目次
結婚を機に保険の見直しを検討。
今の保険料も負担だけど、保障はどれくらい必要?
鈴木 暁子先生 (すずき あきこ) プロフィール |
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藤田 俊一さん(仮名 47歳 会社員)のご相談
昨年結婚し家を購入したため、保険の見直しをしたいと思っています。妻は保険に加入していないため、医療保険を検討中です。現在私の保険料の出費が負担になっておりますが、どのくらいの保障が適切なのか分からないので教えていただけたらと思います。
藤田 俊一さん(仮名 47歳 会社員)のプロフィール
※以下「ボーナス時、臨時」は年間合計額(単位:円)
※1 : 外食含む
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保険の加入どころか、退職後は家計破綻の危険も!
住居・ライフスタイルの大転換の検討も必要
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1.家計の本当の問題点は借入金の多さ
藤田さん、こんにちは。ご結婚おめでとうございます。結婚を機に保険をきちんと見直す方も増えてきました。藤田さんは「現在の保険料が負担なので」とお悩みでしたので、プロフィールを拝見したところ…。 実は藤田さんの家計の問題点は保険料の負担ではなかったのです。こちらをご覧ください。
グラフを見ていただくとおわかりのように、藤田さんの家計で負担になっている本当の原因は保険料ではなく、所得の4割にもなるローン(借入金)の多さです。住宅ローンだけでなく、太陽光発電についてもローンを組んでいますね。ローンを検討する際、最も重要なのは借りられる額と返せる額は違うということ。
融資期間によって多少の違いはありますが、住宅金融支援機構では「フラット35」の場合、年収400万円以上の方の「総返済負担率(年収に対するすべての借入金の年間返済額の割合)」を35%としています。これによると藤田さんも年収ベースでは約630万円ですので、ギリギリ範囲内には収まっていますが、実際に使えるお金は税金などを差し引かれたもの。つまり税引き後である448万円から返済していかなくてはなりません。したがって実質的な返済割合は40%になってしまうのです。
また、藤田さんの住宅ローン完済時は72歳。購入時期が比較的遅めにもかかわらず、かなりの融資額となっているため、年金生活となってからもかなりの年間返済額を負担していかなければなりません。
では現在の家計が続いた場合の藤田家の家計を見てみましょう。
現在貯蓄がほとんど無いため、来年度ご希望されている結婚式と新婚旅行費用が準備できていない状況です。つまりその時点で貯蓄が底をついてしまうということです。また、俊一さんの年金支給開始は65歳からですが、貯蓄もできていない状態のまま退職することになってしまうので、老後資金の準備がまったくできていません。退職金を得たとしても、年金支給時までに生活費とローン返済で使い果たしてしまいます。さらにその後も収入(年金額)より支出(生活費、ローン)が大きいため生活の破たんは時間の問題となります。早急に手当が必要です。
<参考:ご夫婦の年金試算>
ご夫婦の年金はいただいたデータから以下の前提で試算しました。俊一さんの標準報酬額なども仮定しているためあくまで概算であることをご了承ください。
(1)俊一さんの老齢年金概算(60歳まで483月加入予定)
老齢基礎年金 : | 788,900円(平成23年度額) |
老齢厚生年金 : | 平成15年3月までの平均標準報酬月額:25万円 |
: | 平成15年4月以降の平均標準報酬額:40万円と仮定 |
: | 約754,800円 |
経過的加算 : | 約5,000円 |
経過的加算 : | 約5,000円 |
(2)奥様の老齢年金概算(60歳まで389月加入予定)
老齢基礎年金 : | 699,300円 |
老齢厚生年金 : | 91,300円(年金定期便より) |
2.住宅ローンを背負ったままの家計再建はかなりのリスクを伴います
藤田家の支出を見ると、ローン以外の支出については浪費というほどの費目はありません。そのような家計ですと逆に節約しづらいのですが、現状の家計では住宅ローン返済のほか、老後資金の準備もしないといけないため、やや大胆な見直しをしてみました。
(1)支出を減らす
- 車を手放す → 年間24万円削減
- 水道・光熱費を月5,000円カット → 年間6万円削減
- 通信費を月1万円カット → 年間12万円削減
- 教養娯楽費臨時分をカット → 年間20万円削減
- 新婚旅行費30万円カット
(2)60歳以降の収入を増やす
- 俊一さんが現在の会社を退職後も再就職などで収入を得る → 年間200万円
- 老齢基礎年金を繰り下げ受給する。
退職後から年金支給時までの無年金期間に貯蓄の減りを小さくさせるためには、たとえ200万円程度でも大きな収入です。働けるチャンスがあれば、できる限り年金以外の収入も得られるようにしましょう。奥様は体調を崩して離職されたとのことですので、今後も収入を得ない前提で試算していますが、可能であれば扶養の範囲内(100万円程度)でも良いので収入を得られると家計改善に大きな力となります。
また本来65歳から受け取れる老齢基礎年金を繰り下げ受給することで、年金額を割増させることができます。
受給開始年齢 | 支給率 | 65歳支給開始者に追いつく年齢 |
65歳 | 100.00% | |
66歳 | 108.40% | 77歳11ヶ月 |
67歳 | 116.80% | 78歳11ヶ月 |
68歳 | 125.20% | 79歳11ヶ月 |
69歳 | 133.60% | 80歳11ヶ月 |
70歳 | 142.00% | 81歳11ヶ月 |
これらの対策が可能だったとすると、見直し後の家計は以下のようになります。
<見直し後のキャッシュ・フロー表(1)を別ウィンドウで表示>
数字の上では何とか貯蓄が赤字になることは避けられています。しかしこの対策はかなり厳しい仮定をすべてクリアできた場合です。車を手放せるか、60歳まで勤務できるか、60歳以降も収入を得られるか、繰り下げ受給した後、損益分岐年齢以上に長生きできるかなど、ご自身の努力だけで実現できることばかりではないのです。
また試算ではイベント費用として結婚式・新婚旅行費用だけしか加味されていませんが、実際の生活では支出はもっとあるでしょう。さらに最大のリスクは今後の金利動向です。現在1.18%という、これ以上ないというような低金利で借り入れていますが、変動金利のため今後金利が上昇した場合は総返済額が増え、返済が不可能になるおそれも十分考えられます。
したがって、住居を手放さないという方針を選択するのであれば、これらの対応が可能であることを検証した上でないと進めてはいけません。
3.住居を手放し、老後資金の準備に専念するという選択肢も視野に入れましょう
自宅を購入したばかりの藤田さんに申し上げるには、私自身とても心苦しいのですが…。
マイホームにこだわるあまりリスクの高い見直しプランを選択し、万が一そのとおりにならなければ、家計は破たんしてしまいます。ローン返済が滞り、最悪の場合、自宅は差し押さえられ競売にかけられることになります。
競売となると価格は大幅に安くなり、買い手がついてもまだローンの残債がかなり残る可能性がありますが、市場で売却するのであれば、競売より高い値で売却できるでしょう。住宅ローンの負担をなくし、さらに家計を見直し捻出した分で、老後資金の準備が可能となります。
- 自宅を売却し、ローンを返済
- 賃貸(家賃95,000円)に転居
- 車を手放す → 年間24万円削減
- 水道・光熱費を月5,000円カット → 年間6万円削減
- 通信費を月1万円カット → 年間12万円削減
- 教養娯楽費臨時分を5万円カット 年間5万円削減
<見直し後のキャッシュ・フロー表(2)を別ウィンドウで表示>
ご夫婦にとっては非常に厳しい選択肢だと思います。しかし、すべては安定した家計が大前提であるということを念頭に置いた上で、ローンを背負い続けるか否か、そして老後について、お2人で十分話し合ってください。
4.貯蓄がないため、定期期間終了後の必要保障額が大幅に不足しています
藤田家では奥様が保険に加入しておらず、医療保険を検討しておられるとのこと。これから加入されるのであれば、終身医療保険がおすすめです。現在の家計状況からみて、あまり保険料の負担はかけられません。入院日額は5,000円で良いでしょう。より保険料が安いのは終身払いですが、年金生活になると数千円の保険料もバカになりません。60歳払込終了だと安心です。最近は死亡給付金や解約返戻金をなくし、割安な保険料で提供している保険もあるので、終身医療保険であっても月々の保険料が4,000円以下で探せます。
気になるのは俊一さんに万一のことがあった場合の収支です。
俊一さんは定期付き終身保険にご加入なので、俊一さんが55歳になるまでに万一のことがあれば3,000万円、55歳以降は100万円の死亡保障が支払われます。
また、俊一さん死亡時から奥様が65際になるまでは遺族厚生年金、中高齢寡婦加算が、65歳以降は奥様ご自身の老齢基礎年金、老齢厚生年金のほか、併給調整された遺族厚生年金が支払われます(年金額は概算)。
支出額も変わってきます。住宅ローンは団体信用生命保険を付加しているので、以降の支払いはなくなります(固定資産税など住居維持費は支払いが続きます)が、大黒柱がいなくなれば生活費を抑える努力も必要です。
たとえば車を手放すことで車の維持費を削減。また毎月のやりくり費もこれまでの7割程度に抑えます。さらに今後はご自身で社会保険料を支払うようになるため、その分支出が増えますが、臨時分のやりくり費を切り詰めることでトータルでは数万円削減できるようにしましょう。このような仮定で試算した必要保障額は以下のとおりです。
55歳までであれば3,000万円の保険金が入りますが、それでも奥様の平均寿命まで十分な保障はありません。先ほど同様奥様は働かない前提としておりますが、奥様の今後の人生の長さを考えると、保険金だけでまかなうのは難しいでしょう。奥様が収入を得られるのであれば、その分必要保障額を減らすことができます。
心配なのは、55歳以降に亡くなられた場合、必要な保障にはまったく届かないことです。一般的にはこの頃になると死亡保障額を減らし始めることができるのですが、藤田家では貯蓄がないため、まだ大きな死亡保障が必要なのです。
5.生活スタイルを根本的に見直しましょう。
藤田家の場合、老後資金や必要保障額が準備できないのは、すべて貯蓄がないことが原因です。先ほど申しましたように、生活費の浪費で貯蓄できていないわけではないので、節約だけでは大きな改善が難しいのです。
今回の試算を見て、かなり驚かれたかもしれません。しかし現実は相当厳しいとお考えください。保険の見直しももちろん大切ですが、個別の見直しよりも今はまず自宅や車の保有、収入を増やす手段など根本的に生活再建を検討してください。
もし奥様が60歳まで毎年100万円程度の収入を得られれば、2,000万円世帯収入が増え、収支状況はずいぶん変わってきます。そうなると保険の見直しや必要保障額の見直しも現実的な数字となってくるはずです。
住居については早めに銀行にご相談されると良いでしょう。ただし毎月の保険料負担を軽くして返済期間を延長するということは、問題の先送りに過ぎないので避けてください。また具体的なライフプランについては、(今回は仮定の数字が多いため、)ファイナンシャルプランナーなどに直接ご相談されることをおすすめします。
新しい家庭が始まったばかりで大きな困難に直面することになりますが、まさにご夫婦の絆が試される時です。今後安心した家計を築くためによく話し合い、早めに行動を始めてください。