年利2.6%の住宅金融公庫のローンと1%の銀行ローン、どちらから繰り上げ返済するのがいいのでしょうか。


山下 和之先生 プロフィール
長らくマイホーム関連の不動産会社、金融機関、そして実際にマイホームを買われた一般の方々など、多方面の取材に携わってきた経験を生かして本音でお答えします。効率的なマイホームの頭金づくりから、ローン破綻に陥らないローンの組み方、少しでもトクする返済方法まで何でもご質問ください。

上坂 雄太郎さん(仮名)のご相談

2年前に住宅金融公庫1280万円(35年返済、年利2.60%)、銀行ローン2680万円(25年返済、年利1.00%)のローンを組んでマイホームを買いました。銀行ローンは固定金利選択型3年もので、来年には金利が上がりそうです。手元に700万円の貯金があって、毎年200~300万円ほど貯蓄できるので、繰り上げ返済したいのですが、金利の高い公庫から繰り上げ返済するのがいいのでしょうか。固定金利選択型の金利アップが怖いので、来年預金が1000万円になった段階で、銀行ローンにまとめて繰り上げ返済するほうがいいのかと迷っています。それと、勤務先が外資系企業で雇用調整が頻繁に行われるため、若干将来への不安もあります。どれくらい手元にお金を残しておけばいいのか、その目安も教えてください。

上坂 雄太郎さん(仮名)のプロフィール

41歳、会社員。奥様は専業主婦。10歳の長男、5歳の次男の4人家族。

上坂さんの相談のポイント

  • 手元にどれくらいのお金を残しておけばいいのか
  • 公庫と銀行のどちらから繰り上げ返済すべきか
  • 繰り上げ返済するとローン控除が減らないか

繰り上げ返済でトクするためには公庫から繰り上げ。金利上昇リスクに対応するには銀行ローンを減らす手も考えられます

万一に備えて半年から1年程度の生活費は残しておく

こんな時代ですから、いつリストラに遭わないとも限りませんし、病気やケガのリスクもあります。一般的には収入が途絶えても、半年分程度は生活できるお金を残しておくべきだと思いますが、上坂さんのように会社への不安がある場合には、念のため1年分程度の生活費に増やしておくほうが安心かもしれません。900万円の年収で年間200万円から300万円の貯蓄ができるそうですから、実際の年間支出が600万円として、その半分の300万円は残しておくのが無難ということになります。そこで、

  1. 貯蓄700万円のうち、300万円を残して、400万円繰り上げ返済する
  2. 貯蓄が1000万円になるまで1年待って、1年ぶんの生活費600万円を残して、400万円繰り上げ返済する

の二つの方法を考えてみましょう。

繰り上げ返済はできるだけ早いほうがトク

繰り上げ返済では、1.金利が高いローンほど、2.残存期間の長いローンほど、3.残高の多いローンほどトクする金額が多くなります。上坂さんの2つのローンを比較すると、このうち金利、残存期間では公庫から、残高では銀行からになりますが、金利差が大きいため、残高が少なくても、公庫から繰り上げ返済するほうが得策のようです。返済開始から24回経過後に、約400万円を繰り上げ返済すると、公庫なら約14年も返済期間を短縮でき、支払い利息を約383万円もカットできます。これに対して、年利1.00%、25年返済の銀行ローンでは、期間短縮は約2年にとどまり、カットできる利息も約97万円です。いますぐ繰り上げ返済するのなら、やはり公庫融資が得策ということです。

1年待つとトク金額は17万円減る

一方、手元に残すお金を考慮して繰り上げ時期を1年遅くすると、公庫の場合には約400万円の繰り上げ返済でも、トクする金額は約366万円に減ってしまいます。同じ400万円でも、利息カット効果は17万円ほど減少してしまうわけです。手元にいくらのお金を残すべきかという問題を度外視して考えた場合には、やはりいますぐ、公庫融資にまとめて400万円を繰り上げ返済するのが得策ということになります。

年間所得税が約23万円なら控除に影響なし

上坂さんはローン控除が減るのではないかと心配されていますが、いまのところ影響はなさそうです。年収900万円で、扶養家族が3人いるので、年間の所得税は約23万円。ローン控除で還付される所得税はこれが上限になります。約400万円の繰り上げ返済によってローン残高が減っても、まだ3000万円以上が残っています。還付額は年末ローン残高の1%、年間所得税額のどちらか低いほうの金額になりますから、所得税額が変わらないとすれば、還付金も約23万円で変わりません。これは、繰り上げ実行時期が今年であれ、来年であれ、違いはありません。

固定金利選択型には大きなリスクがある

とはいえ、上坂さんがご指摘のように、銀行ローンには金利上昇リスクがあります。現在は金利1.00%ですが、この固定金利期間は3年。来年には金利が見直されます。現在の固定金利選択型3年ものの金利は2.25%、仮にこのまま金利が変わらない場合には、0.1%の金利優遇で2.15%になります。当初の返済額は毎月10万1001円ですが、2.15%に上がれば返済額は11万3826円になります。このところ長期金利は上昇傾向にありますから、来年には1~2%上がってしまう可能性も視野に入れておくべきでしょう。もしも2%上がって4.15%になると、返済額は13万8358円で、37.0%の増額ですから、家計に影響が出てくるかもしれません。

銀行ローンを減らしてリスクを小さくする手も

トクする金額は小さくなっても、銀行ローンを繰り上げ返済して、リスクを小さくするのも一つの考え方です。特に、雇用面への不安がある場合には、むしろそのほうが安心かもしれません。たとえば、来年、貯蓄が1000万円になるのを待って、銀行ローンを1000万円繰り上げ返済すると、下にあるように、金利が2%上がっても、増額幅は20.0%に抑えることができます。しかも、130回の短縮で、約308万円の支払い利息をカットできます。しかし、会社の事情を考慮すると、それはちょっと不安。やはり、400万円程度の繰り上げ返済に抑えて、手元に600万円ほどは残しておいたほうが安心ではないでしょうか。その場合には、利息をカットできる金額は約90万円に減少しますが、それでも、金利上昇による増額幅はかなり小さくできます。とにかくトクする金額が多くなるよう、いますぐ公庫融資を繰り上げ返済するか、会社の事情を考慮して、1年待ってから銀行ローンを減らすか、ご家族でよく相談してから決めるようにしてください。

上坂さんの住宅ローン

金融機関 借入額 金利 返済期間 毎月返済額 現在の残高
 住宅金融公庫 1280万円 2.60% 35年 4万6448円 1233万9668円
 銀行ローン 2680万円 1.00% 25年 10万1001円 2489万3751円
 合計 3960万円 14万7449円 3723万3419円

繰り上げ返済でいくらトクするか

いつ 金融機関 繰り上げ額 短縮期間 カットできる利息金額
 今(2年間返済)  住宅金融公庫 401万8195円 169回
(約14年)
383万1517円
 今(2年間返済)  銀行 401万2283円 49回
(約2年)
96万6766円
 来年(3年間返済)  銀行 1004万7176円 130回
(約11年)
308万2954円

3年経過後の銀行ローンの金利アップと返済額の増加

1. 繰り上げ返済しない場合

金利 返済額の変化
2.15% 11万3826円 (12.7%のアップ)
3.15% 12万5745円 (24.5%のアップ)
4.15% 13万8358円 (37.0%のアップ)

2. 約1000万円繰り上げ返済した場合

金利 返済額の変化
2.15% 10万8118円 ( 7.0%のアップ)
3.15% 11万4559円 (13.4%のアップ)
4.15% 12万1230円 (20.0%のアップ)

3. 約400万円繰り上げ返済した場合

金利 返済額の変化
2.15% 11万1459円 (10.4%のアップ)
3.15% 12万1076円 (19.9%のアップ)
4.15% 13万1171円 (29.9%のアップ)