貯蓄がほとんどないなか、住宅ローン、私立高校入学、 老後資金の準備などが重なるため、とても不安です。 住宅ローンの返済方法やライフプランについてアドバイスください。


貯蓄がほとんどないなか、住宅ローン、私立高校入学、
老後資金の準備などが重なるため、とても不安です。
住宅ローンの返済方法やライフプランについてアドバイスください。

臼井 悦子先生 (うすい えつこ) プロフィール
  • 住宅ローンの返済期間は長めに設定し、退職時の完済を目指す
  • 家計の出費は増えても、コンスタントに貯蓄していく
  • 加入中の保険は更新前に見直しを

三上靖子さん(仮名)のご相談

結婚16年目の今年の春、大変気にいった土地が見つかりました。今まで貯めてきた2,500万円と、株式投資で得た2,000万円を全て使いその土地を現金で購入しました。

今はまだ更地のままですが、現在中学2年生の息子が高校に入学する2009年の春には家を完成させ、その土地に引っ越す計画です。息子は現在公立の中学に通っていますが、高校からは私立に通う予定です。

新築する家も息子の高校入学も、どちらも大変楽しみなのですが、貯蓄を土地の購入に全て使ってしまったため、学費の高い私立高校への入学と家のローンが始まる時期が重なってしまうことが心配です。ローン開始時の夫の年齢も49歳と若くはなく、60歳で定年なので、住宅ローンや息子の教育費だけでなく、老後の資金についても真剣に考えないといけないと思っています。

そこで、我が家に合った住宅ローンの返済方法や、この先のライフプランなどアドバイス頂きたくお願いいたします。なお、車、バイクは持っておらず、今後も持たない予定です。今後の見込みとしては、
・息子が高校卒業するときに保険が満期になり200万円を受け取る。
・私立高校の初年度納入金は約90万円(入学金、授業料など)を見込んでいる。
・住宅の本体工事費 約2,200万円、屋外給排水工事・水道引き込み工事 約110万円、外構工事費、エアコン、家具、カーテン、照明、引っ越し費用などは未定。

三上さんのプロフィール

36歳、主婦。48歳、会社員の夫と14歳のお子様(中2)との3人暮らし。
世帯年収:1,000万円
住居: 持ち家・一戸建て(ローン返済中)

毎月の収支
税引き後収入(円)
417,000
60,000
合計 477,000
支出(円)
食費 70,000
住居費(社宅) 19,700
教養娯楽費 8,500
交際費 10,000
水道光熱費 12,000
通信費・交通費 20,000
こづかい 62,000
その他 20,000
保険料 40,100
貯蓄 214,700
合計 390,000
貯蓄・金融資産 残高(円)
普通預金 3,200,000
株式 900,000
合計 4,100,000
ボーナス(年間)の収支
税引き後収入(円)
2,822,000
支出(円)
貯蓄 2,822,000

これから10年で、住宅・教育・老後資金を準備。
上手に遣いながら貯める、家計管理の発想を変えましょう。

住宅ローンは返済期間を15年にし、退職時に完済することを目指す

現在、三上さんは社宅にお住まいとのこと。気に入った土地にご自宅を建築されるのは楽しみですね。その一方で、お子様の私立高校進学、住宅ローンなどの出費が増える上に、老後資金のことも気になっておられるご様子。人生の3大支出といわれるものが、いちどに押し寄せるのですから、しっかりとした計画が必要です。リタイアが視野に入っているので、トクをする方法よりも、状況の変化に柔軟に対応できる方法を選ぶべきでしょう。では、住宅ローンの選び方から見ていきましょう。

住宅ローンを選ぶときには、金利や諸費用がどのくらいかかるのか、また繰上返済の手数料などを確認します。一番気になる金利には、半年ごとに金利が見直される「変動金利型」、ずっと金利が変わらない「固定金利型」、3年、5年、10年など定められた期間は固定金利で、その後変動金利か一定期間固定型かを改めて選ぶ「一定期間固定型」の3つのタイプがあります。いまのところ金利が低い変動金利型ですが、金利が見直され、返済額が途中でアップするリスクがあります。三上さんの場合、毎月の返済額がアップしてしまうと、老後資金が予定通りに準備できなくなる恐れがあります。固定金利型か、固定期間が10年程度の一定期間固定金利型を選んだ方がいいでしょう。諸費用や繰り上げ返済手数料などは、いくつかの金融機関の住宅ローンをくらべてみましょう。

もうひとつ、何年間で返済するかもポイントです。一般的には、定年退職までに完済するようにします。けれど、三上さんの場合は借入から定年までが11年間と短いため、月々の返済額が多めになってしまいます。これから年齢が上がっていくにつれ、収入が減ったり、病気になるリスクは高まります。またお子さまの進路変更により教育費が予定よりかかることも考えられます。返済できるギリギリの金額で借りてしまうと、ローンを返せなくなる可能性が高くなるわけです。そこで、余裕を持って返済期間を15年程度(ご主人64歳時)と長めにし、返済できなくなるリスクを低くすることをお勧めします。毎回の返済額は抑えられ、貯蓄できる余裕もできます。そして、まとまった額の貯蓄ができれば、定年退職時にそれで完済することもできます。借入期間を長くとった方が、返し終わるまでの総返済額は多くなりますが、不測の事態に対応できる可能性が高くなるのです。下の表は、2,500万円(うち1,000万円はボーナス返済)を借り入れて、10年、15年で返済したときの返済額です。なお、ここでは金利3%で試算していますが、実際は借入時の金利になります。

(図表) 借入期間による返済金額の違い

  10年間(完済時期:ご主人59歳) 15年間(完済時期:ご主人64歳)
毎月の返済額 約 15万円 約 10万円
賞与月の返済額 約 73万円 約 52万円
総返済見込額
(繰上返済しなかった場合)
2,903万円 3,114万円
(参考)
ご主人退職時のローン残高
なし 960万円

貯蓄目標額を設定し、安定した利回りで運用していく

次は、住宅購入後の三上家の家計収支を見てみましょう。住宅購入後の支出は一般的に増えるものです。どのくらい増えるか想像するのは難しいものですが、ここでは仮定を織り交ぜながら試算してみます。

住宅を購入すると、住まいが広くなり部屋も増えて水道光熱費などが以前よりかかるようになるものです。またお子さまも育ち盛りということで、生活費全般は現在より1割増えると考えます。住居費は、1.で試算したように2,500万円(うち1,000万円をボーナス返済)を金利3%で借り、15年間で返済したとします。さらに固定資産税が15万円かかると仮定し、これはボーナスから支出します。

教育費はどのくらい見込めばいいでしょうか。文部科学省の調べによると、私立高校在籍中にかかる1年間の平均費用は、学校教育費77万円、学校外活動費27万円の合計104万円。同様に、私立理工系大学在籍時にかかる年間平均費用は114万円です。ここでは、高校・大学在籍時とも毎月ざっと10万円程度の教育費がかかるとします。なお、大学受験時の受験費用や、進学時の入学金などは学資保険の満期金200万円から捻出するものとします。

三上家の収入は住宅購入後も変わらず、必要な費用を支出した残りを全て貯蓄にまわしたとすると、以下のような家計状況になります。色が付いている箇所は、住宅購入前後で増減している費目です。

(図表)費目ごとの支出額とその割合

※住宅購入後の支出額は以下の設定で試算。
・生活費は現在の1.1倍、
・住居費は2,500万円(うち1,000万円はボーナス返済)を金利3%で15年返済した場合のローン返済額。さらに、ボーナス時には固定資産税15万円を支出。
・教育費は毎月10万円を支出。

月間

現在 住宅購入後の見込
金額(円) 割合 金額(円) 割合
生活費 食費 70,000 42% 77,000 47%
教養娯楽費 8,500 9,350
交際費 10,000 11,000
水道光熱費 12,000 13,200
通信費・交通費 20,000 22,000
こづかい 62,000 68,200
その他 20,000 68,200
住居費 19,700 4% 103,587 22%
教育費 0 0% 100,000 21%
保険料 40,100 8% 40,100 8%
貯蓄 214,700 45% 10,563 2%
合計 477,000 100% 477,000 100%

ボーナス(年間)

現在 住宅購入後の見込
金額(円) 割合 金額(円) 割合
住居費 0 0% 982,784 35%
貯蓄 2,822,000 100% 1,839,216 65%
合計 2,822,000 100% 2,822,000 100%

このペースで貯蓄できたとすると、定年退職時の貯蓄残高はおよそ1,500万円になります。ただし、2007年に土地・住宅購入時の手数料(新築の場合、購入費用の3%~8%が一般的)として400万円程度を、退職時に住宅ローン完済のため1,000万円を支出したとしています。しかし、これはあくまでも試算です。実際は、収入が減ってしまうこともあるでしょうし、新しい住まい、お子さまの進学などで出費がこれよりかさむことも考えられます。住宅購入後は、生活費を除いて余った分を貯蓄するのではなく、目標額を決めて貯蓄し、残りでやり繰りするようにしていきましょう。さらに、退職金を見込んだり、奥様の収入を増やすようにすれば、老後資金の目処も立てられます。

なお、貯蓄している分を金利1%~3%で運用した場合の貯蓄残高を試算したのが下図です。3%で運用できれば、定年時に2,000万円の貯蓄となります。三上さんは、現在、普通預金と株式のみで運用されているようですね。株式が値上がりしているときはいいのですが、資金を引き出したいときに値下がりしていると必要資金が不足してしまいます。今後は値動きのリスクを低くするために、複数の金融商品に分けて預けるようにした方がいいでしょう。

数年以内に使う予定のあるお金は、銀行の定期預金や証券会社のMMFなどに預けて元本割れを避けましょう。十年以上使わないお金は、国内外の株式や債券など複数の資産に分けて投資をし、必要になったときに少しずつ取り崩して引き出すようにします。1万円程度から購入でき、国内外の資産に間接的に投資できる投資信託が使い勝手がよいでしょう。これからは大きく殖やすことよりも、減らさないことを意識して運用していくことをお勧めします。

貯蓄残高の推移

生命保険の保険料を払い続けられるか確認を

最後に、現在、加入されている保険についてです。お伺いしたところ、ご主人の死亡保障が2,000万円で毎月の保険料が1万3,500円ということです。これは恐らく、数百万円の終身死亡保障を主契約として、さらに千数百万円の死亡保障と医療保障を一定期間保障する特約を付けた保険だと思われます。こういったタイプの保険は、同じ保障内容で特約を更新すると、その時点での年齢で保険料を再計算するため、以降の保険料は高くなります。若いときは大きな保障を比較的安い保険料で準備できるのがメリットです。その一方で、同じ保障内容で続けようとすると保険料が高くなり、保険を続けることが難しくなってしまう場合があります。まずは、いつまでどんな保障があるのか、更新後の保険料がいくらになるのかを確認することをお勧めします。必要な保障を確保するには保険料が高すぎて続けられないなら、今のうちに見直すことをお勧めします。健康状態に問題がないなら、新たな保険に加入し直すこともできます。奥様が加入されている保険も同じタイプだと思われます。奥様の現在の収入では死亡保障1,000万円は少々多いと思われます。これから家計支出が増えていくことを考えると、保障額を減らすことを検討してもよいでしょう。

これからの三上さんに必要なのは、支出と貯蓄をマネージメントしていく力です。新しい住まいでの暮らしを楽しみながら、老後資金に必要な金額はきっと準備できるはずですよ。