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十分な貯蓄と年金・会社の保障が有る場合
保険に入らなくても大丈夫でしょうか?
山根 克規先生 (やまね かつのり) プロフィール |
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塚本 智美さん(仮名)のご相談
私が専業主婦になったため、生命保険の加入を検討しました。まだ子供はおりませんが、今後最低2人は授かりたいと思っています。保障金額は、子供の養育資金と、私の再就職開始までの準備金、住居費を計算して決めるのがよいと聞きました。
現在の状況は
収入:800万(手取り)
支出:年間400万程度(住宅賃貸費用含む)
※子供ができたとしても年間450万以内で生活したい(教育費込で)
貯蓄:2500万程度です。
現在の状況では、子供の養育資金と、再就職開始までの準備金、住居費の3点は貯蓄でカバーできるように思います。また、夫にもしものことがあっても遺族厚生年金や遺族基礎年金、子供ができた場合は、児童手当などの給付が受けられる上に、現在の夫の会社から遺児の養育費が子供が大学を卒業するまで給付されるので、それなりに暮らしていけそうに思います。このような場合、生命保険に加入は必要ないと判断して大丈夫でしょうか?
一番危険なのは、万が一かかった病気が長引くことで夫が会社を辞めなくてはならなくなった場合なのではないかと思い始めました。その場合も最初の3年ほどは、会社や健康保険組合からの保障があると思いますが、その後は、何も公的扶助も受けられないのではないかと。最近聞く、所得補償保険とはどのようなものでしょうか。所得補償保険について教えてください。
塚本さんのプロフィール 30歳、主婦。30歳、会社員の夫と2人暮らし。 |
貯蓄と収入見込みが十分ならば生命保険は無駄に、所得補償保険は検討してみましょう
30歳の段階でここまでご用意できているとは大変素晴らしいですね。ご夫婦共にしっかりとされた方だと感心いたします。さてご質問にお答えする前に、まずは保険の考え方を押さえておきましょう。
保険とは、「万が一の際に経済的に困らないようにするため」の金融商品です。そして「万が一」の対象によって必要な保険の種類や、商品内容が変わってくるのです。ですから保険を検討する際には、どのような「万が一」、言葉を変えればどのようなリスクに備えるのか、またそのリスクはどの程度のものなのか、そして重要なのが、それを保険で用意するのか、貯蓄など別のもので用意するのかを検討しなくてはいけません。
最初のご質問の生命保険ですが、これは「死亡」や「入院」などの「万が一」に備えるものです。対象者は自分自身やご家族ですから、対象者が死亡や入院した際の経済的ダメージを計算することになります。
まず「死亡」から考えると、対象者の方が亡くなった後に、遺された家族が経済的に困るか、困らないか、困るとしたらどの程度困るかを考えます。住居、基本生活費、教育費などの支出に対して、どのような収入や蓄え、公的扶助が受けられるかを計算するのです。塚本さんの場合、ご自身でカバーできるということですので、まさに死亡に対する保障は必要ないことになります。
よく保険がないと不安だといわれる方がおられますが、しっかりと計算をして必要なければ、掛けてもその分無駄になります。保障部分はあくまで掛捨てになりますので、必要ないのに掛けるとお金を捨てることに繋がります。 貯蓄性の保険も、掛捨ての保障部分に貯蓄部分を組み合わせて商品化しているだけですので、保障は掛捨てになります。貯蓄性の保険が貯蓄としてメリットがあるのは、他の金融商品にないような、高金利で30年などの長い期間その金利が約束されたような商品だけです。今のような低金利時代にはないですね。しかし、計算上問題なくても、保険を掛けることで気持ちが楽になるという方は、それに見合ったものにご加入されても良いでしょう。あくまで掛捨てであることをご理解のうえ。
また、大きな死亡保障に加入されていることを、自分自身のステイタスとお考えの方もいらっしゃいますが、これも実は間違いです。今回の塚本さんのように、十分に準備ができている方、つまり貯蓄があり、死亡したとしてもその後の収入見込があるような方は、保険が必要ないのです。つまり生命保険は考えられるリスクに対して準備のできていない方が、準備ができるまで仕方なく加入するものと考えるのが賢い考え方です。生命保険を掛けなければ、掛け捨てられるお金を貯蓄などに回せますから、大きな差になります。
次に「入院」ですが、これは死亡に比べてやや難しくなります。というのも、健康保険制度が今後どのようになるか不透明だからです。これまでも自己負担率が増えてきましたが、さらに増えることも考えられます。また規制緩和によって、これまでのような一律の医療サービスから、支払える金額によって、医療の内容に大きな差がでる混合診療が認められるようになり、受けられる治療も一律ではなくなります。ですから、入院した際にどのような治療を受けたいのかを真剣に考える必要があります。それによって加入すべき保険も変わってきます。通常の保険適用内治療であれば、1日1万円あれば今のところ問題ないでしょう。しかし、個室に入ったり、最先端の治療を受けようと考えれば相応のお金が必要です。それを保険で備えるのでしたらそれなりの保険を考えないといけません。今はこれらのニーズにあった保険も少しずつ生まれていますので、ぜひご自身にあった医療保障をお選び下さい。
ただ死亡保障同様、ご自身の蓄え等でカバーできたり、ご加入の健保組合から特別な支援などがあれば、場合によっては保険にご加入されなくても良いかもしれませんね。
いずれにせよ、今後の動向も見極めながら、ご自身にあった医療保障を得ることがとても重要、かつ難しい時代になったといえます。医療保障こそ、プロの保険アドバイザーとじっくり相談して決めて欲しいと思います。この分野の知識が乏しい保険セールスマンは論外と考えるべきでしょう。
最後にご質問の「所得補償保険」について考えて見ましょう。この保険は字のごとく所得を補償するものです。病気などで仕事ができなくなり、「収入が途絶える」という万が一に備える保険です。今回のご相談内容から考えれば、やはりオススメの保険といえるでしょう。医師からの診断で就業不能状態にあれば、入院のみならず、自宅療養でも支払われるものもあります。多くの保険は1、2年の支払限度となっていますが、中には60歳まで補償してくれる保険会社もありますので、ご自身の希望に合ったものを見つけて下さい。今回のご相談者の場合はお勤めで所得も高いので問題ありませんが、職種によって保険の加入に制限があります。また所得に応じてご加入できる範囲が決まりますので、自営業者で申告所得が低ければ、それに応じた補償となりますので、注意が必要です。通常の医療保障同様、健康状態によっては保険加入ができないこともあります。
いずれにせよ保険は万が一の際の備えです。大切なのはその万が一をなるべく避けるようなライフスタイルです。生活習慣を見直すだけで病気をしなくなります。結果無駄なお金も出て行きませんし、健康で充実した人生が送れます。保険に加入しても充実した人生が送れるとは限りませんからね。それから万が一の際に経済的に困らないようにするには、何も保険だけではありません。各種資産形成や、各種不労所得の構築など、手段は様々です。
より充実した人生のために保険のみならず、「生き方」を真剣に考えることが大切なポイントですね。