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髙柳 万里先生(たかやなぎ まり) プロフィール |
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伊藤 優子さん(仮名 48歳 会社員)のご相談
離れて暮らす実家の父が高齢となり、足腰が以前に比べてかなり弱ってきているようです。同居の母も高血圧や狭心症などの持病があるため、通院や買い物に行くのも一苦労だと聞いています。このままでは、いつどちらかが要介護状態になってもおかしくない状態だと心配ですが、私達家族は都内在住で共働きのため、実際にはどうすれば高齢の両親をサポートできるのかイメージが湧きません。現時点でどのような準備をしておくのが良いのか、もし介護状態になった場合にどのくらい費用がかかるものなのか等、アドバイスをお願いします。
伊藤 優子さん(仮名)のプロフィール
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遠距離介護のポイントは、早めに窓口に相談しつつ、頼れる先を複数確保することです。様々な支援制度や介護サービスを上手に活用し、持続可能な生活サイクルを回しましょう。
伊藤さん、この度はご相談ありがとうございます。
共働きでお子様二人の現役子育て世代真っただ中、日々ご多忙のこととお察しします。
ご実家の高齢のご両親のこと、心配ですね。介護については実際にご家族を介護した経験等がない方には、具体的にイメージするのは難しいと思います。今後の為に、まずは現行の介護保険制度についてざっくりと理解しましょう。
公的介護保険制度とは
急速な少子高齢化に伴い、社会問題となった「介護」を社会全体で支えることを目的に、2000年に創設されたのが介護保険制度です。数年ごとに改定され、現在では要介護・要支援認定者数は600万人を超え、介護を必要とする高齢者を支える制度として定着しています。
介護保険の被保険者は、65歳以上の方(第1号被保険者)と、40歳~64歳までの医療保険加入者(第2号被保険者)に分けられます。第1号被保険者は、原因を問わず要介護認定または要支援認定を受けたときに介護サービスを受けることができます。第2号被保険者は、加齢に伴う所定の疾病が原因で要介護(要支援)認定を受けたときに介護サービスを受けることができます。
地域包括支援センターとは
地域の高齢者が健康で安心して暮らせるように、保健・医療・福祉の面から総合的に支援するための機関です。市区町村等により公的に運営されており、市区町村に1つ以上設置されています。介護についての不安や悩みについて相談することができ、相談・支援は無料です。
地域包括支援センターには、医療、福祉、介護の専門家である保健師、社会福祉士、主任ケアマネジャーなどのスタッフがいます。関係各所と連携を取りつつ、制度の概要説明や相談窓口の紹介など、相談内容にあわせて提案やアドバイスをします。必要であれば介護サービスや、様々な支援が受けられるよう、手続きをサポートしてくれます。ご実家の市区町村の窓口やウェブサイトなどで管轄の地域包括支援センターを確認しておきましょう。なお地域により、「いきいきセンター」「熟年相談室」など地域包括支援センターの名称が異なりますのでご注意下さい。
伊藤さんの場合、現時点でお父様が介護認定の申請をした方がよいかどうかを含め、ご実家の両親が日常生活で困っていることや心配事などを、具体的に管轄の地域包括支援センターに相談してみることをお勧めします。ご両親から直接相談することが難しい場合は、伊藤さんから地域包括支援センターに依頼すると、状況によりケアマネジャー等の担当者が実家を訪問して相談にのってもらえる場合もあります。
ケアマネジャーとは、要介護者である介護保険サービス利用者だけではなく、介護者である家族も支援する存在です。担当のケアマネジャーが決まったら、不安な事や気になる事は遠慮せずに相談してみてください。
介護サービスを利用するための手順
まずは、お住まいの市区町村窓口で要介護認定(要支援認定を含む)の申請をします。申請後は市区町村の職員から訪問を受け、聞き取り調査(認定調査)が行われます。また市区町村からの依頼により、かかりつけ医が心身の状況について意見書(主治医意見書)を作成します。
その後、認定調査結果や主治医意見書に基づくコンピュータによる一次判定及び、一次判定結果や主治医意見書に基づく介護認定審査会による二次判定を経て、市区町村が要介護度を決定します。
介護保険では、要介護度に応じて受けられるサービスが決まっています。要介護度が判定された後は、ケアマネジャー等の担当者がご本人やご家族の意向をふまえ、どのような介護サービスをどのくらい利用するかを検討し、サービス計画書(ケアプラン)を作成します。この計画に基づきサービスの利用がスタートします。
筆者の親族の場合、最初に地域包括支援センターに相談してから一連の流れを経て認定結果が出るまでに、一か月半程かかりました。体力の低下により歩行がおぼつかなくなり、足腰強化の目的で通所リハビリテーションサービスを利用希望でしたが、利用開始までには想定以上に時間がかかったため、もっと早めに申請しておくべきだったと反省しています。ちなみに、認定の結果『非該当』と認定された場合でも、市区町村が行っている地域支援事業などにより、生活機能を維持するためのサービスや生活支援サービスが利用できる場合がありますので、管轄の地域包括支援センター等に相談してみましょう。
介護サービスを利用する際の費用について
介護保険サービスを利用した場合の利用者負担は、かかった費用の1割(一定以上所得者の場合は2割又は3割)です。
介護保険施設利用の場合は、費用の1割(一定以上所得者の場合は2割又は3割)負担のほかに、居住費、食費、日常生活費の負担も必要になります。なお所得の低い方や、1ヶ月の利用料が高額になった方については別途軽減措置があります。
居宅サービスを利用する場合、利用できるサービスの量(支給限度額)が要介護度別に定められています。限度額範囲内でサービスを利用した場合、所得に応じて1割~3割の自己負担となります。限度額を超えてサービスを利用した場合、超えた分が全額自己負担となります。施設サービス(特別養護老人ホーム等)を利用する場合、個室や相部屋等の住環境等の違いにより、自己負担金額が変わります。
要支援1 | 50,320円 |
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要支援2 | 105,310円 |
要介護1 | 167,650円 |
要介護2 | 197,050円 |
要介護3 | 270,480円 |
要介護4 | 309,380円 |
要介護5 | 362,170円 |
参照(2023年5月23日時点):厚生労働省 サービスにかかる利用料
介護にかかる費用は原則として要介護者負担です。ご両親の預貯金や年金から賄われるものとなるため、介護保険の保険証・銀行の通帳や印鑑の保管場所・生命保険証券の有無や契約内容等をいまのうちに聞いておくことをお勧めします。必要事項をチェックするため、エンディングノートを活用するのも良いでしょう。
勤務先には早めに相談を
伊藤さんはご兄弟がいらっしゃらないため、もしご両親が要介護状態になられた場合、状況によっては、ご自分がお仕事を辞めて介護に専念することになるのでは、と考えたことがあるかもしれません。介護に専念するために仕事を辞めることを『介護離職』といいます。そうなる前に、あらかじめ勤務先の福利厚生制度や就業規則を確認しておくことをお勧めします。勤務先により制度の詳細は異なりますが、原則として仕事と介護の両立支援制度が整備されていますので、必要に応じて活用しましょう。
育児・介護休業法に基づき、介護を行う労働者が利用できる主な制度として「介護休業」や「介護休暇」等が認められています。介護休業や介護休暇を取得するためには、対象となる家族が要介護状態にあること等を明らかにして、開始予定日の2週間前までに書面等により事業主に申し出る必要があります。介護休暇の取得は緊急を要することもあり、当日の電話連絡等による口頭の申出も認められています。勤務先に申し出ても制度が利用できない場合は、都道府県労働局雇用環境・均等部(室)に相談してみましょう。
日頃のコミュニケーションで、支えあえる関係づくり
「介護はある日突然に」と言われるように、いつから始まり、いつ終わるのかは誰にもわかりません。「私が頑張らなきゃ」と伊藤さんおひとりで抱え込みすぎると、精神的にも体力的にも疲弊してしまいます。頻繁に実家に帰省できなくても、電話やメッセージアプリなどを通じてご両親の状況を定期的に確認するなど、離れていてもできることは少なくありません。また、実家に帰省するタイミングでご近所や町内会の方々、地域で関わりのある方々にもご挨拶をするなどして、複数の目で見守れる体制をつくれると良いですね。
『人さまに迷惑をかけてはいけない』と教えられて育ってきた高齢者世代は、困ったときに他人に相談したり、頼ったりすることに慣れていない方が少なくありません。介護保険制度は、年を取れば誰もが直面せざるを得ない『介護』を社会全体で支えるためにスタートしたしくみです。活用できるものがあれば、遠慮せずにどんどん活用してみてはいかがでしょうか。
ご両親も、伊藤さんご家族も地域とのつながりのなかで、支えあい、協力し合あえる関係づくりを大切にしていきたいものですね。
親の老いが気になりだしました。今後の実家と親の生活について、どのような選択肢がありますか?
父と介護保険の利用を申請しに行ったら、「介護予防・生活支援サービス事業」の対象だと言われました。制度が変わったのでしょうか?
今は元気な親。でも将来介護が必要になったらどれくらい費用がかかるのか心配です。