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認知症の父のために高齢者施設入居を検討しています。
費用はどのように考えればよいでしょうか。
井上 信一先生 (いのうえ しんいち)プロフィール |
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鈴屋玲子さん(43歳 仮名)のご相談
同居の父が認知症になりました。現在は家で介護をしています。
父にとっても、本当はこのまま家族と一緒に住むのが理想なのかもしれませんが、次第に負担も大きくなってきました。やむなく父の年金と貯金で老人ホームなどの施設にと考えています。その場合の費用はどのように考えればよいのでしょうか。
また、いくらぐらい必要になるのでしょうか。
ご相談者の父親のプロフィール
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介護は本人だけでなく介護者である家族も当事者です
費用面での落とし穴に注意し、皆が幸せに暮らせるありかたを
費用面での落とし穴に注意し、皆が幸せに暮らせるありかたを
1.介護をされるご家族の“余裕”を継続できることが何より大切
鈴屋さん、ご相談ありがとうございます。お父様のことはさぞご心配でしょう。
以下は客観的情報に過ぎませんが、少しでもお役に立てていただければ幸いです。
まず、介護が必要になられた方とそのご家族にとり、何より大切なのは、“ご家族も含めた当事者皆が、本当に望む形で生活の質を継続できること” だと考えます。
介護者であるご家族が幸せに暮らせてこそ、ご本人の幸せも叶うものなのでしょうから。ですから、ご家族が精神的・体力的・時間的・経済的に追い詰められるようなことなく、また、意図せぬ介護離職やライフプラン上の制約を迫られるような事態にならぬためにも、“ご家族以外の支援者やサポート”は、絶対に不可欠です。
「自宅介護」でも、ある程度はこうした体制づくりも可能ですが、介護のみならず日常的な細やかな見守り等までを含め、任せられるところはプロに任せ、家族にしかできない寄り添い方に専念できる「施設介護」の選択も、検討する価値は大いにあると思います。
家族としては、“施設に入れること”に対し、ある種のうしろめたさがまだ存在することは否めません。ですが、病気療養のために病院に入院するのと、介護のために施設で暮らす(終の棲家)とでは、期間の長さも意味合いも根本的に異なります。
認知症については今後、医療的ケアの進展も期待できます。専門家の目に触れやすい環境におくことで、思いもかけず、症状進行を遅らせる芽を発見できるかもしれません。そう前向きに思うだけでも、家族だけで抱え込もうとしないのが良いのかもしれませんね。
2.施設の選択肢と費用の目安
さて、施設といっても様々な種類があり、その区分もとても複雑です。一般的に公的介護保険制度における施設介護とは以下の3つの公的介護保険施設への入居を指しますが、これらは費用が比較的安いゆえ人気が高く(空室待ちが多い)、入居要件も次第に厳しくなっています。
- 介護老人福祉施設(特養):原則、要介護3以上が入居条件
- 介護老人保健施設(老健)・新型老健:病院で治療後のリハビリ等で、原則3カ月以内の短期入居が対象
- 介護療養型医療施設:原則、医療ケアが必要な重介護者が入居要件。2018年4月以降は適宜、介護医療院に転換予定
基本的に上記以外の施設に入居する場合は、自宅介護と同じ在宅介護の扱いとなるのですが、中には上記3つの公的介護保険施設サービスに近い形態の施設もあり、これらが現実的な候補となるでしょう。
ただし、費用は施設によりまちまちなので、下表はおおよその目安となります。
施設の種類 | 入居時一時金 | 月額利用料 | |
認知症対応型共同生活介護 | グループホーム | 0~数千万円 | 12万~30万円 |
特定施設入居者生活介護 | 軽費老人ホーム (介護型ケアハウス) |
0~数百万円 | 10万~30万円 |
介護付有料老人ホーム | 0~1億円 | 10万~40万円 +上乗せ介護費 |
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サービス付高齢者向け住宅 (サ高住) |
0~数十万円 | 8万~25万円 +上乗せ介護費 |
まず、認知症対応型共同生活介護は「グループホーム」の呼称が有名ですね。住民票所在地の施設に入居できる地域密着型の介護施設で、主に軽度から中程度の認知症患者の受け入れが可能です。5~9人のユニット単位で入居者が役割分担しながら自立共同生活することで、自宅での日常に近い生活を送ることを目指しています。平たいイメージとしては、認知症の方が暮らす“シェアハウス”といったところでしょうか。
次に、特定施設入居者生活介護とは、国の定める所定要件を満たす介護施設(特定施設)のうち、入居する要介護者に対し、介護サービス計画に基づき、入浴・排泄・食事等の介護、その他日常生活上ならびに療養上のお世話、機能訓練をすることの事業者指定を受けた施設を指します。いわゆる“介護付き”や、“ケア付き”といった表示のためには、この指定を受けねばなりません。もちろん、指定を受けず自立や要支援状態から入居できる施設も数多くありますが、原則、生活相談や安否確認等までが責任所在の範囲であり、介護サービスは外部業者を利用することになります。将来的な中~重度の要介護ケアや看取りまでを想定するのであれば、指定施設が無難といえるでしょう。
この特定施設入居者生活介護の中でも、最も割安なのは公共施設でもあるケアハウスですが、その分人気も高く競争率が高い傾向にあり、かつ身寄りがない方などの要件を設定する施設も少なくありません。また、有料老人ホーム並にその名を聞くことが多くなったサ高住は、高齢者専用の賃貸マンションとなります。持ち家が所有権形態であるのに対し、有料老人ホームが利用権形態、サ高住が賃借権形態という違いがあります。いずれも運営母体や所在地、施設のポリシー等により費用のブレ幅がとても大きい反面、選択肢も豊富といえます。
3.施設にかかる費用で留意すべき点
実際に入居する施設選びはとても難しいと言わざるを得ません。ご本人が自ら事前に選んでおくのが理想ですが、実際にはそれは難しく、ご家族が選ばねばならないでしょう。
個人的に、選択のポイントとしては、「家族の方が会いに行きやすい立地であること」と「ご本人の性格や趣向に合致しているであろうこと」に尽きると思います。そのためには、施設に何度も足を運び、できれば宿泊体験などにより、食事や日常の営みに関する活動、施設のカラーやスタッフの様子、他の入居者のご様子を、五感でリサーチする必要があります(五感の中でも嗅覚の問題は特筆ポイントでしょうか)。
そして、同時に重要なのが費用面です。基本的に施設にかかる費用は、入居時一時金と月額利用料とで構成されます。
入居時一時金とは、一般的な住居における「前払居住費」「保証金」「敷金」に相当する費用です。今では一時金方式の他に毎月分割方式に按分できる施設が一般的ですが、その分、毎月の経常費用は高くなります。入居期間が長引くほど一時金方式より結果的に高額になります。
とかく入居時一時金の多寡に注視しがちですが、入居期間が長引くほどボディブローのように影響を増すのが月額利用料の多寡といえます。たとえ、入居時点で潤沢な資産をお持ちでも、基本的にはそれを取り崩す生活なのですから、枯渇してしまう不安は拭えないでしょう。
その月額利用料は、家賃相当費、管理費・運営費、食費、水道光熱費等、自己負担分の介護費や上乗せ介護費等に分けられますが、こうした固定費以外にも、おむつ代・薬代・日用品費・外出時の付き添い費や交通費等の変動費等がかかります。
一時金負担の可否も考慮すべきですが、やはりボトルネックは、公的年金や私的年金(民間個人年金保険の終身年金や民間介護保険等)などのように、一生涯に渡り得られる経常収入をベースに、費用面で施設の選択をすることが肝要と考えます。
鈴屋さんのお父様の場合、極端に高額志向の施設でない限りは、費用面での制約は大きくはないと思われますので、後はご家族がお父様の趣向に合う施設を地道に探していただければ良いと考えます。
近い将来、わが国は高齢者の方が人口のおよそ3分の1を占める予想です。
ですが、実年齢の割に元気なシニア層も多く、統計上だけの悲観はありません。
国民の意識は相互扶助の方向に向かっていると確信しています。
家族で抱える介護、お金で済ます介護だけでなく、“情けは人の為にあらず”の精神で活動している地方自治体や地域ボランティアの力の大きさは計り知れません。
自宅介護と施設介護とのいずれを選択するにしても、一度、地元の自治体や地域の社会福祉協議会などを訪ねてみると、きっと思いもかけぬ可能性を見つけられると思います。