60歳定年か、55歳から65歳まで再雇用で働くか? 夫の退職時期で悩んでいます。


60歳定年か、55歳から65歳まで再雇用で働くか?
夫の退職時期で悩んでいます。

井上 信一先生 (いのうえ しんいち) プロフィール
  • 給与だけでなく年金等も含め、得られる収入総額の比較をしてみましょう
  • ローン完済時期や退職金等の受取方法の差についても検証すると良いでしょう
  • 選択肢を整理できたら、何よりご夫婦の価値観を優先して最終的に決めましょう

松本 ゆうこさん(仮名 56歳 会社員)のご相談

夫の勤務先は、55歳で雇用形態を決めねばなりません。現在の給与水準のまま60歳まで働いて定年を迎えるか、55歳で定年退職し給与水準を3割落として(60歳以後はさらに4割程度カット)、65歳まで再雇用で働くかの選択をすることになります。
多くの同僚の方が60歳定年を選ばれているようで、夫もその選択に気持ちが傾いています。
私としては、できれば65歳まで勤めることを望んでいますが、実際にどのような違いがあるのかを知りたくて相談しました。
老後生活もさることながら、年金が始まる65歳までの間についても不安に感じています。

松本 ゆうこさん(仮名 56歳 会社員)のプロフィール

家族構成 : 本人(56歳、1958年生まれ 会社員)、夫(54歳、1960年生まれ 会社員)、子どもはなし。
妻方に80歳超の別居の両親があり面倒をみているが、父母には経済的な支援は不要の見込み(父母の年間収入:360万円、預貯金等5,000万円ほど)。
年収(額面) : 夫:約800万円(推定の手取り年収:約600万円)
妻:約500万円(推定の手取り年収:約393万円)
退職金見込額 : 夫:3,000万円(55歳時、60歳時とも同額)
退職年金受取への変更可、据置最長年齢:80歳
妻:300万円(60歳時)退職年金受取への変更不可、据置不可
別途、共済年金等:約69万円(60歳から終身年金)
年間の貯蓄額 : 約156万円(夫婦合算)
年間の支出額 : 約837万円
※「手取り収入」-「年間の貯蓄額」による推定
※内訳として、住居費85万円(建物の住宅ローンと定期借地の地代相当分)
生活費372万円、その他使途不明の生活費全般380万円
現在の金融資産 : 約1,250万円(時価)
負債の額 : 約970万円(建物購入資金の残債、残返済期間17年)
※変動金利型ローンにて夫の会社より借り受け
その他 : 夫:55歳に養老保険の満期保険金:1,000万円
夫:60歳年金開始の個人年金保険
(15年確定年金の場合の年金受取総額約1,500万円、ただし年金受取方法を選べる)
夫:60歳年金開始の個人年金保険(確定年金 約28万円×15年)
妻:60歳年金開始の個人年金保険(確定年金 約50万円×15年)

長く働いた方が収入が増える一方で支出は抑えづらいもの。
退職金も個人年金保険も、長期間で受け取れるようにしましょう。

1.働く期間が長いほど収入は多く見込めそうです

松本様、このたびはご相談頂きましてありがとうございます。 今回頂きました情報から、ご主人の今後の働き方や退職金等の受取方法により、いくつかの選択肢(オプション)を考える事ができます。

まず、ご主人が現状給与水準のまま60歳まで働かれる場合(Aパターン)と、55歳から再雇用形態に切り替えて65歳まで働かれる場合(Bパターン)とを試算いたします。

【A.60歳で定年退職する場合】

54歳 55歳 56歳 57歳 58歳 59歳 60歳 61歳 62歳 63歳 64歳 65歳 合計
給与 800 800 800 800 800 800 4,800
公的年金 150 227 377
退職金 3,000 3,000
満期保険金、個人年金 1,000 128 128 128 128 128 128 1,768
推定手取り収入 600 1520 600 600 600 613 3,076 98 98 98 244 316 8,463

【A.60歳で定年退職する場合】を別ウィンドウで表示 >>

【B.55歳で定年退職して65歳まで働く場合】

54歳 55歳 56歳 57歳 58歳 59歳 60歳 61歳 62歳 63歳 64歳 65歳 合計
給与 800 560 560 560 560 560 320 320 320 320 320 5,200
公的年金 83 232 315
退職金 3,000 3,000
満期保険金、個人年金 1,000 128 128 128 128 128 128 1,768
推定手取り収入 600 4,355 440 440 440 448 385 383 383 383 464 321 9,042

【B.55歳で定年退職して65歳まで働く場合】を別ウィンドウで表示 >>

試算にあたっての前提条件
  • 年初に年齢が上がる条件としていますが、実際には誕生月までの端数が生じるため、 収入額が増減すると思われます。
  • 退職後は求職活動を行わないものとして、雇用保険の求職者基本手当(失業給付)は試算に見込みません。
  • 個人年金保険のうち、年金受取方法を選べる契約は15年受取と仮定しています。
  • 推定手取り収入は、給与(給与所得)、退職金(退職所得)、公的年金等や個人年金(雑所得)、満期保険金(一時所得)の各所得から所定の税額や任意の社会保険料を差し引いて試算した概算の可処分所得です。
  • 再雇用の場合、60歳までは現行水準の3割減、65歳までは月20万円、年間賞与80万円にて給与収入を算出しています。

図をご覧頂くと、Bパターン(再雇用)の方が、総じて収入見込額が多いことが確認できます。
年金については、在職中は在職老齢年金が適用されるので64歳時には減額されますが、厚生年金保険の加入期間が長くなることにより、65歳以後は若干の増加が見込まれます。
算出条件により正確な金額が変わることは否めませんが、ご主人が生涯受け取られる公的年金や、その後奥様に引き継がれる遺族厚生年金までを想定しますと、少なくとも600万円ほどは、収入総額が多くなるといえそうです。

※厚生年金支給開始時期についてはこちらをご覧ください。

2.収支予測では有利なプランが逆転も

とはいえ、ご主人の給与が55歳から減ることによる家計への影響も気になるところです。
そこで、世帯の収支ではどうなるのかを試算します。

まず、下図は奥様の手取り収入の試算結果です。
算出にあたっての前提条件はご主人の場合と同様に計算しましたが、奥様の退職後に見込まれる収入は概ね非課税所得以下ですので、「収入=手取り収入」となります。

【妻の収入推移】

56歳 57歳 58歳 59歳 60歳 61歳 62歳 63歳 64歳 65歳 66歳 67歳
給与 500 500 500 500
公的年金 69 69 69 69 146 146 146
退職金 300
満期保険金、個人年金 50 50 50 50 50 50 50 50
推定手取り収入 393 393 393 393 350 119 119 119 119 194 194 194

【妻の収入推移】を別ウィンドウで表示 >>

次に、世帯合算の手取り収入と支出を考慮した収支の推移を試算いたします。
いただいた限りの情報では、現状の支出額に占める使途不明割合がかなり大きいのですが、年間の貯蓄額が明確ですので、使途不明分を含めて使っているものとして試算いたします。
ただし、やや生活水準が高いことも鑑み、ご夫婦とも退職後は支出を2割減らす条件とします。

【世帯の推定年間収支の推移】

夫の年齢 54歳 55歳 56歳 57歳 58歳 59歳 60歳 61歳 62歳 63歳 64歳 65歳 合計
妻の年齢 56歳 57歳 58歳 59歳 60歳 61歳 62歳 63歳 64歳 65歳 66歳 67歳
Aの場合 手取り収入 993 1,913 993 993 950 732 3,195 217 217 292 438 510 11,443
支出 837 837 837 837 670 670 536 536 536 536 536 536 7,901
収支 156 1,076 156 156 280 62 2,659 -319 -319 -244 -98 -26 3,542
Bの場合 手取り収入 993 4,748 833 833 790 567 504 502 502 577 658 515 12,022
支出 837 837 837 837 670 670 670 670 670 670 670 536 8,571
収支 156 3,911 -4 -4 120 -103 -166 -168 -168 -93 -12 -21 3,451

【世帯の推定年間収支の推移】を別ウィンドウで表示 >>

すると、65歳までの収支予測では、逆にBパターンの方がやや少なくなってしまう可能性があります。
この逆転現象を回避するためには、ご主人の給与の減額に合わせ、その給与にかかる支出割合も減らすことが求められます。
しかし、通勤する日数が減るのならともかく、たとえ収入が減ったとしても、働きに出れば必要となる交際費やその他必要経費等は、基本的に減らせるものではありません
強く意識していただかねば、なかなか難しいといえるでしょう。

3.税金なども考慮した退職金等の受取方法の考え方

ところで、現状では養老保険の満期保険金や退職金の受取時に大きな収入が見込まれます。
一時的に現金が増えても、使う見込みや合理的な運用手段がなければかえって不便となり、税金面を考えるとむしろ受取時期を分散させることが良い場合もあります。

例えば、ご主人が55歳時に受け取られる満期保険金は、借入金の一括完済に充てる使い道が考えられます。現在の返済負担額はそれほど多くはありませんが、完済まで相当の期間が残っていますので、早々に完済させれば、僅かでも利息負担は軽減しますし、金利変動リスクの煩わしさからも解放されます。借入元の会社で可能であれば、実行を検討されてはいかがでしょうか。

一方、ご主人の退職金は、全額を一時金で受け取るのではなく、一部を退職年金扱いにし、かつ、受取時期を据え置くプランが考えられます。

退職一時金は、次の計算式による金額が、他の所得と分離されて税金がかかります。

退職所得 = ( 退職一時金 - 退職所得控除額 )× 1/2
※退職所得控除額 = 勤続20年分×40万円+勤続20年超分×70万円
※勤続1年未満は切り上げ

仮にご主人の退職までの勤続年数が36年とすると、上記計算式による退職所得控除額は1,920万円ですので、この金額までであれば退職一時金は非課税となります。

また、退職年金には税金がかかりますが、公的年金と合わせて税制上有利な控除が認められています。控除額は65歳以上で受け取るのが有利ですので、相対的に有利な条件で65歳以降まで会社所定の利率で増やしてもらいながら据え置かれてはいかがでしょうか。

さらに税金は、所得が高いほど税率も上がるしくみですので、勤務先の退職金制度や、万一の制度破綻の際の保証制度等も考慮され、可能な限り長く薄く受け取る方法を選ぶのも、一考に値すると思われます。

このことは、個人年金保険契約についても同様のことがいえます。
老後の最大の不安要素は貯蓄が枯渇することですが、枯れる不安は貯蓄がいくらあっても拭い切れるものではないでしょう。
ならば、個人年金保険を公的年金のように一生受け取りが続く終身年金とすることも考えられます。
世の中には多くの金融商品がありますが、終身年金を選べる金融商品は「個人年金保険」以外にはありません。保険会社に年金額を確認の上、検討されてみてください。

4.選択肢の中から1つのプランをご提案

最後に、これまで述べました考え方をもとに、先のBパターンをベースに一部修正したプランにて、再度試算いたします。

前提条件としては、次のとおりとなります。

  • 退職一時金を1,000万円、残り2,000万円を20年の退職年金とし、65歳受取開始
    (利率2%で試算 134万円×20年)
  • 個人年金保険の1つを15年確定年金から保障期間付終身年金へ変更
    (100万円×15年 → 62万円×終身)
  • 55歳時に受け取る養老保険の満期保険金は住宅ローン一括完済に充当
  • 55歳、60歳の給与減額時に支出を5%減らし、65歳時にさらに10%削減

※退職年金、個人年金の年金額はやや少なめに見積もってはいますが、実際の金額とは異なります。
勤務先や保険会社にてご確認ください。

【ご提案プラン 55歳で定年退職して65歳まで働く場合の世帯の修正年間収支】

夫の年齢 54歳 55歳 56歳 57歳 58歳 59歳 60歳 61歳 62歳 63歳 64歳 65歳 合計
妻の年齢 56歳 57歳 58歳 59歳 60歳 61歳 62歳 63歳 64歳 65歳 66歳 67歳
給与 800 560 560 560 560 560 320 320 320 320 320 5,200
公的年金 83 232 315
退職金 1,000 134 1,134
満期保険金、個人年金 1,000 90 90 90 90 90 90 1,540
推定手取り収入 600 2,366 440 440 440 448 385 383 383 383 464 436 7,168
推定手取り収入 393 393 393 393 350 119 119 119 119 194 194 194 2,980
収支 837 1,695 795 795 636 636 604 604 604 604 604 544 8,059
収支 156 1,064 38 38 154 -69 -100 -102 -102 -27 54 86 1,189

【ご提案プラン 55歳で定年退職して65歳まで働く場合の世帯の修正年間収支】を別ウィンドウで表示 >>

上記プランですと、ご主人65歳の定年時には、およそ2,500万円弱の金融資産が見込まれます。やや少ない印象を受けるかもしれませんが、ローンを完済した上、定年後も相当期間に渡り、十分な額の各種年金を受け取れますので、やや黒字収支を望むことも可能です。

このプランに近い形が実現できれば、貯蓄を大きく取り崩すことはないと思われますので、将来、有料老人ホーム等に住み替える際の一定の資金を確保することも期待できます。
また、資金の一部で、民間生命保険の介護保険に加入して要介護時に備えるのも良いと思われます。

ですが、これが最良の策というわけではありません。
大切なことは、数字上の損得だけで割り切れることばかりではないと思われます。
各所から正確な金額を入手された上で、これらを目安にご夫婦でじっくりと話し合われ、お二人の価値観に合う方法を選んで頂ければと思います。