目次
定年まで間がないのに老後の備えがありません。
バリアフリーの家に住み替えもしたいのですが可能でしょうか?
市田 雅良先生 (いちだ まさよし) プロフィール |
|
相原 淳さん(仮名 52歳 会社員)のご相談
定年後に備えた計画を立てたいと思っています。長男(大学4年)と長女(短大2年)はともに来年春に卒業予定なので、教育資金については肩の荷がおりそうです。しかし現在の貯蓄は300万円ほどしかありません。なんとか老後資金を、定年までに効率よく貯める為の方針を考えたいと思います。また、老後に備えバリアフリーの住居に住み替えたいのですが、それは可能でしょうか
相原さんのプロフィール
○現状のキャッシュフロー表
|
老後は「生き甲斐」と「健康」重視で今の家に住み続けるのが賢明
1.2009年の貯蓄残高の不安
ここ数年の貯蓄残高が目に見えて減少してきたことが不安要因と推測されますが、来春の二人のお子さんの卒業後には教育費の負担分を貯蓄に回すことが可能になるので、貯蓄の増加が見込まれます。また、イベントも予定通り実行可能でしょう。
2.保障対策は?
現在相原さんは2,500万円保障の定期付終身保険に加入されていますが、今後お子様の独立により、父親の死亡保障に大きな金額の必要がなくなります。万一の際には遺族年金の収入もありますので、定期保険特約の死亡保障の減額について検討してみましょう。
医療保障については60歳満期となっているので、60歳以降の保障対策として掛捨て型の医療保険の加入を検討したいところです。その場合、例えば1日あたり入院費用の自己負担平均が約12,900円程度(生命保険文化センター調査)と考えれば、保険から5,000円と貯蓄から7,900円というバランスで備えるのも一つの方法といえます。したがって保険料の目安を、5,000円/月程度の医療保険の加入を検討します。
⇒(対策プラン)自己負担7,900円の目安で入院日数が通算約27日(生命保険文化センター13年11月調査)を予測すると、万が一の医療費用は213,300円で、その額は貯金を取崩して対応します。では、その医療費用関係の貯蓄の目安はどう考える?これには、例えば60歳前後では約100万円をめどに、70歳以降になれば200万円程度に引き上げて備える、といった貯蓄計画で考えましょう。不安に応じて増加させていくという対策です。
3.住宅ローンの見直しと住宅の住み替え
相原さんが60歳になる年末の2017年12月末日の住宅ローンの残額は、約466万円です。その残額を退職金の一部で一括返済した場合の利息の効果は、35万円程度となります。この金額でも効果を上げたいと思われるのであれば一括返済を選択することになりますが、価値観の問題なので、8年後の経済環境を考慮して60歳時点で検討する項目に上げておきましょう。
「バリアフリー化」をどう考えるべきか。自分たちの親世代が階段の上り下りに苦労するのを耳にして、できれば現在のメゾネットタイプをバリアフリー住宅にとお考えなのでしょうが、経済的に高額ですのでよく検討すべき事柄です。
バリアフリー住宅に住み替えする方法
((1))現在の住居を売却し、バリアフリー型住居を購入するか又は賃貸に移るか。
資金繰り面では、今すぐ売却するのであればローンとの差し引き(売却額1,500万円-残債1,233万円)267万円のプラス、また60歳での売却では、仮に同じ価値だとしても(売却額1,500万円-残債466万円)差し引き約1,000万円程度のプラスの手取額となります。したがって頭金や融資の面では、購入は非常に厳しいと考えられます。
また賃貸では、都心を目安として賃貸物件を見れば月額約10万円以上はかかりそうです。
((2))現在の住居を賃貸にし、バリアフリー型住居を購入するか賃貸に移るか。
購入の場合、頭金や年金生活を考え、ローンは非常に厳しいものとなります。そこで今住んでいるマンションを賃貸にすることで検討したところ、同じ棟の例をとって検討すると家賃は貸して月額約7万円程度の収入で、都心で借りて月額10万円のところに移ると考えると収支差額3万以上の持ち出しを覚悟しなればなりません。
((3))
((1))及び((2))を検討ではあまり期待できる結果が出ないことから「移り住むことを前提に代わりの物件に移る」を検討する前に、「老齢になれば足腰が弱くなるのでバリアフリー化」という前提条件が「絶対」なのかを今一度検討してみてください。足腰が弱ることを見越してどこかへ移り住むという「お金」に頼る方法ではなく、健康状態を自己管理して「元気な老後を維持する」ことを考えるのが優先順位となるのではないでしょうか。
◎住居をどうするかの結論 → 相原さんのライフプランに照らし合わせて、経済的に検討すれば、今の住まいに住み続けることをおすすめします。
4.老後資金の貯蓄方法
「とりあえず貯蓄」を実践されてきた相原さん。教育費用で貯蓄が減り、底をついた状態を感じながらの日々で、これまで何とか凌いでこられたのが不思議なくらいに不安続きでこられたとのこと。この際「とりあえず貯蓄」というのではなく、貯蓄方法の根本から組み立てなおしましょう。
まず第一歩は(収入)-(生活費)=(貯蓄)ではなく、(収入)-(貯蓄)=(生活費)と考えます。また、目的額は何年後に必要かを見積り、月額の積立額・ボーナス時の積立額などを算定し、実践できるようにします。目的が数項目に渡っていても、すべてその要領で積立額を決めます。
会社に「財形年金貯蓄制度」が導入されていれば、それを利用しましょう。給料から天引き積立され、退職後年金形式で受給できます。5年以上の積立などの条件を満たせば、550万円までが非課税というメリットがあります。
他の貯蓄方法として、公的年金にプラスαの「個人年金保険」があります。相原さんはすでに30歳から加入されているので安心です。
(対策プラン)財形年金貯蓄:月額積立2万円、ボーナス時積立5万円
来年からの「貯蓄計画」と「資産形成」
60歳までに老後資金を調達するというスローガンでがむしゃらに貯蓄する、それも一つの方法でしょう。しかし、60歳からはまた新しい人生が始まります。時間は十分あるのですから、気分を変えてのんびりゆったりとスローライフを送るのもリタイアメントプランの一つではないでしょうか。
○「貯蓄計画」 モデルとなる月額の積立配分表を組んでみましょう。
「資産形成」今後の運用について
「いつ必要なのか、いくらが必要なのか」は誰でも考えることです。そこで「安全性の貯蓄は、将来の安心につながる」と信じる方が多い中、安全性の貯蓄だけが「安心」できるものではないことを理解しましょう。
今ある資産を安全性だけで運用することは、インフレ時になった場合に「増やす」というチャンスさえ逃がしてしまうことになります。インフレがやってくるぞとはいっても、いつやって来るのかはわかりません。しかし、そのときにあわてない為にも、デフレ時の運用、インフレ時の運用を理解しておくことが必要といえます。
資産を積極的に増やすにも、将来に備えるにも、「リスクは不可欠である」という考え方を持ちたいものです。
投資という考え方をもっと積極的に取り入れてみたいものですが、相原さんは今後の予測が不確実であり、さらに現在までがデフレ時であったことから、貯蓄性重視の積立金融商品をリスク許容度的には考えたいところです。しかし将来起こりうるインフレには、「長期投資」「分散投資」が基本的な考え方となりますので、資産形成の運用スタンスを「自分流に知識を集め生活のリテラシー(知力)となる」と考え、常に意識することを心がけておきたいものです。
おわりに
老後に備えるということは、こころ(生きがい)、健康、経済(いわゆるライフプランの「3K」)のバランスをうまくとりながら備えていくことだと思います。多くの希望があるのは素晴らしいことですが、人生の後半においては「さて、自分の手の届くところは」といったように、3Kのバランスを踏まえて検討していきたいものです。