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井上 信一先生(いのうえ しんいち) プロフィール |
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桐谷 直美さん(54歳 仮名)のご相談
最近、実家で暮らす両親が終活に関心を示しています。
親からも相談されているのですが、何からどう手を付けてもらえば良いのかわかりません。子の立場から親の終活を考える場合、どういったことを望むべきでしょうか?また、何か注意点などがあれば教えてください。
桐谷 直美さん(仮名)のプロフィール
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「残される人のため」ではなく、「今をよりよく生きる」という気持ちで始めてもらいましょう
桐谷さん、ご相談ありがとうございます。
今や、その言葉を知らない人はいないといえるくらい、終活はここ10年程で注目されています。ですが、関心はあっても、具体的にどうすれば良いのか、何から始めれば良いのかがわからず手をこまねいていたり、せっかく始めてみても途中で挫折してしまう人も多いようです。また、子の立場からすると親の終活は、気持ち的に少し複雑かもしれません。
あまり大袈裟に捉えず、それでいて前向きに、すぐ行えることから少しずつ始めてもらうことがポイントです。
いま何故、終活が注目されるのか
終活とは「人生の終わりのための活動」の略で、「自らの死を意識し、人生の最期を迎えるための様々な準備やそこに向けた人生の総括」といわれています。とはいえ、終活として連想しやすい「遺言作成」や「各種相続対策」等は何も目新しいことではありません。
また、「生前にお墓を購入する」行為は寿陵や生前墓といい、古来より縁起の良いものとされてきました。「生前の形見分け」や「武士は辞世の句を常に準備していた」といった姿勢などもドラマや時代劇などで目にしますが、これらもある意味では終活といえ、生前に自身の死後のことを考える行為は今に始まったことではなく、昔から行われています。
現代はまさに長寿社会ですが、晩年には相当長くに療養や介護を要す期間を送る可能性も少なくはありません。少子化や核家族化、さらには独居高齢者の社会問題が深刻化しつつあることなどから、自身の医療・介護プランをも含めた準備の必要性が増し、またそうした意識の高まりから、終活がここまで注目されているのでしょう。
具体的に何から行えばよいのか
終活に関する行為は、一般に挙げられている下記のとおり、実に多岐に渡ります。
自身の終末期に備えるもの
- 要介護時、特に認知症等で意思表示が難しくなった際に望む介護プラン
介護を受ける場所(施設なのか自宅なのか)や介護者(家族なのか介護職なのか)の希望など - 終末医療(ターミナルケア)に望む医療プラン
DNAR(心肺停止状態に陥った際の蘇生措置拒否)に代表されるリビングウイル(延命措置を望まぬ自然死・平穏死の事前意思表示)など
自身の死後に備えるもの
- 生前整理
財産分与、空き家にしないための自宅の処分方法の希望、遺族が相続税に困らないための相続対策、遺品の生前整理、人間関係や社会的地位に関する生前整理 - 葬儀・埋葬やお墓の準備
生前葬、生前墓、自身の死後の葬儀や埋葬に対する希望やその準備 - 記録
自分史著作・ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)やウェブ等に生きた証を残す準備
家族の死に際して遺された者は、「葬儀、埋葬、法要」、「財産の分割や処分」、「諸契約の引き継ぎや解約」などを行うことになります。それらを生前に自身で準備しておくことは最もポピュラーな終活といえます。
中でも、近年、葬儀についてはコンパクトな家族葬等、埋葬については樹木葬や海洋散骨等、バリエーション豊富に選択肢が用意されています。目新しさや終活ブームの追い風もあり関心を集めていますが、もともと葬儀等はその多くを業者任せにできます。希望する葬儀スタイルがあればその費用を準備するくらいでしょうか。また、代々のお墓があるのに自身がそこに入らないことを望むのなら、別途、今あるお墓の整理(墓じまい)の必要性も生じます。
それよりむしろ、家族にとって負担が大きいのは、故人の財産処分や遺品整理、そして諸契約関係の整理です。こうした整理ごとは遺された家族が全体を把握できなければ中々難しいものです。自宅や不動産のように目に見えるものはともかく、預金や有価証券や保険などの目に見えない財産は、紙媒体での証書等があればまだしも、デジタル遺品ともなると、そもそも家族が見つけられない可能性すらあります。
そうなると、例えば、インターネット証券会社での株式取引は放置され、有料契約サービスは不要に継続したままになる可能性もあります。また、知人とやりとりしていたソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)のアカウントは死後も残るので、もし、これらが悪用されると、財産の棄損どころか知人の情報漏洩にも繋がってしまいます。昨今、金融機関などからの紙媒体での郵送物は減り、ネット経由での情報提供へと代わりつつあります。ますます家族が財産や契約を把握しづらくなっているのが現状といえるでしょう。
この先も今の生活が続いていくのに、「死に支度」として遺品の生前整理のために身の回りの品を減らしていくことはそうそう簡単なことではありません。そういう大掛かりな終活は必要性や希望に応じて徐々に行うとして、まずはどんな財産や契約があるのか、そしてそこにアクセスする契約番号、IDやアカウント、パスワードなどを一覧にしてノートにまとめることから始めてもらってはいかがでしょうか。セキュリティ上の不安もありますが、これなら無理なくすぐにでもできますし、実は遺されるご家族にとってもとても助かることです。そして親自身にとっても物忘れがひどくなった際の安心になると思われます。
何より大事なのは、自分らしく今を充実するための行為
一方で、自身の人生の終わり方(要介護期や終末医療期)を考えることも大切な終活の行為です。
ですが終活は、遺された家族に迷惑をかけないため、「立つ鳥跡を濁さず」的に行うものだけではありません。
人生の終わりを想像することで、心身ともに健康なうちにこの先をどう生きたいのか、何をしたいのか、欲しいものは何か、やり残していることはないか、家族とどう暮らしたいのか、などを見つめ直すことにも繋がります。子としても親自身にとっても、むしろ、これからの人生の中で、今をよりよく生きることの方がはるかに大事なことだといえます。
人により、「自身の死後に関わる整理や、要介護期・終末医療期のことを準備してからでないと安心して今の生活に向き合えない」という考えの方もいることでしょう。あるいは、「自分自身の今の生活を充実させていくことで、徐々に生活スタイルや身の回りの品や財を変えていき、ゆくゆくは人生の終わり方や死後のことを想像できる」ようになる方もいると思われます。
ですが、いずれにしても人生の最晩年を見据えた希望や意思のあり様は、現実の今の生活の延長上にあると考えられます。このことこそが終活において大切なポイントといえるのではないでしょうか。
終活を行うことで大切なのは、「死に支度」ではなく、これから先の「生き支度」なのかもしれませんね。
最後に、終活における注意点も考えてみましょう。
終活に関する様々な業者との契約にはお金がかかるのが一般的ですが、いったん契約してしまうとそれを解除するのにもお金も手間もかかります。もちろん、いったん手放したり変更してしまったりした財産や諸契約を元に戻すのも困難なことです。何事も早計に行動するのは避けるのが無難といえます。
また、昨今では終活を餌にした特殊詐欺なども少なくはありません。
こうした失敗を防ぐためにも、また、本当に親御さんが望む終活を見つけるためにも、ご家族どうしでよく話し合いながら進めるのが良いでしょう。
今は元気な親。でも将来介護が必要になったらどれくらい費用がかかるのか心配です。
私に万一のことがあった場合、私がもらえるはずだった年金を妻に遺せますか?
相続の制度が変わると聞きました。どう変わるのでしょうか。