ローンを返済中で貯蓄ができていない中、金利アップが決まっており不安です。 賃貸に住み替えた方がいいのでしょうか?


臼井 悦子先生 (うすい えつこ) プロフィール
  • 住み替えで住居費がアップする可能性もある
  • 住宅ローン返済額アップは繰上返済でもカバーできる
  • 家計全体を見直して貯蓄ができるようにする

大沼秀樹さん(仮名)のご相談

住居費負担増加が予想されるために引越しを検討しています。 4年前(平成15年)に新築マンションを購入(ローン1600万円)し、現在住居費年間120万円(管理費、固定資産税等含む)。諸経費負担増加のため平成25年より住居費年間156万円と1ヵ月あたり約3万円の負担増となります。現在税込み年収500万円、手取りで440万円程度。家計の収支はギリギリであり、貯金はできていません。

今後の経済的不安を考えると、マンションを売却して、妻の実家近くの中古マンション(築30年弱)を購入あるいは賃貸で借りるかどうかで悩んでいます。

引っ越すと住居費は年間90万円~100万円程度に抑えられ、今ならマンション売却損もほとんどなく、子供の小学校入学前には引っ越せるためにいい時期だと思っています。 また購入か賃貸かも悩んでおります。

大沼秀樹さんのプロフィール

31歳 会社員。 妻35歳主婦、長男4歳の3人暮らし。 税込年収550万円。現在の預貯金は50万円。

毎月
手取り収入

290,000


支出
食費

40,000

住居費

100,000

教養娯楽費

30,000

交際費

20,000

水道光熱費

20,000

通信費・交通費

30,000

こづかい

40,000

その他

30,000

生命保険料など

10,000

合計

320,000

年間賞与
手取り賞与

960,000


支出
車検等

100,000

被服日用品

200,000

レジャー等

300,000

合計

600,000


貯蓄
預金

100,000


●住宅ローン
平成15年に住宅金融公庫で35年返済で借り入れ。
当初借入額

1,670万円

現在残高

1,540万円

現在の
返済額
毎月の給与

60,000円

ボーナス

ナシ

完済時期

平成50年4月

金利

当初10年間 2.5%
平成25年から4.0%

※平成25年から毎月返済額は7万円。

住み替えの必要はないでしょう。 貯蓄できるように工夫することで対応可能です。

1. 住み替えをすることで将来どんな影響があるかを考える

大沼さんは現在のマンションにお住まいになって4年余り。お子様の成長の思い出がたくさん詰まったお住まいなのではないでしょうか。そのご自宅を手放そうかと検討していらっしゃるのは、平成15年に住宅金融公庫で借りた住宅ローンが、平成26年に4.0%(現在2.5%)に上がり、毎月の返済額が6万円から7万円にアップするため。他にも、修繕積立金の増加が予定されていること、新築後5年間まで適用される固定資産税の減免が終了すること、平成25年末で住宅ローン控除の適用が終了することなどから、1ヵ月当たりの住居費が10万円から13万円に増えると予想されています。

6年後のことを考えて対策を練っていらっしゃる大沼さんは、リスク管理能力が非常に高くていらっしゃいます。中古マンションまたは賃貸に住み替えると、確かに住居費を抑えられそうです。しかし、この状態がずっと続くかというと、必ずしもそうではありません。

まず、築30年弱の中古マンションまたは団地に住み替えた場合、毎月の住居費は7万~8万円と現在より2万~3万円程度少なくてすみます。この分を貯蓄にまわせば、毎年およそ30万円ずつ貯蓄を増やすことができます。これだけで10年後には350万円になります。反面、その頃お住まいは築40年近くになっています。水周りなどのメンテナンスが必要になり、リフォーム費用にまとまったお金が必要になるでしょう。つまり、住居費減で浮いたお金の一部は、いずれ住居費に充てることになるのです。マンションそのものが老朽化し資産価値が低下する心配もあります。

もうひとつの選択肢、賃貸に転居した場合の費用負担は、先ほどの中古マンションの場合と同額程度です(敷金、礼金なども含めた予算と想定)。賃貸では、家賃の値上げや、お子様が成長されるなどで手狭になり引っ越して家賃負担が重くなるなどが考えられます。また、将来的に持ち家を、とお考えなら、住宅ローン返済期間は現在よりも短くなり、毎月の返済額は高くなる可能性があります(購入価格、頭金、金利などの条件により異なります)。

いずれを選択するにしても、当面の住居費負担を軽くすることはできます。しかし、一方で将来の住居費がアップする可能性もあります。大沼さんにあまりお勧めできる方法ではありません。実は、大沼さんが一番ご心配されているのは、貯蓄ができないこと。現在のお住まいに住み続け、住居費負担がアップしても、貯蓄ができる方法を考えることを優先されてはいかがでしょう。

住み替えの影響
  中古住宅に転居 賃貸に転居 現在の住居に住み続ける
当面の
住居費負担
7万~8万円/月 7万~8万円/月 10万円/月
将来の
住居費負担
水回りなどのメンテナンス
費用が発生する可能性有
家賃値上げの可能性有り
引っ越す可能性有り
(引越し費用の負担)
平成25年~
13万円/月

2. 住宅ローンの繰上返済で住居費増を抑えられる

大沼家の年収(500万円)に対する住宅ローン返済額(72万円)の割合は14%。通常は20~25%に抑えるのが目安、と言われており、決して無理な返済額ではありません。さらに、住居費がアップするのは6年後。その頃には、収入が増えている可能性があります。大沼さんご自身の見込では、6年後には年収550万円(現在よりプラス50万円)、10年後には600万円(同じくプラス100万円)。手取りの金額で考えても、住居費増は吸収できる見込みです。人間の身体に例えれば、大沼家の家計には、大がかりな手術は必要なく、経過観察または体力をつける、という方法で十分に対応できるはずです。

収入アップ以外で住居費アップに対応する確実な方法は、住宅ローンの繰上返済を行うことです。繰上返済は、まとまったお金を一時的に元金の返済に充てローン残高を減らすこと。毎月の返済額は変えずに返済期間を短縮する「期間短縮型」と、返済期間は変えずに毎月の返済額を減らす「返済額軽減型」の2つの方法があります。大沼さんには、返済額軽減型がお勧めです。

金利が4%に上がると毎月の返済額は6万円から7万円に1万円アップします。ところが、このとき(平成25年)に100万円の繰上返済をすると「返済額軽減型」では約6.5万円と5千円増に抑えられます。わずか5千円ですが、年間では6万円減です。なお、参考までに、期間短縮型では返済期間を3年間短縮できます。

●繰上返済の効果
金利が4.0%に上がる時に100万円を繰上返済すると
  返済額軽減型 期間短縮型
毎月の返済額 約6万5,000円
(5,000円の負担減)
約7万円
完済時期 平成50年 平成47年
(3年間短縮)
支払利息が
軽減できる金額
約56万円 約152万円


100万円準備するのは難しいと感じられるかもしれませんが、そんなことはありません。毎月1万円を、賞与から5万円ずつを貯蓄すれば、6年後には102万円貯められます。なお、6年後の家計収支に無理がなければ、繰上返済はせず、お子様の教育資金にしてもよいでしょう。

3. 毎月貯蓄するしくみに変更して、家計を安定させる

貯蓄ができないという不安を解消するには、毎月の収支がマイナスにならないようにし、少しずつでも一定額を貯蓄することです。大沼家の収支表を拝見すると、毎月の収支は赤字で貯蓄できていません。賞与から毎月の赤字を補填しているようです。一方、賞与からは10万円を貯蓄しています。一年間を通してみると赤字家計ではないのです。車検のない年は貯蓄額をさらに増やせているのではないでしょうか。

確実に貯蓄するには、毎月強制的に1万円程度を貯蓄し、残りでやりくりすることです。大沼さんの家計では可能だと思われます。たとえば、固定資産税を毎月の住居費に含めているようですが、賞与からの支出に変更します。加入している生命保険で年払いが可能なら変更します、保険料が若干安くなります。交際費や通信費は内訳を見直すことで、もう少し抑えることができそうです。お子様が公立小学校に進まれるなら、卒業までの教育費はそれほどかからないはずです。習い事や塾にどの程度かけるかにより費用は大きく変わってきますが、ご家庭の判断で決めればよいことです。このようにやりくりしても赤字になるようなら、何かを手放すことを検討します。その際、「小さな」ものから検討してはいかがでしょう。いちど手放して、再び手に入れるのが容易なものから、と言い換えてもいいかもしれません。たとえば、「携帯電話」、「車」・・・という順に。家は一番最後の選択肢になるでしょう。

なお、大沼さんは毎月5,000円の「児童手当」を受け取れるはずです。児童手当は、小学校6学年終了までの児童を養育している人(所得制限あり)に支給されるもの。使わずにお子様の教育資金として貯蓄します。受け取っていなければ、お住まいの市区町村窓口に申請します。さらに、幼稚園に通園している児童の保護者への助成制度を設けている自治体もあります。こういった制度があれば利用したいものです。

将来の家計の見込みを立てるのは、なかなか難しいものです。支出が増える見込みは立てられても、収入増の見込みは立てにくいこともその一因です。けれど、堅実に見込みを立てるあまり、大切なものを手放してしまうのはお勧めできません。まずは、大沼家の場合、手軽にできることから少しずつ実行し、一年に一度家計の体力チェックをする、ということでも十分対応可能だと思います。