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汀 光一先生 (みぎわ こういち) プロフィール |
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藤田美穂さん(仮名)のご相談
今住んでいるマンションを売却して新築マンションを購入しようと考えています。
今のマンションは住宅ローンの返済はありませんが、維持費として管理費と駐車場代が月々3万円、固定資産税が年間47,000円かかっています。購入価格は1,000万円でしたが、売却するとだいたい500万円~600万円くらいだと思われます。買換え希望の新築マンションの価格は2,600万円で、頭金には夫名義の貯蓄1,000万円を充て、売却代金の500万は、もしものため貯蓄しておくつもりです。しかし、車が15年以上の古いものなのでそろそろ買いかえたいとも思っています。
主人は2年前に転職、現在の年収は税込みで500万円。下の子供には障害があり身体が弱いので、私はあと3年位は働けないと思います。主人が48歳だしこれから子供の教育費がかさんでくるし、老後の蓄えもしないといけないので新築マンション購入は難しいでしょうか。
主人の年金は、18歳から約10年間と、40歳以降は会社員で厚生年金ですが、それ以外は自営業で国民年金に加入していたので将来もらえる年金も少ないと思います。どうかアドバイスをお願いいたします。
藤田さん(仮名)のプロフィール |
43歳 、主婦。会社員のご主人と10歳と5歳のお子様との4人で、持ち家(ローン無し)にお住まい ※教育費、生命保険については月割り、税金・社会保険料は毎月分も便宜上ボーナス(年間)から支出とします。また、毎月及びボーナス(年間)の黒字の90%を貯蓄すると仮定して計算しています。 |
マンション・クルマ共に、中古を視野に入れて
キャッシュフローをプラスに維持できるよう長期計画を
キャッシュフローをプラスに維持できるよう長期計画を
藤田さん、末のお子様のことはご心配ですね。その医療費もかかる中、現在1,000万円の貯蓄があり、その貯蓄も増えていますので、基本的には将来教育費などの支出の増加にも耐えられるようなしっかりした家計管理ができていると思われます。これからもお子様の成長を見守りながらご主人と力を合わせてすばらしい家庭を築かれることと思います。
ただ、今回の新築マンション購入に関しては、生活収支に大きな変化を及ぼします。今までは住居費が年間約40万円ですんでいましたが、住宅購入後はそれが少なくとも年間120万円以上かかるようになるからです。それに教育費の上昇や車の購入などが重なりますと、今までのような金額を貯蓄していくことはできません。さらに将来は年間収支の赤字が続くようになってしまいます。ここは慎重に優先順位や代替案も含めて考えてみる必要があります。
1.現状と将来の収支の確認
まずいただいたデータにより、藤田さんの家計の状況をまとめてみますと、上記の通りになります。ご確認ください。
今年の収支は仮に住宅と車の購入を考えないとすると、上記家計内容の通りで、(車検代を毎年平均化しています)年間約42万円の貯蓄が可能です。これは現在お子様もまだ小さく教育費があまりかからないのと、前述のように住居費が安くすんでいるためです。
次に住宅と車の購入を考えると、将来の収支は次の「キャッシュフロー表1」のようになります。毎年の年間収支・貯蓄残高の推移を表した下図のような表のことを「キャッシュフロー表」といいます。
仮に物価上昇率を0%、ご主人の給与の上昇率を年1%、貯蓄額1,000万円の運用率を0.45%としています。
お子様の教育費は、ご希望に沿って長女は高校まで公立、大学は私立短大に進学、長男は高校まで公立、大学は進学せずという設定にしました。住宅ローンは、マンションの価格に諸費用150万円を含めた2,650万円から自己資金の1,000万円を引いた1,650万円を30年の長期固定金利(金利3%)の元利均等返済で借りるとします。また購入後の固定資産税、駐車場代を含む維持費は、年間40万円程度としています。車はご希望の300万円のものを今年現金で購入する設定です。
問題点
将来の年間収支は、長女が独立した後の2年間とご主人65歳時を除き恒常的に赤字になります。貯蓄残高も54歳からマイナスに転じてしまいます。このまま希望どおりの生活を実現するのは難しいという状況が見えてきます。
・車は300万円の新車でなくてもよいのではないでしょうか。今まで15年以上乗っていたことを考えると、100万円位の中古車を購入するのも一案です。また52歳時に通勤用のバイクを購入予定とのことですので、出費をできるだけ抑えるようにしましょう。
・基本生活費の中には、お子様の医療費や車のガソリン代・自動車保険料なども含まれていますのでなかなか難しいと思いますが、もう少し節約してみましょう。
マンション購入について
住宅ローンは、できれば定年退職後は早めに返してしまいたいですが、毎月の返済額に無理がないように、30年返済で月返済額を約7万円にしています。これに管理費や修繕積立金、駐車場代、固定資産税などを含めれば、月平均住居費は10万円を超えてしまいます。この負担が大きい場合は、希望住宅の価格を下げ、2000万円位の中古マンションを購入すし、貯蓄できる余力を家計に残して、後で繰上げ返済していくという方法も考えられます。
なお、住宅ローンの金利は、ここ数年歴史的に低い水準でしたが、既に上昇を始めています。長い期間の返済では今後もさらに上昇する可能性が強いと思われますので、フラット35などの長期固定金利のものを中心に住宅ローンを組むのが良いと思われます。
2.対策と定期的な見直し
次の「キャッシュフロー表2」は、今年100万円の車を購入することとし、3年後から60歳まで、藤田さんもパートで年間120万円の収入を得るとした場合の例です。
将来の年間収支は、藤田さんがパート収入を得られるようになると黒字の年が増え、赤字の年でも預貯金を取り崩すことでカバーできるようになります。ただ71歳からは貯蓄残高がマイナスに転じてしまいます。これはご主人が65歳以降お仕事を退職されてからの年間収支の赤字が大きくなるからです。では、さらに基本生活費を月1万円節約し、住宅ローンの返済期間を35年としてみます。(キャッシュフロー表3)
それでもやはり72歳からは貯蓄残高がマイナスに転じてしまい、情況はあまり変わりません。次に、基本生活費を月1万円節約しながら、かつ2000万円位の中古マンションを購入するという設定で考えてみます。住宅ローンの返済期間は30年とします。(キャッシュフロー表4)
この場合で、ご主人75歳までは貯蓄残高が残るようになります。
このほかに、
- ・ご主人が66歳から70歳まで何らかの仕事をもち年間120万円の収入を得る。
- ・奥様がパートの仕事を65歳まで続け年間120万円の収入を得る。
- ・お子様の結婚資金はお子様に準備してもらうようにする。
などを実行すれば、下のお子様に貯蓄を残すことができます。また、不動産を残すとすれば、新築マンションよりも管理組合や管理がしっかりしていることが事前にわかる中古マンションの方が安心できます。土地付一戸建の場合は、地域によって2000万円より大幅に金額が高くなってしまったり、適当な価格の中古一戸建が見つかっても将来のリフォームの負担や維持費が大きくなってしまうこともあります。
3.繰上げ返済するとしても教育費と老後の貯蓄は残して
住宅ローンの繰上げ返済は、期間短縮型の繰上げ返済が利息の軽減効果が大きくなります。
また、早い時期に実行すればするほど節約できる利息が多くなります。繰上返済した金額は、すべて「元金」の返済に充てられます。返済開始後早い段階では、返済額に占める利息の割合が大きいので、「期間短縮型」を選択すると、その期間分の利息が全部カットされ、利息の軽減額が大きくなるからです。繰上返済手数料の低い(又は無料の)ローンの場合、できるものなら繰上返済を毎年やったほうが、利息の軽減額も大きくなります。フラット35も繰上返済の手数料は無料となっていますので、無理のない範囲で実行すると効果があります。
しかし繰上げ返済は、貯蓄のほとんどを充ててしまうと家計のバランスを崩しますので注意してください。藤田さんの場合は、200万円位の緊急予備資金と教育資金、そしてご主人が会社を退職するまでにご夫婦の老後資金を最低でも1,000万円以上、奥さんが65歳になるまでに1,300万円以上は残しておくようにしましょう。
そして何よりも、ご主人や奥様をはじめ、ご家族全員が健康で元気でいることが一番です。是非、ご家族がいつまでも元気で楽しく過ごされることをお祈りしております。
これからも藤田さんご家族には、生活設計の定期的な見直しをされることをおすすめいたします。