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村井 英一先生(むらい えいいち) プロフィール |
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井上 守さん(仮名 55歳 会社員)のご相談
年金財政が厳しくなり、国民年金をもらえる年齢が75歳に引き上げられたという話を聞きましたが、本当ですか? 老後はどのように生活していけばよいでしょうか?
井上 守さん(仮名)のプロフィール
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受給開始を選べる年齢幅が広がります。老後の経済状況と生活設計を踏まえて選択できます。
1.原則は65歳からで変わりません。選択の幅が広がるということです
今年の4月から、年金の受給開始の年齢に関する規定が変わります。
国民年金を10年以上納付してきた人は、原則として65歳から「老齢基礎年金」をもらえます。会社員などお勤めの人は、「老齢基礎年金」に加えて「老齢厚生年金」をもらえます。昭和36年4月2日以降に生まれた男性、昭和41年4月2日以降に生まれた女性は、いずれも原則として65歳から受け取ることになります。
ただ、65歳というのは〝原則〟で、実際には一定の幅の中から選ぶことができます。早くもらいたい場合は、60歳から64歳までの間に請求すると、その時点から受け取ることができます。ただし、早くもらい始める分、年金の金額は減少します。原則の65歳から早くする月数1カ月につき、0.4%(2022年3月までは0.5%)の減額となります。そして、減額された年金額が65歳以降も続くことになります。
一方、66歳以降にもらい始めることにして、年金額を増やすこともできます。現在はもっとも遅くした場合で70歳から受給することができます。遅くした場合は、1ヵ月につき0.7%の増額となり、その金額が生涯にわたって続きます。
2022年の4月からはこの規定が変わり、年金の受給開始を75歳まで引き延ばすことができるようになります。
今回の制度の改正は、「年金をもらい始める年齢は任意で変更することができるが、その幅が広がる」ということです。けっして、すべての人の受給開始の年齢が引き上げられるわけではありません。選択肢を広げるということであり、年金財政が厳しいからということでもありません。
2.何歳から受給するのが得か?
今までも60歳から70歳の間で、何歳からもらい始めるかを選べたわけですが、これからは75歳まで遅らせることができるようになり、さらに選択肢が広がったわけです。
選択肢が広がると、逆に何歳からもらえばよいのか、悩ましい問題も広がります。先ほど触れましたように、早くもらい始めるとその時期に応じて年金額は減額され、それが生涯にわたって続きます。60歳から受給を始めた場合、2022年4月からは
0.4%×60ヶ月=24%
の減額となります。
一方、もらい始めを遅らせる場合、75歳から受け取ると
0.7%×120ヶ月=84%
の増額となります。
2倍近くまで年金額を増やすことができるわけです。ただし、もらい始めるのが遅いわけですから、年金を受け取る期間は短くなります。
自分が何歳まで生きるかは誰しもわかりませんが、早くにもらい始めると長生きした場合に不利になり、遅くにもらい始めた場合は早死にすると損になる。逆の場合は得になる、ということは想像できます。実際に、原則の65歳からもらい始めた場合に比べての〝損益分岐点〟を計算してみますと、
- 60歳からもらう場合
- 80歳8ヶ月より早くに亡くなると得
- 80歳9ヶ月で亡くなると同じ
- 80歳10ヶ月より長生きすると損
- 75歳からもらう場合
- 86歳9ヶ月より早くに亡くなると損
- 86歳9ヶ月より長生きすると得
となります。
直近のデータ(厚生労働省「令和2年簡易生命表」)によると、平均寿命は男性が81.6歳、女性は87.7歳となっています。ただ、平均寿命は不幸にして早くに亡くなった方も含めての平均ですので、実際には多くの人はもっと長生きしています。60歳時点であと何歳生きるかを見ると、男性は24.2年(84.2歳)、女性は29.5年(89.5歳)となっています。
3. 老後の生活設計を考えて決めましょう
もっとも男性、女性の平均と比べても、あまり意味はないかもしれません。人の寿命はバラつきが大きく、「何歳で亡くなる」ということを前提に損得を計算しても、そのとおりにはなりません。
それではどのように考えるのがよいでしょうか。
それは、老後の生活設計を踏まえて、年金の受給開始の年齢を選択することが大切です。
もらい始める年齢を早くすると、早くから収入を得られるようになりますが、減少した年金額が続きますので、あらかじめ長生きしても資金不足に陥らないかの検証が必要です。「どうせ自分は長生きしないから」と早くからもらうことを選択する人もいますが、やはり長生きした場合のことは考えておかなければなりません。「いつ年金制度がなくなるかわからないから、早めにもらっておいた方が得」と主張する人もいますが、国の財政が破たんしたギリシャでも年金制度は廃止されていません。
一方、年金額が少ない人は、もらい始める年齢を遅らせて年金額を増やすことができます。ただその分、年金の受給が始まるまでに貯蓄を取り崩してしまっては元も子もありません。できるだけ長く働くことができれば、受給開始を遅くすることと合わせて、老後の経済状況を改善することができます。
年金をもらい始める年齢は、事前に届け出ておくというわけではありません。60歳から75歳の間に請求すれば、その時からもらい始めることができます。その時の状況で予定を前倒しすることができるわけです。予定の変更は可能ですが、60歳近くになったら一度、老後の経済状況を試算してみるとよいでしょう。
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50代シングル女性です。老後にいくらあれば大丈夫なのか不安です。