母子家庭ですが、子供を進学させることができるでしょうか。


母子家庭ですが、子供を進学させることができるでしょうか。

村井 英一先生 (むらい えいいち) プロフィール
  • いろいろな制度がありますので、進学をあきらめる必要はありません
  • まずはどのくらいの費用がかかるのかを確認しましょう
  • ご本人の努力が必要となる制度が多いので、進学に対する意欲が大切です

江藤 恵子さん(仮名 40歳 会社員)のご相談

母子家庭で、高校生と中学生の子供がいます。私の収入が少なく、毎日の生活で精いっぱいな状況で、まともに貯蓄ができていません。それでも、なんとか進学の夢をかなえてやりたいと思うのですが、無理でしょうか。

江藤 恵子さん(仮名 40歳 会社員)のプロフィール

家族構成 : 本人 40歳 (会社員 年収216万円)
ご長男 17歳 (高校2年生)
ご長女 15歳 (中学3年生)

奨学金、教育ローンほか給付制度もあり進学は可能です。
ただし、利用・給付を受けるには、ご本人の努力と意欲、覚悟が必要。

1. 必要な金額を確認する

江藤様、こんにちは。お子様が中学生、高校生になると、食費はもとより教育費もいろいろとかかります。そのような中、なんとか毎日やりくりされているのではないでしょうか。さらに大学や専門学校へ進学するための教育資金の準備をするまでの余裕は、ないかもしれません。しかし、それでもお子様の希望はかなえてあげたいと考えるのは、親として当然のことであって、けっして無理な望みではありません。
進学費用の工面には、いろいろな方法があります。それらを使えば、預貯金がなくても進学は可能です。どうか、気持ちを前向きに持ってお子様に話をされてください。そして、お子様の希望をかなえることも大切ですが、自身の生活も大切です。将来、ご自身の生活が行き詰り、助けを求めるようになってしまっては、かえってお子様に負担をかけてしまいます。そのため、お子様ご本人にも負担をしてもらうことが必要です。ただ、アルバイトなどで勉強がおろそかになってしまっては、進学した意味がなくなってしまいます。お子様には、十分な意欲と覚悟を持ってもらうようにしましょう。

まずは、進学に際して、どのくらいの費用がかかるのかを確認します。そして、進学のための費用を賄う方法をご紹介しながら、検討をしていきます。大学の学費には毎年、授業料、施設整備費などがかかります。初年度にはこれに加えて入学金が必要となります。文部科学省などの公表データから、4年間大学に通うとなると、以下の費用がかかることがわかります。

国立大学および私立大学にかかる費用

(国立大学は平成24年、私立大学は平成23年)

初年度納付金合計 次年度以降納付金 4年間の合計
国立大学標準額 817,800円 535,800円 2,425,200円
私立大学平均 1,314,251円 1,044,770円 4,448,561円

※文部科学省調査より作成

私立大学の場合は、文系か理系かによっても異なります。専門学校の場合は、修行年限が2~3年が多く、4年制大学よりは総額は少なく済みそうです。しかし、専攻によってかなり幅があり、芸術関係の場合などは比較的高くなっています。さらに、自宅外通学の場合は居住費や生活費も必要です。いずれにしても、少なくない金額がかかることを覚悟しなければなりません。お子様の希望を聞きながら、対応策を考えることが大切です。

2.奨学金を利用する

教育資金が不足する場合の資金調達手段として、代表的なものに日本学生支援機構の奨学金があります。これは、お子様ご自身が借りることになります。日本学生支援機構は以前の日本育英会で、現在では学生3人に1人が奨学金を利用しており、かなり一般的になっているといえます。
奨学金は、第一種(無利息)と第二種(有利子)に分かれており、それぞれ申込みの基準として、学力基準と家計基準があります。当然ながら第一種は厳しく、学力基準は高校での評定平均が5段階中3.5以上となっています。家計基準は給与所得者の目安で、3人世帯で900万円前後(国公立か私立、自宅通学か自宅外通学かで異なります)です。第二種は勉強する意欲を持っていれば学力基準を満たします。家計基準は給与所得者の目安で、3人世帯で1,100万円前後(同)です。江藤様の場合は、家計基準は満たしていますから、あとはご本人の努力と意欲です。なお、親を連帯保証人とし、さらに別の65歳未満の人に保証人になってもらう必要があります。ただし、保証料を払っておくと、連帯保証人、保証人の届けは必要ありません
奨学金は、入学した4月から卒業の月まで、毎月ごとに学生本人の銀行口座に振り込まれます。奨学金の月額は下記の通りです。

月額の貸与額(平成24年度入学者の場合)

国公立 私立
第一種 自宅通学 自宅外通学 自宅通学 自宅外通学
45,000円 51,000円 54,000円 64,000円
第二種 3万円、5万円、8万円、10万円、12万円のうち選択

※第一種では、3万円を選択することもできます。

第一種と第二種を合わせて受けることも可能ですので、自宅外で生活していけるだけの金額を奨学金で確保することもできます。しかし、奨学金はあくまで貸与だということを忘れてはいけません。卒業後には返還が始まります。毎月1~3万円の返済が13年から20年も続きます。最近は、卒業後の就職難から返済が困難になっている人が増えているのが現状です。卒業後にもご本人の努力と意欲が求められていると言えます。
高校3年生のうちに申し込む「予約採用」と大学や専門学校に進学してから申し込む「在学採用」があります。その他、世帯主の失業、災害などによって家計が急変した場合に申し込むことができる「緊急・応急採用」もあります。進学前に申込む「予約採用」は、4~6月と10月、12月の3回の募集がありますが、第一種が申し込めるのは4~6月に実施される第1回目だけです。募集は高校を通じて行われ、進学するかなり前になりますので、くれぐれも注意が必要です。
県や市など、自治体でも独自の奨学金を設けているところが少なくありません。日本学生支援機構との併用が認められているもの、認められないものと、さまざまです。認められないものの場合、応募の時期を考慮しながら、条件が良い方を選ぶことになります。

3.教育ローンを利用する

奨学金は進学した4月から貸与が始まります。ということは、入学金や授業料などの初年度の支払いには充当できません。予約採用で奨学金をもらうことがはっきりしている場合でも、初年度納付金は別途手当てしなければなりません。そこで、教育ローンを検討することになります。
奨学金は学生本人が借りるのに対し、教育ローンは親が借りることになります。民間の銀行でも多くの教育ローンを設けていますが、まずは金利の低い国の教育ローンをご紹介します。

国の教育ローンには、日本政策投資銀行の「教育一般貸付」があります。利用には年収基準があり、給与所得者の場合は子ども2人の世帯では890万円以下となっています。融資金額は子ども1人に付き300万円以内となります。入学金に充当する場合は合格発表前に申し込みができます。返済は15年以内となっており、固定金利です。現在の金利は2.85%ですが、母子家庭は2.05%と低くなっています(平成24年11月現在)。江藤様の場合、年収基準を満たしていますので利用することができますが、以下に述べる生活福祉資金貸付も検討してみましょう。
所得が低い人に対して、社会福祉協議会が融資する制度が生活福祉資金貸付です。いろいろな融資項目がありますが、教育資金貸付もあります。対象は、住民税非課税世帯などとなっています。卒業後6ヵ月後から20年以内での返済となっていますが、金利はかかりませんので、こちらの方が条件は良くなります。入学に必要な資金を貸与する就学支度金と入学後に月額で受け取る就学支援費があります。就学支度金は50万円以内となっています。就学支援費は下記の通りです。

教育資金貸付の就学支援費(月額)

高校 短大 大学
就学支援費(月額上限) 35,000円 60,000円 65,000円

なお、教育資金貸付は学生本人への融資ですので、お子様が借りて、江藤様は連帯保証人となります。
民間の銀行でも教育ローンを用意しています。融資限度額や返済期間は、それぞれの銀行で異なります。固定金利か変動金利か、または選択できるかも銀行によってまちまちです。無担保で利用できますが、金利は住宅ローンよりも高くなっています。江藤様の場合は、国の教育ローンか生活福祉資金貸付が利用できると思われますので、まずはそちらを検討しましょう。

4.その他の制度

奨学金も教育ローンも、お金を借りることには変わりありません。その後の返済が滞ることのないようにしなければなりません。融資を多く受ければ、それだけ返済の負担は大きくなります。 そこで、できることなら利用したいのが、返済をしないでも済む方法です。民間の育英団体の奨学金には、〝貸与〟ではなく、返済の必要がない〝給付〟となっているものがあります。例えば、公益財団法人北澤育英会が行っている奨学金は月額5万円で、返済の必要はありません。ただし、対象となるのは、財団が指定した学校から推薦された学生となっています。民間の育英団体には、さまざまなものがあり、制度の内容や選考時期もまちまちです。調べてみると利用できそうなものがあるかもしれません。

大学で用意している奨学金や特待生制度にもいろいろなものがあります。学費が無料になったり、さらには奨学金が給付されるものもあります。例えば、神奈川大学の給付生は1年次の授業料が免除となる他、毎年100万円が給付されます。自宅外通学の場合はさらに60万円が加算されるようになっています。大学によって、入学してから申し込むもの、入学前に申し込むものがありますので、調べてみるとよいでしょう。
看護師や介護福祉士を養成する学校では、修学資金の貸付制度があります。たいていは学費の他に月額1~5万円程度が貸与されます。そして、卒業後5年以上、指定された施設で勤務すれば、返済の義務が免除されます。理学療法士や作業療法士でも同様の制度があります。
新聞奨学生制度もあります。これは、新聞配達をしながら学校に通う制度で、給与の他に、学費が奨学金として出ます。学費がかからずに給料をもらいながら大学や専門学校に通えるわけです。もちろん、朝夕刊の配達と場合によっては集金などの業務も必要で、その負担は小さくありません。強い意志を持って臨まないと、せっかく進学したものの、卒業できなかったということになりかねません。しかし、住み込みでの仕事ですので、居住費の負担もかからないなど、自宅外通学の場合の経済的な問題を一挙に解決することができます。
経済的なメリットが大きい制度は、選考が厳しかったり、入学後の負担が少なくなかったりと、いずれも本人の相当の努力が必要となります。それだけに、お子様の努力と意欲が問われていると言えましょう。江藤様からお子様へ、このような制度を紹介することで、お子様自身が自分の気持ちを確認するきっかけになるのではないでしょうか。

いかがでしょうか。大学や専門学校への進学には、ある程度まとまった金額が必要になります。しかし、教育費に対する支援制度にはいろいろなものがあり、預貯金が十分に作れなくても、進学をあきらめる必要はありません。しかし、それらを利用するには、進学前だけでなく、進学後、そして卒業後まで強い意欲と努力が必要になります。江藤様のお子様が前向きな気持ちを持って勉学に励み、希望を果たされることを願ってやみません。