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個人事業主の老後資金準備に適した保険商品や資金運用方法を教えて下さい。
井上 信一先生 (いのうえ しんいち) プロフィール |
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黒島 結城さん(47歳 仮名)
現在、WEBコンテンツ作成の個人事業を営んでいます。退職金もないですし、会社員として働いていた期間も短いので老後は老齢基礎年金に頼ることになり、さすがに自助努力で準備する必要性を感じています。
投資経験は多少あるので運用でカバーすべきか、投資だと精神的にも物理的にも仕事への負担が増しそうなので個人年金保険等で準備すべきか迷っています。
また、先日、国民年金基金の制度の話を聞く機会があり、この制度等にも関心があります。
黒島 結城さん(47歳 仮名)のプロフィール
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税制の恩恵がある運用手段をベースに、
資産全体のバランスに配慮した準備を
資産全体のバランスに配慮した準備を
掛金が全額控除される制度に注目
黒島様、ご相談ありがとうございます。
自営業や個人事業等の方が加入しているのは国民年金のみですので、会社員の場合と比べ、およそ厚生年金にあたる分が欠けてしまいます。基本的に退職金もないので、より多くの自助努力が必要となりますね。
しかし、個人事業には「努力と工夫次第では何歳になっても収入を維持して働ける」、「給与所得者に比べ、税金を減らす手段を講じやすい」といった利点もあります。特に2つめは注目したいところで、何かしらの準備をするのであればこの利点を活用しない手はないでしょう。
そこで、検討して頂く価値のある制度としてお勧めなのが、「国民年金基金」と「小規模企業共済」です。
一般的な貯蓄や投資(NISAを含め)は利益が出ても税金の引かれた後の手取り収入で見なければなりません。基本的に拠出資金自体に係る税効果はありません。また、個人年金保険も生命保険料控除(一般生命保険料控除または個人年金保険料控除)の対象にはなりますが、控除できる金額は払込保険料のごく一部に限られます。
その点、「国民年金基金」や「小規模企業共済」は、その掛金の全額が所得控除となります。個人事業であれば日頃から経費に対する関心は高いと思われますが、消費して消える経費とは異なり、老後資金のための準備であるのにも関わらず、その額が多ければ多いほど税金が安くなる訳です。
ちなみに、昨年度の確定申告書類より黒島様の所得に係る税率は20.21%です(復興特別所得税を含む所得税10.21%、住民税10%)ので、仮に掛金全額が控除対象となる制度を利用する場合、その税金の軽減額も拠出金に対しておよそ同率と計算できます。つまり、既に20.21%の運用パフォーマンスを確実なものにしていると考えることもできるのです。
制度の概要と利用上のポイント
「国民年金基金」と「小規模企業共済」とを比較すると、掛金を拠出できる期間や、受取開始時の年齢および受取方法等から、両者の違いが明確になります。
国民年金基金 | 小規模企業共済 | ||
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加入資格 | 国民年金の第1号被保険者 ※保険料を納付していることが要件 国内在住の国民年金任意加入被保険者 |
従業員が一定未満の役員、個人事業主 ※業種に応じ従業員数の要件は異なる ※一定の共同経営者も加入可能 |
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加入可能年齢 | 60歳まで ※任意加入被保険者は65歳まで可 |
事業を続ける限り継続 ※満65歳以上で 15年以上拠出の場合、 事業を続けながら老齢給付の受給可 |
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掛金 | 上限81万6,000円(月6万8,000円) ※加入時年齢、性別、 選択する年金の種類で 1口あたり掛金額が異なる |
1万2,000円~84万円 (月1,000円~7万円) ※月500円刻みで任意に決められる |
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受取開始可能年齢 | 65歳以降 ※60歳開始を2口目以後に選択可 |
事業廃業や会社の解散時など 65歳以降(15年以上拠出が要件) ※拠出月数12カ月未満は解約も不可 |
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受取方法 | 終身年金 ※保証期間の有無で2種類を選択可 ※2口目以後5種類の確定年金選択可 |
一括、分割(10年、15年)、併用 ※分割や併用受取は共済金が一定額 以上で60歳以後の請求であること ※拠出期間が短いと元本割れもある |
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税制優遇措置 | 拠出時 | 全額が社会保険料控除 | 全額が小規模企業共済等掛金控除 |
受取時 | 公的年金と同じ税制優遇措置 | 一括受取等は退職金、分割受取は 公的年金と同じ税制優遇措置 |
まず、「国民年金基金」は限りなく公的年金に近い特徴であることから、会社員の加入する厚生年金保険を代用する位置づけにあるといえます。一方、小規模企業共済は会社員の退職金に近い制度です。2つの制度は併用することもでき、共に一定の遺族保障もありますので、組み合わせることで金額の多寡はあれ、会社員に準じた老後の準備をすることが可能となるでしょう。
ただし、「国民年金基金」はいったん加入すると、原則として途中で辞めることができません(掛金の増減額は可能)。一方、「小規模企業共済」は掛金納付月数240カ月未満で中途解約すると掛金合計額(元本)を下回ってしまいます。
いずれにせよ、加入にあたっては慎重に検討する必要があります。ともにWEB上でシミュレーションを行うことができますので、長期的な収支や貯蓄残高等の推移(キャッシュフロー分析)も行ないつつ、無理のない金額で始めることが肝要です。
その他に検討すべきこと
個人事業主等の年金を増やす手段としては、別途、「付加年金」という制度もあります。
これは、「月額400円」の付加保険料を国民年金保険料に上乗せることで、老齢基礎年金に加え、「200円×納付済月数」の年金額を受け取る制度です。確かに金額自体は少ないのですが、付加年金を1年間受け取った時点で負担した保険料総額は回収でき、それ以後の受け取り分は黒字となりますので、費用対効果で考えると極めて効率的な手段といえます。
ただし、付加年金と国民年金基金とは併用できず、いずれか1つの選択となっています。効率性でインパクトのある「付加年金」か、実際に受け取る年金額が現実的な「国民年金基金」かが悩ましいところですが、制度上の利点がここにも1つ設けられています。
実は、「国民年金基金」の掛金限度額の範囲で「個人型確定拠出年金」を利用することもできるのですが、「個人型確定拠出年金」と「付加年金」とは併用が認められています。
よって、負担額の許す範囲内で「個人型確定拠出年金+付加年金+小規模企業共済」を活用し、制度上のメリットを最大減活用することも可能となります(確定拠出年金については、過去のご相談『投資信託で資産運用を始めようと思っています。どの制度を活用するのが良いのでしょうか。』もご参照下さい)。
確定拠出年金では、「国民年金基金」のような元本確保型の定期預金や年金商品を選択することもできますので、前述の税効果を考慮した実質パフォーマンスを確約することもできます。ですが、現在の保有金融資産のポートフォリオを鑑みて、分散保有の考え方からも、まだ保有していない株式・債券・不動産・商品等の投資対象商品があるのであれば、これらに連動する投資信託を選択するのも一考でしょう。一般的な投資や変額年金保険等を検討するよりも、確定拠出年金で行うメリットは高いといえます。