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そろそろ子どもをほしいと思っています。
どれくらい貯蓄ができていれば安心でしょうか?
鈴木 暁子先生 (すずき あきこ) プロフィール |
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田中 優子さん(仮名 34歳 派遣社員)のご相談
現在私は派遣社員として働いていて、月10万円の収入があります。我が家では2年前に家とレジャー用の車を購入し、どちらもローンを返済中です(家35年 月9万円弱ボーナス併用なし、車7年 月3万5千円ボーナス10万円)。私の通勤用に、もう一台車を所有しています。
今、子供はいませんが、近いうちに欲しいと思っています。そうなると私の収入はなくなるうえに、現在貯金が60万円しかないので不安です。貯金を増やしてから子供をとも考えましたが、年齢的にもあまり時間はありません。
子供が産まれたら働くつもりではいますが、子供ができる前にどれくらい貯金ができていたら安心でしょうか。アドバイス宜しくお願い致します。
田中 優子さん(仮名 34歳 派遣社員)のプロフィール 世帯年収(税引き後) : 460万円
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出産前後は思ったよりもお金はかからない。
早めに教育費・老後の準備をスタート。
早めに教育費・老後の準備をスタート。
ライフプラン、マネープランは老後までトータルで考えて
昨今、「お金がないので子どもを産めない」「子どもは欲しいが、将来が不安で踏み切れない」という声が多いと言われていますが、優子さんも同じように悩んでおられるのですね。
さて、今回のご質問の回答の前に、ひとつ優子さんにお話しておきたいことがあります。多くのご家庭では、住宅ローンの借り方や返済方法を工夫したり、教育資金の準備には余念がありません。しかし実はもうひとつ、人生で必要になるまとまったお金、「老後資金」があります。これについては、目先の支出である住宅ローンや教育資金の負担が終わった時に、気がついたら準備ができていなかった…というケースがとても多いのです。このような現実から、優子さんがお子さんを持つことを考える場合、“今”だけではなく、自分たちの老後資金まで含めて考えていく必要があるのです。
【人生三大資金の準備】
子どもが小さいうちは、意外とお金はかからない?!
子どもにかかる負担として大きい教育費ですが、文部科学省「子どもの学習費調査」によると、中学まで公立(幼稚園は私立)、高校は私立の場合で高校卒業までに700万円超かかるため、大学まで含めると1,000万円を超えます。別途塾やおけいこ事などの負担もあります。さらに子どもの成長にともない、食費や衣類、水道・光熱費、医療費、家族の旅行代など、生活全般に関する支出もかさんでいきます。
【進学コース別学習費】
(単位:万円)
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※文部科学省平成18年度「子どもの学費調査」に算出。千円単位は四捨五入。 ※幼稚園は私立を採用 |
ただ、子どもにかかるお金は、産まれてからすぐ大きな支出があるわけではなく、学校に通うようになってからの支出がやはり大きいのです。ですから、その分まですべて出産時までに準備しておかなければならないというわけではありません。
今準備しておく貯蓄としては、出産までにかかる費用や、産まれて当面の雑費(おむ つ代やベビー服など)、食費(ミルク代など)を考えておけば良いでしょう。
日本では、「妊娠も出産も病気ではない」とされていることから、妊娠期間中の定期健診代や出産費用は健康保険の適用外となり、原則自己負担となります。
参考として、厚生労働省研究班の調査では、出産費用は全国平均で42万4千円だそうですが、健康保険の本人が出産した場合は、健康保険から「出産育児一時金」が(被扶養者である妻が出産した場合は、夫に家族出産育児一時金が)支給されます。これまでは子ども1人につき38万円でしたが、平成21年10月から42万円に引き上げられました。平均的な出産費用はほぼカバーできる算段です。さらに、「一度本人が医療機関に立替払いし、後日健康保険から返金される」という仕組みも、健康保険から直接医療機関に支払う仕組みへ、一部では開始されています。このような医療機関であれば、事前にまとまった出産費用の準備が不要となります。
【出産時の給付金】
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雑費や食費についても、高価なものを準備するのでなければ現状の生活費が大きく変わってしまうような支出にはなりません。優子さんの場合、もし今すぐにお子さんができたとしても、現状の貯蓄ペースであれば、1年後には100万円以上の貯蓄額にはなっており、出産前後の費用の準備としてはできていると考えます。
「出産後」の家計をイメージしよう
前段でも申し上げましたが、お金がかかるのは、産む時よりむしろお子さんが育つ時。その期間の支出や資金準備など、現在の生活がどのように変化するのかをイメージし、それに対応できる家計管理をしていくことが重要です。
お子さんが産まれる前後で最も大きな違いは、優子さんの収入がなくなること。出産後、仕事に復帰されるご意向ですが、小さいお子さんがいる間、現在のような働き方が難しいということであれば、職を得られたとしても現在の収入は望めませんし、厳しい雇用状況では、就職自体も難しいかもしれません。したがって、子どもが産まれた後の家計のイメージとしては、まず「ご主人の収入だけでもやっていける家計」を目指しましょう。将来、優子さんが収入を得られるようになった場合は、それはすべて貯蓄に回せることになります。
ちなみに、優子さんはご自身で社会保険料を払っておられるとのことですので、雇用保険から下記給付金が受けられる可能性があります。事業主との労働契約を確認し、これらの支給対象となるかをチェックしておきましょう。
●出産手当金
健康保険の本人が出産のため仕事を休み、給与が支給されない場合、健康保険から出産手当金が支給されます。期間は、出産日以前42日前から出産の翌日以後56日までの間で、支給額は標準報酬日額の3分の2です。
●育児休業基本給付金、育児休業者職場復帰給付金
雇用保険の被保険者が1歳未満の子を養育するために育児休業した場合、一定の要件を満たすと、育児休業給付の支給を受けることができます。また、育児休業期間終了後、6ヶ月継続勤務した場合は、職場復帰の給付金を受けることができます。
ハローワークのサイトにも詳細が掲載されていますので、確認しておきましょう。
【出産前後の給付制度】
そしてお子さんの成長にともない生活費の支出が増えることです。食費や衣類費なども中学・高校に入る頃から、急激に大きくなっていきます。また、直接お子さんにかかるお金ではありませんが、家族が増えたことでご主人の責任が重くなります。現在の死亡保障では足りません。保障の見直しで保険料が増えることになります。
【加入中の保険】
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加えて本格的に教育資金の準備をしなければならないことです。住宅ローンと併せ、二重の負担が家計を圧迫します。いずれ老後資金の準備も考慮すると、教育資金の準備は、まだそれほどお金のかからない中学生くらいまでにできるだけ進めておく必要があります。
このような状況を踏まえて現状の家計を見てみましょう。
●使途不明金
現状で毎月の生活費は約26万9千円、貯蓄には3万円出していますが、その合計は29万9千円。つまりここには約3万1千円の使途不明金(毎月の手取り収入33万円との差額)があることになります。収入の1割近くにあたる使途不明金は多すぎますね。仮に毎月ここから2万円を貯蓄できれば、もともとの貯蓄と合わせ、年間60万円、3万円を貯蓄できれば、年間72万円の貯蓄が可能です。使途不明金を減らし、優子さんに収入がある間に、しっかり貯蓄しておきましょう。
●水道・光熱費
現在お2人ともお仕事で日中家を空けている割には、水道・光熱費が多いようです。お子さんが産まれ、在宅時間が多くなると増加傾向になりますので、少なくとも現状は減らす努力をしてみましょう。
●通信費
携帯電話代の占める割合が大きいと思いますが、これも減らせる幅がありそうですので、プランや使い方の見直しも含め、減らす工夫をしていきましょう。
●自動車ローン
優子さんの家計は、食費をはじめやりくり費で浪費が目立つとは思いませんが、逆に大きな切り詰め効果も期待しにくいのです。このような場合、効果的なのは固定費の削減なのですが、現状の固定費の中で、効果があり実行可能性も高いのが、ローン返済中の車を手放すことです。
【自動車ローン】
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返済期間があと5年残っているということで、ローン残高がまだ250万円前後ありますが、返済中の車を手放すことで、売却価格分返済額が少なくてすみます。また今後の車維持費も無くなることで、大幅に支出を軽減することが可能です。また、優子さんがお仕事を辞めれば、通勤用車の使用頻度も減ります。お金の使い方は人それぞれですので、何に使ったので良い悪いという問題ではないのですが、返済中の住宅ローンに加え、お子さんにかかる費用をできるだけ早めに準備するためには、使用頻度の少ない車を2台所有する費用を見直すなど、家計の中で優先順位をつけることが大切です。ご夫婦で検討してみてはいかがでしょう。
家計管理により支出を減らすことのほか、教育費の準備をサポートする制度もあります。ご主人の会社で財形貯蓄制度があれば、財形貯蓄をしていると、貯蓄残高の5倍以内(上限450万円)まで「財形教育融資」という低金利の融資を受けることができます。また今回はご紹介のみにとどめておきますが、国の教育ローンや奨学金などの制度もありますので、その時に活用できる制度を、貯蓄との兼ね合いで検討してもよいでしょう。
まだお子さんがいないうちから、お子さんが産まれた後の生活や自分たちの老後までイメージするのは難しいと思いますが、その時になって急に生活を変えようと思っても、なかなかできることではありませんし、まとまったお金は時間をかけて準備するものです。また、お子さんの進学コースによって、準備する金額も大きく違います。そういう意味では、できるだけ早く貯蓄体質の家計を確立し、家族の成長にともない変化するライフプランに合わせ、マネープランも都度見直していくことが大切です。子ども手当ての創設や、控除の廃止などのニュースなども気にかけるようにしましょう。今のうちに各種制度を確認したり、どのように資金準備をしていくかご主人と話し合い、安心してお子さんを産み育てられる家計を計画的に準備していってください。