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年金を受け取れる人が増えることになると
私たちの年金は減ってしまうのでしょうか?
村井 英一先生 (むらい えいいち) プロフィール |
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石井直美さん(仮名 48歳 パート)のご相談
年金受給資格の短縮法案で、加入期間が10年になると聞きました。良いことだとは感じているのですが、受給者が増えるでしょうし、受け取れる予定金額は現在と変わるということでしょうか?
ご相談者のプロフィール
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受給者の増加で年金額に影響はありません。
しかし、将来的には減額となる可能性はあります。
しかし、将来的には減額となる可能性はあります。
1.新たに〝年金をもらえる人〟が増えますが、年金額は多くはありません
こんにちは、石井様。社会保障制度に関するニュースをよくチェックされていますね。すぐ自分にかかわりがあるかどうかは別として、常に関心を持って見ていきたいものです。
現在(平成28年時点)、老後に公的年金を支給されるのは、現役時代に25年以上年金の保険料を払った人です。これは、国民年金と厚生年金、共済組合を合わせての年数で、これに達しない人は支給されません。保険料を払った期間が10年、20年あっても、まったくの掛け捨てになっていました。そこで平成24年に、保険料を払った期間が10年以上であれば老後に年金を受け取れるように、制度を変更しました。ただし、年金を受け取る人が増えるので、財源確保のために消費税を10%に引き上げてからスタートすることにしていました。ところが消費税の引き上げが延び延びになっており、制度の変更もなかなか実施できない状況です。そこで消費税の増税を待たずに、制度の改正を実施することになりました。平成29年10月から、約64万人が新たに年金を支給されるようになります。
ただし、新たに年金を受け取れる人の年金の金額は、けっして多くはありません。すべての国民を対象とする基礎年金の金額は、40年間保険料を払った人が受け取る額を基本として、それぞれの人が払ってきた期間で案分して決まります。平成28年の場合、40年間払った人は月額65,008円で、30年間の人は同48,756円となります。年金を受給できる対象が広がりますが、年金額の計算方法は同じです。平成28年の金額で計算すると、20年間払った人は月額32,504円、10年間の人は同16,252円となります。もちろん、今までもらえなかったのがもらえるようになるのですから助かりますが、生活の足しになるという程度です。
2.年金の金額が減っていく可能性はあります
基礎年金の給付には、現役世代が払っている保険料と、国の財政が充てられています。現役時代に払った年数に応じた金額が支給されているのですが、そこには国のお金も含まれています。年金の支給対象者の増加で、国の支出も膨らむことになります。もともとは、消費税の引き上げでその分を賄う予定でしたので、財源は確保できていません。支給対象の拡大は決まりましたので、今後どのように財源を確保するのか、注目されるところです。
「基準となる年金額を引き下げて、その財源に充当するのでは」とご心配のようですが、今のところは、そのような動きはありません。基礎年金の基準となる金額は、まったく別の計算方法で決められるようになっているからです。
では、年金の金額が減らないかというと、そうとも言えません。状況によっては年金額が減っていく可能性があります。人口減少の中での高齢者の増加で、年金財政は厳しさを増しています。そこで平成16年に、物価や現役世代の賃金の伸びに比べて、年金の伸びを抑えることにしました。年金の金額が増えたとしても、実質的な価値は下がることになります。この制度では、物価と賃金が下がった場合には、年金の金額自体も下がるようになっています。
3. 老後の備えを自分で行う必要性が増しています
さらに先日(平成28年12月14日)、物価が下がらなくても現役世代の賃金が下がった場合に年金額が減額となるように、法律が改正されました。
これによって、直ちに年金額が大幅に引き下げられるわけではありませんが、昨今のような経済状況(デフレやスタグフレーション-物価が上がり賃金は下がる)が続けば、徐々に年金額が減っていく可能性はあります。制度改正については賛否両論ありますが、今後も厳しい年金財政が続くことには変わりありません。平成29年から公的年金を受け取る人が増えますが、そのこととは別にして、年金額の減少は今後避けられないのではないかと思います。
安心して老後を迎えるためには、国の年金制度に頼るだけではなく、自助努力が求められています。平成29年からは個人型確定拠出年金(iDeCo:イデコ)を利用できる対象が広がります。これは、老後の年金額を増やすための制度で、税制上の優遇があります。今まで対象でなかった主婦や公務員、企業年金がある企業の会社員も利用できるようになりました。このような制度も活用して、老後に対する備えを少しずつ重ねていくことが、ますます大切になっています。