マイホームを購入します。 住宅ローンは、変動金利と固定金利のどちらがよいでしょうか?


マイホームを購入します。
住宅ローンは、変動金利と固定金利のどちらがよいでしょうか?

村井 英一先生 (むらい えいいち) プロフィール
  • 変動金利の方が圧倒的に金利低いのですが、上昇するリスクがあります。
  • 金利が上昇するリスクに対応できるようなら、変動金利がよいでしょう。
  • 金利上昇リスクに対応できないなら、高くても固定金利を選ぶべきです。

畠山 幸雄さん(仮名 36歳 会社員)のご相談

マイホームを購入しようと考えています。ある程度希望の物件は固まってきたのですが、問題は住宅ローンです。当初は、金利が変わらない固定金利を考えていたのですが、販売業者にも、金融機関にも変動金利を勧められ、迷っています。確かに、金利が低く、返済額を比べるとかなりの違いです。どちらを選んだ方がよいのでしょうか?

畠山 幸雄さん(仮名 36歳 会社員)のプロフィール

家族構成 : 幸雄さん (夫 36歳 会社員 年収300万円
智子さん (妻 35歳 会社員 年収200万円)
子供 長女(5歳) 長男(3歳)
購入予定物件 : マンション(3LDK)
予定額 : 3,800万円(物件価格:3,500万円、諸費用:300万円)
頭金 : 800万円(預金より300万円、親からの援助500万円)
住宅ローン予定額 : 3,000万円(35年返済)
購入後の費用 : 管理費・修繕積立金で月額30,000円、固定資産税など年額15万円

<収入>(手取り収入)(単位:円)

月額 ボーナス 年収
夫の収入 200,000 320,000 3,040,000
妻の収入 140,000 100,000 1,880,000
合計 340,000 420,000 4,920,000

<支出>(単位:円)

金額 臨時支出 年間支出
住居費 84,000 1,008,000
食費 45,000 540,000
教育費 48,000 100,000 676,000
小遣い 50,000 70,000 670,000
自動車関連費 20,000 100,000 340,000
通信費 13,500 162,000
光熱費 10,800 129,600
被服費・雑貨 18,000 50,000 266,000
旅行・家電製品など 200,000 200,000
その他・使途不明 23,000 50,000 326,000
保険料 15,000 180,000
貯蓄 20,000 200,000 440,000
合計 347,300 770,000 4,937,600

<金融資産>

普通預金 200万円
定期預金 300万円

状況を考えると、変動金利はリスクが大きいと言えます。
金利が高くても固定金利を選んだ方がよいでしょう。

1.〝専門家〟のアドバイス

固定金利と変動金利―実に悩ましい問題ですね。住宅ローンのご相談でも、非常に多いご質問です。
まず、ここで住宅ローンの金利タイプを整理しておきましょう。住宅ローンの金利タイプは、大きく分けて3種類があります。

A) 固定金利:
住宅ローンを利用するときに決まった金利が、返済が終了するまで続きます。金利が変わらないため、最後の分まで返済額が確定します。家計の設計が立てやすく、安心できるのが特徴です。
B)変動金利:
返済期間中に金利が変わっていく金利タイプです。通常は半年ごとに金利が変わります。返済額は、5年間は変わりませんが、金利の変動により、元本の返済に充当される部分が変わります。5年ごとに返済額は変わりますが、上昇しても1.25倍までとなっています。現在は、最も金利が低くなっています。
C) 固定金利期間選択型:
3年、5年など、あらかじめ指定した期間は金利が変わらないようになっています。指定した期間が終了すると、その時点でまた、金利が固定される期間を選びます。金利は、その時の金利水準に基づいたものに変わります。一定期間だけは金利が上昇しては困る場合などに向いています。固定期間が短いほど金利が低い傾向にあります。

上記の3種類のうち、固定金利期間選択型は、名前には「固定金利」とついていますが、変動金利の一種と考えた方がよいでしょう。最初の一定期間は金利が固定されるとはいっても、やがて見直しがあります。30年も続く住宅ローンにおいては、変動金利とそれほど変わるものではありません。よって、ここでは固定金利と変動金利の比較で考えていきます。

固定金利の代表的なものは、住宅金融支援機構が資金を出し、民間金融機関が窓口となって扱う、「フラット35」です。民間の金融機関でも独自のローンを用意していますが、金利はこちらが比較的低く、一般的です。取り扱いの金融機関によって金利が異なりますが、全国の平均では2.415%となっています(H24.7.23時点)。
民間金融機関の住宅ローンの主力は、変動金利です。「店頭表示金利」という表向きの金利は、ほとんどが2.475%(H24.7.23時点)となっていますが、実際にはもっと低い金利で借りられます。給与振込など、簡単な条件をクリアするだけで、優遇金利が適用されます。金融機関ごとに異なりますが、最近では1%以下となっています。0.8%以下の金利を適用するところもあります(H24.7.23時点)。
金利を比較すると、圧倒的に変動金利の方が低くなっています。ただ、変動金利は半年ごとに金利が変わります。ローンを組んだ時点では低い金利であっても、今後上昇することも考えられます。結果的に、変動金利の方が高くなった、ということもあり得ます。住宅ローンは、融資を受ける金額が大きく、返済期間も長期にわたります。それだけに、金利による差は小さなものではありません。住宅を購入する時に、住宅ローンをどうするかは悩ましい問題です。

住宅ローンを組む金融機関の窓口はもちろん、マンション販売業者やハウスメーカー、不動産業者なども住宅ローンの相談に応じてくれます。ただ、彼らのほとんどが、変動金利を勧めます。現状では変動金利の方が、金利が低いので、毎月の返済額が少なくて済みます。住宅の購入を考えている人の負担感が少なく、販売やローンの申し込みにつながりやすいからです。返済額が少ないと、同じ年収でも借りられる上限額が大きくなり、より高い物件を購入することもできます。そんなことも彼らが変動金利を勧める理由となっています。
変動金利を勧める人の話法には、次のようなものがあります。「現在の経済状況を考えると、デフレが続く限り、金利の上昇はあり得ません。変動金利でローンを組んでも心配ないでしょう。もし、金利が上昇するようなら、その時点で固定金利に借り換えるとよいでしょう」。
一見もっともらしいのですが、そのまま真に受けてはいけません。金利が上昇する時には、固定金利の方が早く上昇する傾向があります。金利の上昇に気が付いた時には、固定金利はかなり高くなっており、借り換えが難しいことが考えられます。
また、次のような説明もよくされています。「固定金利の指標となる長期金利は、日本国債の信用不安で上昇する可能性もあります。しかし、変動金利の指標となっている短期金利は、日本銀行が調整していますので、そう簡単には上昇しません」。これももっともらしく聞こえるのですが、信じてよいものでしょうか。確かに一理はありますが、長期金利と短期金利は全く別物ではなく、お互いに影響を及ぼしています。長期金利だけ上昇して、短期金利は低いまま、という状況が続くという点には疑問を感じます。
いずれにしろ、マンション販売や金融機関の担当者の〝予想〟に基づいて、住宅ローンを決めることは避けた方がよいでしょう。たとえ、その分野の専門家であったとしても、予想は〝予想〟に過ぎず、当てになりません。住宅ローンの金利がどのようになろうとも、返済しないわけにはいきません。もし、返済ができなくなってしまったら、自宅が差し押さえられて、競売に掛けられてしまうこともあります。金利が上昇した場合に苦しむのは、ローンを組んだ人です。「当分の間は金利の上昇がない」という、担当者の〝予想〟に人生を賭けてはいけません

〝予想〟が当てにならないことは承知で、金利状況の見通しを述べます。やはり、金利の見通しは気になることでしょう。私の〝予想〟を申し上げると「当面は低金利が続くでしょう。しかし、国債の信用不安などで、突然に急上昇する可能性があります。それは、すぐ起きるのか、10年後、20年後に起きるのか、あるいは起きないのかは、わかりません」となります。つまり、低金利が続くことを念頭に置きながらも、金利の急上昇に対する備えをしておかなければならないと考えます。実際、ギシリャをはじめ、イタリアやスペインでは、短期間に金利が急上昇しています。日本政府の累積債務は、これらの国よりも高く、いつ国債の暴落が起きてもおかしくないと指摘する専門家も少なくありません。もちろん、その指摘も当たるかどうかはわかりませんが、そのようなリスクは常にあり、変動金利で住宅ローンを組むということは、このリスクを抱えることだと認識しておく必要があります。

<南ヨーロッパ各国の金利の上昇>

2010年10月 最高値 最高値までの時間 上昇幅 上昇割合
イタリア 3.73% 7.23%(2011年11月) 13ヶ月後 3.50% 1.94倍
スペイン 3.99% 7.62%(2012年7月) 21ヶ月後 3.63% 1.91倍
ギリシャ 8.78% 36.56%(2012年3月) 17ヶ月後 27.78% 4.16倍

各市場データより作成

では、固定金利で借りる方がよいのでしょうか。固定金利であれば、最後まで金利が同じで、返済額も決まっています。家計の設計がしやすく、金利(住宅ローンの返済額)が上昇するという心配がありません。そのため、住宅ローンは固定金利で借りるべきだとアドバイスする専門家もいます。「心配ない」という点ではその通りですが、固定金利は変動金利に比べると、かなり高いのが現状です。先ほどご紹介した「フラット35」を利用しても、変動金利の2~3倍の金利です。実際、最近では住宅ローンを組む人の7割程度は変動金利を選んでいます。「固定金利なら心配ない」と言われても、金利差(返済額の差)を見ると、固定金利に踏み切れない人も多いのではないでしょうか。
「現在のような低金利の状況では、固定金利を選んだ方が有利です。低金利の後には、やがて金利は上昇します。そうなると、変動金利は上がってしまうからです。」というアドバイスもあります。しかし、これも〝予想〟に基づいたもので、あまり当てになりません。実際、このようなアドバイスは、金利が下がり出した20年前から言われていました。「これだけ低金利になったのだから、今が金利の底です」と。結果は、どうでしょう。ますます金利は下がり、変動金利で借りていた方が圧倒的に〝得〟となりました。固定金利で借りた人は、「借り換え」を行うことで、金利低下のメリットを享受することができましたが、始めから変動金利を選んでいた方がはるかに〝得〟をした上、借り換えの手続きなどの手間も必要ありませんでした。金利が明らかに低下したため、借り換えをする人が多かったのですが、金利が現状維持で変わらなかったら、ずっと高い金利を払うことになったでしょう。

2.変動金利を選んでもよい人

では結局、固定金利と変動金利、どちらで住宅ローンを組んだ方がよいのでしょうか。〝得〟と言う面では、圧倒的に変動金利の方がよいでしょう。ただし、変動金利で借りるということは、金利上昇のリスクを抱えることになります。そのリスクに対応できる人は、変動金利で借りるとよいでしょう。しかし、金利上昇のリスクに対応できない人は、変動金利で借りてはいけません。高くても固定金利で借りるようにしましょう。
先ほども申し上げましたが、住宅ローンはご自宅が担保になっています。ローンの返済ができずに、自宅を手放すようなことは何としても避けたいものです。そのためには、金利が上昇した時に対応できるかどうかで、金利タイプの選択をしたいものです。当てにならない〝予想〟で金利タイプを選んではいけません。

では、金利上昇のリスクに対応できる人とは、どのような人なのでしょうか。ここでは3つ挙げておきましょう。金利上昇リスクに対応できる人ということは、変動金利で住宅ローンを組んでもよい人、ということです。

1 預貯金をかなり残して住宅ローンを借りた人

住宅を購入する場合は、なるべく頭金を多くして、ローンを少なくするのが鉄則ですが、中には、預貯金をかなり残して、住宅ローンを多めに組む人もいます。何かあった時のために手元にお金を残しておきたい、という考えです。金利が低いので、多めに借りても大した負担にならない、という理由もあるでしょう。そのような人は、金利が急上昇した時に、残しておいた資金を使って、繰り上げ返済をすることができます。繰り上げ返済には、「返済期間短縮型」と「返済額軽減型」の2つがあります。「返済期間短縮型」の方が利息軽減効果は大きいのですが、この場合は「返済額軽減型」を利用します。すると、金利が上昇しても返済額の上昇を抑えることができます。金利が急上昇した場合に怖いのは、返済額が高くなりすぎ、返済できなくなることです。繰り上げ返済をすることで、返済ができなくなる事態を回避することができます。

2 控えめに住宅ローンを組んだ人

ご自身の年収などから考えると、もっと住宅ローンを多く借りて、高い物件を選ぶこともできたのに、安い物件を選び、抑え目にローンを組んだ人です。この人は、家計に余裕があるので、ある程度返済額が上昇しても、対応ができるはずです。さらに、金利が上昇するまでの間に、貯蓄もできますので、繰り上げ返済をすることもできるようになるはずです。金利が上昇した時に「返済額軽減型」の繰り上げ返済をすれば、返済額の上昇を抑えられます。

3 返済期間が短い人

住宅ローンは最長35年で組むことができ、30年以上となるのが一般的です。しかし、中には、10年、20年のローンを組んで、短期で返済する人もいます。このような住宅ローンを組んだ人も、金利の上昇に強い人です。返済期間が短いローンの場合は、元金の返済が早く進みます。元金の返済が進むと、金利が上昇しても、返済額の上昇は少なくてすみます。仮にローンの金利が2倍になったとしても、返済額は2倍にまではなりません。利息部分は、残っている元金部分に金利を掛けて算出するからです。

3.畠山様の場合

では、畠山様の場合は、どちらでしょうか。購入を検討されている物件は、3,500万円のもので、ご夫婦の収入状況から考えても、けっして抑え目の物件ではありません。現在の低金利のおかげで、変動金利だと楽に返済ができそうに見えます。しかし、金利が上昇した場合を考えると、実はけっこう背伸びをした買い物となっています。試しに、金利が上昇した場合の返済シミュレーションを見てみましょう。

<変動金利でのシミュレーション>

現在 5年後 10年後
金利 0.9% 3.9% 6.9%
毎月の返済額 55,529円 82,606円 110,769円
ボーナス返済額 166,854円 248,865円 333,906円

金利が、5年後に3.9%、10年後に6.9%と、3%ずつ上昇するという前提で、返済額がどのくらいになるか、試算してみました。「そんなに金利は上がるのか」と考える人もいることでしょう。イタリアやスペインの状況を踏まえると、もっと厳しい前提をしたほうがよいかもしれません。しかし、ここで問題なのは、そうなるかどうかを〝予想〟することではなく、なった場合に対応ができるかどうかを見極めておくことです。自宅が担保となっている以上、「予想以上に金利が上がったので、返済できません」では、済まないからです。
現在の金利水準では、管理費・修繕積立金を含めても今の住居費とそれほど変わりません。しかし、金利が上昇すると、かなり負担が重くなります。お子様の教育費が増えることを考慮すると、返済が難しくなると考えられます。安易に変動金利のリスクをとれる状況ではなく、「②控えめに住宅ローンを組んだ人」には該当しません。

現在の貯蓄は500万円で、そのうち300万円を頭金に充当します。200万円は手元に残しておくのですが、これは万が一のための予備資金であり、将来のお子様の学費準備でもあります。金利が上昇した時に、安易に繰り上げ返済に充当するわけにはいきません。先ほどと同じ状況でシミュレーションをすると、5年後、10年後の金利上昇時に、返済額が上昇しないようにするには、それぞれ800万円程度の繰り上げ返済が必要となります。よって、「①預貯金をかなり残して住宅ローンを借りた人」にも該当しません。

<「返済額軽減型」の繰り上げ返済をした場合のシミュレーション>
(5年後、10年後に800万円の繰り上げ返済を行う。)

現在 5年後 10年後
金利 0.9% 3.9% 6.9%
毎月の返済額 55,529円 57,450円 36,000円
ボーナス返済額 166,854円 173,077円 109,000円

※10年後の返済額は概算値

ご計画でも35年ローンとされているように、もともと長期の返済計画となっていますので、その点からも変動金利には向いていません。返済期間を短くすると、金利が上昇した場合の返済額の上昇幅は小さくなりますが、もともとの返済額が大きなものですので、返済が楽なわけではありません。無理に、20年ローンなどにしてしまうと、当初から返済が困難になりますし、そもそも融資が銀行の審査ではねられる可能性があります。「③返済期間が短い人」にも当たりません。

<返済期間を20年とした場合のシミュレーション>

現在 5年後 10年後
金利 0.9% 3.9% 6.9%
毎月の返済額 91,089円 112,643円 129,212円
ボーナス返済額 273,735円 339,927円 391,205円

最後に、固定金利で住宅ローンを組んだ場合のシミュレーションを見てみましょう。住宅金融支援機構の「フラット35」を利用するものとしました。

<固定金利でのシミュレーション>

現在 5年後 10年後
金利 2.50%
毎月の返済額 71,499円
ボーナス返済額 215,194円

固定金利では、「フラット35」を利用しても、現在の変動金利よりも返済額が高くなっています。この金額では、今は何とか支障なく返済できるものの、お子様の学費がかさむ時期を考えると、多少心配な面もあります。これから家計の見直しをして乗り越えていくという意気込みがあればよいのですが、不安なようでしたら、購入金額を引き下げるなど、計画の見直しが必要です。
それでも、固定金利は返済額が確定しており、金利上昇のリスクがありません。現在の返済額だけを見て、安易に変動金利を選んではいけません。もし、固定金利でのシミュレーションで、返済に不安がある場合は、購入予定金額を引き下げるべきでしょう。変動金利は、固定金利での返済に余裕がある人が選択できるものであり、固定金利での返済が難しい人が選ぶものではありません。この点をくれぐれも心にとめてご検討ください。

なお、変動金利と固定金利の2つのローンを組むことができる金融機関もあります。それぞれのローンを組んで、金利が上昇した場合には変動金利、上昇しなかった場合は固定金利のローンで繰り上げ返済をする、という方法もあります。もちろん、この場合も金利が急上昇しても対応できるかどうかのシミュレーションをしておくことが前提となります。