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自分の老後の生活が不安です
井上 信一先生 (いのうえ しんいち) プロフィール |
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土屋幸夫さん(38歳 仮名)のご相談
自営業で国民年金に加入していますが、将来の年金支給額に不安を感じています。 貯金は毎月3万ずつで、貯蓄額は800万ありますが、生活スタイルを見直した方が良いでしょうか?
ご相談者のプロフィール
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国民年金だけでなく上乗せできる付加年金なども検討を。
定年が無い個人事業主だからこそ、長く収入も得られます。
定年が無い個人事業主だからこそ、長く収入も得られます。
視点を変えてみましょう
土屋様、ご相談ありがとうございます。
会社員の方でも将来に不安を抱く世です。
日常生活に目を向けると、居住費や公共料金などの固定的な出費は、1人よりは2人、2人よりは3人と家族が多くなればなるほど、1人当たりの負担は概ね安くなるもの。組織に属さぬ自営業で、かつ単身であれば、日々の生活でのコストを1人で負担する重みに悩むことも少なくないと思います。
将来の生活についても、ことさらに不安を感じる境遇と思いがちなのでは?
ですが、少し視点を変えて想像してみてください。
いまが単身なら、可能性として家族が増えることだってあり得るわけです。
家庭を持ち、家族と共に暮らしている人にとって年を経て家族が減ることは、精神面にはもちろん経済面でも概ねロスです。居住空間を持て余したり、効率的だった固定費が非効率になったりするからです。さらに収入の減少が重なれば、生活は大きくマイナスの方向に向きます。配偶者等の家族のある方は、年と共にこのような漠然とした不安を抱えていくもの。
逆に、家族が増えることは概ねプラス方向であると言えます。
視点を変えてみれば、色々な可能性が見えてくるものです。一つ一つ整理して考えていきましょう。
家族から仕事に視点を移してみましょう。組織に依存せず、縛りを受けず、自分で確固たる足場を作れるのが自営業です。
定年もありません。
一方、会社に属して働くということは、何かしらの縛りを受けるわけで、自分に“その気”があるだけでは叶わぬこともあります。収入を減らすとか仕事の内容を変えるとかの妥協を許さなければ、生涯、会社員であり続ける、と望むことは難しいでしょう。いつかどこかの地点で“リタイア”が訪れ、その後はガラリと変わる生活を意識しておく必要があります。依存できる後ろ盾に守られていたはずの環境が、“ある日突然変わってしまう”こと、それが会社員の方にとって最大の不安の源泉といえます。
会社員から自営業へ転身するにはそれなりの準備や苦労を要しますが、それ以前に相当な覚悟も必要ですよね。土屋さんは、心身が健康である限り、経済的に自立している“いま”の延長線上に将来を置き続けることが十分可能なのです。
これはとても大きなアドバンテージではないでしょうか。
国のしくみの利点を最大限に活用しましょう
勤め先により退職金や各種福利厚生の制度がある会社員と比べ、たしかに自営業は不利な点も多いといえます。厚生年金保険に加入できないのが、その最たるものでしょう。たしかに老後の年金だけを考える場合、国民年金のみでは不安もあるでしょう。
であるならば、自営業にしか使えないしくみを最大限に利用しましょう。 そこで、お勧めなのが、当欄のご相談でたびたび紹介している、「小規模企業共済」や「国民年金基金(または確定拠出年金)」、「付加年金」等の、自営業者等が自分で追加加入する退職金・年金等の制度です。
これら制度の最大の利点は、積立貯蓄にあたる掛金を払う分だけ税金が安くなること。
貯蓄と同時に税金も安くなって手取りは増えるのです。どんなに優れた貯蓄も投資も、税引き後の手取り収入の中からしかおこなえません。将来に向けて同じく準備をするのなら、より有利な手段を選ぶのが賢い選択です。いまおこなわれている毎月の貯金手段を変えても差し支えないのなら、これら制度に切り替えるのも一考です。
会社という“組織に属せない”と表しましたが、考えようによっては、自営業も、もっと大きな、“国”という組織に属しているのですから。
いかなる状態でも収入を得る準備を
生きていく以上、少なからず出費を伴います。
リタイアし、老後の収入源が年金だけと考えるから、もっと蓄えねばと焦るのです。ですが、出費を賄うためにどれだけの財を貯めようとも、次第に減っていく金額を見る以上、その不安を完全に払うことはできません。
要は、お財布を枯らさぬよう収入が入り続けていれば良いわけです。
収入とは、大きく3つに分けられます。
1つめは就労収入
最も大きな収入源に違いありませんよね。
いつか働くのを辞めるという発想ありきではなく、いつまでも働くものと考えれば、これ以上心強いものはないはず。そのための努力と工夫をするだけです。
老後の収入を年金だけと決めつけないことから始めてみませんか?
2つめは資産収入
保有する不動産から得る家賃や、金融資産から得る利息や配当金等が該当します。ですが、この収入源を持つためにそれを手に入れるための蓄財が前提です。誰もが大きな資産収入を得られるというわけにはいきません。また、投資や資産運用を以て、“お金を稼ぐためにお金に働いてもらう”といったキャッチコピーをよく耳にしますが、実際、投資や資産運用は自分で“買い時、売り時”を判断せねばなりません。判断を誤れば減少するリスクもあるのです。投資や資産運用は、必ず増えるという保証はありません。
3つめは保険収入
本来的な生命保険とは、自分の身体が壊れた時、働けなくなった時、生命が尽きた時等に、はじめてお金の入るしくみといえます。
一方損害保険は、災害等にあった時、他人に損失を与えてしまった時等に、失った資産を買い替える資金や損害賠償金を払うための財源を確保する手段といえます。
保険は、万が一の、どうしようもない事態に陥った時になくてはならない収入源なのです。
少しでも不安を軽くするため、どういう保険が必要なのかを再考してみて下さい。
最後に
ご提案した退職金や年金のしくみを得るため、または保険を用意するため、生活スタイルを見直し、支出を減らさねばならないとしたら、ご自身にとっての優先順位を考えてみて下さい。
単純に支出を減らそうと思っても生易しいものではありません。そういう時は、二択方式で絞り込んでいくと妥協できない出費を見つけられやすくなります。
土屋さんにとってかけがえのないお金の使いみちは何でしょうか?
旅行でしょうか?
外食等の食事でしょうか?
はたまた、趣味でしょうか?
例えば、旅行と食事なら食事が優先、食事と趣味なら趣味が優先といった具合に、二択方式で順番に選んでいけば、土屋さんにとってのかけがえのない出費の優先順位を並べることができます。
そして、その優先順位の最後位の出費から減らしていけば、我慢して節約するストレスを感じることが少なくなるはずです。
一度しかない人生です。
他人と比べて自分の立場を悲観的に捉えるとか、自分はこうせねばならないと焦燥感を抱くといったように悲観的に考えるのではなく、“ああ、自分は自分でよかった”と、楽しい方向に捉えていきたいものですね。
そういった心の持ち方が大切なのではないかと思っています。