一人暮らしの高齢の母親が保険の見直しで新たに切り替えを勧められています


一人暮らしの高齢の母親が保険の見直しで新たに切り替えを勧められています

宮塚 達夫先生 (みやつか たつお) プロフィール
  • 終身保険と定期保険の違いを理解しましょう
  • 支払保険料と受取保険金を比べましょう
  • 貯蓄金額によっては加入を見合わせましょう

堀井 恵美子さん(仮名 47歳)のご相談

田舎で一人暮らしをしている母の生命保険について質問です。

保険会社の人から、もっといい保険があるので、現在加入している保険を切り替えたほうがいいと言われ、2つのプランを提示されました。確かに保険料は安くなるのですが、本当に切り替えていいものかどうか判りません。
現在加入している医療保険は、持病がある人でも加入できるタイプなので、保険料が高くなっているが、今なら健常者と同じ料率の保険に加入できると言われています。
アドバイスをお願いします。

堀井 恵美子さん(仮名 47歳)のプロフィール

相談者 : 堀井 恵美子(仮名) 47歳
母 : 堀井 静香(仮名) 73歳 無職(年金暮らし)
貯金の金額は知りませんが、2人の孫へ500万円ずつ贈与もしてくれた位なので、かなりありそうです。

現在加入している保険

死亡保険A 無配当引受基準緩和型終身保険(低解約返戻金型)
契約年齢 70歳
保険金額 300万円
保険期間 終身
払込期間 終身
毎月の保険料 16,317円
医療保険A 契約年齢 65歳
入院給付金 日額8,000円
死亡保険金 100万円
支払限度日数 60日(1入院につき)
通算支払限度日数 1,095日
保険期間 終身
払込期間 終身
毎月の保険料 11,891円

勧められている保険

死亡保険B 解約返戻金抑制型定期保険
保険金額 500万円
保険期間 90歳まで
払込期間 90歳まで
毎月の保険料 14,740円
医療保険B 入院給付金 日額 10,000円
女性特有の病気やガンで入院した場合 日額 5,000円
死亡保険金 なし
支払限度日数 60日(1入院につき)
通算支払限度日数 1,000日
保険期間 終身
払込期間 終身
毎月の保険料 11,407円

高齢になってからの保険の見直しは
支払い保険料と保険のメリットを良く比較してから

死亡保険の基本形を確認しましょう。

生命保険は大きく分けて「終身保険」と「定期保険」の2つに分類することができます。そしてそれぞれの特徴をよく理解しておくことが、保険選びにとってとても重要です。

「終身保険」の特徴

①その名の通り生きている限り保障が続きます。
解約返戻金が貯まります
③払込期間は生きている間ずっと払う場合と、そうでない場合があります。

「定期保険」の特徴

①ある一定期間のみ保障されます。
②解約返戻金がありません。いわゆる「掛け捨て保険」です。
③終身保険に比べて、保険料を安くすることができます。

終身保険の場合、保険会社の立場からすると、いつかは必ず保険金を支払う、あるいは途中解約の場合でも、解約返戻金を払わなくてはならないので、保険料が高くなってしまうのです。

死亡保険Bについて

上述した知識で、今回の死亡保険の見直しを検討してみましょう。

確かに死亡保険B(勧められている保険)は死亡保険A(現在加入中の保険)よりも毎月の保険料が安く、しかも保険金額もAの300万円から500万円に増額されており、魅力的に感じる方も多いと思われます。

しかし、ここで終身保険と定期保険の特徴を思い出してください。死亡保険Aは終身保険で、死亡保険Bは定期保険です。つまり、死亡保険Bの場合、保障期間が1日でも過ぎたら、もちろん保障はなくなり、払い込んだ保険料も戻ってきません。死亡保険Bは解約返戻金抑制型と書かれているので判りづらいのですが、やはり解約返戻金はありません。ちなみに堀井さんが死亡保険Bに加入した場合、90歳までの17年間に支払う保険料は14,740円×12カ月×17年間=300万6960円です。

最大300万円程度で、死亡した場合500万円の保険金が貰えるなんて、得した気持ちになられる方もおありでしょう。しかし、90歳(保険期間)を1日でも過ぎたら、300万円もの大金がパーになってしまうのです。

自分は90歳までには必ず死ぬ、だから絶対損しないと思われる方もいらっしゃるでしょう。しかし、保険会社もそんなにバカではありません。生命保険の契約の前には健康診査が必要で、今73歳だけど90歳まで生きられそうもないような人とは契約しません。つまり、契約できた方というのは、保険会社から長生きのお墨付きを得た人達ばかりなのです。

筆者なら、死亡保険Bには加入せず、保険料分の余裕があるなら貯蓄に回します。

死亡保険Aについて

死亡保険A(現在加入中の保険)は終身保険で解約返戻金もあるので、貯金代わりに積み立てておくのもいいでしょう。また必要なくなったら解約して、返戻金で旅行などに行かれるのもいいかと思います。

但し、注意していただきたいのは、「低解約返戻金型」であるという点です。「低解約返戻金型」とはある一定期間の解約返戻金を低く抑えて、その分保険料を安くしています。つまり、低解約返戻期間に解約すると、損をしてしまいます。逆に低解約返戻期間が終わると解約返礼金額が一気に増えるので、解約するのであれば、そのタイミングを見計らってするようにしてください。

なお堀井さんが支払っている年間保険料は16,317円×12カ月=195,804円です。

保険金額は300万円なので、300万円÷195,804円=15.32...つまり15年以上払い続けても、貰える保険金は一緒だということを覚えておいてください。70歳の時の契約ですから85歳手前あたりで一度解約を検討してみましょう。

医療保険の見直しについて

確かに医療保険B(勧められている医療保険)の保険料はほんの少しだけ安くなっていますね。また入院保障日額は(女性特有の病気やがんの場合は特に)増額されています。しかし、死亡保険金100万円はなくなっています。尚、AもBも終身保険ですが、いずれも解約返戻金はありません。

またAは持病のある人でも入れる引受基準緩和型保険で、Bは健康な人向けの保険なので保険料が安くなると言われたようですが、本当にそうでしょうか。歳をとるにつれてどんどん健康になっていく人はまずいないので、保険会社は年齢が高くなるほど保険料を高くしています。今回医療保険Aの方が8年も若く契約しているので、あまり影響はなさそうです。

筆者から見ると保障内容はどっちもどっち、好みの問題かと思います。Aの死亡保険金100万円を、Bのがんになった場合の入院保障日額15,000円で割ってみると100万円÷15,000円=66.66…つまり単純に考えると、死亡するまでに少なくとも66日間入院するかどうかによって損得が決まることになります。

問題なのは、なぜ新たな契約を勧めてくるのかということです。ズバリ言うと保険外交員の収入アップのためだと思われます。そもそも外交員の収入は契約した保険料によって得られるもので、保険商品によって差異はありますが、概ね契約から5年程度コミッションを得ることができます。裏を返せば、契約から5年経った商品は新たな契約に切り替えたくて仕方がないのです。今回、外交員は渡りに船とばかりに、少しだけ保険料を抑えた新商品を提案してきたと思われます。また途中解約をしないことを前提に考えれば、人間いつかは必ず死亡するので、保険会社としても、必ず支払わなければならない死亡保険金100万円があるAよりも、Bに乗り換えてくれた方がありがたいといった見方もできます。

別の見方もしてみましょう。仮に今回健康診査も通り、医療保険Bに契約したとすると、毎月の保険料は11,407円なので年間では11,407円×12カ月=136,884円です。

仮に90歳まで払い続けたとした場合の累計保険料は136,884円×17年間=2,327,028円になります。

健康保険制度が充実している今、高齢者の負担を増やそうとする傾向はありますが、果たして17年間でこれだけの医療費がかかるでしょうか?もちろん医療保険に加入していれば、万が一のときでも安心です。しかし、堀井さんのお母様に、多少の医療費負担に耐えられる程度の貯蓄があれば、医療保険に加入しないという選択肢もありなのではないでしょうか。貯蓄額によっては、現在加入している医療保険Aも解約してしまうといったことも検討してみてください。

まとめ

最近のテレビでは、保険に入っていないと心配だとか、持病があっても誰でも入れる保険など、高齢者の保険加入を促すCMがたくさん流れています。

でも本当に必要かどうかは人それぞれの財産状況や家族構成によって変わってくるものなのです。

確かに保険に加入すれば、安心を買うことができます。しかし、必ず保険料を払わなければなりません。そして、払った保険料より多くの保険金が支払われる人があまりいないからこそ、保険会社の経営が成り立っていることを忘れないでください。

まずは本当に保障が必要なのか検討し、保険に加入しなくても困らないのであれば、保険料を支払ったと思って貯金して、お金が貯まったら旅行に出かけたり、美味しいものを食べに行ったりしてみてはいかがでしょうか。