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井上 信一先生(いのうえ しんいち) プロフィール |
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斎藤 敏光さん(53歳 仮名)のご相談
私は23歳より30年間、会社員として厚生年金に加入しています。
妻は2歳年下で、現在は3号被保険者です。
もし、私が60歳のときに死んでしまったら、妻の58歳からの年金はどうなりますか?
私が受け取る予定だった厚生年金の一部が妻に払われることになるのでしょうか?
斎藤 敏光さん(仮名)のプロフィール
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厚生年金保険の比較的手厚い遺族年金が保障されます。
ただし、しくみは複雑なので概要とともに支給の目安も知っておきましょう。
ただし、しくみは複雑なので概要とともに支給の目安も知っておきましょう。
斎藤さん、ご相談ありがとうございます。
ご質問の件、結論から申し上げれば斎藤様の死亡時より、奥様は遺族厚生年金と中高齢寡婦加算という遺族年金を受給できます。これは斎藤さんが受け取る予定であった年金の一部と考えて差し支えありません。ただし、遺族年金のしくみは複雑で、どういう働き方をしていた方がいつ亡くなったのか、その時に遺されたご家族がどういう構成であるのかによって変わってきます。
遺族年金の全体像
日本の年金制度は、20歳~60歳までの国民全員が加入する国民年金保険(基礎年金)と、会社員や公務員としてお勤めの方が上乗せ加入する厚生年金保険との2つが主なものとなっています。会社員等の方は2つの制度に加入しているので、基礎年金と厚生年金の2つがもらえます。
そして、各々の年金制度には「老齢年金」・「障害年金」・「遺族年金」の3つの保障が備わっています。各年金は受給要件を満たすともらえるのですが、2つ以上の要件を満たしても年金の同時併給はされません。
まずは、会社員等の夫が亡くなった場合に遺された妻がもらえる年金の概要を、下図でイメージ下さい。
遺族(妻)が受給する公的年金の全体像 ※各要件を満たす場合
※妻が40歳となり中高齢寡婦加算の支給要件を満たすが、遺族基礎年金の受給中は支給停止となる
(次章の「③中高齢寡婦加算の受給要件」を参照)
厚生年金保険に加入中の夫が亡くなると、妻は「①遺族厚生年金」を、原則として生涯受給できます。ただし、妻自身にも厚生年金加入期間があり、自分の「②老齢厚生年金」を受給できるようになると、これが優先され、「①遺族厚生年金」は一定の差額分だけが継続することになります。
また、「①遺族厚生年金」を貰える妻は、要件を満たすと「③中高齢寡婦加算」が一定期間受給でき、さらに生年月日によって「④経過的寡婦加算」という、いずれも女性ならではの年金を受給できます。
また、上述のとおり、国民年金保険は国民全員が加入を義務付けられています。自営業者等の1号被保険者も、会社員等の2号被保険者も、2号被保険者の被扶養配偶者である3号被保険者も、現在では65歳になると国民年金保険から「⑤老齢基礎年金」を受給できます。
先ほどは、「老齢」「障害」「遺族」の同時併給はされないと述べましたが、同時受給でなければ、要件を満たす子がいる場合には「⑥遺族基礎年金」を一定期間受給でき、その後65歳になると自分自身の「⑤老齢基礎年金」を受けることができます。また、同時併給の例外として、65歳以上の場合、「①遺族厚生年金」と「⑤老齢基礎年金」が併給されます。
なお、老齢年金は原則として所得税・住民税の課税対象となりますが、遺族年金や障害年金は非課税扱いとなります。
各種公的年金をもらうための受給要件と年金額の目安
斎藤さんがもし今亡くなられると、奥様がもらえる遺族年金は、「①遺族厚生年金」に加え、長女が18歳到達年度の末日(18歳の誕生日以後に訪れる3月末日)までは「⑥遺族基礎年金」が、その後は「③中高齢寡婦加算」が見込まれます(奥様は昭和31年4月2日以後の生まれなので「④経過的寡婦加算」は対象外)。
ただし、ご質問のとおり、斎藤さんが6~7年後の60歳で亡くなる場合だと、長女は既に「年金上の子」の要件から外れているため「⑥遺族基礎年金」は支給されず、「①遺族厚生年金」に加え奥様が65歳になるまで「③中高齢寡婦加算」が支給されることになります。
奥様自身の各種老齢年金も、各々の要件を満たせば先の図のようにもらえます。
このように、亡くなられた際の家族構成等によってもらえる遺族年金は異なるので、しくみがとても複雑ですね。
やや細かくなりますが、厚生年金保険の被保険者であった方の遺族がもらえる各種年金の受給要件と年金額の目安を、以下のとおりご説明いたします。
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①遺族厚生年金
亡くなった方が、まさに厚生年金保険の被保険者(在職中)等であるか、退職後であっても何らかの年金制度に25年以上加入しているなどの老齢厚生年金受給権者であるか等の要件を満たしていた場合、その人と生計維持関係のある配偶者または子、父母、孫、祖父母の順で、その最高順位の方が受け取れます。
※夫・父母・祖父母は被保険者死亡時に55歳以上が対象となり60歳から受給開始
※夫死亡時に30歳未満の妻の場合は原則として5年間の有期受給(遺族基礎年金の受給終了時に30歳未満の妻の場合はその時点から5年間の有期年金)
この時の生計維持関係とは遺族の収入で決まり、将来に渡り年収850万円以上得られると判断されない限り、亡くなった方に生計を維持されていたと判断されます。
遺族厚生年金の年金額は、被保険者の方が亡くなるまでの厚生年金保険の被保険者期間で計算した老齢厚生年金の額の4分の3相当額となります(在職中の被保険者の場合は300月が最低保証されます)。
なお、遺族厚生年金の受給者が自分の老齢厚生年金の受給が始まると、まず、老齢厚生年金が優先され、次のうちいずれか大きい額が自分の老齢厚生年金を上回る場合、老齢厚生年金との差額分が遺族厚生年金として継続します。
- これまで受給していた遺族厚生年金の額
- これまで受給していた遺族厚生年金の額の3分の2相当額+自分の老齢厚生年金の額の2分の1相当額
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②老齢厚生年金
老齢基礎年金の受給要件を満たし、かつ、厚生年金保険の被保険者期間が1カ月以上ある場合に65歳から支給される報酬比例の老齢年金です。年金額は、厚生年金保険の被保険者期間とその間の報酬額(給与や賞与)の平均額で計算されます。なお、昭和36年(女性の場合は昭和41年)4月1日以前生まれの方は、段階的に64歳以前に支給が開始されています。 -
③中高齢寡婦加算
遺族厚生年金を受給できる妻に限定した遺族年金です。
つまり、遺されたのが夫の場合や、厚生年金保険の被保険者期間のない自営業者等であった方の妻は対象とはなりません。ただし、次のいずれかの要件を満たさねばなりません。
- 夫の死亡時に40歳以上である妻
- 夫の死亡時に40歳未満であっても遺族基礎年金の受給要件を満たしており、かつ、遺族基礎年金の受給終了時に40歳以上である妻
したがって、夫死亡時に子のない40歳未満の妻や遺族基礎年金の受給終了時に40歳未満の妻も、受給要件を満たさないことになります。
また、在職中の夫が亡くなった場合は夫の厚生年金保険の被保険者期間は問われませんが、死亡時に厚生年金保険の被保険者ではなかった夫の場合は厚生年金保険の被保険者期間が原則20年以上であることが要件です。
こうした要件を満たすと、妻が40歳~65歳となるまで年額58万6,300円(2020年度価額)の定額の年金がもらえますが、遺族基礎年金の受給中は同時に併給されず支給停止となります。 -
④経過的寡婦加算
中高齢寡婦加算が終了した後に、それに代わって受給できる妻に限定した遺族年金です。
ただし、昭和31年4月1日以前生まれの方が要件であり、それ以後に生まれた方には支給されません。年金額は生年月日によって変わり、若くなるほど少額となります。 -
⑤老齢基礎年金
10年以上の受給資格期間のある人が65歳から支給される老齢年金です。
年金額は、原則20歳~60歳までの40年間加入していた場合は年額78万1,700円(2020年度価額)の満額の年金がもらえますが、国民年金保険加入月数が40年(480月)に満たない場合、480月に対する実際の加入月数の割合に応じて年金額が減額されます。 -
⑥遺族基礎年金
亡くなった方と生計維持関係のある「年金上の子」がいる配偶者または「年金上の子」が受け取れます。
「年金上の子」とは、婚姻歴のない18歳の誕生日を迎えた後に到来する3月末日まで、および20歳未満の1級・2級の障害者が該当します。子がいてもこの要件に該当する子でなければ遺族基礎年金はもらえず、子が要件を満たさなくなると遺族基礎年金は終了します。
亡くなった方(この場合は国民年金保険)の被保険者期間の要件や生計維持関係の要件は遺族厚生年金と同様です。
遺族基礎年金の年金額は、老齢基礎年金の満額の年金額と同じですが、「年金上の子」ひとりあたり22万4,900円(3人目からは7万5,000円)が加算されます(いずれも2020年度価額)。
もらえる年金の目安を知っておきましょう
遺族年金には年金額が定額のものもありますが、遺族厚生年金は亡くなった時点で計算された老齢厚生年金の額に応じてもらえる年金額が変わります。いま万一のことがあったら、いくらくらいの年金を遺せるのかを大まかにでも掴んでおくことは大切でしょう。
そのためにも、毎年の誕生月に送られてくる「ねんきん定期便※」を確認し、少なくとも翌年のものが届くまで、1年間は保管しておくことをお勧めします。また、日本年金機構の「ねんきんネット※」に登録しておけば、いつでもタイムリーな詳細を確認できます。
※ただし、50歳以上の方の場合、原則として現在の状況が60歳まで継続した場合の年金試算額で表示
今回は、主に国民年金保険と厚生年金保険について述べましたが、お勤め先に企業年金(厚生年金基金、確定給付企業年金、確定拠出年金等)がある場合、これらの制度からも年金がもらえます。
企業年金の制度はお勤め先によって異なるため、詳しくは窓口にお問い合わせください。
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