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海外赴任で家族と離れて暮らしています。
教育資金がかかる中、どのように老後資金を準備すればよいのでしょう。
鈴木 暁子先生 (すずき あきこ) プロフィール |
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宮本 浩一さん(仮名 43歳 会社員)のご相談
昨年に住宅ローンは完済しました。
これから子供二人の教育費がかかる上に夫婦の老後の資金をどのように増やしていこうかと考えています。長女が中学から私立に行きたいと言っています。子供一人または二人を中学・高校・理系大学と10年間私立に通わせた場合、家計と老後の資金・貯蓄は大丈夫でしょうか?
何かよい方法がありましたら教えて頂きたいと思います。
宮本 浩一さん(仮名 43歳 会社員)のプロフィール
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年間131万円もの使途不明金(交際費?)から貯蓄し、教育資金に
老後資金は財形などの積み立てで
老後資金は財形などの積み立てで
1.家計の見直しの前に、家計管理のしかたを見直してみましょう
宮本さん、こんにちは。現在は海外で単身赴任中とのこと。ご家族と離れて寂しいと思いますが、お仕事頑張ってください。さて、宮本さんがご相談者でいらっしゃいますが、今回診断するのは日本のご自宅の家計(奥様と2人のお子様)ということですね。それではさっそく見ていきましょう。
※以下「ボーナス時、臨時」は年間合計額(単位:円)
【収入(税引き後手取り】 | ||
毎月 | ボーナス時、臨時 | |
夫 | 503,000 | 0 |
妻 | 30,000 | 0 |
収入合計 | 533,000 | 0 |
【支出〈固定費)】 | ||
毎月 | ボーナス時、臨時 | |
住居維持費 | 0 | 240,000 |
車維持費 | 0 | 240,000 |
第一子関連費 | 30,000 | |
第二子関連費 | 18,000 | |
保険料 | 28,000 | |
小遣い | 70,000 | |
固定費合計 | 146,000 | 480,000 |
【支出(やりくり)】 | ||
食費 | 58,000 | |
水道・光熱費 | 25,000 | |
通信費 | 15,000 | |
交際費 | 10,000 | 480,000 |
教養娯楽費 | 10,000 | |
その他 | 0 | |
やりくり費合計 | 118,000 | 480,000 |
支出合計 | 264,000 | 960,000 |
年間収支 | 2,268,000 |
【貯蓄】 | ||
商品名 | 毎月貯蓄額 | ボーナス時、臨時貯蓄額 |
現金 | 80,000 | 0 |
貯蓄額合計 | 0 | 0 |
【貯蓄残高】 | |
商品名 | 合計 |
現金 | 4,820,000 |
外貨 | 180,000 |
貯蓄残高合計 | 5,000,000 |
ご相談にあたりご記入いただいたシートを確認させていただいたところ、毎月の交際費が12万円となっていましたが、これは考えにくい数字ですので1万円に訂正させていただきました(年間12万円の間違いではないでしょうか)。
最初にご返送いただいたシートを拝見した時、普通は収支と貯蓄額にズレがあり、その多寡は別として、いわゆる使途不明金が発生するものですが、宮本さんの家計は、交際費が非現実的な数字であったにもかかわらず、きっちりと合っていました。
逆にあまりにも数字がきれいに整っていたことに経験上違和感を覚えました。
訂正したことで、使途不明金が大きく発生しましたが、おそらくこちらのほうが現状ではないかと思います。
というわけで、まずは今一度家計管理のしかたを見直していきましょう。家計管理をしていないわけではないので、難しくはないはずです。
管理のしかたは奥様がやりやすい方法で良いと思いますが、お勧めは週ごとに締めていく方法です。1か月まとめてですとやはり記憶も薄れたり、レシートも失くしやすいのですが、週ごとであれば量も少ないので管理しやすいと思います。
最初に生活費を1週間分ずつ封筒に分けてしまいます。1週間ごとに予算が決まっている(封筒に入っているお金が限度)ので、「あといくらまでしか使えない」というのが明確です。全体予算で管理しようとすると、どうしても生活費を引き出した直後は支出が多くなりがちです。毎週の支出をコンスタントに平準化することは生活レベルの安定にもつながります。
その際、生活費より先に貯蓄分を引き去ってしまうことがポイント。”残った分=貯蓄”では使途不明金に気づきませんし、希望どおりの貯蓄額は残らないものです。
2.現状のままではかなり厳しい状況です。大胆な家計の見直しも必要になります
収支表をもとに、キャッシュフロー表を作成しました。これは今後何十年かにわたるお金の流れをシミュレーションしたものです。それでは現状のキャッシュフローをご覧ください。
<年金資産の前提条件(ねんきん定期便より)>
○宮本さん
60歳までの加入予定
1号 24月
2号 414月
加入合計 438月
老齢基礎年金:786,500円(本年度の満額)×(438月÷480月)≒717,000円
老齢厚生年金:3,209円×414月≒1,328,000円
※現在221月加入で709,100円なので、1月加入あたり3,209円と仮定
加給年金+特別加算:226,300円+166,900円(65歳~67歳まで)
老齢基礎年金、老齢厚生年金とも65歳から支給開始
↓
65歳~67歳:717,000円+1,328,000円+226,300円+166,900円≒243万円
68歳~ :約204万円
○奥様
60歳までの加入予定
1号 39月
2号 57月
3号 377月
加入合計 473月
老齢基礎年金:786,500円×(473月÷480月)≒775,000円 老齢厚生年金: 90,300円 振替加算:昭和41年4月2日以降生まれに振替加算はなし 老齢基礎年金、老齢厚生年金とも65歳から支給開始
↓
65歳~:775,000円+90,300円≒86万円
なお、宮本さんは現在海外赴任中です。したがって日本での年金保険料が免除になっている可能性があります。ただ、今回は赴任が何年になるか、相手国の年金がどのようになっているかが不明なため、あくまで日本の年金保険料を支払っていると仮定させていただいております。
私立進学となるとこれまで貯蓄していた分がすべて教育資金に流れ、下のお子様が中学進学してから大学を卒業するまでは赤字となり、貯蓄が底をついてしまいます。ただお子様自身が中学受験を希望されているということであれば、それを叶えてさし上げたいですよね。ここは思い切った家計改善が必要と覚悟してください。
では収支表から改善目標を見つけていきましょう。
1)使途不明金(交際費?)の縮小
住宅ローンをすでに完済されたとのこと。これは立派ですね。しかしそうであれば、その分が丸々貯蓄できて良いはずです。年間収支が約227万円に対し、年間貯蓄額は約96万円。131万円もの使途不明金があることになります。このうち何とか100万円分を貯蓄に回すだけでも家計は大きく改善します。
ちなみにここは冒頭でお伝えしたように、当初交際費月額12万円と記載されていたのを月額1万円(年額12万円)としたため発生したものです。したがってもし交際費が月額12万円で正しかったとすれば、これほどの使途不明金は発生しません。しかしその場合でも、月額12万円の交際費というのは明らかに改善すべき費目ですので、いずれにしてもここから貯蓄へ回すようにすることが最優先課題であることに変わりありません。
なお、臨時の交際費で計上されている48万円については、宮本さんの赴任先にご家族で年2回訪問するための費用ですから、このままでかまいません。
2)小遣いの縮小
ご夫婦の小遣いということでお伺いしていますが、これは宮本さんの分もこちらに含まれているのでしょうか。この費目も若干不明な点はございましたが、7万円というのは手取りの10%以上ということになりますので4万円程度を目標にしていただきたいですね。もし奥様の分ということであれば、2万円から多くても3万円の範囲で収めましょう。
3)食費の縮小
こちらも母子3人で6万円近いというのはやや多いと思います。お子様がこれから中学生、高校生と成長されるにしたがい、まだ食費は上がると見込まれますので、現状では4~5万円程度に抑えるよう工夫してみましょう。
これらを改善したとすると、キャッシュフロー表は以下のようになります。
とりあえず黒字になっていますが、ここにはまだ教育費以外の支出しか計上されていません。今後家のリフォームや車の買い替えなど、まだかなりの支出が見込まれ、実際には十分とはいえません。毎年予定通りの貯蓄ができているかキャッシュフローで見直しを継続することが重要です。
3.教育資金準備はお子様の金銭教育の機会にもなります
試算の前提として以下のデータをもとにしています。
【進学コース別学習費】(単位:万円)
高校まで公立 | 小学校から私立 | 中学から私立 | 高校から私立 | |
小学校(6年) | 182 | 879 | 182 | 182 |
中学校(3年) | 138 | 384 | 384 | 138 |
高校(3年) | 119 | 277 | 277 | 277 |
合計 | 439 | 1,540 | 843 | 597 |
※文部科学省平成22年度「子どもの学習費調査」を基に算出、千円単位は四捨五入
【高校~大学の教育費負担】(単位:万円)
入学費用 | 在学費用 | |
国公立大学 | 85 | 116 |
私立大学(文系) | 99 | 148 |
私立大学(理系) | 104 | 180 |
自宅外通学者への仕送り | 102.1 | |
自宅外通学を始めるための費用 | 47.6 |
※(株)日本政策金融公庫平成23年度「教育費負担の実態調査結果」を基に算出、千円単位は四捨五入
※入学費用:受験費用、学校納付金、入学しなかった学校への納付金
※在学費用:年間の学校教育費(授業料、通学費、その他)、家庭教育費(補修教育費、けいこごとなど)
※自宅外通学者への仕送り:在学費用を除く年間仕送り
※自宅外通学開始のための費用:敷金、家財購入など
これはあくまで平均のため、塾代などさらにかかる可能性もあります。実は教育資金と住宅ローン返済で家計がいっぱいいっぱいになってしまい、老後資金まで手が回らないという家計が大変多いのです。
たしかに親が準備できればそれに越したことはありませんが、十分な老後資金が準備できなければ、結果的に後から子どもに負担をかけてしまうことも。発想の転換をしてみましょう。
高校までは親の責任として教育資金は準備するけれども、大学の学費については奨学金を利用するという手もあります。
【日本学生支援機構の奨学金】
第一種(無利息) | 第二種(利息付) | ||
国公立 | 自宅 | 45,000円 | 3万、5万、8万、10万、12万から選択 |
自宅外 | 51,000円 | ||
私立 | 自宅 | 54,000円 | |
自宅外 | 64,000円 |
奨学金は、無利息で貸与してくれるものや利息付などさまざまです。第一種は無利息のため、学力の基準や親の所得制限なども厳しいのですが、利息付の第二種はそれに比べて基準は緩やかです。
また自治体や民間企業、各大学独自で設定している奨学金もあります。奨学金は子どもが借り入れ人となるため、社会人になってから本人が少しずつ返済していくのも金銭教育のひとつといえるでしょう。
また、国の教育ローンなどもありますが、こちらは親が債務者となるため、結局老後資金が貯められないということにもなりかねません。せっかく住宅ローンを完済しているのに、これからまた宮本さんが借り入れをするのは極力避けたいものです。できるだけ最後の手段というつもりでいてください。
なお、運用で準備してはどうかというお考えもあるかもしれませんが、運用で準備しようとするには期間が短すぎます。教育資金は絶対に減らせないものですから、ここは確実に預貯金で準備することをお勧めいたします。
日本学生支援機構:http://www.jasso.go.jp/shougakukin/index.html
国の教育ローン:http://www.jfc.go.jp/n/finance/search/ippan.html
4.老後資金は使える制度を利用し、余裕ができたら運用を
老後資金の準備ですが、まずは家計管理を立て直し、教育資金のメドがたってから。宮本さんの会社には財形制度はありませんか?
財形制度があれば、財形年金を天引きで積み立てられます。元利合計550万円まで非課税ですので、会社員ならではのメリットです。
また確定拠出年金制度が導入されていれば、退職予定までまだ20年近くありますので、掛金で投資信託など多少リスクのある商品を選択することも可能です。
そのような制度がなければ、一般的な運用でということになりますが、基本は積立投資です。やはり預貯金だけで十分な老後資金を作るのは難しいのが現実です。だからといって知識のないものや収益性に惹かれてリスクの高いものに手を出してしまっては元も子もありません。
投資信託もインデックス型(市場に連動するタイプ)でTOPIX連動型や日経平均連動型など、情報をとりやすいものを選ぶと良いでしょう。また外貨MMFなども為替変動リスクがありますから少額でコツコツ積み立てていく方法をとりましょう。
ただし、運用商品を買い付けるということは、その後のメンテナンス(チェック)をマメにしなければいけないということです。現状の家計管理の状態ですと正直まだ心配が残りますので、まずはきっちり資産の把握と管理ができる家計になってからにしてください。
5.おわりに
なお、お子様が中学に入学するようになり、育児も楽になれば、奥様もパートで収入を得ることも検討してみましょう。前出のように改善点を直しても、十分な余裕とはいえません。また、継続雇用についても義務化されました。今40代の方が65歳になった時、支給額が今の水準を確保しているかもわかりません。安全確実にハイリターンを目指すのであれば、就労収入が最も確実です。
そして今後家計管理がしっかりとできるようになり、貯蓄にも余裕が出てきたら、もう少し運用商品を資産に組み込ん
でいってもよいですね。貯蓄を十分用意できれば選択肢も広がります。
住宅ローンを完済していることは、40代の家計にとっては非常に強みです。ご夫婦が離れているので、なかなかゆっくり話す機会もないと思いますが、家計改善には家族が協力し合っていくことが大切です。まずは診断の結果をもとに、ご夫婦のコンセンサスをとりましょう。頑張ってください!