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髙柳 万里先生(たかやなぎ まり) プロフィール |
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木村 詩織さん(仮名 48歳 パート)のご相談
結婚前は約8年間、会社員として厚生年金に加入していました。出産を機に退職し、息子が小学生となってからは週に3日飲食業のパートをしています。今年の『ねんきん定期便』を見ると、これまでの加入実績に応じた年金額の項目に『約60万円』と記載されており、思っていたよりも少ない金額だったため老後の生活が急に不安になりました。夫のねんきん定期便はまだ届いていないので年金見込額はわからない状況ですが、何から手を付けたらよいのか教えて頂けると助かります。
木村 詩織さん(仮名)のプロフィール
・10年前に中古マンションを購入し住宅ローン返済中。(住宅ローンの返済期間は隆さん65歳まで)教育費に関しては学資保険と義父より教育資金の一括贈与にて準備済み。 |
定年後の支出ー収入ー貯蓄=これから準備する金額の目安です。
具体的に将来の暮らしをイメージし、自分なりの資金計画をたてましょう。
具体的に将来の暮らしをイメージし、自分なりの資金計画をたてましょう。
木村さん、この度はご相談ありがとうございます。
ねんきん定期便の「これまでの加入実績に応じた年金額」の欄を見て、「思っていたよりも少ないな」とショックを受ける方は少なくありません。不安に感じるお気持ちはわかりますが、今までコツコツ支払ってきた保険料が反映されている大切な記録です。将来の収入のひとつの目安であることは間違いありません。漠然としたイメージの『老後』の生活に備えるために、基本的な考え方についてお伝えします。
将来の暮らしをイメージしてみましょう
木村さんご夫婦は息子さんが巣立った後の、お二人の暮らしの風景を想像したことはありますか?
将来どこで、どのような暮らしをしているのか具体的にイメージしてみましょう。現在のマンションに引き続きお二人で居住するのか、ご夫婦どちらかの実家にUターンして親世代を介護しつつ同居するのか、はたまた地方移住にあこがれている等、ご夫婦でざっくばらんに話をしてみましょう。すぐに思いつかない場合は、自宅のリフォームや海外旅行等、予定していることややってみたいことを出し合うのも良いでしょう。ご夫婦でやりたいことや、老後の生活のイメージがある程度共有できたら、簡単にリストアップします。将来の暮らしをイメージするためのツールですので、ノートやスマホのメモ等、どのような書式でも結構です。
〈記入例〉
私 現在48歳
夫 現在48歳
- マンションをリフォームし、玄関をバリアフリーにしたい
- お互いの両親を連れて台湾に親族旅行に行きたい
- 息子の結婚資金として100万円援助したい
- 健康維持のため、夫婦でスポーツジムに通いたい
- 2か月に一回は趣味の釣りに行きたい(夫) 等々…
次に、リストアップした各項目についてざっくり予算を見積もります。こちらはあくまで目安ですので、インターネットで調べられる平均額を記入しても良いでしょう。やりたいことが多い場合、その分支出も大きくなります。現実的な資金計画を立てるため、リストアップした項目の中で優先順位をつけ、第三希望までに絞ってみましょう。
例えば優先順位の1位がリフォーム(約500万円)、2位が台湾旅行(6人分で約100万円)、3位が息子さんの結婚資金(100万円)とする場合、木村家の将来のライフイベントの為に準備しておきたい資金は、合計で約700万円となります。
ライフイベントとは?→一生のうちに経験が予想される出来事。就学・就職・退職・結婚・住宅や車などの購入・旅行等
老後資金の考え方
老後資金についての基本的な計算式は、以下のようになります。
支出ー収入ー貯蓄=これから準備する金額
- ・支出→①生活費②医療介護費③ライフイベントその他諸費用
- ・収入→④公的年金⑤退職金/企業年金等
- ・貯蓄→⑥老後資金用の貯蓄
上記計算式にあてはめて、木村さんのご家庭では、いつまでにいくらの老後資金を準備するべきなのか計算してみましょう。
ポイントとなるのが『老後』はいつからいつまでと考えるか、という点です。
木村家の場合、世帯収入のメインである隆さんの退職年齢『65歳』をひとつの節目として考えます。厚生労働省の令和4年簡易生命表によると、65歳男性の平均余命(年齢ごとに、その後何年生きられるかという期待値)は19.44年、女性の場合は24.30年ですので、今回は65歳からの約20年間を老後期間として計算します。
支出について
①生活費
3人家族の現在の生活費は約30万円との事ですが、息子さん独立後のご夫婦の毎月の生活費を約25万円と仮定した場合、
25万円×12ヵ月×20年間=6,000万円
こちらが生活費の総額となります。
②医療介護費
厚生労働省の令和2年度【年齢階級別国民医療費】表によると、65歳以上の年間医療費は73万3,700円です。ただし、公的健康保険に加入していれば、医療機関窓口で支払う自己負担金額は一部となります。最新の公的医療保険制度や公的介護保険制度のしくみを理解したうえで、木村さんの世帯では自己負担の上限金額がどの程度になるか確認してください。今回は、ひとつの例としてご夫婦の医療介護費として600万円を準備するものと仮定します。
③ライフイベント費
リストアップした項目の優先順位3つの合計金額700万円を準備するものとします。
6,000万円+600万円+700万円=7,300万円
上記金額が、老後の支出として予想される金額の目安となります。
収入について
④公的年金
老後の収入の柱は、やはり公的年金です。毎年誕生月に送付される『ねんきん定期便』ですが、最新版には【公的年金シミュレーター二次元コード】が添付されており、スマホで読み込んで必要事項を入力すると、65歳からの年金見込受給額が試算できます。こちらは簡易的な概算の為、詳細な試算をご希望の場合は日本年金機構の『ねんきんネット』に登録すると、ご自身の年金加入記録や年金見込額の試算が可能です。50歳以降であれば、ねんきん定期便に65歳時点の老齢年金見込額が記載されますが、木村さんご夫婦はまだ記載されていないため、ねんきんネットをご活用ください。ご夫婦ともに65歳時点での老齢年金の見込額が試算できたら、20年間受け取ると仮定して試算します。
例えば、65歳時点での老齢年金見込額がご夫婦合算で約240万円の場合、
240万円×20年=4,800万円 となります。
⑤退職金/企業年金等
隆さんは、ご自身の勤務先の退職金制度について詳しくご存じないとの事ですので、この機会に詳細を確認しておくことをお勧めします。退職金や、企業年金の制度は会社や業種により異なりますので、不明な点は総務担当窓口に確認しましょう。近年は、いわゆる『401k』と呼ばれる『確定拠出年金』を導入する企業が多く、スマホアプリで勤務先の福利厚生制度の内容を確認できる企業も増えています。
確定拠出年金とは?
加入者や企業が毎月一定額の掛金を積み立て、将来受け取る年金額を積立金の運用実績にゆだねるタイプの年金。給与水準や勤続年数により受取額が確定する従来の確定給付型年金とは異なり、受取額は確定していないが、拠出額(掛金)は確定している為、確定拠出型年金と呼ばれる。その規定が米国内国歳入法の401条(k)項にあることから401kまたは日本版401kとも呼ばれる。加入者は、自らの判断で掛け金の運用先を複数の金融商品から選択する。運用実績が良ければ受取額は大きくなり、悪ければ受取額が掛け金の積立額より下回るというリスクも伴う。
今回は隆さんの勤務先の業種の一般的な退職金平均額を参考に、隆さん65歳の定年退職時点で500万円の一時金を受け取れるものとします。
4,800万円+500万円=5,300万円
上記金額が、老後の収入として予想される金額の目安となります。
⑥貯蓄
ここでいう貯蓄とは、65歳時点での貯蓄です。木村家では当面使う予定のない定期預金として300万円確保しているとの事ですので、貯蓄額は300万円とします。
以上のことから、計算式にあてはめると
7,300万円―5,300万円―300万円=1,700万円
上記金額が、老後資金としてこれから準備しなければならない金額となります。
これで、65歳までに準備しておきたい金額の目安が決まりました。
それでは、必要資金を準備する方法はどのようなものがあるのか見てみましょう。
家計改善の3つのポイント
必要資金を準備する方法は、大きく分けて3つあります。
①収入を増やす
木村さんは現在週に3日パート勤務との事ですが、仮に勤務日を一日増やして週に4日以上働くことが可能であれば、年間で約30万円の収入アップが見込めます。年収額によっては扶養を外れる場合もありますが、社会保険に加入することにより老齢年金の支給額は増えますので、ご夫婦でよく検討してみてください。
②支出を減らす
家計の見直しをして出費を減らします。携帯電話プランの見直し、使用頻度の低いサブスクの解約、自家用車を処分してカーシェアに切り替えたり、生命保険の見直しや住宅ローンの借り換え等ができると効果的です。
③資産を運用する
収入を増やし、支出を減らして捻出した資金を計画的に積み立てます。
現金や預貯金だけでなく、近年のインフレに対応するためにはお金を増やす努力が必要です。木村さんは65歳まであと17年間ありますので、税優遇のあるiDeCoやNISAを活用して効率よく積み立てるのもお勧めです。金融庁のNISA特設WEBサイト【資産運用シミュレーション】(https://www.fsa.go.jp/policy/nisa2/moneyplan_sim/index.html)にて、毎月5万円を定額積立運用した場合、想定利回り(年率)3%として試算すると、17年後の最終積立金額は、約1,300万円という試算結果となります。よろしければ資産運用の参考に毎月の積立額、利回りを変えてシミュレーションしてみてください。
このように収入を増やす、支出を増やす、資産運用するなど様々な手段を活用しながら、木村さんなりの資金計画を立てましょう。
イメージ通りの暮らしを実現するためには、お金は不可欠であることはもちろんですが、数年間のコロナ禍を経て、心身ともに健康であることが何よりの資産であると実感されている方も多いと思います。無理をして体調を崩すことのないようにご注意いただき、まずはねんきんネットの登録や家計の見直しなど、今すぐ着手できるところからスタートしてみてはいかがでしょうか。
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