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汀 光一先生 (みぎわ こういち) プロフィール |
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小坂 京子さん(仮名)のご相談
夫64歳、私59歳。現在別居生活費調停中(6ヶ月)。この期間生活費の送金なく、6月夫より離婚調停申立あり、2件同時進行中です。
現在、私が自宅に住み、夫は借家住まいです(1月から別居)。家計簿をつけておらず、後悔しております。年金を65才で受給するとして、生活費をいくら要求したらよいのか、高齢者の生活費がどのくらいかかるのか、生活展望が見えません。参考資料も少なく困っています。助けてくださいませ。
生活費調停について詳細:婚姻生活費の調停を私が申立人となり、4回(2月から7月まで)回を重ねました。今日にいたるまで、生活費送金はいっさいなく、生活費として家庭裁判所に17万を提出いたしましたが、裁判官には半分どころかそれ以下と言われています。職を探してもことごとく断られる59才の女性が、これから迎える生活に最低どれだけかかるのか、老後の必要経費がわかりません。生活展望が見えません。これだけは予算からはずせないという項目は何でしょうか?私は、扶養の妻の2007年の改正年金法の施行後に離婚を希望しています。それまでの間の生活費分与の要求です。
離婚調停について: 夫はすぐ離婚に応じれば家、と土地(夫が母から相続)を渡すが、年金法改正後まで待つのであれば、土地を売るしかないと言っております。夫の別居前からの女性問題もあり、夫からは離婚を切り出せない状態です。
大槻さん(仮名)のプロフィール | |
59歳、専業主婦。ご主人(64歳・団体職員)とは現在別居中。34歳の長男、33歳の長女は既に独立。世帯年収600万円。 |
ご主人に十分な収入があるので、婚姻費は認められるはず
土地よりも慰謝料と財産分与を正当に要求した方が良いかも
土地よりも慰謝料と財産分与を正当に要求した方が良いかも
小坂様は現在、別居生活費調停中(6ヶ月)と夫より離婚調停申立の 2件同時進行中とのことで、大変な状況にお気持ちお察しいたします。
しかも、ご主人と別居したまま自宅に住み続けられるとしても、生活費が6ヶ月も渡されていないということで、さぞご不安のことと思います。
まず、生活費の確保をし、次に離婚を決心された今では、おっしゃるようにこれからの小坂様の生活を支える年金の受取に有利な時期まで待って離婚することがよいと思われます。
婚姻費用分担の申立について
小坂様のように専業主婦が離婚を前にした協議や調停中に、もし夫がまったく生活費を妻に渡さなかったら、まず家庭裁判所に「婚姻費用分担の申立」を行ないます。これによって裁判所は夫に対して支払いを命じることができます。ただし、この仮の措置には強制力がないのが欠点です。 調停が不成立になって審判まで進んだ場合は、さらに仮の措置よりも強力な「審判前の保全処分」が夫に対してくだされます。こちらは強制力を持ちますので、夫が婚姻費用の支払いを拒んだ時でも給料の差し押さえなどができます。
夫婦は婚姻関係(戸籍上で夫婦として婚姻関係が成り立っている)が継続している限りは、たとえ別居中・調停中・裁判中であっても婚姻費用を分担する義務があります。夫婦はその資産、収入、その他の一切の事情を考慮して、婚姻から生ずる費用を分担する義務があります。婚姻費用の中には、日常の生活費、衣食住の費用、医療費、交際費等の他、子どもの養育費も含まれます。
また、注意点としては、「婚姻費用」という性格上、別居した時点をスタートとして現在までの婚姻費用すべてを請求できると思ってしまいそうですが、裁判所は支払いを求める側(おもに妻)からの請求がなされた時点をスタートと見なします。次に、なかなか婚姻費用も相場というものは見付かりませんが、家庭裁判所の統計によれば月額4~15万円というあたりが多いようです。支払い側(おもに夫)の一般的な収入や、普通の生活水準を考えればこのくらいの金額に落ち着くのでしょうか。もちろんこれは家庭裁判所で認められたケースだけの数値ですから、実際には別居されたにも関わらず1円も生活費をもらっていない人(おもに妻)が大勢いるわけです。
次に、家庭裁判所で考慮される部分で、小坂様に関連するところに注意してください。妻の就労に関して、小坂様は違いますが、別居したにも関わらず、自活する気が無く、渡される婚姻費用を当てにしている方の場合、自活する努力をしていないと見られ、減額対象となることがあります。ですので、就職の努力はこれからも続けてください。
生活費の要求額について、老後の生活費について
以上のことから、婚姻費用の申し立てで認められる金額と、これから必要な生活費とは分けて考えてください。
現在とこれからの生活収支を、「キャッシュフロー表」でみてみます。
ご主人の収入は来年までで、その時退職金もはいるのだろうと思いますが、それは入れていません。またご主人の公的年金や家賃・生活費や貯蓄額も入れていません。
しかし、現在企業年金とあわせて770万円の収入がありますし、60歳時に一度退職金を受取られて、貯蓄もある程度貯まっていると思われます。今年で住宅ローンも完済しますので、来年ご主人はゆとりがあるはずです。これで生活費を送らないのは裁判所でも認めないと思います。
ただ、退職後、2011年70歳までは公的年金と企業年金、その後は公的年金だけの収入となりますので、2007年は、退職金や貯蓄から婚姻費用を払うことになると思われます。
次に、小坂様のこれから必要な生活費を考えてみましょう。
ご主人61歳から現在まで21万円で生活されてきました。老後の生活費は家庭・人によって様々で、平均値はあてにならないのも事実ですが、(財)生命保険文化センターの調査によると、老後の最低限の生活費の平均が月額23.5万円との結果が示されています。
離婚後、老後にかかる費用としては、
税金関係 | 多少の住民税・健康保険料・国民年金保険料(小坂様が60歳までに離婚された場合)など。 |
住居費 | 今はご主人に支払い義務がありますので、土地と家を小坂様名義変更してからの支払いになります。毎年58,200円の固定資産税・都市計画税は、同時に年間30万円~40万円と思われる維持費(火災保険、修繕費、マンションの場合は管理費)などが発生します。 |
保険料 | ご自身で加入されている医療保険などの保険料。 |
基本生活費 | 食費・備品代・日用雑貨費・交際費・趣味・教養・衣料費。電話料・携帯電話などの通信費・交通費・新聞代・NHKの受信料。電気・ガス・水道などの光熱費。理美容費・雑費・パソコン関係費・その他継続的支出など。 ※この基本生活費については、1~2ヶ月でいいので、きっちり家計簿をつけて把握してください。これから1人で生きていくためにも、必要な作業です。 |
医療費 | 薬代・通院交通費・入院費・治療代・差額ベット代など。 |
その他一時的支出 | 冠婚葬祭費・耐久消費財・旅行・リフォームなど。 |
以上が、主な支出の項目です。
一時的支出を除き、これらを合計すると月21万円~23万円になると思われます。
ひとつの考え方として、家などもらっても、費用がかさむばかりです。相手が早く離婚したいなら、家ではなく、慰謝料と正当な財産分与を請求された方が、今後の生活のためにはいいかもしれません。59歳で住む家を探すのが大変という心配はいらないと思います。むしろ59歳で収入がない方なら、すぐに公営住宅に入居できます。利便性が低い公営住宅は、余っているそうです。役所で尋ねてみてはどうでしょうか?公営住宅なら、収入がなければ住居費はほぼ無料になりますから、とりあえず住むところだけは確保できます。また、60歳時の退職一時金があればそれと、170万円の企業年金も退職金の一部なので、半分は財産分与の対象になります。
婚姻費用の申し立てで認められる金額がいくらになるかわかりませんし、また、離婚時の財産分与の金額がどのくらいになるかわかりませんが、いずれにしても今後は何らかの収入を得ていかなくてはなりません。
老後の収入について
収入の面で言えば、公的年金がこれからなくては困る大事な定期収入になることも事実です。65歳からの国民年金の基礎年金が満額で約80万円と、32歳~58歳にお仕事されていた時期に厚生年金に加入していれば、小阪様の生年月日ですと60歳から特別支給の老齢厚生年金が支払われる可能性があります。加入期間の標準月給の平均がわかりませんので、金額はお答えできませんが、いずれにしても、ご自身の年金加入履歴を確認するためにも、一度社会保険事務所に相談してみてください。
また、離婚したときに、二人の合意、または裁判所の決定があれば、婚姻期間中の年金を夫婦で分けることができるようになります(平成19年4月1日から、同日以降に成立した離婚が対象)。さらに平成20年4月からは、施行後の期間に限りますが、第3号被保険者期間にかかわる配偶者の厚生(共済)年金の半分を分割できるようになります。
しかし、一人暮らしになったとしてもそれ以前の生活費の約7割は必要となりますから、小坂様自身の老後の収入と備えは必要です。ご自身の年金や財産分与を受けて貯蓄を見直したり、仕事をもってできるだけ長く働けるような環境をつくっていくことが大切です。老後も働ける健康とスキル(職能)こそ、身を助けるといえます。経済的に自立できるように、これからでもスキルを磨いたり、ハローワークなどの公的機関やシニア向けの派遣会社などの情報を集めておくこともこれからはますます必要です。
以上、お役に立つアドバイスになったかどうか、心もとない感じもいたしますが、逆に自由を得られたということで、今後ともいろんなことに積極的にチャレンジしてみてください。きっとその中でお仲間もできると思います。是非、がんばっていただきたいと願っております。