50代シングル女性です。老後にいくらあれば大丈夫なのか不安です。


今回、回答いただく先生は…
井上 信一先生(いのうえ しんいち) プロフィール
  • いくら貯えるかではなく、定期的な収入をなるべく長く増やす視点が肝要です。
  • 老後の出費増に対する不安要素を逆手に取るしくみづくりも考えましょう。
  • ニューノーマルなライフスタイルの中で折り返しの人生を楽しみましょう。

  戸張 しのぶさん(54歳 仮名)のご相談

未婚の事務職系会社員です。
住まいは通勤に便利な1LDKのマンションを持っており、60歳で晴れてローンも完済します。将来的に伴侶となる相手が現れるのか不明ですし、その辺は流れに任せてもいいと思っています。ただ、やはりこの先のお金やライフプランに不安を感じています。
仕事はなるべく長く続けたいと考えていますし、僅かですが貯蓄と退職金を合わせて老後資金に3,000万円くらいは準備できそうです。ですが、いくらあっても安心できるものではありません。
老後にはいくらあれば大丈夫なのでしょうか?

戸張 しのぶさん(仮名)のプロフィール

家族構成など
家族 年間収入 貯蓄額
本人 54歳 約480万円(会社員) 預貯金等:2,000万円(現在)
不動産 :マンション(1LDK)
保険  :終身保険1,000万円
     医療保険、火災保険
     (個人賠償責任特約等を付帯)

いくらあっても不安は残るもの。有形無形のセーフティーネットを複数検討しましょう。

戸張さん、ご相談ありがとうございます。
これから先にパートナーのある生活へと変わるかもしれず、まだまだライフプランは変化するかもしれませんね。いずれにしても(パートナーに恵まれても、先立たれるなど)終末期は単身で迎えるケースが少なくはありません。
100年ともいわれる長い人生、枯れさせないお財布の確保と自身の見守りを含めた要介護時の備えなどは、多くの方に共通する不安といえます。そうした不安を軽減させてくれるのは有形無形の財産形成がキーワード。
少しでも不安を和らげ、心にゆとりを持てて前向きに楽しめる人生の折り返しの準備をはじめましょう。

「老後にいくらあれば大丈夫か?」の解はないけれど・・・

例えば、準備済み資金が3,000万円、人生100歳と仮定するとしたら、60歳からの40年間では1年あたり75万円を取り崩せる計算です。一方、仮に1,000万円は高齢者施設等への入居のために確保したいとすれば、残りの額からの取り崩しとして年50万円にセーブせねばなりません。その際、公的年金等の収入(毎年の「ねんきん定期便」で大体の予想額を確認できます)とこの取り崩し額とで、現在の家計水準を維持できるか否かを確認するわけですが、厳しいようであれば、収入に合わせて生活をダウンサイズする工夫が必要です。

――こう書くと、「老後にいくらあれば安心か?」は個々で異なるので、準備できている額に合わせて使う額をコントロールしていくのが「解」と結論できそうですが、もちろんそう単純な話でもありません。

当然のことながら老後の時間が何年間続くのかを予定できるものではありませんし、その間に予定外の高額出費が生じないとも限りません。準備済み額と年金受給額がほぼほぼ固定的であるのに対し、今後の物価水準は可変的であるので将来の実質的なお金の価値を予定できるわけでもありません。予定できない不透明なものごとに対してその準備をしようとすること自体、最初からムリな話なのです。
現在の生活水準に比べて桁違いの資産を確保できているような例外を除けば、戸張さんのご不安のとおり、いくらあっても安心できるものではありませんし、「老後にいくらあれば安心か?」の解はありません。ですが、不透明さの要因に注目し、その要因と相性の良い打ち手は、これからでも考えられます。

老後の開始時期を遅らせつつ老後の収入を増額させる

まず、老後の期間がいつまで続くのかは不透明ですが、いつから始まるのかはある程度自分で決められます
また、長生きすればするほど使うお金の額も積み増されていきますが、生きている限りいつまでも入ってくるお金に注目し、その額を増やす工夫も考えられます。こうした商品性は民間の金融商品の中では唯一、個人年金保険の終身年金が当てはまるのですが、残念ながら昨今の金利政策等の煽りを受けて魅力的な選択肢が現在ではあまりありません。
そこで改めて注目したいのが公的年金。公的年金も生きている限り終身で年金を受け取れます。しかも60歳以後も働き続けることで就労収入を確保、つまり老後開始時期を遅らせつつ、年金額もその分増やせます。どのくらい増えるのかは、ネットで検索すれば日本年金機構や各金融機関など試算可能なサイトもありますが、「60歳以後のボーナス込みの年収の1/12×0.5481%×60歳以後に働く月数」に当てはめて計算すれば、ざっくりとした年金額(老齢厚生年金の税引き前年金額)の増加分を把握できます。
さらに、年金は受取時期を繰下げることにより年額を増やすことも可能です。増額率は、「繰下げ月数×0.7%」なので1年(12ヵ月)繰り下げると8.4%アップ。本来65歳からの年金を最長70歳まで5年(60ヵ月)繰り下げた場合では年金額が42%もアップします※
※2022年からは75歳まで繰下げ可能。75歳まで繰り下げる場合は年金額が84%アップ

「ねんきん定期便」に記載されている将来の年金見込額は60歳まで現行水準で働かれた場合の試算額ですので、60歳以後も厚生年金保険に加入できる70歳まで働き、さらにその間は年金を繰り下げる合わせ技を行うことで受給額をダブルで増やすことができるのです。
仮に、フルタイムで働くことが難しいと思われるなら、週の半分だけの就労やパート・アルバイト等での働き方でも充分でしょう。その場合、厚生年金保険には加入できなくなるかもしれませんが、幸い住宅ローン負担もなくなるので生活費の一定額を賄え、年金受給を繰下げることができ、さらに貯蓄の取り崩し開始時期を後ろ倒しにできることがポイントです。
老後にいくらあれば安心ということはありませんが、定期的な収入が継続していることこそが何よりも安心に繋がります

不安要因は新たな収入を生むことで軽減させる

ご自身が将来要介護状態になり、介護費用が生じることも老後の不安要素として無視できないものでしょう。その際、年金や貯蓄等の取り崩しから捻出しなければならない費用が増すと捉えるだけでなく、介護が必要になったら新たな収入が生まれるという発想も持ってはいかがでしょうか。
戸張さんは現在、生命保険商品の終身保険に加入されています。この保険は万一の際にご家族へ遺せるお金に変わりますが、貯蓄性のある保険商品なので、中途解約により現金化して老後資金の一部に充てることもできます。
ですが、それ以外の活用方法として、戸張さんの加入している保険会社であれば保険料の払込満了のタイミングで、保障額の一部または全部を終身介護年金という別のしくみの保険に形を変えることができます。要介護状態になれば、その状態が続く限り毎年、生涯に渡って年金を受け取ることができるしくみなので、まさに不安要因を逆手に取った打ち手といえるでしょう。ここでもやはり「終身年金」がキーワードです。
ただし、この見直し方法は、保険料払込満了等の一定期間内でしか行えず、一般的にその際に既に要介護状態となっていると変更はできない点に注意が必要です。また、変更後の保険料負担はありませんが変更時の料率等で年金額が計算されます。

現状の終身保険のままであれば中途解約で得られるお金の使いみちは自由ですので、別途、終身介護年金をもらえる保険に新規加入するプランや、有料老人ホームなど入所時一時金がかかる場合に備えて介護一時金をもらえる保険に加入するプランなどもあわせ、慎重に検討していきましょう。

これまでの常識とは違う新しい絆の形成や経験が広がる

これまで、主にお金という有形財産について書いてきましたが、目に見えない無形財産もかけがえのない老後の資産です。シングルや単身という言葉からは、往々に独居や孤独といったイメージが連想されがちです。最近では新型コロナウイルス禍もあり、ますますネガティブな印象が深まっている感もあります。
その一方で、ウィズコロナの世界では、在宅ワークやリモートワーク、これに伴う就労拠点と生活拠点の分離、徐々に形成されつつあったシェアリングエコノミーとの融合による多拠点暮らしなど、コロナ禍による人と人との繋がりへの願望も手伝い、これまでにはなかった新しい生活の在り方や価値観が生まれています
ひと昔前の悠々自適生活といえば、趣味で蕎麦打ちを始める、俳句のサークルに入る、夫婦で田舎暮らしをする、などのライフプランの印象が永く色濃くありました。ほんの最近までは単身に戻った同士の気のおけない友人や仲間と一緒の暮らし方を選択されるといったケースすらも目新しい形と感じてはいました。
ですが、ここにきて、年代や性別にとらわれない共生コミュニティの誕生も目を見張るものがあります。
こうしたコミュニティでは、既成の地域ボランティアのように「一方的に頼る側と一方的に提供する側」とした関係というよりは相互に等しくビジネスも絡めた「give&take」が成立する関係性であり、かつ、その場で永久に暮らすのではなく、期間限定で暮らし働けるといった自在性があります。

年齢や性別に関係なく、いくつになっても無理のない形で働いて収入を得る環境が整いつつあり、自分だけの住まいや友人等との共同生活をベースとしながらも、「part time life」的に好きな時に好きな時間だけ好きな経験ができる。そしてそこで築けるネットワークは多世代的ですので、これまでの常識とはまた異なる新しい形態のセーフティーネットと考えることもできます。

やっと、人生の折り返しがきたに過ぎません。これまでの人生は素晴らしくその糧を享受できるわけなのですが、まだ見知らぬワクワクするような時間を過ごしていきたいものですね。


定年後は何か新しい働き方にチャレンジしたいのですが、どんな可能性がありますか?
来年から「選択制確定拠出年金」が導入されることになりました。しくみがよくわかりません。加入したほうが良いですか?
要介護になったら、いくらぐらい必要になるのでしょうか?