車の買い替え計画に無理があるか教えて下さい


伊藤 美和先生 プロフィール
貯蓄や投資を始めてしばらくすると、誰の頭にも思い浮かぶのが1000万円という夢の数字。「1000万円お金を貯める」ということはハードル走に似ています。100万円、300万円とハードルをクリアするごとに貯まるスピードはどんどん加速していきます。この「貯める・殖やす」のコーナーでは、皆さんがハードルを楽に越え、早くゴールにたどりつけるよう、お手伝いができればと思います。何でもお気軽にご相談ください。

南 優香さん(仮名)のご相談

昨年結婚し、アルバイトをしています。できるだけ早く子どもが欲しいと思っているので、出産費用を貯蓄中です。ご相談したいのは車の買い替え計画についてです。現在は軽自動車に乗っていますが、280万円くらいの大きな車に買い換えたいと思っています。周りの人は簡単に車を買い換えているように見えるのですが、どのような計画が無理のないものになるか判断できません。25歳同士の夫婦なのでなかなか友達と比較できるような機会がなく、子どももいつできるかわからない状態なので、ぜひアドバイスをお願いします。

南 優香さん(仮名)のプロフィール

25歳、フリーター。同い年のご主人(会社員)とマンションで2人暮らし。

・収支の状況

収入
 月収(夫/手取り) 255,000 円  ボーナス(夫/手取り) 40万円×年2回
 月収(妻/手取り) 70,000 円    
毎月のおもな支出 残額 5,003 円
 住宅ローン 60,997 円  駐車場・ガソリン・高速代 14,000 円
 食費 27,000 円  光熱水道費 10,500 円
 電話・ネット代 5,000 円  携帯電話代 8,000 円
 夫こづかい 22,500 円  妻こづかい 10,000 円
 貯蓄 110,000 円  生命保険料 13,000 円
 損害保険料 9,000 円  その他
 (日用品・管理費・ADSL)
25,000 円
 交際費 5,000 円    
 ボーナスの支出 残額 30,000 円
 住宅ローン 150,000 円  貯蓄 220,000 円
 貯蓄残高
 普通預金 2,100,000 円    

・毎月の収入・支出について

  • 夫の毎月の収入は24万円~27万円ほど。
  • 妻の毎月の収入は7万~7万5000円ほど。
  • 毎月の貯蓄はすべて普通預金へ。
  • 交際費は月々の予算の5000円でまかなっている。
  • 被服費はおたがいこづかいから出している。

・現在の住まい(マンション)について

  • 購入時期 → 平成15年3月
  • 頭金 → 580万円
  • ローン → 住宅金融公庫の35年ローンで、借入額は2300万円。ローンと同額の団体生命保険に加入。

・今後の予定&ライフプラン

  • できれば今月中にでも新車(諸費用込み315万円/頭金140万円・ローン175万円)を購入したい。
  • 子どもは2人欲しい。教育プランは特に考えていないが、子どもが「大学まで行きたい」と言えば、いかせてあげたい。
  • 妻のバイトは出産時にはやめる。出産後は様子を見て、また働きたい。
  • 家は買い替えの予定なし。今住んでいるマンションをリフォームしていく。
  • 老後は旅行に行ったり、おいしいものを食べたりと夫婦仲良く過ごしたい。

車の購入はライフプランの優先順位を確認後に

今の調子で、毎月の支出のデータを集めていきましょう

結婚1年にも満たない若奥様の南さんですが、いろいろ模索しながらやり繰りを頑張っているご様子が、家計簿から伝わってきます。25歳同士の新婚家庭だというのに、将来を見据えて貯蓄に励んでいる姿勢には大賛成です。

ライフプラン通りとなれば、これから数年間は出産、奥様の退職、再就職と生活環境が次々と変わっていく時期となりますが、今の調子でやり繰りしていけるなら、大きな心配はないと思います。

ご主人の収入のみで暮らせる家計を安定させましょう

出産を控えている家庭の場合は、身の丈に合った暮らしを心がけ、ご主人の月収の範囲で赤字を出さないことが重要です。奥様が退職した時に備えて「必要最小限の生活費」を手取り月収に収めながら、やり繰りしていくことが最優先課題となります。

今の南さんの家計はその点をすでにクリアできています。現在は毎月11万円の貯蓄ができているので、もし奥様がバイトを辞めても4万円ほどの余裕があります。育児費の出費が1万円増えても、3万円は貯蓄することができるでしょう。

20~30代で住宅ローンを返済しているご家庭の平均貯蓄率は15~19%ですが、子どものいる専業主婦世帯では手取り月収の10%以上貯めることができていれば◎です。

<毎月の支出の分類>

1. 必要最小限の生活費→収入が減っても削ることのできない支出
食費、家賃、住宅ローン、(マンション等)管理費、光熱水道費、火災保険料、最低限の生命保険料、医療保険料、医療費、義務教育の教育費、固定資産税など
2. イザという時、削ることのできる費目
教養・趣味費、こづかい、通信費など
3. 節約の限界を超えた場合、ボーナスからの支出に切り替える費目
貯蓄、各種保険料(本来は年払い保険料を12で割った金額を毎月積み立てていき、1年ごとに年払いしていくのが望ましい)など
ボーナスから支出した方が管理しやすい費目
レジャー費、被服費、交際費、家電製品費、保険費など

まとめ払いで保険料を節約

南さんの貯蓄ポリシーは「無駄なお金は1円でも節約し、地道にコツコツと確実に貯蓄を増やしていきたい」とのこと。そんな南さんにお勧めなのが「まとめ払い」の活用。南家の年間保険料はトータルで26万4000円ほど。もしまとめ払いすることにより4%保険料を節約できれば、年間1万560円のトクになります。これは現在、大手都銀の普通預金に10億5600万円を1年預けた場合の利子の額に匹敵します!早速加入している保険会社に年払い保険料の試算を依頼し、支払方法の変更を検討してみてはいかがでしょうか。

「年間マネー予定表」を貯蓄に役立てよう

年間マネー予定表で、臨時支出を管理していけば、不意に交際費がかさんだ時や家電製品が壊れた時などに慌てずにすみますし、生活を楽しみながら節約を続けることができます。「臨時支出」とは、毎月コンスタントにかかる生活費ではなく、不定期な支出のこと。
臨時支出に月単位で対応していると、貯蓄のペースが崩れるもととなります。南さんは毎月5000円ずつを積み立てていて、その中から計画的に交際費を支出している点がすでに◎。さらに他の臨時支出についても年間マネー予定表でチェックして、お金の手当てを考え、備えを万全にしていってはいかがでしょうか。

目的別にお金の振り分けを考える

南さんは預金の全額が普通預金。堅実といえますが、長期のライフプランを見据えながらもっと効率よくお金を増やしていくには、お金の使い道・使う時期をはっきりさせることが大切です。大きく分けて(1)イザに備えるお金、(2)夢をかなえるお金、(3)老後に備えるお金、(4)投資の勉強のためのお金の4つを意識して預け分けを考えてみましょう。「預け分け」といっても急にいろいろな金融商品に投資しなさいという意味ではありません。最初は普通預金を目的別に4つに分けることからスタートしてもOKです。

本来は(2)の夢をかなえるお金を最優先で考えたいところですが、不況や低金利、社会保険料・医療保険の自己負担が増えている今は、まず(1)の確保が必要です。毎月必要な生活費の6か月分(南さんの場合は150万円)をイザという時のための貯金とします。また「いつ子どもができるかわからない」ということなので、出産のためには50万円ほど確保しておきましょう。

少子化で将来的に年金の削減が現実となりつつある現在は(3)の重要性も増しています。また老後用に貯めたお金や退職金を自己責任で守り有効活用できるかどうかは、運用の知識と経験の差にかかってくることを考えると、少額でもいいから(4)にもお金を振り分けていくことも大切かと思います。

目的別の貯金というと「住宅の頭金」「車の買い換え用の積立」「海外旅行用の貯金」など(2)にばかりお金が集中しがちですが、優先順位を考えながら(1)、(3)、(4)にも冷静にお金を振り分けられるかどうかが、穏やかで豊かな老後を迎えられるかどうかの分かれ道となりそうです。

<目的別・金融商品選びのポイント>

目的 商品選択のポイント 商品例
 (1)いざに備えるお金 元本が安全でいつでも引き出し可
税金優遇or利子補給のあるもの
普通預金、通常貯金、ニュー定期、定額貯金など
 (2)夢をかなえるお金 使う時期に換金できること  定期預金、自動積立定期、一般・住宅財形、つみたてくんなど
 (3)老後に備えるお金 インフレに負けないこと
利子補給or税金の優遇などあること
年金財形、株、個人年金など
 (4)投資の勉強のお金 投資対象が明確なこと  ○外貨預金・MMF、株、債券
×(株30%債券70%など分散運用の)バランス型投信

ローンを利用して車を買い替えるなら、出産はローン返済後に

もしもの時のために150万円、出産用に50万円を確保すると、合計額で200万円。トータルの貯蓄額が210万円の南さんが今後も堅実に家計運営をしていくつもりなら、現在車の頭金に回すことのできるお金はありません。ローンで車を購入した場合の返済の試算をしてみました。

<ローン返済の試算(1):頭金140万円・ローン175万円/5年ローン>

金利 3% 5% 7%
 毎月返済額 31,445 円 30,324 円 34,652 円
 5年間の総返済額 1,886,712 円 1,981,479 円 2,079,125 円
 5年間で支払う金利 136,712 円 231,479 円 329,125 円

<ローン返済の試算(2):315万円の5年ローン>

金利 3% 5% 7%
 毎月返済額 56,601 円 59,444 円 62,373 円
 5年間の総返済額 3,396,082 円 3,566,663 円 3,742,426 円
 5年間で支払う金利 246,082 円 416,663 円 592,426 円

出産をして奥様の収入(月7万円)がなくなると、毎月の貯金は11万円→4万円にペースダウンします。そこからローンの支払い(頭金を入れる場合/月3万円ほど)を差し引くと、残りは1万円ほどとなります。維持費(自動車保険料・ガソリン代・税金・車検代など)がアップし、育児費の出費もかかるようになると、毎月の収支は赤字になります。現在の家計自体に大きな無駄がないことを考えると、ローンを組んでいるうちに出産・退職となると家計は一気に大ピンチになる可能性が大です。頭金を入れないでローンを組めば毎月2~3万円は確実に赤字になるでしょう。

5年間で支払う金利の合計額も確認してください。「無駄なお金は1円でも節約し、コツコツ確実に貯蓄を増やしていきたい」という南さん本来の健全なポリシーとは相いれない無駄な出費です。諸状況を考慮すると、いまローンで車を買うことはお勧めできません。

「でもやはり今車が欲しい」ということでしたら、出産はローン返済後まで待った方がいいと思います。共稼ぎを続けながら2~3年でローンを繰り上げ返済しましょう。そして次の車はお金を貯めてから現金で買うように資金計画をたてましょう。

「車も赤ちゃんもどちらも早く欲しい」なら、出産後も奥様が仕事を続けていきましょう。ただし保育園代、育児費、自動車ローンの返済、食費や光熱費のアップ分、自動車維持費の増加分を差し引くと「貯蓄は2~3万円できればいい方」という収支になる可能性が大です。また出産後の南さんや赤ちゃんの体調次第では、復帰が遅れたり、仕事を辞める可能性もあるので「状況次第では車を手放す」覚悟も必要です。

平成14年度の個人の自己破産は過去最高の22万2681件で、ここ10年ではのべ100万人の大台を突破しました。バブルの頃は派手な生活やギャンブルのための借金で破産する人が多かったのですが、最近は住宅ローンや生活のために借りたお金を返せなくなって破産する人が圧倒的に多くなってきたということです。自己破産はもはや特別の人の問題ではありません。「周りの人は、簡単に車を買い換えているように見える」と安易にローンを組むのは危険です。今の堅実な家計運営を明るい未来につなげていくために、何を優先して人生を歩んでいくか、ご夫婦でもう一度話し合われてみてはいかがでしょうか。