マイホームを購入し、これから返済がスタート。 万一の備えにどれくらい必要?


マイホームを購入し、これから返済がスタート。
万一の備えにどれくらい必要?

鈴木 暁子先生 (すずき あきこ) プロフィール
  • 早急に家計の立て直しをしてください。
  • 団体信用生命保険の有無で必要保障額は大きく変わります。
  • 奥様の経済的自立も検討してください。

長谷部 徹さん(仮名 37歳 会社員)のご相談

37歳の会社員です。
マイホームを購入し、いよいよ年明けから返済がスタートします。ただし団体信用生命保険については加入していません。
私は現在病気のため通院加療中ですが、来年2月からの復帰を目指しています。
現在の死亡保障は1,000万円ですが、倍額なり別の保険で万一の時の保障を見直さなくてはいけないと思っています。

長谷部 徹さん(仮名 37歳 会社員)のプロフィール

家族構成 : 徹さん (夫 37歳 会社員)
妻 35歳 専業主婦
子 12歳 学生
住居 : 持ち家(H24年1月から返済開始予定)
年間返済額 返済期間 団信有無
685,000円 ~5年
723,000円 6~20年
739,000円 21~35年
退職予定 : 65歳

団信に入らず住宅ローンを組んでいるので
もしもの時への備えが足りません

1.イベント発生時にはその後の家計を見直しましょう。

長谷部さん、こんにちは。マイホーム購入おめでとうございます。これからは家族に対する責任も重くなってきますが、がんばり甲斐がありますね。ただし住宅を購入すると、これまでなかった支出も発生したり、逆に必要なくなるものもありますので、新たな収支で家計を見直すことは大切です。今後のお金の流れを見ていきましょう。

<キャッシュフローを別ウィンドウで表示>

長谷部さんの家計で最も心配な点は、マイホーム購入にかかる諸手続き費用、税金、調度品などの支出で、貯蓄をほとんど使い果たしていることです。さらにお子様の教育費支出がこれから本格的になるため、現状のままでは大学進学の費用がまかなえません。早急に家計の立て直しが必要です。日常の家計を見ていきましょう。

(単位:円)

【収入(税引き後手取り】
毎月 ボーナス時、臨時
278,000
子供手当て 13,000
収入合計 291,000 0
【支出〈固定費)】
毎月 ボーナス時、臨時
住居維持費 114,000
住宅ローン 57,100
車維持費 13,000 215,000
地震火災保険料 3,800
保険料 6,000
第1子関連費 4,000
夫通院・処方薬 10,000
小遣い※不明 0
固定費合計 90,100 332,800
【支出(やりくり)】
食費※1 60,000
水道・光熱費 10,000
通信費 26,000
交際費※2
教養娯楽費 17,000 25,000
その他
やりくり費合計 113,000 25,000
支出合計 203,100 357,800

※1 : 外食含む
※2 : 帰省費含む

【貯蓄】
商品名 毎月貯蓄額 ボーナス時、臨時貯蓄額
貯蓄額合計※不明 0 0
使途不明金 697,000
【貯蓄残高】
商品名 合計
貯蓄残高合計 0

日常の家計を見ると、小遣いが「不明」となっています。正直にお答えくださったと思う反面、計画的な家計管理が望まれます。家計管理は「予算」の中でやりくりできるかということですので、必ず「予算」は決めるようにしましょう。

その他大きく浪費している家計とは思いませんが、他の支出に比べ車の維持費の割合が大きいと感じます。もちろん保険料や車検代は必須ですが、タイヤ交換やカーナビ更新料は毎年必要でしょうか?(私自身もカーナビを使っていますが、大きく道路が変わっているわけではないので、実は数年に一度くらいしか更新していません…)
もちろん最新の情報にこしたことはありませんが、長谷部さんの家計は、この後お話しますが長谷部さんの死亡保障を大きくすることが必要になります。したがってその分保険料もアップします。予算の中でやりくりするには優先順位を決めて、取捨選択しなければなりません。そのあたり、再度ご夫婦で家計を見直し、月に5,000円でも良いので節約できる支出はないか探してみましょう(月5,000円でも年間で6万円になるのですから!)。

2.団体信用生命保険の加入有無で、必要保障額は大きく変わります。

大きなイベントがあった時は必要保障額を見直すタイミングでもあります。今回長谷部さんはマイホームを購入されたわけですが、住宅ローンを組むと同時に団体信用生命保険に加入することが一般的です。加入していると万一のことがあっても、住宅ローンの残債は団体信用生命保険から支払われるため、ご遺族に「ローンを残さず自宅を残す」ことが可能になるからです。

ただし長谷部さんの場合はこの保険に加入していないため、長谷部さんに万一のことがあっても住宅ローンがそのまま残ります。したがってその後返済が難しくなると自宅を手放さなくてはならないという大きなリスクがあるわけです。では必要保障額について考えてみましょう。

【必要保障額のイメージ】

必要保障額は、万一のことがあった後の遺族の収入と支出の差額です。
収入のほうが多ければ必要保障額は試算上足りていることになりますが、一般的には不足しているケースのほうが多く、その不足分を補てんするものとして「保険」という手段があるわけです。では長谷部さんに万一のことがあった後の収支を見ていきましょう。

<支出概算:9,361万円>

① 住宅ローン:2,535万円
②教育費:約1,000万円(キャッシュフロー表参照)

【進学コース別学習費】

中学から私立 高校から私立 高校まで公立
中学校(3年) 371 144 144
高校(3年) 294 294 154.8
合計 665 438 299

(単位:万円)

※文部科学省平成20年度「子どもの学習費調査」を基に算出。千円単位は四捨五入。

【高校~大学の教育費負担】

入学費用 在学費用
国公立大学 84.6 116.2
私立大学(文系) 98.6 148.5
自宅外通学者への仕送り 102.1
自宅外通学を始めるための費用 47.6

(単位:万円)

※㈱日本政策金融公庫平成23年度「教育費負担の実態調査結果」
※入学費用:受験費用、学校納付金、入学しなかった学校への納付金
※在学費用:年間の学校教育費(授業料、通学費、その他)、家庭教育費(補修教育費、けいこごとなど)
※自宅外通学者への仕送り:在学費用を除く年間仕送り
※自宅外通学開始のための費用:敷金、家財購入など
※色がついている費目は、キャッシュフロー作成時に採用したもの

③ご遺族の生活費:

現在の生活費の7割としてお子様大学卒業まで: 148万円×10年=1,480万円
お子様大学卒業後、現在の生活費の5割として奥様86歳(平均寿命)まで: 106万円×41年=4,346万円

<収入概算:4,949万円>

①死亡保険金:300万円と仮定(実際は会社規程によりますので、ご確認ください)
②貯蓄:0円
③遺族年金:

遺族基礎年金(お子様が18歳まで): (792,100円+227,900円)×6年=6,120,000円

※平成23年価格で試算

遺族厚生年金(奥様64歳まで): 60万円×4分の3×29年=13,050,000円

※ 徹さんの老齢厚生年金×4分の3

遺族厚生年金(奥様86歳まで): {792,100円+45,500円+(450,000円-45,500円)}×22年=27,326,200円

※徹さんの厚生年金加入期間は300月未満のため、300月とみなします。
※徹さんの老齢厚生年金は年金定期便(これまでの加入実績に応じた年金額)が189月で377,900円のため、1月あたり2,000円と仮定しました。
※奥様の老齢厚生年金は年金定期便より

現在の死亡保障は1,000万円ですので、概算ではありますが、約3,400万円不足しています。ただし、上記保険金は不慮の事故による場合と思われます。通常病気による死亡の場合はもっと少ない保険金だと思いますので、保険証券を確認しておきましょう。

3.現在の保障は見直しの余地があります。

現在の保障は以下の内容ですね。いくつか見直しが必要になりそうです。

【長谷部の保障】

種類 保険金額 保険期間 年間保険料 払込期間
死亡  医療 1000万円 1年 24,000円 1年
死亡  医療 1000万円 1年 24,000円 1年
第一子 死亡  医療  傷害 1000万円 1年 24,000円 1年

まずお子様の保障ですが、現在の長谷部家の家計を考えると、お子様の死亡保障に1,000万円は多いといえます。基本的に家族の生活を支えている方の死亡保障は、ご遺族の生活保障分を確保する必要がありますが、お子様であれば葬儀費用を準備しておけば十分ですので、保険金を半額(保険料も半額になりますね)にしても良いでしょう。

また徹さんの死亡保障は先ほど試算したように、3,400万円不足ですが、保険料の負担を考えると定期保険、必要保障額はお子様の成長にともなって減っていくものですので、それに合わせて徐々に保障額が減っていく低減定期保険、収入保障保険などで検討すると良いでしょう。

<定期保険> <低減定期保険> <収入保障保険>

保険金を一括で受け取るのではなく、被保険者が亡くなった月から加入時に決めた一定期間まで、毎月分割して受け取れる収入保障保険は、亡くなるのが遅くなればなるほど受け取る保険金総額は少なくなりますが、逆に過多な保険金を受け取る必要もないですから、必要な保障を必要な時期だけ受け取るというイメージです。したがって保険金額が同じであれば定期保険よりも一般的に保険料が安くなっています。
ちなみに現在病気加療中とのことですが、新規で保険加入の際、制限がないかどうかも十分確認してください。

4.奥様の経済的自立は家計改善の突破口です。

今回の家計診断を整理してみます。現状での課題点は以下のようなことが挙げられます。

  • 今後本格的にお子様の教育費の支出が増えていく。
  • 団体信用生命に未加入のため、徹さんが万一の際にも住宅ローンは相殺されない。
  • キャッシュフロー表にない一時支出が多くなると老後資金が早期に枯渇する可能性がある。
  • 貯蓄がない。
  • 必要保障額が不足しているが、すべて保険金でまかなおうとすると、保険料の負担も大きい。

そこで、上記の課題点を改善するために最も有効な手段が、奥様も収入を得られるようにするということです。特にお子様の大学進学時までに貯蓄を増やす必要があるため、これは是非とも実行していただきたいと考えます。

奥様自身の経済的自立の途を立てておくことは、単に貯蓄を増やすという目的だけではなく、長谷部家のように、大黒柱に万一のことがあった場合、住む場所すら手放さなくてはならないかもしれないことを考えると非常に重要です。お子様も間もなく中学生ですので、お母様が働くことに理解を示していただけるようお話してみてください。

また先の話ですが、お子様の大学の費用は奨学金を利用することも検討の余地があります。最近では住宅ローンと教育費の支払いが終わって、自分たちの老後資金の準備ができていないケースも少なくありません。お子様の自立を促すために、奨学金を利用し、お子様が社会人になってからご自身で返済させることを敢えて選択していらっしゃる方も多くなりました。

貯蓄があれば、今後住宅ローンの繰上げ返済などで支払い総額を軽減することも可能です。

このように貯蓄を増やすことで、今後の家計管理に多くの選択肢が生まれ、それを利用してさらに家計管理がしやすくなる…という良い循環となっていきます。奥様が働くことを考える際には、状況が許されるなら扶養の範囲内と制限するよりも、社会保険料や税金を払ってでも、160万円以上の収入を得て世帯収入をアップさせるほうがより早い家計改善につながります。新しい家で新たな家計管理をスタートさせてください!