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来年、子ども2人が大学と高校に入学します。
将来私にもしものことがあった場合、その先は大丈夫でしょうか?
村井 英一先生 (むらい えいいち) プロフィール |
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金田 誠さん(仮名 44歳 会社員)のご相談
来年、長男が大学に、長女が高校に入学する予定です。今後、入学金や授業料などで教育費がかなりかかりそうです。二世帯住宅で両親と同居しており、住宅ローンの支払いがまだ16年残っています。今の自家用車は9年目で、来年には買換えを希望していますが、可能でしょうか。また、もし私に万が一のことがあった場合のことを考えると、不安があります。
金田 誠さん(仮名 44歳 会社員)のプロフィール
収入(単位:円)
支出
生命保険
金融資産
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教育費の負担が重くなりますが、現状ではそれほど心配はありません。
ただし、ご主人様の「もしも」には、保障重視タイプの生命保険加入を。
ただし、ご主人様の「もしも」には、保障重視タイプの生命保険加入を。
1.家計の状況をシミュレーションしてみましょう。
来年の受験に向けて、ご長男もご長女もがんばっておられることと思います。お子様には、それぞれ希望する進路を歩んで欲しいと思う反面、教育費の負担も心配ですね。
まず、教育費がかさむ高校・大学の時期がお二人のお子様で重なっていますので、その時期に家計が耐えられるか、という問題があります。この時期に、貯蓄が底をついてしまうご家庭も少なくありません。そのような可能性がある場合には、早めに家計の見直しをして教育費の準備をしておくとか、場合によっては奨学金や教育ローンを活用するとかの対策が必要となります。
次は、お子様が独立し、ご自身が退職された後、老後の資金が枯渇することはないか、という問題です。なんとか教育費の負担が重い時期を乗り切っても、無理を重ねていると、そのしわ寄せは老後にまで及びます。その結果、子どもに生活資金を頼るようになっては、本末転倒です。老後というとまだ先のようですが、その頃の生活資金は、今の家計の状況によって左右されるといえるでしょう。
そしてもう一つ考えておかなければならないのが、金田様もご心配されているように、ご自身に万が一のことがあった場合に、遺されたご家族がつつがなく生活し、お子様が希望の進路を歩むことができるかです。いつ、どのような状況になってもご家族が路頭に迷うことのないように、最低限の備えはしておきたいものです。
このような疑問を解決するためには、今後にどのくらいの支出があり、家計の状況がどうなるかをシミュレーションすることが大切です。金田様から伺った、現在の状況での家計の今後を予想してみましょう。
シミュレーションの前提条件
- ご主人様の給与は50歳まで年率1%の上昇、奥様は現状維持としました。
- 老齢年金は、夫婦二人の平均的な金額としています。
- 特別養老保険、学資保険の満期金、個人年金の年金額は、保険料から推測しています。
- 基本生活費の上昇率は1%としています。
- 居住費は、住宅ローン返済後に固定資産税と修繕費の見込み額の合計です。
- 教育費は、平均的な数値を使用しています。高校は公立と私立の平均、 大学は私立文系・自宅通学としています。
伺っている内容では不明な点もあります。また、いただいた家計のデータに漏れている支出もあるかもしれません。しかし、その点を考慮しても、金田様の現状ではそれほど将来を心配する必要はありません。金田様のご家族は堅実な生活をされており、家計の状況に無理はありません。これからしばらくの間は、お子様が高校・大学へ進学されるので、支出の増加が続きます。しかし、学資保険や養老保険での積み立てをされていたこともあり、学費の準備は十分にできているようです。そのため、この時期も毎年の収支が赤字になることなく乗り切ることができます。もし、住宅ローンの金利が上昇しても対応でき、すぐさま返済に行き詰ってしまうことはないでしょう。金利の上昇が大きい場合は、繰上返済をして返済額の上昇を抑えることもできます。
そして、老後の状況もおおよそ安心できると考えられます。定年退職後から年金支給までの間は、ほとんど収入がなく、毎年の収支は赤字となります。しかし、お子様の独立以降に毎年黒字となりますので、この間に老後に備えた十分な貯蓄ができます。また、住宅ローンの支払いが定年時に終わるようになっていますので、老後の生活費を夫婦二人の年金額程度に維持することができれば、老後の生活に不安はありません。
来年、自動車の買換えを希望されておられますが、現在のものを下取りに出しての中古車購入ということで、家計への影響は心配ありません。お子様の進路の都合で、大学が自宅外通学となると、毎年120万円程度の支出増が4年間続きます。その場合は貯蓄が減ってしまいますが、それでも将来枯渇するまでには至らないでしょう。油断して、家計の支出が緩むようなことさえなければ、教育費の負担が重い時期も、将来の老後も安心して生活が送れます。
2.万が一に対する備えを
しかし、金田様ご自身に万が一のことがあると、途端に状況は変わります。毎年の収支は赤字となり、死亡退職金(ここでは1,300万円としています)をもらっても、奥様が70歳前後で貯蓄は底をついてしまう計算になります。
<万が一の場合の将来の家計状況(グラフ)を別ウィンドウで表示>
会社員である夫に万が一のことがあると、遺された遺族には遺族厚生年金が支給されます。子供が18歳までの間は遺族基礎年金も支給され、その後は中高齢寡婦加算という年金もあります。さらに、住宅ローンは団体信用生命保険によって以降の返済が免除されます。このように、万が一に備えたさまざまな制度があります。しかし、それでも現状では万が一の場合の備えが少し不足しているようです。
幸いにも、現状での家計にはある程度の余裕があります。比較的安い保険料ならば、今の支出に加わっても、それほどの負担にはならないでしょう。万が一の場合に備えて、ご主人様を対象とした生命保険に加入されることをお勧めします。既に金田様のご家庭では多くの保険に加入されており、保険料は合計で月額6万円近くにもなっています。さらにこの上、保険への加入が必要なのかと思われるかもしれません。そこで、保険の内容をその特徴から考えてみましょう。
保険には、大きく分けて2つのタイプがあります。1つは保障重視タイプで、もう1つは貯蓄重視タイプのものです。
保険商品のタイプ別分類
特徴 | 主な商品 | |
保障重視タイプ | 少額の保険料で大きな保障が得られる。 保険料は掛け捨て。 | 定期保険(収入保障保険)、医療保険、 がん保険、火災保険、傷害保険 |
貯蓄重視タイプ | 保険料が高いものの、それほど大きな保障ではない。いつか必ず保険金、または満期金が出る。 | 終身保険、養老保険、個人年金、 学資保険、積立傷害保険 |
死亡した場合に遺族に保険金が出る生命保険でも、定期保険と終身保険では異なります。
定期保険は、10年間あるいは60歳までなどの一定の期間には保障がありますが、それを過ぎると保険は消滅し、全くお金が戻ってきません。いわゆる「掛け捨て」の保険で、保障重視タイプの保険であるといえます。医療保険や火災保険なども掛け捨て(一部にある程度の満期金が出るものもあります)の保険で、保障重視タイプです。
それに対し、終身保険は違います。終身保険も遺族の生活保障に備えるものですが、保険期間が一生涯となっていますので、いずれは必ず保険金が出ることになります。そのため、定期保険と比べると保険料は高く、保障は小さくなっています。一方、解約返戻金がある程度ありますので、貯蓄の代わりに使うこともできます。万が一に備えるという面もありますが、それ以上に貯蓄商品としての性格を持っているのです。同様に、満期金のある養老保険や学資保険、そして個人年金も貯蓄重視タイプです。これらの保険は、万が一に対する保障という面もありますが、貯蓄商品としての性格が大きいのです。
この点から、金田様のご家庭で加入されている保険を分類してみましょう。
金田様のご家庭の場合
加入している保険名 | 保険料(月額) | |
保障重視タイプ | がん保険、医療保険、火災共済、生命共済、交通傷害保険 | 13,007円 |
貯蓄重視タイプ | 個人年金、特別養老保険、学資保険 | 46,539円 |
毎月払っているうちの8割近くが貯蓄重視タイプの保険となっています。この46,539円については、保険としての保障を付けながら、積立貯蓄をしていると考えてよいでしょう。保険商品で積立貯蓄をすることには、賛否両論ありますが、金田様の場合は家計が逼迫していることもなく、特別養老保険や学資保険の満期金がお子様の教育費に充当できますので、よい選択であったと思います。ただ、保障重視タイプの保険が少なくなっていますので、保険に加入しているわりに、万が一の保障が少し不足している状況となっています。
3.収入保障型の生命保険なら保険料が安くなります。
シミュレーションで見る限り、1,000万円も保障を加えれば十分です。掛け捨ての保障重視タイプの保険ならば、保険料の負担もそれほどではありません。保険期間は定年を迎える60歳まででよいでしょう。ネット生保の定期保険なら、月額4,000円程度の費用で加入できます。
さらに、収入保障保険だと、月額3,000円程度のものもあります。収入保障保険(家計保障保険ともいう)は、万が一の場合に一度に保険金が出るのではなく、「毎月○万円」というように、毎月に分けて保険金が出る定期保険です。保険金が出るのは、当初の保険期間となっています。つまり、残りの保険期間が短くなると、保険金の総支払額は少なくなります。お子様が独立すれば、当初の保険金ほどの資金は必要ないわけですから、あらかじめ総支払額が徐々に減っていくように設計されているのです。その分、定期保険よりも保険料が安くなっています。
<収入保障保険に加入した場合のキャッシュフロー表を別ウィンドウで表示>
<収入保障保険に加入した万が一の家計状況(グラフ)を別ウィンドウで表示>
それでも、毎月の保険料が6万円を越えることになりますので、戸惑いがあるかもしれません。しかし、今支払っている保険料のうち、多くは「貯蓄」だと考えると納得ができるのではないでしょうか。
金田様のご家庭は、堅実な家計の運営をされています。今の状況をこのまま続けられれば、教育費の重い時期も、老後も心配はありません。例え、住宅ローンの金利が上昇しても、十分に対応ができるでしょう。その上で、万が一に対する備えを万全なものにしておけば、家計に対する不安はなくなることでしょう。ぜひ、今後もしっかりとした家計管理を続けられてください。