目次
賃貸で借りているマンションを購入したいと思います。
今購入するのと、数年待つのでは、どちらがよいでしょうか。
村井 英一先生 (むらい えいいち) プロフィール |
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朝倉 郁代さん(仮名 45歳 公務員)のご相談
シングルマザーで、賃貸マンションに住んでいますが、この物件を大変気に入っており、購入したいと考えています。大家さんに相談したところ、1,200万円であれば売却しても良いとの意向でした。
ただ、頭金にする資金はなく、購入のための諸費用やリフォーム費用もローンで借りなければなりません。今すぐに購入するのと、数年待ってから購入するのでは、どちらが良いでしょうか。
元の夫からは養育費をもらっていますが、仕事が忙しくて外食が多くなってしまい、なかなか貯蓄ができません。
朝倉 郁代さん(仮名 45歳 公務員)のプロフィール
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今すぐよりは、教育費が終わってから購入した方がよいでしょう。
しかし、家計の見直しをすれば、今すぐ購入も可能となります。
しかし、家計の見直しをすれば、今すぐ購入も可能となります。
1.住宅購入のタイミングを考えるポイント
お仕事に、子育てにと、毎日忙しく過ごしていらっしゃいますね。家計を拝見しても、あらゆることに全力で取り組んでおられる様子がわかります。
そんな中、現在のお住まいを気に入って大家さんに交渉したところ、好意的に応じてくれそうだということ、とても良い機会ですね。こればかりは先方の意向もありますので、こちらの都合だけでどうにかなるものではありません。売却価格も、妥当な価格を提示してくれていますので、大家さんの気が変わらないうちに決めてしまいたいものですね。とはいっても、あわててローンを組んでしまうと、返済に行き詰らないとも限りません。ここは慎重に、将来の家計の状況を踏まえながら判断しましょう。
まず、朝倉様の状況を検討する前に、一般的にどのような時期に住宅を購入するとよいのか、そのタイミングを考えるポイントを見てみましょう。
1 家族の希望や状況
一番大切なのは、ご家族の希望と状況です。これは、経済状況などよりも優先されるものです。まず、お子様の人数のメドがつくと購入物件の間取りなどがはっきりします。勤務先の転勤の都合や学校の問題なども考慮します。勤務先の住宅手当の打ち切りなどが購入検討のきっかけとなることもあります。一方、転職を考えている場合などは見送った方が良いでしょう。
2 不動産価格や金利の状況
不動産価格は景気の状況などで上下しますから、比較的安い時期に購入するに越したことはありません。景気が良い時期は、土地だけでなく、建築費なども上昇しますので、物件価格は高くなります。気に入った物件が取得できそうといった、個別の事情も関係してきます。また、金利の低い時に固定金利で住宅ローンを組むと、ローンを完済するまでの20~30年間の利払いを少なく抑えられます。
3 住宅購入のための優遇措置や減税などの施策
景気が悪くなると、住宅投資を促進しようと、いろいろな施策が実施されます。中には、数十万円も得する制度もあり、活用できる場合は、有効に使いたいものです。ご自身の収入に不安がなければ、不動産価格や金利の状況も併せ、景気が悪い時の方が住宅の購入は有利となります。
4 現在と今後の資金・家計の状況
頭金や諸費用に充当できるだけの貯蓄があるか、親からの援助が受けられるかも、大きなポイントになります。できれば、なるべく多くの頭金を用意した方が、その後の負担は軽くなります。そして、住宅ローンを組んだ後、無理なく支払いを続けていけるかもチェックしておく必要があります。家計の状況が心配な時期は、教育費がかかる期間と老後の2回あります。住宅を購入することで、どちらかの時期に家計が破綻してしまうようでは、元も子もありません。
朝倉様の場合は、気に入っている現在のお住まいを取得できるチャンスで、売却価格や現在の金利水準も好環境です。床面積の関係で、住宅ローン控除などの減税措置は受けられませんが、もし親からの援助を受けられるのであれば、今年中に活用したいものです。最近は、物件価格100%はもちろん、諸費用までも賄える住宅ローンがありますので、頭金が用意できなくてもあきらめる必要はありません。
2.今すぐよりも、教育費が終わる10年後に購入した方がよいでしょう
では、今すぐにローンを組んで住宅を購入した場合の今後の家計の状況をシミュレーションしてみましょう。シミュレーションの主な前提は、下記の通りですが、細かい条件は現在の家計の状況を踏まえ、一般的な想定をしています。
<今すぐに住宅を購入する場合のシミュレーション 前提条件>
- 住宅を購入した場合、家賃補助が減る分、給与は少なくなる。
- 低解約返戻型終身保険は低解約期間終了後に解約、変額個人年金は積立期間終了後に一時金で受け取るものとする。解約返戻金や一時金、学資保険の満期金は、保険料からの推定による。
- 住宅購入費用は、1,200万円に諸費用・リフォーム費用100万円を加えた1,300万円とし、全額をローンで賄う。固定金利3%、返済期間25年とし、退職金で繰上返済をする。
- 教育費は、私立高校卒業までは現在時点での平均との乖離が継続するものとし、大学は平均値を使用する。
<今すぐに住宅を購入する場合のキャッシュ・フロー表を別ウィンドウで表示>
ご覧のように、今すぐに住宅購入をすると、お子様が高校生・大学生の教育費がかかる時期に貯蓄が底をついてしまい、家計が破綻することになってしまいます。現在は住宅ローンの金利が低いので、毎月の返済額は現在の家賃よりも少なくなるほどです。しかし、自宅を持つと、勤務先からの家賃補助が減ってしまうことが影響します。現在も余裕のある状況ではないために、少し収入が下がっただけでも、その影響は小さくありません。現状のままで、住宅ローンを組むと、近い将来に行き詰ってしまうことになります。変動金利を選択すれば、住宅ローンの支払いをもっと少なくできるとお考えかもしれませんが、金利の先行きはわかりません。まずは固定金利の3.0%程度でも問題ないかを検証するべきでしょう。
では、お子様の学費が終わる10年後に購入すると、どうなるでしょうか。マンションですので、10年後の購入価格は下がり、売却価格は1,100万円としました。金利は今よりも上昇して、4.5%になっていると仮定します。返済期間は15年で、5年後の退職時に繰上返済します。
<10年後に住宅を購入する場合のキャッシュ・フロー表を別ウィンドウで表示>
今度は、家計に余裕ができてから住宅ローンを組むわけです。金利が上昇している上、返済期間も短く、毎月の返済額は多いのですが、それでも支障はありません。教育費の負担が重い時期は、家賃がかかるものの、住宅補助のおかげでなんとか家計が破綻せずに済みそうです。現在の状況を踏まえると、今すぐに住宅を購入するよりも、教育費の支出が終わる10年後に購入した方がよいでしょう。
とはいうものの、このやり方でもけっして余裕があるわけではありません。かなりギリギリの状況になる年もあり、不意の出費があると、途端に家計が苦しくなることが考えられます。
3.家計の見直しをして、今の購入を検討してみましょう。
ただ、「10年後に購入する方がよい」と言われても、「せっかくのこのチャンスを逃したくない」というお気持ちの方が強いのではないでしょうか。10年後には不動産価格や金利がどうなっているかはわかりません。もちろん、大家さんが売却に応じてくれるかどうかも、その時の状況によって変わってくるでしょう。こちらの状況が良くなっても、大家さんが売ってくれなければどうしようもありません。
そこで、現在の家計の支出を見直して、今すぐの購入ができないか考えてみましょう。つまり、現在の支出を減らすことができないか、あらゆる項目を見直してみるのです。ここからは、朝倉様の事情を全て理解していないにもかかわらず、心地よくないご提案をする点をお許しください。
まず、もっとも効果が大きいのが生命保険の見直しです。朝倉様は現在、月額68,900円の保険料を払っています。その多くが、「低解約返戻型終身保険」や「個人年金」など、貯蓄タイプの保険商品です。終身保険も老後に解約すると、払込保険料以上の解約返戻金を手にすることができ、貯蓄の代わりとなります。朝倉様もこの点をよく認識されており、「保険で貯蓄をする」目的で加入されていますので、その点では間違っていません。しかし、自宅を購入するとなると、状況が変わります。貯蓄タイプの保険は、「老後」に経済的な余裕をもたらしてくれますが、このままでは最初の家計の心配な時期である「教育費のかかる期間」に家計が破綻してしまいます。老後の備えを十分にするあまり、その前の危機を乗り越えられない状況になっています。老後には、国民年金と共済年金があり、そして公務員としての職域加算が加わりますので、それほど不安ではありません。教育費のかかる期間を乗り越えるために、貯蓄タイプの保険を解約することを検討してみてください。解約の対象となる「低解約返戻型終身保険」は、早期に解約をすると解約返戻金が少なく、大変に不利です。また、「変額個人年金」は円建てのものも、ドル建のものも、現在の評価額は払込保険料を大幅に下回っていることでしょう。いずれも、今やめてしまうともったいないことは確かですが、自宅を購入しようとすれば、必要な処置となります。払込保険料より少なくなっているとしても、ある程度の解約返戻金が入ってきますので、それを住宅購入の諸費用や頭金にすることができます。
次は、小遣い・雑費の見直しです。現在はお仕事に家事・子育てに忙しく、外食が多くなっているのはわかります。お金で時間を買う必要があるのは確かですが、そのためについつい気が緩んで使い過ぎとなっている部分はありませんか。効率的なお金の使い方をすれば、ある程度は抑えることができるのではないでしょうか。
帰省・海外渡航のために、年間100万円程度かかっています。お母様の介護のための帰省、お仕事の研修も兼ねての海外渡航と、どちらも単なる「余暇」とは違います。ただ、それだけに「やむを得ない出費」として、自分を納得させてしまうことがあります。この部分も聖域化せずに、抑制できる部分はないかを検討してみる必要がありそうです。
さらに、学校外教育費などお子様にかけている費用も、平均と比べるとかなり上回っています。元の夫から養育費が入っていますが、それが全て今の教育費になっていませんでしょうか。お子様が高校・大学に進学されると、今よりもさらに教育費がかかります。養育費の増額に応じてくれればよいのですが、逆に途絶える可能性もあります。現在の教育費を見直して、将来の教育費に備える、ということをお子様と話し合ってみてはいかがでしょうか。
現在、購入しようとしているのは、今住んでいるご自宅です。新たな住まいを中古で購入しようという場合は、ご家庭の事情に合わせてリフォームが必要となることもあります。しかし、今回のケースでは自宅が変わるわけではありませんので、特別にリフォームの必要はないはずです。この際だからと思うと、ついつい出費が増えてしまいます。リフォームを見送り、諸費用を現金で捻出すれば、住宅ローンは物件の購入価格に納まります。リフォームは、教育費が終わった後など、またの機会に考えましょう。
これらの見直しをした上で、今すぐに住宅を購入した場合の家計の状況をシミュレーションしました。変更点は、以下の部分です。
- 低解約返戻型終身保険と個人年金を解約します。
- リフォームは見送り、住宅購入の諸費用は保険の解約返戻金を充当します。
- 小遣い・雑費と帰省・海外渡航を1割減らします。
- 教育費については、そのままとしました。
<家計を改善してすぐに住宅を購入する場合のキャッシュ・フロー表を別ウィンドウで表示>
現在の状況のままで「今すぐに住宅を購入する場合」はもちろん、「10年後に住宅を購入する場合」と比べても、家計の状況に余裕が出てくることがわかります。今回のシミュレーションは、保険の解約及び、小遣い・雑費と帰省・海外渡航の1割削減だけですので、けっして無理な改善ではないでしょう。せっかくの自宅購入のチャンスですので、家計をもう一度見直して、ぜひ夢をかなえてください。家計の”事業仕分け”には、”聖域”を設けないことが大切です。