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伊藤美和先生 プロフィール |
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山中 さくら子さん(仮名)のご相談
普通預金に1000万円ありますが、どのように運用していいかわからず悩んでいます。夫は公立病院の勤務医ですが、この先いくつ勤務先が変わるか、何歳でリタイアするのかもわかりません。できれば50歳前後で病院を開業したいと考えているようですが、その場合約2億円の資金が必要です。教育資金と老後資金に加えて、開業資金をどのように貯めていったらいいかお知恵をお貸しください。
山中 さくら子さん(仮名)のプロフィール
38歳、専業主婦。40歳のご主人は勤務医、15歳のご長男と3人暮らし。
・収支の状況
収入 | |||
---|---|---|---|
月収(手取り) | 800,000 円 | ボーナス(手取り) | 2,000,000 円 |
毎月のおもな支出 | 残額 410,000 円 | ||
家賃 | 51,000 円 | 光熱費 | 10,000 円 |
水道費 | 4,000 円 | 食費(米・酒・外食込み) | 70,000 円 |
通信費 | 15,000 円 | ローン返済(カード) | 50,000 円 |
教育費 | 40,000 円 | 教養・趣味・娯楽費 | 40,000 円 |
こづかい | 80,000 円 | その他 | 30,000 円 |
ボーナスの支出 | |||
貯蓄 | 1,865,000 円 | 生命保険料 (妻の年金保険) |
135,000 円 |
貯蓄残高 | 残高合計 12,500,000 円 | ||
普通預金 | 11,200,000 円 | 定額貯金 | 1,300,000 円 |
・生命保険
- 2001年から2年間、国立病院を休職して私費留学していた。渡欧する前に生命保険を解約・整理。
- 現在加入しているのは2本のみ。
●個人年金(妻):60歳より年額80万円(×10年間)。
●養老保険(夫:65歳で満期保険金95万円。 - 夫の母親が夫名義で簡易保険(郵便局)に入っているが内容はわからない。
・毎月の収入・支出について
- 毎月の手取り収入は75万~85万円ほど。
- 交際費や被服費など不定期な支出はカードで支払っている。
- 毎月の貯金金額は決まっていない。
- 毎月の支出を計算していて「工夫次第でもっと生活費を切り詰められる」と思った。
・子どもの教育プラン
- 公立高校→国立大学進学予定。私大医学部への進学は想定していない。
- 結婚時にはお金を「貸与」することはあっても、援助する気はない。
- 留学するなら、本人に奨学金(返済は本人)を取らせた上で、不足分を援助する。
・今後予定している出費
- 平成16年3月/50万円(旅行)
- 平成19年3月/100万円(長男の大学入学)
- 平成25年ごろ/2億円(病院を開業)
・老後生活の希望
- 夫→60歳を過ぎても医院での仕事をしながら、趣味のギターを楽しみ、年に2~3回は国内旅行を楽しみたい。
- 妻→夫を助けながら、ボランティアで留学生のお世話をしたい。
- 開業後の住宅形態までは予定できていないが、賃貸でもかまわない。
現在のペースで貯蓄を継続する一方で、投資の勉強をはじめましょう。
年間貯蓄額の目標を明確にしましょう
山中さんの貯蓄額は現状で十分です。ただし毎月の貯蓄額に明確な目標額がないので、必要に応じて出費がかさむ月もあるかと思います。今後は被服費、交際費、レジャー費、ご主人の研究費などについて年間予算を決めましょう。その範囲内でお金を使うようにして、年間の貯蓄額の目標をたてましょう。貯蓄計画のプランの一例を挙げてみますのでご参照ください。プラン通りに貯蓄できれば、年間で630万円貯めることができます。
■ 貯蓄&ボーナス支出プラン例
毎月 : 40万円ずつ積み立てる。
ボーナス : 年間手取額(400万円)の支出の振り分け。
生命保険料 | 30万円 | 損害保険料 | 13万円 |
被服費 | 40万円 | 交際費 | 40万円 |
レジャー費 | 37万円 | 家具・家電製品費 | 40万円 |
夫の職業費 | 40万円 | 貯蓄 | 160万円 |
※予算が余った場合は同年の他の費目に回すか、翌年に回す
※(例)今年と来年はレジャー費を15万円ずつに抑えて、再来年の海外旅行にまわす
貯蓄は目的別に行いましょう
(1)老後+教育資金用の貯蓄、(2)開業用の貯蓄、というように目的別にお金を貯めていきましょう。積立商品は銀行の自動積立定期や郵便局のオート定額・定期や積立貯金などを利用するといいでしょう。開業の際、銀行からの融資を考えているなら、取引予定の銀行で積み立てをしていくのも一つの手。融資の際に貸付利率の優遇が受けられるはずだからです。お金と一緒に「信用」を積み重ねていくのも開業の準備になるかと思います。ただし、金融機関の破綻に備えて、預金の預け入れは「1つの金融機関で1000万円まで」としましょう。同じ金融機関でも「夫1000万円、妻1000万円」ということでしたら、合計2000万円までは保護されます。
老後+教育資金用の貯蓄はできるだけ奥様名義もしくはお子様名義で行っていきましょう。開業時に融資を受ける場合は、返済が滞るリスクも考えることになります。リスクヘッジのためには、今から預金名義を分散させて準備をしていくといいでしょう。贈与税のかからない範囲で名義を分散するよう注意が必要です。
■ 目的別貯蓄プラン例
(1)老後+教育資金用→年間200万円
(2)開業用の貯蓄 →年間440万円
投資の勉強をご夫婦で始めましょう
山中さんの場合、60歳までは20年、70歳までは30年もあります。お金を貯める期間が長くなればなるほど、運用利回りによって手にすることのできるお金に大きな差が生じます。
■ 複利運用した場合の手取額(年間200万円ずつ積み立てた場合)
20年後(60歳) | 30年後(70歳) | |
---|---|---|
1% | 4403万円 | 6958万円 |
2% | 4859万円 | 8113万円 |
3% | 5374万円 | 9515万円 |
5% | 6613万円 | 1億3288万円 |
7% | 8199万円 | 1億8890万円※ |
※税込みの複利計算
運用成績を2%と想定した場合、20年後には4859万円貯まることになります。息子さんの教育費に300万円使ったとしても4500万円ほどは老後資金に振り向けることができます。留学の援助も含めて500万円使ったとしても4000万円は老後資金に使えます。
開業するまで10年ずつ200万円貯めていって、開業後は運用のみとなった場合でも、70歳の時には3254万円貯まる計算になります。今後10年間で準備しておけば、開業してからしばらく思うように貯蓄できなくても焦る必要はなくなります。
計算例をご覧になると、利回りの差が20~30年後には何百万円、何千万円の差になることが一目でおわかりになると思います。現在のような低金利では、運用成績に期待はできませんが、20~30年という長い期間なら3~5%という数字は達成不可能ではありません。
ですからお若い今のうちから「頭の体操」と思って、ご夫婦で運用の勉強を始めることをお勧めします。
運用の勉強を始める時の鉄則は(1)金額は少額から、(2)投資対象が1つの商品で、という2点が最も大切です。最近の投資信託はリスクを抑えるために株や債券などに少しずつ分けてバランス運用している「ミックスタイプ」のものがたくさん発売されています。分散投資していて「比較的リスクが低い」ため、投資初心者の方はこのタイプの投資信託をよく勧められますが、このような商品ではほとんど投資の勉強になりません。
少額でもいいので「日本株投資信託」「米ドルMMF」「オーストラリアドル預金」など、投資対象がはっきりした商品に投資することをお勧めします。経済や政局の状況によって為替相場や株式相場がどのように動くのかをシンプルかつダイレクトに感じることができるので「相場勘」を養うことができます。
投資に慣れてきたら、100万円貯まるごとに5~20%ほどを投資し、残りを元本の安全な商品で運用していくようにしましょう。ただし55歳ごろからは徐々に投資する比率をへらしていき、いよいよ老後生活が始まったら10%以内にとどめておくことが望ましいと思います。
なお現在の普通預金は、投資の勉強用の資金(50~100万円)を除いては、元本保証の商品に預けておきましょう。
■ 金利例
イーバンク5年定期 | 1.0% |
個人向け国債(10年)※ | 0.62% |
国債(10年) | 1.38% |
スーパー定期5年(T都銀) | 0.1% |
※1年以上たてばいつでも額面で換金可能
■ 1250万円のポートフォリオ例
■ 運用の勉強のためのポートフォリオ例(100万円)
※(用語解説)ETFとは
ETFとは、日経平均やTOPIX(東証株価指数)など日本の主要な株価指数に連動するように作られた、上場投資信託です。株と同じように東京証券取引所で売買することができます。TOPIXや日経平均といった主要株価指数に連動するよう運用されるので、投資判断が容易ですし、投資材料(ニュース)も豊富です。また株価指数は新聞で毎日報道されるので、値動きや損益の把握も行いやすいのが特徴です。ほとんどの銘柄が10万円前後で投資が可能なので、比較的手の届きやすい金額で、株式市場全体に投資することができます。また従来の投資信託に比べ保有コスト(信託報酬)が大幅に安くなっています(半分~10分の1程度)。ですから長期保有することになっても、コストによる目減りが少ないというメリットがあります。
必要な保障を確保しましょう
私費留学する前に生命保険を整理したのは、よいご判断だったと思います。でも国内で勤務医としての新しい生活が始まったわけですから、現在の生活に必要な保障額を確保することを考えましょう。
現在は賃貸住宅にお住まいとのこと。ご主人に万が一のことがあったら、住むところの確保が重要な課題となります。住まいの購入費+老後資金として5000万円~1億円ほど死亡保障がほしいところです。山中さんは23歳からずっとご主人の扶養家族であったとのこと。
ご主人に万が一のことがあった場合、それからの再就職と収入額は、ともに厳しい状況が予想されます。できれば死亡保障は多めにとっておく方が安心です。
また火事や地震に備えて「家財保険」へ加入してみてはいかがでしょうか。家財保険は家具や電気製品をはじめとするあらゆる家財の損害を補償してくれる損害保険です。JAの家財保険は地震による被害でも保険金がおりますし、家族の傷害保険や預貯金などの盗難被害もカバーされています。満期金があり、賠償責任共済を特約でつけることもできる人気商品です。
■ 保険加入プランの一例
S生命保険 (夫) |
定期保険(非喫煙者/非喫煙者なら保険料が安くなる保険) 死亡保障5000万円 加入期間20年 年間保険料 20万8200円 |
A生命保険 (夫+妻子) |
スーパーがん定期保険(10年・本人家族型・子ども特約付き) (本人) 診断給付金100万円、入院1日1万5000円、退院時給付金1回20万円、通院1日5000円、がん死亡150万円 (家族) 診断給付金100万円、入院1日1万円、退院時給付金1回15万円 入院院1日3000円、がん死亡100万円 年間保険料 2万1720円 |
全労済 (夫) |
総合医療共済(基本プラン10年更新で80歳まで) 入院1日1万円、入院前通院1日3000円、退院後通院1日3000円、高度先進医療費用200万円、手術10~40万円、長期入院見舞金60万円、死亡50万円 年払掛金 4万8756円 |
全労済 (妻) |
こくみん共済(医療タイプ) 入院6000円、入院の初期費用2万4000円、女性特有病の手術6万円 通院2000円、死亡・重度障害50万円 年間保険料1万9200円(2002度は35.0%割戻し金あり) |
JA共済 | 家財保険10型 年払保険料→12万8886円 ※火災の時は最高で1800万円、地震の時は最高で900万円。 ※賠償責任共済つき(保険料は特約保険料も含めた金額)。 ※満期には180万円戻ってくる(詳細は下記)。 火災共済金最高1800万円、臨時費用共済金250万円、特別費用共済金180万円、残存物とりかたづけ費用共済金は最高180万円、損害防止軽減用共済金は実費、失火見舞い費用共済金は1世帯あたり20万円・ただし1回の事故について360万円が限度、持ち出し家財共済金は損害額(最高100万円)、(地震など)自然災害共済金は最高900万円、(風水雪害など)自然災害共済金は最高1800万円、火災や自然災害による死亡1人につき540万円、治療時の傷害共済金1人30万円、後遺障害傷害共済金1人につき最高540万円、通貨等盗難共済金(通貨)は損害額(最高30万円)、通貨等盗難共済金(預貯金証書の場合)は損害額(最高300)万円、 |
開業は少額の初期投資でスタートし、リスクを最小限に!
ご存知の通り、開業してから後はご主人は医師であると同時に経営者になります。「医は仁術」といいますが、開業したら算術・経営術にも精通しなければなりません。
病院経営の競合、診療報酬の減額、人口の減少傾向、医療事故紛争の増加など、病院を新規に開業する環境は年々厳しさを増しています。開業が成功するかどうかは、立地条件と初期投資によると言われています。ただし以前のように土地は値上がりし、財産となるわけではないので、新規の開業で大きいリスクを犯すのはあまり得策ではなくなりました。
良い立地で、できるだけ少額の初期投資でスタートし、事業が軌道に乗ってきたら、次に投資するという考え方が理想的かと思います。
筆者の近所の小児病院では、院長が高齢と病気のため診療ができなくなっていました。しばらくして若い先生が院長となって診療を再開しました。スタッフも患者の顔ぶれも機材も全く変わらず、先生だけが代わったという状況でした。新しい院長は機材込みで場所を借りているものと思われます。ブランクが短かったため、患者離れも最小限で済んだせいか、新小児病院は順調に滑り出しているようです。新院長は経営が軌道に乗れば、内装や機材を新しくすればいいし、将来的には近所に病院を建てることもできます。ローコストで順調に開業した良い例ではないかと思います。
土地・建物や機材はできるだけレンタルにすれば、それだけコストを抑えることができます。機材を共有したり、医療事務を共同管理する医療ビルに入居するという方法もあります。また開業する傍ら、週に1~2回は大病院での診察を続けるという方法もあります。
高価な機材等を必要とする患者さんは大病院の方に回ってもらうようにすれば、診療所の設備は最小限で済みます。新しい機材を使い、新しい技術や知識を吸収することもできるというメリットもあります。30~40代で私費の海外留学をするような意識の高いご主人様なら、5~10年後に古くなった機材をコスト償却のため渋々使用しているより、できるだけ最新の設備を利用していく工夫をしていく方がいいのでは、という印象もありますが、いかがでしょうか。
■ 開業資金の準備プラン例
貯蓄5000万円(現在の貯金600万円+今後10年間の貯金4400万円{440万円×10年})
ローン3000万円(独立行政法人・福祉医療機構からの借り入れ/返済期間は20年で固定金利/なお現在の金利は1.7~1.8%)金利が1.8%なら毎月の返済額は14万8939円になります。返済期間を10年とした場合でも毎月の返済額は27万3361円です。