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老後資金の準備として個人年金保険を考えています。
しかし、否定的な意見も多く、何が良いのでしょうか?
井上 信一先生 (いのうえ しんいち) プロフィール |
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上野 孝彦さん(仮名 40歳 会社員)のご相談
老後資金の準備をそろそろ始めたいと思っています。自分としては安全確実な方法として個人年金保険を考えていますが、年金の受取方法には様々なタイプがあるので選択に悩みます。また、老後資金計画について書かれているマネー雑誌や各種サイトを見ると、個人年金保険は勧められておらず、投資信託等の運用商品を推しているケースが多いのですが、やはりそういった商品が良いのでしょうか。他に何か方法はありますか?
上野 孝彦さん(仮名 40歳 会社員)のプロフィール
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個人年金保険(終身年金)は有力な選択肢ですが、
オンリーワンではありません。
捻出可能な範囲でその他の選択肢も検討してみましょう。
オンリーワンではありません。
捻出可能な範囲でその他の選択肢も検討してみましょう。
1.マネーに関するセオリーには都合のよい解釈がたくさん
個人年金保険(定額個人年金保険)と聞くと、「いまは低金利だから魅力がない」といった類の意見が必ず出てきます。そして、多くの場合は代わりに投資信託等の運用商品を推していますね。とはいえ、往々に具体的な商品まで言及してはくれません。
たとえいくつか候補を挙げていたとしても、それは過去の運用成績や短期的な期待に基づくものであって、当然のことですが遠い将来の成果は保証されません。
個人的には株式や投資信託を否定するわけではありません。むしろ、投資資金の換金時期を明確に定めた、もう少し近い将来の目的で具体的なお金の使い道がある場合には面白いと思います。ですが、超長期に渡る、しかも漠然とした老後生活資金づくりの目的に対して闇雲に投資信託等を勧めるのは親切ではないですし、適切であるとも思えません。
また、老後資金とは、実は試算のできるものでもありません。
“老後ってそもそも、いつ始まり、いつ終わるのか?”
“ずっと先の将来も刻々と内的外的変化があるのに、本当は毎月いくら必要なのか?”
“まとまった額のお金を必要とする機会は少ないのに準備しておく必要があるのか?”
など不透明な要素ばかりですね。
それを、都合のよい仮定の条件で覆って計算しているに過ぎないのが、よくあるマネーのセオリーです。参考程度にはなりますが、いくらあれば充分と判断できるものではないのです。
一般的に老後は、“貯蓄を取り崩していく生活”になるのでしょう。
現在、潤沢な資産を持つ方の多くは高齢者層ですが、“蓄えを枯らす”不安との葛藤で、財産をガッチリ握ってなかなかお金を使えない、といった方も少なくありません。
収入が公的年金だけで、しかも毎月の収支が赤字といった状況では、そういう不安に駆られるのも無理はありませんね。
退職後も仕事を見つけて、体の動く限り生涯現役で収入を得る。
そのような仕事を見つけられるよう自分自身を研鑽するための投資をする。
そして心身ともに健康に気を使うことが、老後生活に対する一番の準備といえるかもしれません。
老後と一口に言っても、今の生活の延長に過ぎないわけなのですから。
2.終身年金という機能に注目しましょう
とはいえ、働きたくても働けなくなる時期がいつ訪れるかわかりません。そこで、
- 給与のような収入を
- 途中で絶やす不安なく一生涯に渡り
- 管理の煩わしさを伴うことなく定期的に
- できれば物価等の変化に連動して得られるよう
準備しておくことが、理想的な手段であると考えられます。
この条件をある程度満たせるのが公的年金ですが、それを補う術として民間の金融商品の中から有力な候補になるのが、個人年金保険(終身年金)となります。
個人年金保険を“商品ありき”で考えていくと、確定年金タイプが良いのか、終身年金タイプが良いのか、一長一短なので悩ましいところです。ですが、世の中に無数に存在する金融商品の中で唯一、終身年金という機能があるのは個人年金保険だけなのです。ですから、これを活用しない手はないと思われます。
冒頭にも述べましたが、確かに低金利のときに契約すると将来の年金額は思ったほど多くは見込めません。
ですが一生受け取れるわけですから、契約時の金利情勢など大した問題ではありません。1年でも長生きすれば良いのです。
もう1つ、個人年金保険を勧めるのは、いまの生活にも少し役に立つからという理由もあります。会社や個人事業主の場合には、将来のための積立額を収入から控除し、引いた後の金額に対して税金が計算されるという制度がたくさんあります。積立なのにまるで経費のように扱えるわけですが、会社員の方はそういう制度は殆どありません。ですが、要件を満たす契約形態であれば、毎年の保険料の一部は「個人年金保険料控除」として、所得控除の対象となり税金を少しだけ浮かせられます。
控除額は最大でも4万円と多くはありませんが、それを保険料の払込期間中に毎年享受できる点は見逃せないでしょう。
3.個人年金のデメリットと他の選択肢
個人年金保険にも大きなリスクがあります。
それは、「保険会社の破たん」と「インフレに弱い」という2点です。
万一、個人年金保険を契約した保険会社が破たんしても、全く紙くずになるわけではありませんが、契約時の年金が大きく減らされる可能性はあります。また、契約時に年金額が決まりますので、将来的に物価が高騰してしまうと、実質的な金銭的価値が低くなってしまいます。
個人年金保険がオンリーワンの選択肢と言い切れないのは、これらの理由があるためです。
ですから、準備手段としては何か1つに絞るのではなく、複数用意しておくことが望ましいといえます。
その一例として、外貨建ての債券に毎年投資する方法が挙げられます。
ただし、毎回の投資金額は抑え、その代り毎年行うのがコツです。
今から60歳まで20年ありますね。ですから例えば20年後が満期(償還)の債券を選びます。その翌年以降も同じように投資していけば、60歳の時に投資した分は80歳に、61歳時の分は81歳に満期を迎えるなど、ある程度、自分で年金のような仕組みをつくることも可能です。
この場合利付債ではなく、利息のない代わりに価格が割り引かれている割引債というタイプを選んでおくのがベターです。代表的な割引債としては、米ドル通貨建てのアメリカ国債(通称、ゼロクーポン債)というものが広く普及していますので、ご興味があれば、ネットなどで検索してみてください。
外貨投資も投資である以上リスクはもちろんありますが、一般的に為替のサイクルは株式等の運用環境よりレンジが短いこともありますので、円安(ドル高)になる時まで待って円貨に換金するゆとりのあることが望ましいと思います。
また、ご主人の場合は会社に企業年金制度があるので、現在のところは無理そうですが、奥様が確定拠出年金(個人型)に加入する手もあります。最大のメリットは、拠出金の全額を所得から控除でき、受取方法として終身年金を選べることです。毎月の拠出額は5,000円以上1,000円単位で2万3,000円まで自分で決められますので、個人年金保険料控除よりインパクトがあります。運用商品は自分で選択するのですが定期的に預け替えをおこなえます。一般的な運用商品に投資するよりも利便性がありますので、投資信託を選ぶ場合は、預け替えの制度を最大限活用するよう、適宜、運用状況を確認することが必須となります。ただし、制度上の制約が多いので慎重に考えてから、無理のない範囲で始めるようにしましょう。
ベストチョイスという方法はなかなかないので、各々の長所を補完しあえるよう組み合わせるのがベターな行動といえそうです。
ですが、少なからず利点があり、いまできる方法があるのなら、それは無駄な行動ではないはずです。何より始めてしまえば悩みの1つは減るわけですし。