障」、「就業不能保障(補償)」、「介護保障」の3類型にざっくりと分けられ、これを単体で保障するか、2~3の複数の保障を組み合わせるのかでトレンドを大別できます(主要金融機関で扱う約100種類の団信保険を筆者調査により分析)。
なお、提携する引受保険会社が同じでも、金融機関により、契約できる年齢条件(40歳未満・50歳未満・56歳未満など)、保障内容、保険料等で細かな違いがあるので、以下を参考にされると良いでしょう。

各種「フラット35」につけられる機構団信は、保険金支給事由が曖昧な高度障害状態ではなく、身体障害保険金として「所定の身体障害等級1級・2級に該当し身体障害者手帳が交付されること」と明確にしている

① 疾病保障特約
3類型の中では最も商品数が多い特約です。ただし、保障対象となる疾病は概ね以下に細分化されます。
  • ・がん(悪性新生物)
  • ・3大疾病(がん・脳血管疾患《脳卒中等》・心疾患《急性心筋梗塞等》)
  • ・その他の生活習慣病(5大疾病、7大疾病、8大疾病、その他生活習慣病)
    • ※5大疾病:3大疾病+肝疾患(肝硬変等)・腎疾患(慢性腎不全等)
    • ※7大疾病:5大疾病+高血圧性疾患・糖尿病
    • ※8大疾病:7大疾病+膵疾患(慢性膵炎等)
    • ※その他生活習慣病:8大疾病+大動脈瘤及び解離・皮膚の悪性黒色腫以外の皮膚がん・上皮内新生物等
  • ・ケガ・全疾病(概ね、精神障害を除く)

上記のうち、最も保障内容がシンプルなのは「がん特約」で、がんに罹患すれば以後のローン残高が100%免除、特約保険料相当の金利上乗せは0.1%という条件がベーシックなものです。一部、ローン返済が一定期間しか免除されないものもある反面、特約保険料相当の金利負担が0%のものもあるので、ベーシックなものと比較検討すれば選択は比較的容易でしょう。
この疾病対象を3大疾病に拡大する特約は、金利上乗せも概ね0.2~0.3%と重くなるのに加え、がん以外では保険金支払事由が相当に重篤な場合(所定の重篤状態が60日以上継続や所定手術を受けた場合等)に限定されます。
さらに、その他疾病にまで拡大させた特約では、入院期間や就業不能期間が相応期間にならないと保険金支払事由に該当しないか、仮に該当してもローン残高が完済されず一定期間に限定しただけの返済免除となります。
「がん特約」以外は、余程の重篤な状態でなければ保険金支払事由に該当しない場合や、ローンが必ずしも完済される訳ではない場合も踏まえ、上乗せ金利も考慮して検討するのがベターです。また、前述のとおり、疾病保障は団信で十分ではないことも鑑み、団信以外の保険での準備を検討するのが無難といえます。

② 就業不能保障(補償)特約
一般的には、ケガや病気の種類を問わず、相当期間(12カ月~21カ月等)に渡りいかなる仕事にも就けない状態が継続した場合に、ローン残高が100%免除されます。以前は、「債務返済支援保険特約」として単体で団信に付帯できましたが、昨今では、「疾病保障特約」に組み合わされた形式で保障(補償)されるものが殆どです。保険金支払事由となる疾病等の種類や返済免除の期間等も、疾病保障特約の内容に準じています。
また、就業不能保障(補償)は、その名称のとおり、家計にとっては生計者の給与等が途絶した場合の代替収入手段であるので、団信による住居費(ローン返済額)相当額だけでなく、その後の生活費全般を賄える保障額を団信以外の保険で準備するのがベターとも考えられます。
③ 介護保障特約
フラット35に付帯する機構団信の特約保障にも介護保障が付加されているものの、3類型の中では、最も商品数が少ない特約となります。その理由として、一般的に要介護状態となる年齢は後期高齢期に多く、住宅ローンの返済期間中というよりは、むしろ完済後に懸念されるリスクであるからと考えられます。保障内容として、公的介護保険制度に準じた要介護状態2~3以上に認定された場合等でローン残高の100%が免除され、特約保険料相当分として最大0.3%が上乗せされるのがベーシックなタイプです。
団信に介護保障を検討する場合は、リスクマネジメントの点から、現役時代の介護保障は就業不能保障(補償)と、殆ど保障内容が被ること、老後生活が不安かつ不透明である要因のひとつが要介護状態による不透明な支出増大であることも鑑み、別途、民間の生損保険による介護保障をあわせて検討しておくことも一考でしょう。
昨今の団信特約保障はとても魅力的な保障内容のものが増えています。しかし団信で保障されるのは、「最大でも残りのローン返済額に過ぎない」という点に注目することが大切です。ローン完済後のライフプランまでを考慮し、必要な保障設計やリスクに応じた保障バランスを検討することが重要です。団信による保障はそのプラスαと考えておくのが無難でしょう。

夫婦でローンを負担する場合は各々の保障を準備すること

最後に、青山さんが検討されている住宅ローンの組み方について、団信での保障の留意点にも触れておきます。まず、「ペアローン」とは1つの住宅につき夫婦等が各々で住宅ローンを組む方法で団信も各々で付けます。一方、「連帯債務ローン」は1つの住宅ローンについて主たる債務者と連帯債務者とで互いに負債を請け負う方法です。ただし、「連帯債務ローン」で団信の保障があるのは、通常は主たる債務者だけなので、連帯債務者が先に死亡等となっても、当然、ローン残高が残ります。また、「ペアローン」の場合でも団信で保障されるのは死亡等となった方のみなので、残された方のローン残高は、やはり残ってしまいます。
夫婦合算の収入で住宅ローンをシェアされるケースは昨今では珍しくありませんが、この場合は、ローンを担う一方の方の万一の際に、残されたもう一方の方の返済負担を解消できるようなしくみの「連生団信」の選択、もしくは一般的な保険への加入などを検討しておくと良いでしょう。


住宅ローンに付ける疾病保障は多い方がいいですか?
住宅ローンが払えなくなったら、どうなるのでしょうか?
金利上昇に備えるための手を打ちたいです。住宅ローンの借り換えや繰上げ返済で注意すべき点はありますか?