両親と住むつもりで組んだ2世帯住宅のローン 結局住むことなく妹夫婦に名義変更しますが、注意点は?


市田 雅良先生 (いちだ まさよし) プロフィール
  • ローンの返済は、契約者本人が支払うべきもの
  • 将来の相続を考えて、住まい方を検討する
  • 住宅ローンがある状態では、新規住宅の住宅ローンを組めない
  • 転勤族の住宅取得のタイミング

合田 洋子さん(仮名)のご相談

平成6年に夫の実家の隣に土地を購入し、両親の家共々取り壊して2世帯用の住居を建築することにしました。でも、夫は転勤族なので、申し訳ないとは思いながらも、工務店の打ち合わせや住宅金融公庫からの融資手続きなど、すべてを両親に任せっきりにしてしまいました。
その後も転勤族生活は変わらず、ずっと社宅暮らしの日々が続いたのですが、今年になり、子供が勤務地にある大学付属中学校に合格したのをキッカケに、できればこの土地でマンションを購入して落ち着きたいという話になりました。
そこで、両親と住むはずだった2世帯住宅について家族で話し合った結果、近くにいる妹夫婦が住むことになったのですが、ローン問題や不動産名義変更といった難しい問題が出てきました。さらに、夫の父は、できるところは協力したいということから、夫名義のローン返済のうちの一部を返済してくれていたそうです。
複雑に絡んでしまった糸をどのようにほぐしたらいいものか、途方にくれています。

合田さん(仮名)のプロフィール
44歳、専業主婦。44歳のご主人(会社員)と12歳のご長男(中学1年生)の3人家族。世帯年収930万、現在の貯蓄額は500万円ほど。

一旦ローンを完済して、
妹さん夫婦が新たにローンを組みます

先ず、今後のライフプランを整理

合田さんのライフプラン上の問題点を解決していくためのスケジュール

  1. 両親が住むA市にある合田さんの名義の土地建物を、田中さん(妹の夫)名義に変更。
  2. 同時にローンの付け替えをし、合田さんの住宅ローンをなくしておく。
  3. 長男高校卒業までの5年間は、B市で子供と一緒に暮らしてやりたいため、今後、夫が転勤になった場合は単身赴任してもらう。
  4. 転勤になればB市内の社宅を出ないといけないので、分譲マンションを取得する。
  5. 夫婦のリタイア後のセカンドライフは、B市とする。

と言う前提で全体を見ていきましょう。

合田さん名義のローン返済額のうち、
お父様負担分は贈与となるので注意が必要

住宅ローンの肩代わり返済は贈与になります。親子間でのお金のやり取りは、さしたる意識もなく行われているケースが目に付きますが、大金のやり取りは、親子間であっても受贈者に贈与税が課税されるので、注意が必要です。
贈与税の基礎控除額が年間110万円となっているので、100万円程度なら大丈夫と気を許される方が多いようですが、実は、毎年同じ金額を肩代わりしていった場合は「計画贈与」と見なされます。
でも合田さんの場合は、当初に父と夫との間で「金銭消費貸借契約」がなされており、親に借金をしたということであって、贈与には当たりません。もしこの契約がなければ、贈与と見なされ課税されるわけですから、見落しなくとても慎重に対処されていたと思います。

合田さんから田中さん(妹の夫)へ、
住宅ローンを名義変更する意味と手段について

住宅ローンの名義を変更するということは、今ある住宅ローンを完済して、新たに住宅ローンの借入をすることを意味します。所有権のように、名義を付け替えるということはできません。つまり、抵当権の付いた物件を普通に売買することと同じです。
合田さんの所有権を、売買によって田中さんが購入します。つまり、田中さんが新規で住宅ローンを申込み、その融資金を売買代金として合田さんに支払います。代金を受け取った合田さんは、そのお金で住宅ローンを完済し、抵当権を抹消します。その結果、住宅の所有権と抵当権は、購入者である田中さんの名義に変更されます。

以下のような形で金銭やその他の財産を無償で譲渡した場合は、贈与税の対象となります。

  1. 著しく時価より低い価額において、財産を譲り受けたとき(低額譲渡)
  2. 金銭の受渡しをしないで、不動産等の名義を変更したとき
  3. 取得した不動産等を他人名義にしたとき
  4. 形式的な借金とみなされたとき(契約の証明ができないとき、契約書はあっても返済の事実が証明できないときなど)

親族間の売買で、贈与税が課せられる可能性

親族間の土地の売買で気をつけなければならないのが、「適正な価格で売買する」という点です。この適正な価格とは、通常の土地の取引価格や相続税評価額などを指します。適正価格よりも低い価格で売買すると、その差額が贈与されたものとみなされ、贈与税を課せられる可能性があります。この場合、知り合いの税理士さんなどの専門家にご相談されることをお勧めします。

住宅ローンの借り換えに関してはやはり、借り換えを行う銀行に相談してください。税務上の問題点以外では、不動産登記の問題が考えられます。所有権を移転する名義変更の場合、抵当権者(住宅ローンを借りている銀行)の承諾は特に必要ではありません。

二重の住宅ローンは組めない

抵当権者(住宅ローンを借りている銀行)にとって抵当権の目的は、その土地や建物を所有するのではなく、融資金が返済されない場合にその目的不動産を売却し、その売却金を返済に充当することにあります。このように、不動産登記法上は銀行の承諾なしに不動産の名義変更はできるのですが、一般的に、住宅ローン契約の際に契約書の特約に「所有権の移転等をする場合には、銀行に事前承諾を得なければならない」とされていることが多いので、名義変更の前には、住宅ローンを借りている銀行に相談するようにしてください。

合田さんがマンション購入するためには、上記の問題をクリアーしておかなければなりません。その上で「きちっとしたマンション購入計画を立てて実行する」ということになります。

合田さんはずっと社宅住まいされていたことから、分譲マンションを所有する際の問題点について漠然ととらえられているようにお見受けします。でも、マンション購入はとても大きなライフイベントですから、慎重にプランを立てることが重要です。そのためにも、まずは親子3人でライフデザイン(生き方)を検討し、数々の条件を想定しておかなければなりません。例えば、お子様が独立するまでB市で一緒に暮らすのか? お子様が独立した後も夫婦はB市で暮らしたいのか? また、仮に今ご主人が転勤になり単身赴任する場合は社宅を出なければならないが、その為の分譲マンション購入は絶対条件なのか? などといったことが考えられます。

マンションは購入すべきか賃貸か?

ところで、世間では「購入派と賃貸派、どちらが得か?」と悩まれる方が多いようですが、基本的には損得で計れないものだと思います。でも、その人の「生き方」や「考え方」をふまえたうえでチェックすべきいくつかのポイントはあります。例えば、建物の老朽化、立替え、設備の変更、資産性などについて、自分はどうありたいのかということです。建物に関する様々なケアについては、もし購入物件ならば自分で行わなければなりませんが、賃貸物件であるならば新しい物件に引っ越すことができます。でも、おそらく家賃はアップすることになるでしょうし、自分の年齢も上がっていくことから賃貸契約がスムーズに行かない可能性も出てきます。

資産性についてはインフレリスクの問題が気になりますが、20年先30年先の金銭的価値など、今予測できるものではありません。
「購入派か賃貸派か」は損得ではなく、「自分がどうありたいのか」をしっかりと見つめて、その上でプランを作成し、今後の方向性を決めることが大切でしょう。