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夫の死亡で入った保険金や退職金をどのように運用すればいいでしょう
市田 雅良先生 (いちだ まさよし) プロフィール |
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稲田 聖子さん(仮名)のご相談
一昨年、夫が他界し、遺族年金と企業年金の収入があります。贅沢をしなければ日頃の生活は預金を取り崩さずともなんとかなるのはありがたいのですが、死亡生命保険金や死亡退職金が入ってきた貯蓄をどうしたものかと思案をしています。運用するにも、近頃のサブプライムローン問題、株安、円高などなど、考えていた運用プランも不安で踏み出せないまま今になりました。年齢からも、積極的に殖やすことより、できるだけ目減りさせずに何か予想外の事態に対応できる予備費として置いておきたいのですが、なにかよいアドヴァイスをいただけますよう、お願いいたします。
また、医療保険についてですが、加入している保険を70歳になって解約したいと考えています。「高額療養費の請求」というのがあって自己負担はたいしてかからないと聞いたので、解約予定としているのですが・・・・。
稲田さんのプロフィール 58歳、主婦。会社員の長女(27歳)と同居中。会社員の長男(29歳)は別居。 |
「不安」は「計画」をたてることで解消。「殖やす」より「備える」ためにもライフプランを
キャッシュフロー表をつくり、ライフプランニングを見渡そう
稲田さんの今後の収入と支出、そして貯蓄残高の推移を見るためにキャッシュフロー表を作成しましょう。
一般的にリタイア後のシニアプランでは、頑張れば貯蓄ができた時代と違って、逆に貯蓄の取り崩しが始まる年代となります。貯蓄をどれくらい取り崩していくと、現在の貯蓄がいつまで持つのだろうかという不安がいっぱいになります。でもあせることなく「貯蓄の取り崩し計画」を立てて実行していけば、訳が分からずにケチケチ生活となってしまう心配が少なくなります。日本人が苦手とした?「計画」を自分自身が持つ必要がある時代となってきたのかもしれません。
稲田さんは、キャッシュフロー表から見てシニアプランの予想は大まか良好といえそうです。現在シングルになったばかりなので不安にさいなまれ、相当生活費を切り詰められていますが、プランを立て実行することにより、生活にゆとりを持って余裕資金が使えるようになるでしょう。
保険の見直し
加入生命保険のチェック
現在加入の保険:
(1) | (2) | (3) | (4) | ||
加人保険会社 | AF生命 | S生命 | AF生命 | AF生命 | |
被保険者 | 聖子 | 聖子 | 聖子 | 聖子 | |
契約者 | 聖子 | 聖子 | 聖子 | 聖子 | |
契約日 | H18.12.15 | H01.11.29 | H19.4.2 | H19.4.2 | |
契約年齢 | 58歳 | 40歳 | 58歳 | 58歳 | |
満期・満了年齢 | |||||
更新期間 | なし | なし | なし | なし | |
保険種類 | 個人年金保険 | 個人年金保険 | 終身保険 | がん保険 | |
死亡保険 | 年金 | 80万円(10年) | 60万円(10年) | ||
終身保険 | 1,000万円 | 20万円 | |||
合計保険金 | 800万円 | 600万円 | 1,000万円 | 20万円 | |
医療保険 | 医療/日/ガン入院 | 15,000円 | |||
医療/日/病気人院 | 5,000円 | ||||
医療/日/通院 | 3,000円 | ||||
払込方法 | 月払 | 月払 | 月払 | 月払 | |
保険料(一時払い:既払い) | 683万円 | 360万円 | 675万円 | 32万円 |
○生命保険は、死亡保障と入院保障に分けてチェック
- 現在加入の死亡保険の終身は、1,000万円の保障がついています。聖子さんが亡くなったとき経済的に困る遺族は誰でしょうか?その遺族はどうしても1,000万円必要ですか?というポイントで考えます。すでに払い込み済みなので、お葬式費用と諸々で少し高いですが妥当な保障といったところでしょう。
- 個人年金保険は、自分に帰ってくる貯蓄型の保障です、ご加入の保険は「お宝保険」といえるでしょう。
- がん保険について、聖子さんは15,000円/日の保障をあまり気にされていないということです。万が一がんで入院しその費用が嵩んだ場合でも、公的保障の「高額療養費」を利用することにより、自己負担の入院費用は賄えると楽観的でした。
- がん保険に付けた特約の医療保険についても同様で、70歳に終身医療特約を解約し、貯蓄と「高額療養費」を利用してもいいのでは、というお考えでした。
申請しないと戻ってこない高額療養費
例えば「がん」などで入院すると、費用はいったいいくらかかるのでしょうか?ガンと診断されれば長期の入院、闘病期間の覚悟がいります。誰もが心配するところだと思います。入院となれば、医療費以外に交通費や様々な雑費がかかります。その費用はかなり高額になるようです。健康保険、国民健康保険に加入していればこのとき頼りになるのが『高額療養費』、これ以外に医療保険などに加入していれば『入院給付金』もあります。高額療養費は、自己負担額を超えた金額を計算することになります。
<計算例> 健康保険で3割負担の場合
1ヶ月の医療費総額が100万円(食事負担額は除く)で、3割負担分の30万円を支払った場合の健康保険から払い戻される金額は・・・
- 上位所得者
300,000円-{150,000円+(医療費総額100万円-500,000円)×1%}
=145,000円(実質自己負担額155,000円) - 一般所得者
300,000円-{81,000円+(医療費総額100万円-267,000円)×1%}
=211,670円(実質自己負担額88,330円) - 低所得者
300,000円-35,400円
= 264,600円(実質自己負担額35,400円)
※上位所得者とは、診療月の標準報酬月額が53万円以上の被保険者及びその被扶養者。低所得者とは、被保険者が市(区)町村税の非課税者、被保険者または被扶養者が自己負担限度額の低い高額療養費の支給があれば生活保護の被保護者とならない人です。
(高額療養のポイントは)
- 同じ診療月ごとに合算。
- 医療機関ごとに合算。
- 同じ医療機関でも入院と外来は別計算。
- 同じ医療機関でも医科と歯科は別計算。
- 食事代や新聞代など保険のきかない差額ベット代は対象外。
- 高度先進医療の特別料金部分。
ガンの場合、月に30万円程度は自己負担費用があるといわれています。高額療養費は申告してから療養費が戻ってくるまで2~3ヶ月掛かります。ということは戻ってくるまでに100万円程度が必要になります。
(参考:高額療養費 社会保険庁 http://www.sia.go.jp/seido/iryo/kyufu/kyufu06.htm)
※リンク先閉鎖のためご了承ください。
(高額療養費の申請方法)
社会保険事務所(又は市役所等)に「高額療養費」を申請することで入院費用の一定の額(上記計算例)が戻ってきます〔社会保険庁のHP参照〕。 色々な申請や煩雑な手続きなどは、できるだけ効率よく、時間の節約をすることが大切です。何より治療に集中したいからです。効率的に動きましょう。
まず、1か月分ごとに病院の領収書をまとめる。 印鑑(認印)、 健康保険証(記号・番号が必要)、本人の預金通帳(振込み用)、あと必要な情報として、入院している病院の名前と住所、患者の病名(病名を記入)。上記を用意し担当部署へ行き記入します。記入した申請書のコピーを頼んでおくと後で参考にできます。また申請用紙も次月に必要であれば2、3枚貰っておくと便利です。
次月からの2回目以降で、役所や保険事務所が遠くて簡単に行けない場合は郵送も可能です。その場合
- 『高額療養費支給申請書』の用紙
- 前月申請したコピーを参考に内容を書き込み、押印する。
- 日付の欄と支払額をチェック。
- 今月分の支払った治療費の領収書をコピー
- 領収書のコピーと申請書を担当部署に郵送
『政府管掌健康保険』は社会保険事務所
『国民健康保険』は市町村役所の国保の窓口宛てに郵送
※ 実は70歳以上の高額療養費については、窓口で、加入保険者(国や組合など)からの返金と相殺された金額を支払えば済むようになっています。つまり上記の<例>の一般であれば88,330円を窓口で支払えばいいわけです。
※ 平成19年4月より、70歳未満の方も相殺した金額を窓口で支払えば済むようになっています。「高額療養費の現物給付制度(http://www.sia.go.jp/~saga/gennbutukyufu.html)」と呼ばれていて、これの適用を受けるためには条件があります。その手続きは、保険者に対して「限度額適用・標準負担額減額認定証」をあらかじめ事前申請しておき、窓口での精算時にこの認定証を一緒に出して、自己負担分だけを支払えば済むようになっています。この適用を受けたくなければ従来からある原則的方法により後で返してもらうということになります。
※リンク先閉鎖のためご了承ください。
医療保険は払い込んであるので、解約せずに続けてみましょう
「高額療養費」で自己負担は、思ったより高額にはならないようですが、「高度先進医療」をつかった場合、少し複雑となります。通常の保険診療との共通部分(診察、入院、投薬など)は保険対象のため、患者は一部負担金(3割分)ですみます。つまり高度先進医療は、通常の保険診療と併用しますが、「高度先進医療の特別料金部分」は患者の費用負担となるのです。これは保険対象外のため、患者が全額を支払うことになります。このように高度先進医療では保険対象外と保険対象が混じった費用の扱いになります。特別料金部分は、高額療養費制度の対象にはならないので注意したいです。
(厚生労働省保険局 http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/isei/sensiniryo/index.html)
入院などの資金調達は、保険と貯蓄でバランスよく備えたいものです。
資産運用には気をつけて、「殖やす」より「備え」ましょう。
新聞や雑誌、テレビ等のマスメディアで目にする「投資信託」「外貨預金」などは、新しい金融商品に人々の目を向けさせようと、激しい広告攻勢を展開しています。取引のない金融機関からの電話勧誘や訪問販売、さらに馴染みの金融機関からも新商品の購入や買替えへの勧誘があります。そうした甘言に乗せられ、また預貯金口座に入れておくことは時代後れという漠然とした不安や焦燥から、リスクの高い金融商品に手を出し、金融被害に巻き込まれるといった事態が後を絶ちません。全国の消費者センターには金融トラブルに関わる相談が数多く寄せられ、その内容も深刻化してきているようです。
そうなると生活者一人ひとりが、資産運用の基本であるファイナンシャル・リテラシー(※金融知力、金融の読み書き能力)を身につける必要があります。年齢、職業、知識、財力、情報量その他、個人・家計の特性によって必要なファイナンシャル・リテラシーの中身は異なります。
今回、稲田さんにはマネーデータを整理していただきました。このように、まず自分の収入・支出等の実態を知ることが第一歩です。つまりライフプランを立てることが基本となります。その上でライフ資金、準備資金、利殖資金と分けて、ライフステージごとに適切な資産の配分をおこなっていきます。これも計画です。このようなことを計画立案する能力が生活者にとって必要となってきているのではないでしょうか。
今後、定期的にマネーデータをチェックし、収支のバランスをとりながら、大切にお金を使ってシニアライフを楽しんでください。