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資金援助しようというのに住宅購入に関心の薄い娘夫婦。
持ち家か賃貸か、アドバイスをお願いします。
井上 信一先生 (いのうえ しんいち) プロフィール |
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大山 京子さん(仮名 61歳 主婦)のご相談
31歳になる次女夫婦に住宅購入を勧めており、その資金援助も検討しています。
この先、住宅価格が騰がるかもしれないのなら、家賃を払い続けるより早めに購入してしまうのが良いと思いますし、援助予定のお金もこのまま預金で寝かしておくのは勿体ないと考えているからです。
また、現在の賃貸住居の近隣に購入すれば、娘の夫も徒歩で通勤でき、自動車も1台の保有で済みますので、時間的にも金銭的にも節約できると思われます。
ですが、肝心の娘夫婦は、今の家に満足しているのか関心が薄く、もし家を持つとしても現住居より離れた場所を希望しています。
持ち家の価格が上昇する可能性と、住宅購入の判断は娘たちに任せるべきなのかどうか、アドバイスをお願いします。なお、私どもは長女に婿を取っており、次女夫婦と同居する予定はありません。親心として援助したいという気持ちだけです。
税金面でのアドバイスは、助言を頂いておりますので大丈夫です。
大山さんの次女家族のプロフィール
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住宅購入を損得だけで考えるのは危険です。
一つの題材として、ライフプランを親子でよく話し合いましょう。
一つの題材として、ライフプランを親子でよく話し合いましょう。
大山様、このたびはご相談をお寄せ頂きまして、誠にありがとうございます。
親御様の暖かい気持ちやご不安は、お嬢様にも充分伝わっていることと存じます。
さて、マイホーム取得は、人生の中でも最大級のイベントです。
当人の意識が、‘腹にスッと落ちた時’こそ、最善の購入タイミングといえますし、最終的にそれを決めるのは、やはりご本人達です。ですが、住宅購入のご経験者からみれば、その判断時期を逸しているのではないか等、ご心配も少なくはないでしょう。
以下に、住宅購入のポイント等を記載させて頂きます。
お嬢様夫婦へご助言される際や話し合われる際の材料として、または、お嬢様夫婦が抱えておられるかもしれない心情を汲む一助として、ご参考にして頂ければ幸いです。
持ち家と賃貸について
持ち家と賃貸との金銭的な損得の比較は、購入価格やローンの組み方等の条件次第でいかようにも変わります。よって、一様に比べることはできません。
ですが、次の計算式でシミュレーションすることができますので、現在の家賃を払い続けるよりも、長期的には“買った方が安く済む”ためのプランを立てることは可能です。
住宅購入費用総額 = 物件価格 + 付帯諸費用や維持費の総額 + 借入金の利子総額
この計算式から、自己資金や援助資金が多い場合には借入を減らせる分、利子も少なく済むので、高めの物件予算を組めます。逆に、資金が少なければ一定額の借入に頼ることになり利子も増えるので、物件予算自体を落とす必要があります。こうして得た費用総額が、一定時期までの賃料総額の試算より低めになるよう調整すれば良いわけです。
しかし、既に決まった購入プランを提示され、賃貸の場合よりずっと割高になることが懸念されるケースも、実際にはたくさんあります。
どれだけ工夫してローン返済期間を短縮させようと、完済の頃には建物や住む人の寿命等により、補修、改築、住み替え等で新たな出費を要する場合が多いためです。完済したら家だけが残ってあとの住居費はかからなくなるかというと、なかなかそうはいかないものです。
さて、今後の物価や金利がいつ騰がるのかは残念ながら予測できません。足元では資材や建築工賃等の価格は値上がりしていますし、全国主要都市の地価も上昇に転じ始めていますが、金利については益々低くなっている状況です。
いつか物価や金利が本格的に高騰する状況が訪れるとしても、現に住んでいる住宅の家賃は、家主が一方的に値上げすることは難しいでしょうから、影響は限定的になる可能性があります。
一方、いずれ購入する予定があるのなら、今のうちに買っておくのはベターな選択といえそうです。
マイホーム購入を決める際に考えておきたいこと
家を購入すると、確かに一定の安心を確保することができます。
ですが、そこが終の棲家になるとは限りません。
子が独立して夫婦2人に戻った時の広すぎる間取りや、要介護期への備え等から、いずれ住み替えを考えねばならない可能性もあります。
一方、今でも全国で空き家は増えています。今後は世帯数も減少に転じ、ますます家余り状態が進むと思われます。余程に恵まれた物件や経済環境でなければ、住宅の購入と転売・転貸を短期的に繰り返していくことは困難でしょう。
よって、これから先は、老後に新たな金銭的価値を生み出せる資産性の高い住宅選びが求められます。 いずれ売却する、人に貸す、あるいは土地等を担保に銀行から生活資金の融資を受ける等が可能な家でなければ、老後の頼もしい財産にはなり得ません。
一方では、その家に長く住み続ける決意や覚悟が、家族全員に必要です。
職場も学校も、家の立地に少なからず縛られます。ご近所との付き合いや子育ての環境も、選んだ居住環境の影響を強く受けます。
こうして考えていくと、住宅の購入とは単にお金の問題だけでなく、家族全員の人生に深く関わってきます。仕事から子の進学等に至るまで、今後のライフプランをじっくりと見定めねばたやすく決められることではありません。
家を買うことは、ライフプランを考えることに他ならないといえますね。
昔は仕事でも終身雇用が当たり前であったように、手に入れた家を軸に家族のライフプランが形成されていきました。ですが、仕事も住環境も、暮らしに関わるあらゆる価値観が、以前より多様な世の中です。それ故、ライフプランを定めるのが難しいといえるのかもしれません。
お嬢様ご夫婦の場合を振り返って
お二人がどのように考えておられるのかを推し図ることはできません。
実は、ご主人か奥様が、仕事に対する転機を求めているのかもしれません。2人目の子をお考えかもしれませんし、まだ幼い子の進学や子育て環境を決めあぐねているのかもしれません。もしかしたら、呑気に構えているのかもしれません。お二人ともまだ若いので、将来のライフプランを真剣に考える時期ではないと思っているのかもしれません。
あるいは、ライフプランそのものの必要性に気づいていないだけなのかもしれません。
妻の親からの援助が相対的に多い場合、必然的に住宅は妻名義分を多く登記する必要があります。ご夫婦仲の良いほど、そういったことを気にされる方もいます。
しかし、住宅購入については方針が定まらなくても、将来設計は早めに確立しておくのが望ましいといえます。金銭的な損得の話も大切ですが、むしろ生活設計の大切さについて、人生の良き先輩である親と、その子が話しあう意義はとても大きいでしょう。
最後に(税金面で考えられること)
税金面でのご心配は不要とのことですので、以下はご参考として。
まず、消費税関連については今からでは遅いのかもしれませんが、10%への増税前に購入するに越したことはありません。しかし、いざ増税になれば景気後退を国が危惧し、さらなる住宅促進政策が打たれる可能性もあります。
お嬢様への住宅資金贈与については、一定の省エネ・耐震住宅の購入・建築であれば、年内なら1,000万円の非課税(それ以外の住宅の場合、500万円)の適用を受けられます。
これに、相続時精算課税制度という贈与特例を併用されますと、大山様の場合は贈与時点での課税については憂慮される心配はないと考えられます。
留意点として、これらの贈与特例を享受できるのは、直系の子等であるお嬢様等への贈与に限られます。よって、上記に述べました通り、住宅取得総額のうち、贈与額の割合についてはお嬢様(妻)名義としなければ、多額の贈与税が夫に課せられます。
将来の物価や金利が上がっても、預金金利の上昇も多少は見込めます。
仮にいま住宅を購入しない結論に至ったとしても、お孫さんへ贈与する手立てもあります。
あまり急いで結論を出されるより、この機を良きタイミングと捉えられ、親子で住宅以外のライフプランについても話し合われてはいかがでしょうか。