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低金利が続いている中、住宅購入を検討しています。
固定金利と変動金利、どちらが良いでしょうか。
鈴木 暁子先生 (すずき あきこ) プロフィール |
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小室健太郎さん(仮名 35歳・会社員)のご相談
昨年秋に妻が育児休暇から職場に復帰しました。子どもも乳児の頃を過ぎ少し落ち着きましたので、住宅購入を検討しています。自分たちは、低金利がずっと続いている今、変動金利はとても魅力的だと思うのですが、金利が上がらない保証はないから、固定金利のほうが安心という考え方も否定できません。結局どちらが良いのでしょうか。
小室健太郎さん(仮名 35歳・会社員)のプロフィール
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余裕を持った返済プランが組めるように、
返済額から購入予算を決めて検討しましょう。
返済額から購入予算を決めて検討しましょう。
1.固定金利か変動金利かはケースバイケースです
小室さん、こんにちは。購入を検討される方にとって金利タイプは永遠の課題ですね。ただ、「住宅ローンは固定が良いか変動が良いか」という質問については残念ながら、「こちらです」という回答はできません。
史上最低のローン金利と言われている今、住宅ローン金利は驚くほど低くなっています。現在は固定金利より変動金利のほうが低い金利水準ですが、固定金利が2%、3%の頃から比べれば現在の固定金利でも夢のような数字で、借換え手数料を払っても借り換えたほうがおトクになるくらいです。固定金利の高さはまさに安心料ですが、それくらい固定金利の水準も下がってきています(=安心料が安くなってきています)ので、固定金利を選択するのも悪くはないと思います。
よく「金利上昇が不安であれば、固定金利が安心」と言われます。確かにそれは正しいのですが、一方では不親切な答えだと思います。2006年にゼロ金利政策が解除された時、多くの住宅購入希望者はその後の金利上昇リスクに備え、変動金利よりも利息負担は大きくなりますが、長期固定金利を選択していました。ところがその後も金利は下がる一方。結果的に「変動にしておけば良かった」と思った人も少なくありません。このように金利は誰にも予測できません。ただし「上昇が心配だから固定金利」と結論づけるのは早急で、やはり家計状況を見た上で判断すべきです。
2.余裕を持った返済プランであれば変動金利も検討可能です
住宅ローンの利息負担を変動させる要因を考えてみましょう。
利息負担は「借入金額が大きいほど」「借入期間が長いほど」大きくなります。つまりもともと余裕を持った返済プランであれば、変動金利を検討する余地は十分にあります。私は変動金利を選択しても良いご家庭かどうかを、以下のポイントで見ています。
①貯蓄力がある家計か?
小室さんご夫妻は、今後も共稼ぎを希望されているので、貯蓄がしやすい家計かもしれません。貯蓄の目安として、固定金利と変動金利の差額分以上です。もし、変動金利が固定金利を超えるような金利動向になりそうであれば、固定金利へのシフトを検討することになりますが、当然現在より利息負担は大きくなり返済額はアップします。最低でも固定と変動の金利差分を貯蓄できている家計であればアップした返済額にも対応できますよね。また、幸い金利がそれほど変わらなければ、その分の貯蓄を繰り上げ返済に充てることも可能です。
ちなみに「金利が上がりそうなら固定に借り換えれば良い」と思っている方は多いのですが、実は金利は長期金利から上がります。住宅ローンは長期金利に連動していますので、借り換えようと思った時にはすでに固定金利も上がっていることに注意しましょう。
②借入期間が短い
借入期間=金利変動リスクにさらされる期間です。したがって借入期間が短いほどそのリスクは低くなります。ただし、30年、35年で借りて繰り上げ返済などで期間を短縮することはしやすいですが、逆に返済が苦しくなったからといって返済期間を延長するということはそう簡単に考えてはいけません。期間を延長すれば、その分総返済額は増えることになります。最初から15年、20年でローンを組んでしまうよりは、余裕を持った返済ができる期間で設定し、繰上げ返済で短縮させるほうが良いでしょう。もちろん繰り上げ返済が可能かどうかは、あらかじめ上記1)のように貯蓄体質の家計か、キャッシュフローなどで総合的に見てから判断することは言うまでもありません。
③借入金額が少ない
借入金額を少なくすれば、当然負担利息も少なくて済みます。もしご両親から住宅資金を贈与してもらえるなど、物件価格に対し十分な自己資金を準備でき、借入額を少なくできれば変動金利を検討する余地はあります。
3.奥様が債務者になれば選択肢も広がります
ところで小室さんご夫妻は共稼ぎですが、住宅ローンは健太郎さんがお一人で組むのでしょうか、奥様も借入れるのでしょうか?ご夫婦で住宅ローンを組むのであれば、また選択肢は広がります。たとえば夫婦二人で2本のローンにするのであれば、6~7割を変動金利で健太郎さんが借り入れ、残りを固定金利で奥様が借りるというように、固定金利の安心感と、変動金利のおトク感を両立させることも可能です。
このようなケースでは変動金利で借りる分をあまり多くしないとか、多めにしたなら、金利動向を見ながら繰り上げ返済する優先順位を決めるなどの工夫で、金利上昇リスクを軽減することができます。
また、奥様は完済するまで原則退職しないことも重要なポイントです。
※住宅購入時、登記する持ち分比率とそれぞれの返済比率が大きくかけ離れないようご注意ください。場合によっては、返済負担比率よりも多く登記した方への贈与>と見なされて贈与税がかかることがあります。
4.まずは「予算決め」ありきです
お子さんがまだ小さく、今後の進路によって教育費の負担も大きく変わってきます。4年制大学まで進学したとすると、小室さんご夫妻が54~55歳の頃まで教育費の負担があります。2人してそちらの支出に注力していると老後資金の準備がおろそかになってしまいます。金利選択はもちろん重要ですが、余裕のある返済プランであるためには、やはり返済額から予算を決めることが重要です。その際には、借入金全額を金利水準が高い固定金利で借りるものとして試算すると良いでしょう。固定金利の水準で返済できるのであれば、それより低い変動金利を選んでも大丈夫だからです。
先日、日本の長期金利が史上初めてマイナス金利をつけました。住宅ローン金利は長期金利に連動するので、すでに金利の引き下げを発表、検討している金融機関もあります。小室家にとってはマイホーム購入の後押しになると思いますが、楽観的になって予算を上げたりすることのないよう、冷静に堅実な購入プランを立てていきましょう。